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甘党ドラゴン働く

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~霊峰の麓の町・サクレ~

 エンシェントドラゴンが住むという伝説がある霊峰の麓にあるこの町は霊峰に生息する魔物を求めてやってくる者たちで溢れている。
 もはや伝説と化したエンシェントドラゴンの怒りを買わないように魔物を狩るための互助組織も設立され麓の村は都市とも言えるほどに繫栄した。
 そして、集まったものたちの憩いの場《酒場》も増えた。昼でも夜中でも人が途絶えることはない酒場に最近一人、看板娘ができたという。

「フィー!あっちの客にエール二つ!!」
「了解じゃ!」

 灰色の長髪を翻しながら幼女がその小さな体でジョッキを運んでいく。

「いやぁフィーちゃんの持ってくるエールは美味しいなぁ!」
「もうここには慣れたかい?」
「うむ!拾ってくれたばかりか雇ってくれた女将には感謝じゃ。空のジョッキを持っていくぞ」
「ありがとー!」

 運ばれてきたエールを飲み今日の戦果を自慢し始めた酔っ払いを尻目に空のジョッキを洗い場に持っていく幼女看板娘とはフィメルのことであった。

「看板娘も板についてきたようだね。一か月前、うちの前に行き倒れた貴女を拾って良かったわ~おかげで私が楽できる」

 フィメルに話しかけた女性は彼女と同じくらいの背丈にもかかわらず自分と同じくらいのフライパンを振り回している。彼女は人間ではなくドワーフ。鍛冶と腕力の優れた種族だ。

「なに、儂の方こそ拾ってもらえて感謝してるのじゃ。腹が減ってもうだめかと思ったところに美味しい飯をもらったのだから。それに―――」

 フィメルはそわそわして女将に上目使いをする。

「ははっわかってるよ、そろそろ休憩してきな。はい、リンゴパイだよ」
「ありがとうなのじゃ!!」

 傍から見たら完全に幼女がデザートをもらってはしゃいでいるようにしか見えない。パイをもって客に交じって食べる彼女に酔っ払いどもは絡む。

「お、フィーちゃんはおやつタイムか。うちの娘より小さいのによく働くぜぇ。」
「当然じゃ!儂は最強のエンシェントドラゴンじゃからの」
「はいはい、凄いな。ほれ、俺のパイも食べるか?」
「いいのか!?わーい!」
「ははは、やっぱガキだ!」

 これがフィメルの新たな生活となっていた。自分がドラゴンだということを言うことを主張する面白幼女。それが常連の評判だ。甘いものを渡すと喜んでとびきりの笑顔を見せてくれると一か月ながら人気者となった。
 
「うまうま♪そういえば本当じゃろうなぁ?働いて美味しいものを食べよく寝たら魔力がたまるというのは?」
「おう!俺たちが狩りの後必ずここに寄るのもそれが理由よ。なぁ!?」
『おぉー!』

 酔っ払いどもは呼びかけた男の声に応じて騒ぎ立てる。

「全く、うちの看板娘は人気者だね。フィーは私の娘さ。酔っ払いどもの娘じゃないってのに。はい、エール」
「おぉ、さんきゅ。ありゃ?」

 酔っ払いの取ろうとしたジョッキを奪い取ったのはフィメル。

「もうそろそろやめておけ?飲みすぎはよくないぞ?」
「ん~そうだなぁ。明日に響くからここまでにしとくか。女将よりフィーちゃんの方が女将っぽいなぁ」
「なにおう!?私はもう150だよ!?」
「確かになぁ。甘いもの食べているとき以外は母ちゃんよりも優しいもんな。この前、狩りに失敗したとき慰めてもらったしな」

(ん~儂にとってはみんな子供だからつい甘やかしてしまうんじゃよな。)

「それにしてもまだ魔力が溜まらないのかい?もう一か月たっただろう」
「それなんじゃがどうも溜まっているような気がせんのじゃ。なんでなんだろうな」

 パイを頬張りながら考えるフィメルだが実は魔力は溜まっている。ただ、その器がでかすぎて気が付かないだけで。
 無限のような魔力の器は例えるのなら大海のような器にコップを使って貯めるようなもの。

(うむぅ、魔力は増えないが甘いものを食べれるからいいがちょっと飽きが来てしまうな)

 フィメルにとって魔力や元の身体はそこまで気にするものではない。いつか戻るだろうという楽観的な考えは長命種ならではだろう。
 今彼女の頭にあることは……甘いもののことだけ。美味しいと言っても毎日食べていれば飽きてしまうものである。

「あの娘の菓子は此処にもなかった。ということは娘しか作れないということか。のう、このあたりに甘いものはないのか?」

 フィメルは酔っ払いに尋ねるが

「甘いものぉ?女将のスイーツ以外にこのあたりにはないんじゃないか?」
「そうかぁ」

 フィメルが少し落ち込んでいるとその様子を見ていた他の酔っ払いにジト目を浴びた男は焦って提案する。

「そ、そうだ!このあたりにある果物は食べたんだろ!?なら、行商から買ってみたらどうだ?珍しいものもあるだろ」
「行商……そうかその手があったか!女将」
「いいよ、明日は休みにして行っておいで。ついでにちょと買い出しを頼むよ」
「ありがとう!」

 フィメルは残りのパイを食べて残りの仕事時間を新しいスイーツのことを考えながら働いた。
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