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第五章・四大元素の鍵
チーネとエリアン
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バックミラーにメッセンジャーの若者が通りに立って手を振っているのが映っている。アリダリがそれをチラッと見てワゴン車のハンドルを握り、ロードバイクに乗って前を走るチーネを追う。
「いい奴だったな」
助手席で振り返っていたソングが微笑み、アルダリが頷くとハンドルを大きく切って車体が揺れた。
「こら、アルダリ。しっかり運転しろ」
サンフールから上半身を出して匂いを嗅いでいたエリアンが怒鳴る。
「いや、そっちこそ指示を早く出せ」
チーネはメッセンジャーの自転車を借りて通りを走り、自然を感じ取る能力で風の流れに含まれた異質な黒い澱みを見つけて追った。
そしてエリアンは匂いの痕跡を嗅いでナビゲーションしている。
「まったく、チーネも速すぎなんじゃ」
「とか言って、可愛いお尻に見惚れていただろ?」
ソングがそう注意したが、『ミニスカートで飛ぶように走ってる~』と頬が緩んでしまい、ジェンダ王子もトーマもすぐ後ろで笑顔で眺めていた。
「うん、チーネは可愛いね」
その二人の後頭部をエリアンが足で蹴り付けて注意する。
「マジメにやれ」
「そ、そうだぞ」
ソングも両手で頬を叩いて気合を入れ、座席の横に置いた剣を握った。
「敵は魔女と狼族ってことか?」
チーネは体重が軽い事もあるが、高性能なロードバイクとバネの脚力で車を追い越して猛スピードで走った。
『めっちゃ、速く走れる』
時折、車の上で匂いを嗅ぐエリアンを振り返り、段差でジャンプしてサドルから体を浮かす。
『風になったみたい』
しかし途中で黒い空気の澱みを見失い、交差点で止まっていると、ワゴン車のサンルーフから上半身を出したエリアンが鼻を向けながら左を指さした。
「チーネ。そっちだ」
「ありがとう、エリアン」
チーネは一緒に温泉に入って仲良く話したのを思い出し、ペダルを回して前輪を浮かせ、前の車を乗り越えて空中で一回転して着地してみせる。
『エリアンは素敵な女戦士だ。一緒に戦えて、光栄だよ』
騎士道精神を持ったエリアンに好意を抱いたチーネは温泉の休憩室で寝ている時、すぐ隣で毛布からはみ出したエリアンの手を握って秘密の提案をした。
「ソングはSEXしないと、ドラゴンの武器を使えないんだ」
「ああ、知ってる」
「もし、チーネができない時……エリアンに任せていいかな?」
「マジか?」
「うん。だって、負けられないでしょ」
「ああ、そうだな。もちろん、その時が来たら頑張る」
そんな女性同士の意味深な会話をコソコソとしている時、ソングはチーネの隣で大の字になって口を開けて熟睡し、ジェンダ王子はその横で背を向けて薄目を開けて聴いていた。
「女心ってのは不思議だな」
ジェンダ王子もその時のシーンを思い出してそう呟いたが、トーマが苦笑いして言い返す。
「いや、王子の方が不思議だぞ」
それは両性具有者で女性の心理と性欲を半分持つジェンダ王子への率直な疑問だった。
「恋のキューピッドは卒業した方がいいんじゃね?」
「えっ、なにそれ?」
何も知らぬはソングだけであった。
「いい奴だったな」
助手席で振り返っていたソングが微笑み、アルダリが頷くとハンドルを大きく切って車体が揺れた。
「こら、アルダリ。しっかり運転しろ」
サンフールから上半身を出して匂いを嗅いでいたエリアンが怒鳴る。
「いや、そっちこそ指示を早く出せ」
チーネはメッセンジャーの自転車を借りて通りを走り、自然を感じ取る能力で風の流れに含まれた異質な黒い澱みを見つけて追った。
そしてエリアンは匂いの痕跡を嗅いでナビゲーションしている。
「まったく、チーネも速すぎなんじゃ」
「とか言って、可愛いお尻に見惚れていただろ?」
ソングがそう注意したが、『ミニスカートで飛ぶように走ってる~』と頬が緩んでしまい、ジェンダ王子もトーマもすぐ後ろで笑顔で眺めていた。
「うん、チーネは可愛いね」
その二人の後頭部をエリアンが足で蹴り付けて注意する。
「マジメにやれ」
「そ、そうだぞ」
ソングも両手で頬を叩いて気合を入れ、座席の横に置いた剣を握った。
「敵は魔女と狼族ってことか?」
チーネは体重が軽い事もあるが、高性能なロードバイクとバネの脚力で車を追い越して猛スピードで走った。
『めっちゃ、速く走れる』
時折、車の上で匂いを嗅ぐエリアンを振り返り、段差でジャンプしてサドルから体を浮かす。
『風になったみたい』
しかし途中で黒い空気の澱みを見失い、交差点で止まっていると、ワゴン車のサンルーフから上半身を出したエリアンが鼻を向けながら左を指さした。
「チーネ。そっちだ」
「ありがとう、エリアン」
チーネは一緒に温泉に入って仲良く話したのを思い出し、ペダルを回して前輪を浮かせ、前の車を乗り越えて空中で一回転して着地してみせる。
『エリアンは素敵な女戦士だ。一緒に戦えて、光栄だよ』
騎士道精神を持ったエリアンに好意を抱いたチーネは温泉の休憩室で寝ている時、すぐ隣で毛布からはみ出したエリアンの手を握って秘密の提案をした。
「ソングはSEXしないと、ドラゴンの武器を使えないんだ」
「ああ、知ってる」
「もし、チーネができない時……エリアンに任せていいかな?」
「マジか?」
「うん。だって、負けられないでしょ」
「ああ、そうだな。もちろん、その時が来たら頑張る」
そんな女性同士の意味深な会話をコソコソとしている時、ソングはチーネの隣で大の字になって口を開けて熟睡し、ジェンダ王子はその横で背を向けて薄目を開けて聴いていた。
「女心ってのは不思議だな」
ジェンダ王子もその時のシーンを思い出してそう呟いたが、トーマが苦笑いして言い返す。
「いや、王子の方が不思議だぞ」
それは両性具有者で女性の心理と性欲を半分持つジェンダ王子への率直な疑問だった。
「恋のキューピッドは卒業した方がいいんじゃね?」
「えっ、なにそれ?」
何も知らぬはソングだけであった。
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