エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第四章・ヌガーの繁殖力

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「7月頃から、関東近辺で悪質なあおり運転の事故が多いの知ってるだろ?」

「うん。みんな暑さのせいだって言ってるね」

「それだけじゃないぞ。通り魔的な事件が連続して起きている。それに神奈川県と千葉県の介護施設での殺傷事件。全部、暑さのせいにされているが、変だと思わないか?」

 茂人は自分専用の研究室へ入ると、デスクの引き出しに入れてあったレポートを美月に渡した。

「これを見てくれ」

 それには地図データにポイントが表示され、この数ヶ月の間に殺傷事件や交通事故が千葉県の海側から関東圏に広がっている事が一目瞭然だった。

「まさかシゲト、これがヌガーと関係してるって言うの?」

「わからない。でも、事件が起きた日の湿度と雲のデータを見てくれ」

 確かに湿度が80%以上で、霧のように空を覆うスコール雲が発生した時に事件が発生している。(気象庁は最近になってスコール雲を予報。)

「実は空気中の分析もしているんだけど。まだ、ヌガーは発見できてない」

 空のスコール雲を追いかけても、その全域に微生物が浮遊しているわけではない。下で待っているしかないし、闇雲に採取しても発見できる確率は低かった。

「ヌガーは海ではなくて、空気中にいるって言うの?」

「いや、もちろん仮説でしかないよ。でも浮遊微生物って、菌類とかウイルスとか動植物とかけっこう普通に飛んでるんだぜ」

「うそ。空気だよ。ほら、自然の中で気持ちいいーとか吸ってるエアーだよ」

 美月は深呼吸する真似をしてそう言った。茂人の言う事をあまり信用してないというか、怖くて受け入れたくなかった。

 しかし茂人が首を横に振っているのを見て美月はハッとした。アレルギー体質の茂人は食物だけではなく、空気中に飛んでいる花粉にも悩まされている。
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