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第一章・降り積もる花粉

姉と弟の旅路

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 まだ二月の中旬だというのに、遥か遠くの景色を眺めても雪はなく、車窓に流れる風景は鬱蒼とした森と山が見えている。

 例年だったら白い雪が銀色の輝き、美しい冬の世界を作っているのだか、風に流れて降り積もるのは雪ではなく……黄色い花粉だった。
 
 今年は東京の街中でも大量の花粉が降り、その光景を思い出した香太コウタはこの地球がとても心配になった。
 
「おねーちゃん。コレどう思う?」
 
「ん?温暖化で世界の危機?それより、てめえのワキガの心配でもしてろ」
 
 鼻をつまんで「くさー」と言って、挨拶のように弟を苛めるが、香太は間違っても逆らえず、読み終えた科学雑誌を見せて、感想を聞こうと思った相手が悪かったと納得する。

「香太って、くせ~んだよ」と、向かいの座席で体育座りする姉・彩美は鼻くそをほじって香太の服の袖にくっ付けて笑う。
 
 これでも中学校ナンバー1のモテジョであり、香太のクラスでも「若い頃のガッキーに似ている」と言う生徒が多く、香太は口を閉ざしてノーコメントを通し、もし悪口を言ってたと知れたら姉貴に報復を受けると恐怖した。
 
 
「アーミンはさ。最近、ニキビ退治に困ってんのよ」
 
 栗山彩美は自分のコトをアーミンと呼び、二歳下の香太は今世紀最低の中学三年のおバカな女子生徒だと陰では思っている。
 
「温暖化がニキビの絶滅に貢献してくれんなら、大歓迎よ。それより弟の虫よけ臭いのが大問題さ」
 
 姉にずっとそう言われて育った香太は自分の名前は好きじゃなく、体臭が劣等感でもあったが、田舎のお婆ちゃんはいい匂いだと励ましてくれた。
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