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後編
しおりを挟む公爵様は私たちがいる部屋を勢いよく出ると隣の部屋へと乱入した。子爵様たちはもう項垂れるだけで何もできずにいた。あぁ両親やこれからの人生のことを考えていない子って哀れだな。
私はもうこれ以上関わったところで慰謝料の額も上げてもらえないし、どうせなら二人が落ちる所まで落ちる様を見てやろうと面白半分で怒鳴り声が響き渡る部屋へ何食わぬ顔で入っていく。
公爵様はすでに剣を抜いていた。別の国では珍しいことでも何でもない。
裸のまま逃げ惑うダンとライラは非常に滑稽で、私も思わず笑みが溢れそうになったので扇子で口元を隠した。
もう公爵様の姿しか見えていないのか私のことなんか目もくれず、二人は必死に公爵さまを説得しようとしている。
「これは誤解です! 僕たちは何もしていないです!」
「そうです! これは誰かの罠なんです!」
「じゃあ何か、お前たちは何度も何度も裸で抱き合っている姿にされたのか? 誰かに手によって。今週だけでもう3度もその姿でいたではないか。もしこれが誰かの罠だとしたら二人して不用心にも程があるんじゃないのか?」
「本当に浮気じゃないの! ただの誤解なの。公爵様私の話を聞いたらわかりますわ。私たち兄と妹みたいなものですから、こんなことするはずないじゃないですか……それより! 私のこと疑っていたんですね公爵様、ひどい! 私のことを疑って誤解までするなんて、ひどすぎませんか公爵様?」
この子馬鹿なのかな。
解決の糸口を見つけたように誇らしげな顔をしている。二人してシーツで隠しあっているけど、その下裸なのよね? あまりに馬鹿すぎて笑いが止まらないわ。何で本当に私こんな人たちに苦しめられなきゃいけなかったのかしら。
公爵様は二人が座っていたベッドを思い切り切りつける。二人とも殺してしまう分には私もうどうでも良いけど、このベッドも別邸も私の家のものだからあんまり傷ついたり汚れてしまう展開はちょっと嫌かな。
「おいライラ、お前……どうして公爵様を裏切ったんだ」
「お父様⁉︎ 最低! 公爵様って私の父親まで呼んだのですか? そんなのだからずっと今まで公爵様なのに独身だったんですよ! 私の気持ち考えたことありますか?」
「ライラ‼︎」
子爵様はご老体であるのにとんでもなく大きな声で名前を叫んだ。よく通るその声に思わず私の耳もキーンとなってしまった。
「公爵様、ライラの刑は早めにいたしましょう」
「お父様どうしたの? 刑ってなに?」
「お前は浮気した時の刑罰も知らなかったのか? 鼻と耳をそぎ落とされ、性器を縫い合わされ牢獄に入れられるんだぞ。お前はそこまでわかっていて婚約しているのにもかかわらず結婚しているダンと浮気したのじゃないのか?」
ライラの顔は青くなる。ダンは刑罰のことを知っていたのか慌てて目を逸らそうとする。私と目があった時助けて欲しそうに目をわざとらしく潤ませていたけど、鼻で笑って私は何も言わなかった。
「嘘、ねぇダン? バレても少額の罰金と慰謝料だけなんでしょ? どういうことなの?」
「男はそうなんだよ。でも女は違う。僕聞かれてないから言ってないだけだよ」
急に裏切られたライラは発狂するように叫び声をあげて、衣服も着ていないのを気にせず公爵様の足に縋り付く。
「ごめんなさいいい! 知らなかったんです。ごめんなさい公爵様、私が本当に愛しているのは公爵様だけなんです。お願いします許してください! 私公爵様の子どもが産みたいです! 本当に愛しています公爵様!」
「ライラ、こんな俺と婚約してくれてありがとう。子爵には世話になったから最後の同情をかけてやる」
「ありがとうございます公爵様! 私きっと素敵な淑女になって公爵様の子を産み育てます!」
「お前は何を言っているんだ。今日お前たち二人は死んだことにしてやる。二人で心中したということで処理する」
「は? どういうことですか公爵様、僕たち死んでないんですけど」
「黙ってろ!」
公爵様に剣を突きつけられたダンはあわあわとして腰を抜かしていた。領地も私に管理を任せて遊び呆けていたダンと公爵様とでは例え剣を持っていない戦いをしたとしても、ダンは殴り殺されてしまうだろう。それほど彼は非力だった。私も結婚前だったらよかったのに、こんなのが元旦那なんて社交界でも噂されるほど恥だわ。
「お前たちは他国に奴隷として売る。その金はこちらのご婦人に対する慰謝料として支払う。死ぬよりマシだろう、愛する者と共にいるなら」
「嫌ああああ! 公爵様見捨てないで! お父様も何とか言ってよ!」
「おいお前も僕を助けろよ! まだ僕はお前の旦那だぞ、妻の勤めを果たせ!」
「元旦那様、慰謝料ありがとうございます。今度はちゃんと働くんですよ」
ギャアギャアと喚く二人に公爵様も呆れたのかすぐ待機させていた衛兵たちを呼び、二人はあっという間に捕らえられてしまった。その後はもう私も使用人たちに薄汚れたベッドの破棄と、豚の血をそのベッドに塗りたくりここで心中したように見せかけるための細工をさせた。
公爵様は後で切りつけたベッドの詫びとして最高級の物を贈ってくださると約束してくださったので私としてはそれだけで大満足だった。そして何より一番良かったことは仮初ではあるが公爵様の再婚相手として私を選んで下さったことだ。
今までの領地での財産運用だとか家政の取り仕切りなどを評価してくださった公爵様が私のことを気に入り、また公爵様としては恋愛結婚する予定だったライラに裏切られたため自分の仕事を補佐してくれるような女性でかつ利害が一致する者を一旦妻にしようということで選ばれたのだった。
公爵様の衛兵たちが聞いたダンとライラの末路だが、彼らはまぁ運よく同じ農場に売り飛ばされたらしい。ただしかしライラは農場のバカ息子にいいように弄ばれ、ダンは農場を経営する大地主の高齢の女性の男娼として働かされているらしい。
愛情はお互いにないけれども、公爵様は仕事のパートナーとしては凄く頼りになる方でどうしてライラはこんな完璧な婚約者様がいて愛されていたのにうちの馬鹿旦那に手を出してしまったんだろうとずっと考えていた。でもバレるような浮気をする馬鹿たちの考えなんて私にはわかるわけがない。
今度公爵様と外遊する際にはその二人がいる農場へ行こうと私たちは話していた。あの二人が私たちをベッドの上で馬鹿にしていたように、私たちもまた綺麗な服を着て住む世界の違いを二人に見せつけ、彼らの無様な姿をこの目に焼き付ける日を楽しみにしています。
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