エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第四章・ヌガーの繁殖力

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 事故を起こしたトラックの運転手は車内で焼死し、何故暴走して対向車線から走って来たワゴン車に突っ込んで自爆的な事故を誘発したかは不明である。

 しかし警察はトラックの助手席に乗っていたと思われる男が車に轢かれて、無残な状態で道路に倒れて死んでいた事に不審を抱いた。

 千葉県警本部の安置所に運ばれたその遺体を検視官が調べて刑事と話している。血の流れが止まって数時間が経過して凝固し、ヌガーは羽の分裂の繁殖力を失い、殆どの微生物が乾いた血液に溺れて死んでしまった。

 しかし肉体は死んでいるが、僅かに生き残ったヌガーが肺胞と血液に付着して微かに蠢いていた。検視官は解剖と精密な血液検査前で気付いてない。視検できるほど大量のヌガーが在してなかったのである

 それが今、安置所の湿度に血液が湿り気を帯びて、裂傷の皮膚から羽をクネクネさせてヌガーが飛び立とうとしている。

「どう思う?現場検証では轢き殺されたように道路に倒れていたが」

「そうですね。トラックのタイヤ痕がある。それに顔面に殴られた損傷がありますね。運転手と喧嘩になったのでしょうか?」

「だとしたら、殺人事件になるぞ」

「ええ、しかしドライバーで目を刺されるとは……。とにかく、解剖の申請をしてみますか?」

 検視官がそう言って死体に顔を近付けた時、数匹の綿毛が空調の流れに乗ってふわふわと浮遊した。

 それは煙草好きの刑事の方へも飛んで行き、息の呼吸で空中で揺れ動いてから鼻の下の皮膚に付着した。

 そして顔の汗を手で拭いながら先に安置所を出て通路を歩き階段を駆け上がって行く。しかし検視官は更に傷口を調べて、浮遊する数匹のヌガーを吸い込んだ。
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