エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

文字の大きさ
上 下
18 / 18
第四章・ヌガーの繁殖力

6

しおりを挟む
「この海で死んだ微生物と空中に浮遊する微生物が同種だと判明しました。つまりこれが世間に露見したら、その責任の一端は私たちにあると言う事です」

 泉川はそう言って苦笑いしたが、実は別に反省などしてない。既に警察機関にも手を回して、浮遊微生物の存在を揉み消している。

「ヌガーって言った方が分かり易いんじゃないですか?茂人のネーミングセンスには息子ながら感心するわ」

 友恵がそう言って微笑むと、俊彦も笑って頷いた。非常事態に直面しているというのにドーパミンが分泌されて論点はずれ、感染が広がる事よりも保身に囚われている。

「つまり、私たち夫婦の国政への歩みは途絶え、泉川先生も失脚になりますね」

「環境大臣の責任は大きいですよ。夫は協力しただけですから」

 そう藤崎夫妻に責められて、温厚な泉川の表情が一変した。頬が引き攣って、白目を剥いて白濁の眼球をグルグル回らせて二人を睨んだ。

「死ぬって、セクシーだよね」

 泉川が喉をザラつかせてそう呟いた後、ゴボッと咳き込むと、肺からヌガーが逆流して口から白い綿毛が漏れ出て夫妻の方へ浮遊した。

 その泉川の変貌振りに夫妻の体内のヌガーが反応している。突然、ハイな気分から怒りと憎悪が湧き上がり、脳が暴力の欲望に満たされた。

 その間、泉川の眼球の中でヌガーが蠢いて白濁の瞳がグルグル回っているように見えている。

 ヌガーには狂気の伝達能力があるのか?

 泉川にコントロールされるように二人が争う。俊彦はビール瓶を握って妻の頭上に振り上げ、友恵はフォークとナイフを掴んで夫の喉元に突き付けた。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

2021.08.26 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.26 田丸哲二

ありがとうございます。応援をモチベーションにして頑張ります。

解除

あなたにおすすめの小説

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

静寂の訪問者

グランマレベル99
ホラー
私は小説初心者なのでご意見ご指摘がございましたら軽い気持ちでコメントしてください

秘密の仕事

桃香
ホラー
ホラー 生まれ変わりを信じますか? ※フィクションです

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

りんこにあったちょっと怖い話☆

更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】 ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡 田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。 あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。 おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。