ドラゴンスイーツ!~拾った(奪った)スイーツを食べたドラゴンは目を覚ますと幼女の姿になっていた~

怠惰るウェイブ

文字の大きさ
上 下
8 / 12

甘党ドラゴン 覚醒する

しおりを挟む
「…れ。…のれ。…おのれ!よくもやってくれたなぁ!?」

 フィメルが珍しく声を荒げて怒る。数百年、いや数千年と怒りを覚えたことのないフィメルが怒るのは自身に攻撃したこと……ではない。身体は無傷だ。
 皮防具が破れかけているもののその役目を立派に果たした。フィメルは自身を攻撃した者に怒ることはない。例え相手が殺すつもりでもだ。

「儂の楽しみを……スイーツをぐちゃぐちゃにした罪!償え~!!」

 フィメルの持っていたバックが礫によってズタズタに切り裂かれ、中のものが潰れてしまった。 
 フィメルは実はまだ女将の作ってくれたスイーツを一口も口にしていない。ドライアドの元にいたときに食べようと思ったものの果実を手に入れてからゆっくり食べようとしていた。
 匂いだけしか知らない絶対美味しいであろうスイーツは神格化され、至高の存在と化した。

 それを失ったフィメルは感情を爆発させた。

 魔力は感情に付随して器に溜まっていく。
 長年生きてきたフィメルにとって大抵のことでは感情は揺れ動かないため、魔力は常人より溜まらない。
 が、食べ物の恨みは恐ろしい!

 限界まで【待て】をしていたフィメルはぐちゃぐちゃになったスイーツを見て大激怒!それによって魔力はあふれ出し、フィメルの背中に以前より小さいものの純白の翼が生えた!

「覚悟はよいか?食べ物の恨み、とくと味わえ」

 フィメルは翼をはばたかせオス個体に向かって飛んでいく。使うのはかつて枝を切るために使った魔法。

「喰らうのじゃ!」

 腕を振りかぶり激しい風の刃をぶつけたフィメルの魔法はオス個体を対岸の壁へと吹き飛ばした。

「よし、後は真ん中にいる奴だけじゃ」

 フィメルは翼でゆっくりと下降していきメス個体の前に降り立った。

「もう守る者もおらん。観念して龍脈から手を引け」

 かつての威厳を精一杯出して説得するフィメルだが一向に止めようとしない様子を訝しんでよく見るとメス個体の下に卵が一つ転がっていた。

「もしや……卵を孵化させるために?」

 フィメルの言葉にようやく首を縦に動かして意思疎通を始めるメスのアースドラゴン。

 「なるほどの~卵がなかなか孵らなくてこのままでは死んでしまうから龍脈の魔力を使ってなんとかしようとしたわけか」

(そう言う話じゃとなんとかしてやりたいのぉ。ドラゴンという種は生まれてくる数がかなり少ないからの)

 フィメルは考えた末に一つだけ方法があることを思いつく。

「お前たちは子供が孵れば龍脈から手を引くのじゃな?」

 首を縦に振る番の2体。それを見たフィメルは卵に手を触れる。

「せっかく取り戻した魔力じゃが……困ってる同胞を見捨ててはおけん」

 フィメルの純白の魔力が卵に注がれていき卵にヒビが入った。
 すると、中から小さなドラゴンがよちよちと出てきた。

「良かったのぅ、母と父の愛情たっぷり注いでもらえ?」

 フィメルは龍脈を手放し我が子に顔を擦り合わせる親子を見ながらドライアドの元に帰っていった。



『ありがとうございます。お陰でこの土地にも魔力が戻ってきました』
「何、儂は果実をもらえればそれで良いのじゃ!それで!?果実はどこじゃ!?」

 目をきらめかせて見るフィメルに少し引いた様子のドライアドは自身の本体である大樹から枝を動かして先ほど実った果実を持ってきた。

「これが……!金色に輝いて綺麗なのじゃ~。それでは儂はすぐに帰らんといけないのでな、また今度くる!」
『はい、お待ちしております』

 バックが壊れたせいで日持ちしない為急いで街に帰るフィメル。だか、行きと違い翼がある分帰りは早かった。
 

「ただいまなのじゃ!」

 フィメルは大きな声を出しながら酒場に帰ってきた。

「フィーちゃん!やっと帰ってきたか」
「良かったーやっと酒が喉を通るぜ」

 酒場に居た酔っ払いたちはすぐにフィメルの帰りを喜んだ。

「フィー!無事で良かったよ、送り出したは良いけど全然帰ってこないから心配したんだから……」
「お、女将……スイーツを、たの、むぅ」
「女将、首締めてる締めてる!」
「え?あ……」

 女将のベアハグによって意識を失ったフィメルはその後、バックや防具のことを聞かれたり、背中に生えた翼について聞かれた。

「フィメルちゃん、防具の事だが……」
「おかげで怪我もなかったのじゃ!ありがとうなのじゃ!」
「お、おう!今度は壊れないくらいに頑丈なやつ作るからな!」

 防具屋の親父や老人たちは最後までフィメルの役に立った事を喜んだ反面、壊れてしまった事を悔しがった。

「はい、特製スイーツだよ!」
「おお~~!?美味しそうじゃあ!パイにこれは飲み物か?それではいただくとするかの。はむ……おいしぃぃぃぃぃいい!芳醇な甘味に透き通るような清涼感!この飲み物も初めて食べるが美味い!!女将、ありがとうなのじゃ!」

 満面の笑みを浮かべながら無心で食べていくフィメル。
 それを酒場に集まった者たちは嬉しそうに眺めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...