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旅する少女編

潮風が吹く

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 獣人の少女ネロと行動を共にすることが決まったグレイは朝の支度を始める。
 テントを解体し袋から肉を取り出して薄く切る。それをフライパンの上で焼いていく。

「美味そー!私にも焼いて、お願い!」
『鍋を綺麗にしておいて』
「了解にゃ!」

 ネロはポケットから水色の宝石を取り出して少し離れたところに移動する。珍しいのでグレイの視線もそちらに移動すると宝石から水が出て来た。
 宝石の正体は魔封石だ。と言っても大きさは小さいし中に入っている魔法も水道の水くらいに弱いが野宿には助かる逸品のようだ。

 そうこうしていると肉のいい匂いが漂ってくる。グレイは袋から一口サイズのパンを二つ取り出して半分くらいのところに深めに切れ込みをつける。
 パックリ開いた所に肉を詰め更に野菜を入れれば即席の朝食パンの出来上がりだ。

「洗って来たよー!」

 ちょうどネロも鍋を洗い終えたようで戻って来た。グレイは持っていたパンの一つを差し出して代わりに鍋を貰う。そのまま袋に詰め野営セットは全て袋に入った。

 ネロは貰ってすぐにばくばくと食べ進め完食していた。グレイも小さな口を開いてはむっとほおばる。
 柔らかいパンに挟まれた香ばしい焼き目の肉と野菜が良い感じに調和しており朝に動いたことで空いたお腹を満たしていく。
 美味しそうに食べるグレイを見ていたネロはふと今気がついたようにグレイに話しかける。

「そういえばグレイって喋れないにゃ?いつも会話する時ふわふわ浮く文字で会話するし」

 パンを食べていたグレイはその指摘にパンを詰まらせそうになるほどに驚いて急いで胸を叩いて何とか飲み込む。

 本来、ジークに貰った白い板を使って会話をするつもりだったグレイだが突然現れたネロと興味がその思考をどこかにやってしまっていた。よく考えればフライパンの火もルーンで起こしてしまっている。完全にうっかりである。

 グレイはネロの一挙手一投足をじっくりと観察しもしものことを考え待機する。
 もし、盗賊団の時のようになるのなら今のうちに撒くか何かして逃げなくてはならない。

「いやぁまさか」

 ネロの次の言葉を心臓を爆速にしながらグレイは平静を装って待つ。

「文字で会話する人がいるとか驚いたにゃー」

(………それだけ?)

 すでに見られているのだから今更白い板を出す必要もないためグレイは続行して魔力で文字を書く。

『他に何か思ったりしなかったの?」
「えっ、あっそうにゃねー朝ごはんもうちょっと無いにゃ?」
『無い』

 気にしすぎかとグレイはパンを食べるのを再開するがネロは「あーそっかそうだった」と聞こえないくらいでつぶやいた。


「それじゃ出発ー!」

 ネロが前になる形で馬に騎乗して旅を再開するグレイ。ネロを歩かせる案もあったのだがもし反旗を翻して襲って来たら対処できないと思い前に座らせる事にした。
 当の本人は「あー歩かないって最高ー!」などとほざいているので杞憂かもしれないが。

 グレイとネロは似たような体格だが少しだけグレイの方が大きいので抱きつくような体勢で馬を走らせている。そんなネロの声が内側から響くように伝わってくる。

「そういえばグレイは何で港町に行くにゃ?やっぱり魚?」
『海を見に行く』
「あーにゃるほど。海見た事ないのか」

 コクリと首を縦に振って答える。それを見たネロは「なら見てのお楽しみにゃ」と港町のことを話すのをやめた。

 そうして走らせること少し、お腹も空いたので一旦止まって昼食にすることに。だが、それを狙っていたかのように空を鳥が飛ぶ。太陽が眩しくてでよく見えないがグレイが想像している鳥よりも大きいように見える。

「シーグルにゃ!海の泥棒、人のご飯を掻っ攫う悪い鳥にゃ!」

 海近郊に現れる鳥の為、海が近いことの表れではあるもののそれとは別に厄介な鳥に目をつけられた。数羽空を旋回しながらその鋭い目つきでグレイの袋を見定めている。

「あいつら鉤爪で何でも取っていくから気をつけて。逆に昼飯にしてやるにゃ!」

 ネロは脚をバネのようにググッと力を入れてジャンプした。グレイの頭を軽々と飛び越えるほどの跳躍を見せたネロは爪を伸ばしシーグル目掛けて振りかぶる。

 だが、すいっと避けられ「ふにゃ!?」という情けない声で落下して来た。

「いてて……あいつら動くにゃ。せめて下に降りてくれば倒せるけど」

(どうしようかな……)

 グレイはルーンを使うべきかで悩む。おそらくルーンならば飛んでいる鳥もなんなく捉えられる。しかし、ネロがどんな反応をするのか、今度こそ貴族バレして大変な事にならないかと考えた。

 その間もジャンプしては避けられるを繰り返すネロは次第に跳躍距離も落ちていった。

(どうやったらバレずに済むかな)

 色々考えた末にグレイがたった行動は風のルーンで不可視の刃で切ること。バレなければ御の字、バレても港町の間共に行動をとるのだから問題ないと考えた。

「落ちるにゃ!」

 翼を傷つけられ落下するシーグルをネロは長く伸びた爪でとどめを刺す。やはり前に座らせておいて正解だったとグレイに確信させた瞬間だった。

 ネロはすぐに血抜きをして処理を進めていく。グレイはジークにそれを習っていたので手伝う。ドバッと血が流れたのでネロの魔封石で手を洗う。

「いやぁいい連携だったにゃあ」
『私何もしてないけど』
「そうだったかにゃ?あー血抜きの話だよ?勿論」

 そんな一幕がありながらも何とか?ルーンのことを知られずに済んだグレイは昼食を食べようと思ったが流石に血の匂いがしてネロも食欲が無くなったのか休憩だけする事にした。

「そろそろ移動にゃ!シーグルが出たってことは海にはもうすぐ着くはず」
『本当?楽しみ』

 血抜きしたシーグルを袋に詰め馬にまたがって移動すること少し、嗅ぎ慣れない匂いを感じネロにグレイは聞く。

『この変な匂いは何?』
「海の匂いにゃ。グレイにも嗅げるくらい近づいたってことにゃね」

 風にのって匂う独特の香りに向かって坂を走ると地平線が開けた。眼下にはキラキラと宝石のように光る海とそれに沿うように石で出来た街が広がっていた。

「ここが潮風香る街マレーアにゃ!」
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