ドラゴンスイーツ!~拾った(奪った)スイーツを食べたドラゴンは目を覚ますと幼女の姿になっていた~

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甘党ドラゴン 覚醒する

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「…れ。…のれ。…おのれ!よくもやってくれたなぁ!?」

 フィメルが珍しく声を荒げて怒る。数百年、いや数千年と怒りを覚えたことのないフィメルが怒るのは自身に攻撃したこと……ではない。身体は無傷だ。
 皮防具が破れかけているもののその役目を立派に果たした。フィメルは自身を攻撃した者に怒ることはない。例え相手が殺すつもりでもだ。

「儂の楽しみを……スイーツをぐちゃぐちゃにした罪!償え~!!」

 フィメルの持っていたバックが礫によってズタズタに切り裂かれ、中のものが潰れてしまった。 
 フィメルは実はまだ女将の作ってくれたスイーツを一口も口にしていない。ドライアドの元にいたときに食べようと思ったものの果実を手に入れてからゆっくり食べようとしていた。
 匂いだけしか知らない絶対美味しいであろうスイーツは神格化され、至高の存在と化した。

 それを失ったフィメルは感情を爆発させた。

 魔力は感情に付随して器に溜まっていく。
 長年生きてきたフィメルにとって大抵のことでは感情は揺れ動かないため、魔力は常人より溜まらない。
 が、食べ物の恨みは恐ろしい!

 限界まで【待て】をしていたフィメルはぐちゃぐちゃになったスイーツを見て大激怒!それによって魔力はあふれ出し、フィメルの背中に以前より小さいものの純白の翼が生えた!

「覚悟はよいか?食べ物の恨み、とくと味わえ」

 フィメルは翼をはばたかせオス個体に向かって飛んでいく。使うのはかつて枝を切るために使った魔法。

「喰らうのじゃ!」

 腕を振りかぶり激しい風の刃をぶつけたフィメルの魔法はオス個体を対岸の壁へと吹き飛ばした。

「よし、後は真ん中にいる奴だけじゃ」

 フィメルは翼でゆっくりと下降していきメス個体の前に降り立った。

「もう守る者もおらん。観念して龍脈から手を引け」

 かつての威厳を精一杯出して説得するフィメルだが一向に止めようとしない様子を訝しんでよく見るとメス個体の下に卵が一つ転がっていた。

「もしや……卵を孵化させるために?」

 フィメルの言葉にようやく首を縦に動かして意思疎通を始めるメスのアースドラゴン。

 「なるほどの~卵がなかなか孵らなくてこのままでは死んでしまうから龍脈の魔力を使ってなんとかしようとしたわけか」

(そう言う話じゃとなんとかしてやりたいのぉ。ドラゴンという種は生まれてくる数がかなり少ないからの)

 フィメルは考えた末に一つだけ方法があることを思いつく。

「お前たちは子供が孵れば龍脈から手を引くのじゃな?」

 首を縦に振る番の2体。それを見たフィメルは卵に手を触れる。

「せっかく取り戻した魔力じゃが……困ってる同胞を見捨ててはおけん」

 フィメルの純白の魔力が卵に注がれていき卵にヒビが入った。
 すると、中から小さなドラゴンがよちよちと出てきた。

「良かったのぅ、母と父の愛情たっぷり注いでもらえ?」

 フィメルは龍脈を手放し我が子に顔を擦り合わせる親子を見ながらドライアドの元に帰っていった。



『ありがとうございます。お陰でこの土地にも魔力が戻ってきました』
「何、儂は果実をもらえればそれで良いのじゃ!それで!?果実はどこじゃ!?」

 目をきらめかせて見るフィメルに少し引いた様子のドライアドは自身の本体である大樹から枝を動かして先ほど実った果実を持ってきた。

「これが……!金色に輝いて綺麗なのじゃ~。それでは儂はすぐに帰らんといけないのでな、また今度くる!」
『はい、お待ちしております』

 バックが壊れたせいで日持ちしない為急いで街に帰るフィメル。だか、行きと違い翼がある分帰りは早かった。
 

「ただいまなのじゃ!」

 フィメルは大きな声を出しながら酒場に帰ってきた。

「フィーちゃん!やっと帰ってきたか」
「良かったーやっと酒が喉を通るぜ」

 酒場に居た酔っ払いたちはすぐにフィメルの帰りを喜んだ。

「フィー!無事で良かったよ、送り出したは良いけど全然帰ってこないから心配したんだから……」
「お、女将……スイーツを、たの、むぅ」
「女将、首締めてる締めてる!」
「え?あ……」

 女将のベアハグによって意識を失ったフィメルはその後、バックや防具のことを聞かれたり、背中に生えた翼について聞かれた。

「フィメルちゃん、防具の事だが……」
「おかげで怪我もなかったのじゃ!ありがとうなのじゃ!」
「お、おう!今度は壊れないくらいに頑丈なやつ作るからな!」

 防具屋の親父や老人たちは最後までフィメルの役に立った事を喜んだ反面、壊れてしまった事を悔しがった。

「はい、特製スイーツだよ!」
「おお~~!?美味しそうじゃあ!パイにこれは飲み物か?それではいただくとするかの。はむ……おいしぃぃぃぃぃいい!芳醇な甘味に透き通るような清涼感!この飲み物も初めて食べるが美味い!!女将、ありがとうなのじゃ!」

 満面の笑みを浮かべながら無心で食べていくフィメル。
 それを酒場に集まった者たちは嬉しそうに眺めるのだった。
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