魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ

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獣王国ベスティア

昔の仲 間の話

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おい、何で笑ってるんだ?成功したんだよな!?」
「えっと、ジーク?これ見える?」

 レイラが近くにあった鏡の方にジークを任せる。すると、鏡には明らかに人間姿ではなくただの猪が写っていた。
 それを見て横に動いたりジャンプしたりしたジークだが自分が猪になってることを認識した。

「だ、どうなってんだコレ!治せるんだよな!?」
「え、えっとグレイのルーンが入ってるから、こ、効果切れはいつになるか分からない、かな」
『ごめんなさい』

 ルーンを用いた製薬など前代未聞のため効果時間がどれほどなのかわからない為、グレイとロクスタはジークの解除薬を作りはじめた。

「まず、ルーンは必須。打ち消すには同等の効能はないと負けちゃう。それからゲンワクダケを消すショウキダケ、あとは」

 ジーク本体は人間のため普通に過ごしているのだが、他の人には猪が四足歩行で歩き、椅子に座り腕を組んでいる光景に見えている。
 しかもフゴフゴではなくジーク本人の声が聞こえてくるのだからタチが悪い。

 少し気になったレイラは猪ジークの頭を撫でる。幻覚とは言えロクスタ謹製の幻覚は感触すら再現している。毛並みの少しツンツンした感触や体温まで本物そっくりに感じられる。
 しかし、それは幻覚を見ているもの達のみ。

 ジークはレイラに頭を撫でられ髪の毛を触られまくると言う地獄を体験していた。

「はぁ、早く元に戻りてぇな……」
「ブフッ」

 
 日が暮れた頃、大釜のある部屋が勢いよく開いた。ロクスタの手にはおそらく解除薬と思われる小瓶に入った液体が握られていた。

「で、できまし、た」
「ろ、ロクスタ早くぅ」

 ロクスタが見たのはレイラとライラ、双子によって子猫と猪が交互に撫でられている光景だった。

「早くそれをくれ!」

 トコトコとロクスタに走るジークは ジャンプしてロクスタの持つ解除薬を奪い取った。勿論、ジークはジャンプなどしていない。猪とジークの身長差を誤魔化すためにジャンプという幻覚で誤魔化しているのだ。

 そうして手にした解除薬を一気に飲んだジークは再び煙に巻き込まれる。そして、煙が上がるとそこには元のジークが立っていた。

「もう少し触り心地を比べたかったのに……」
「残念」
「やっと終わってくれて助かったにゃ」

 顔を赤くしてぐでんと伸びているネロはジークが元に戻ったことに安堵する。

 猪となったジークの毛並みとネロの毛並みを比較するまでは良かったのだが、そこにライラまで加わり双子の完璧な連携によって限界ギリギリまで撫で回されていた。

「も、もう、遅いから、ととと泊まっていったら?」
「いいの?」
「使ってない部屋、あるから……」

 ロクスタは使ってないと言いながら綺麗にされている部屋に案内した。そこにはベットが一つだけあった。
 全員が寝るには大きさが足りなすぎるが床に寝れば充分に寝れる程には広い。

 グレイが収納袋から寝袋を人数分出して床に敷く。ベットに関してはジャンケンでライラが使うことになった。

◇◇◇

 夜遅く、皆が寝静まった頃。
 大釜のある部屋を開く。

「ヒェッ!?び、びっくりした、よ?ネロ」
「こんな夜遅くに作らなくてもいいのに」

 寝袋から出たネロは光が溢れていた大釜の部屋を覗きに来たのであった。

「だ、だってベスティアに行きたいんでしょ?なら、早くわ、渡したいし」
「なら何で失敗なんかしたにゃ」
「………」

 ネロに獣化薬の失敗について言及されたロクスタは大釜を混ぜるのをやめ、押し黙る。

「グレイのルーンが凄いのはわかる。でも、それ込みで失敗なんかしないはずにゃ。それだけの信頼をしてるからここに来た」
「………………だってベスティアに行きたいんでしょ?なら止めないと」
「そうだね、私がベスティアに行く。それだけは意味が違ってくる。でも、今は仲間がいるから」

 ロクスタはネロが【ベスティアに行くこと】を止めたいと考えていた。

「うん、そう、だよ、ね。私は仲間にはもう、なれない。だからコレ、使って」
「これは?」
「それはね」

 ロクスタはネロに今、大釜で作っている薬とは別の透明な薬を渡した。


◇◇◇

「げ、元気で帰って来て」
「勿論!獣化薬ありがとな!」
「「またね、ロクスタ」」
『また今度』
 
 獣化薬を朝受け取ったグレイ達は荷物を整理し、出発する。

「ネロは挨拶しなくてよかったの?」

 レイラはロクスタとネロが出発の時に会話しなかったことを心配する。
 しかし、ネロは問題なさそうに普通に答える。

「夜のうちにさよならはしたにゃ。ロクスタはあれでいて寂しがり屋だから出発の時に顔出すと名残惜しくなるにゃ」

 レイラはそう言うものなのかな、と納得した。
 そうして一行は再び獣王国へと走り出す。
 

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