魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ

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獣王国ベスティア

出国

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「くそ~負けた!強かったなー」
「ふふ、これでも獣王を除けば僕が最強だからね」

 闘技場での戦いはエクリスが勝利し、腕相撲での借りを返した形となった。
 ジークもかなり善戦はしたのだが炎に剣が耐えきれず溶けてしまうのがやはり弱点となってしまったのだ。

 今は観戦に来ていたグレイ達と共に獣王宮に向かう為の籠を待っている所だ。

「お待たせしました~」

 大きな籠を持って飛べる獣人がグレイ達の前に着地する。続々と乗り込んでいき籠は空へと飛ぶ。

「何度体験しても空を飛ぶなんて信じられないなぁ。そういえばグレイ、ロクスタと何かやってるみたいだけど何してるの?」

 籠から見える景色を眺めていたレイラが思い出したようにグレイに聞く。

『聖獣に荒野にされた土地の緑化実験』
「それって……木を植えるってこと?」

 レイラの言葉にグレイは首を振る。

『聖獣が荒野にしたあの土地は動物も草木も無い死の土地になったから、一部分だけで薬草を育てる実験中。さっき見てきたら芽が出てきてたからほぼ完了かな、ロクスタはそれ見て過労で倒れたけど』
「そ、そうなんだ……」

 グレイの珍しい長文と過労という言葉に少し引くレイラ。
 そんな話をしている間に籠は獣王宮へと到着した。送ってくれた獣人が籠の扉を開き、獣王の間へとグレイ達を案内する。
 獣王の間の扉を開けてもらい中に入ると十名ほどの獣人とヴァガル、そしてヴリトラがいた。

 ヴァガルはグレイ達が訪れたことに気が付き、視線を獣人達からグレイ達へと移した。

「客人が来たようだ。一先ずは先の案を進める方向でヴリトラと話してくれ」

 ヴァガルの言葉で獣人達は獣王の間から出ていった。

「よく来てくれた。先日、ベスティアの今後の方向性が決まり親書が出来た。受け取ってくれ」

 ヴァガルから直接渡されるのはそれこそ信頼の証だ。本来なら王自身が渡すことなど安全性を考えればあり得ない行為だからだ。
 そして、受け取る役目はレイラが担った。ベスティアとギルドを繋ぐ象徴になったのはジークなのだがジークに任せるよりレイラの方が良いとの判断だ。無くされたりでもしたら大変な事になる。
 
「必ず届けます」

 ヴァガルから受け取ったレイラはすぐに無くさないように収納袋にしまう。
 これでグレイ達が獣王宮に来た用事は済んだ。
 しかし、獣王宮に着いてから爆発音にも似た破壊音が気になったジークが見に行ってみようとグレイ達を連れ荒野へと向かった。

 そこには大勢の獣人達と彼らに粉砕されている土地があった。

「何やってるんだ?グレイはこれ知ってるのか?」
『うん、さっき芽が出た話の続き。今は荒野を緑化する作業中。このままだと岩のままだから』

 グレイの言葉通り荒野では魔獣化したパワー溢れる獣人達が荒野の硬い岩や地面を粉砕していく。そうして細かくなった地面を地面を掘る事が得意な獣人達によってふかふかな地面へと変わっていく。時折空を飛ぶ獣人が上空より指示して獣人達の総指揮を担う適材適所っぷりをからでもかと見せてきた。

「いや、ほんとに凄いな。俺らじゃ何年かかるか分からない事をこんな短時間で」
「でも、この荒野全部を森にするの?」

 レイラの質問にはエクリスが答える。

「いや、一部はそのままにする予定だよ。闘技場があるとはいえ暴れても問題ない場所っていうのは貴重だからね。子供の魔獣化の訓練や兵士の訓練場を建設する予定さ」
「へぇーじゃあ俺も少し手伝ってこようかな」

