エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第四章・ヌガーの繁殖力

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 千葉県知事、藤崎俊彦と妻の友恵はホテルニューオータニ東京本館・岡半の個室で環境大臣である泉川真吾と会食をしていたが、テーブルの中央には不似合いな[ガラス容器]が置いてあった。

 松坂牛などの最高級国産和牛を使用したすきやきの専門店であるが、食事の前に重要な案件がありビール瓶とお通しだけで料理は後でお願いしてある。

「藤崎さんの息子さんが海で発見するとは奇遇だ。しかもヌガーと名付けるとは……面白いですね」

 和室の上座に座ってビールを飲んでいる泉川真吾がそう言って、夕暮れの和室の室内に不似合いなサングラスを外す。

「カラコンはいまだに苦手でしてね」

 眩しそうに暫し閉じていた瞼を開くと、毛細血管の浮き出た白目がくるっとひっくり返って白濁の瞳が現れた。

 白い粒子が眼球に蠢いて灰色の瞳に変色させている。

 そしてガラス容器を手に取り、中の液体を天井の明かりに透かす。普通は肉眼では見えない筈だが、感染した異常な眼球には白い微生物の死骸が液体に揺れているのが映った。

 しかも興味を示してヌガーが瞳に集り、瞳孔が開いて真っ白になっている。

 泉川に合わせるように藤崎夫妻も黒いカラコンを外し、灰色の瞳を解放した。すると、微生物が体内で活性化して気分が高揚するのを如実に感じた。

「この方が気分がいい」

「ほんと、私たちは大丈夫みたいですね」

 自分達が一番不思議だったが、微生物が体内に侵入して一週間程経つが、三人とも普通に生活していた。

「ウイルスではないが、保菌者のまま発病しないのかもしれない」

 そう言って泉川はガラス容器をテーブルに戻したが、笑って人を殺せそうだと思っていた。つまり三人とも極度の躁状態になり、ある意味狂っていたのである。

 そして今日集まったのはその計画の相談であり、政治家的な思考で浮遊微生物の隠蔽と捏造を考えていた。
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