 目の前の圧倒的パワーに触発されたジークが、作業中の荒野に降りようと一歩踏み出した所で両肩に手が置かれる。

「「ダメに決まってるでしょ?」」
「はい……」

 幼馴染二人にガッチリと掴まれたジークは即座に諦めた。流石にライラまでもが止めに入るとごねる事も無駄だと分からされているジークであった。


 それから数日後。

「ジーク!忘れ物ないよねー?」
「ない!」
『武器も?』
「当然持ってる!」

 ネロの家の前で荷馬車に荷物を積み込んでグレイ達は最終確認をしていた。
 もちろんその中にはネロやエクリス、アグリナの姿も。

「まるで子供の扱いにゃね……」

 ジークへの過保護っぷりを見て笑うネロだが、その表情にはどことなく影が落ちている。

「うん、準備完了!」

 レイラが最終確認を終えて荷馬車から降りる。そうしてグレイ達はネロの元に集まった。

『ロクスタは?』
「また倒れて寝たにゃ。またね来てねって言ってたにゃ」
「また徹夜したの?大丈夫かな……」

 心配そうにするレイラにいつものことにゃ、と返すネロ。
 そして出国の時間となった。

 既に国中にジーク達が国を去ることは知れ渡っており、見送ろうと大勢の獣人達が道の脇に集まっていた。中には空から見る者達もいる。

 そんな中を通るグレイ達に付き添う形でネロとアグリナも共に国境まで行く事になっている。

「すげぇ人の数!ちょっと手振ってくる!」
「やめなさい!」

 凱旋パレードと化した出国にジークが飛び出そうとするのをレイラがはたき落とし、座らせる。そんな夫婦漫才にくすくすとグレイ達は笑う。

 そうして、見送りの獣人達もいなくなった場所で荷馬車は止まった。

「私が見送るのはここまでだ。皆、獣王国を助けてくれてありがとう。また来てくれ」
「元気でにゃ!」
『ネロも元気で』

 そうしてアグリナとネロを置いて荷馬車は再び走り出した。
 荷馬車の中ではジークがポツリと今まで言わなかった事をこぼした。

「……やっぱりネロのやつ来なかったな」

◇◇◇

 グレイ達の乗る荷馬車が見えなくなった頃。

「さて、帰るにゃ!帰ったらエクリスの手伝いでもしようかなー」

 元気な声を出しながら振り返ってネロは歩き出した。だが、それをアグリナが手で引き止める。

「どうやら忘れ物をしたようだ。これを届けてやってくれ」

 アグリナはネロにバックを渡した。

「え、でも忘れ物はないはずにゃ」
「あるだろう?ここに大きな物が」

 アグリナはネロの胸をトンっと指す。

「行きたいんだろう?行っておいで」
「でも……」

 ネロはアグリナの指摘が図星である事わかりきった上で悩む。それはアグリナの残された時間についてだ。助かったにしろ削れた命は戻らないのだから。

「問題はない。すぐに死ぬわけじゃない、それにロクスタがどうとでもするだろう。………親は子の幸せを願うものだ。そんな顔をしたお前と共に過ごしたくないんだ」

 アグリナはネロの顔をむにゅっと摘む。何処か悲しげでそれを紛らわせようと空元気を出していることなどお見通しでだったのだ。

「いつでも帰って来ていい。待ってるから、あの家は私たちの家だからな」
「………ありがとう、ママ。行ってくる!」

 ネロはアグリナからバックを受け取り荷馬車の消えた方向に走り出した。

◇◇◇

「ん?なんだこの音」

 荷馬車に寝転がっていたジークが後ろから聞こえて来た物音に起き上がって振り返る。
 見渡す限り木が立ち並び草が生い茂っている景色を眺めていると、次第に音が大きく近づいて来ていると気がついた。

「後ろからなんかくるぞ!」

 ジークの声でグレイとレイラも警戒する。そうして、もう目の前にまで来た音の主が跳び出した。
 それは黒く大きな黒猫だった。
 
 
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