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第三章・守護者の救出
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悲惨な事故を起こしたトラックは大破して崖下の岩場で燃え尽きて黒い残骸になっている。
美月はそれを不審な表情で見下ろしいる茂人に別れを告げて、警察に協力していた知り合いの漁師に軽トラックで家まで送ってもらう事にした。
「じゃーシゲト。またあとでね。夕ご飯食べたら遊びに行くから」
「うん、家で待ってる」
茂人は6月に魚とカモメの死骸の内臓と頭部にヌガーを発見してから、毎日のように海水と魚の調査をしていた。
しかし二度とあの不思議な形状の微生物を見る事はできなかった。ヌガーはどこへ消えたのだろう。海中で全部死滅したのか?
もう諦めかけていたが、最近になって関東近辺で悲惨な事故や事件が発生している事に不審を持ち、温度と湿度の高い異常気象との関連性を疑い始めていた。
あのシャトルの羽は海ではなく、空を泳ぐのではないだろうか?
そして今日この近辺で事故が起こり、もしかしたら自分の妄想的な推理が正しいのではと思い、心の中に不安と興奮が湧き上がっている。
茂人は家を出る前に消え去った霧状の雲を探すように空を見上げ、まだ警察官が現場検証をしている壊れたガードレールをチラッと見てから自転車の向きを変えて走り出した。
じめっとした高湿度の空気がペダルまで重くさせている。ポケットに入れてあったオーガニック・コットンタオルで腕と顔の汗を拭う。
アレルギー体質の茂人としてはこの蒸し暑い気候はキツかった。7月から気温以上に湿度の高い酷暑が日本全国を襲い、東京オリンピックもこの蒸し暑さで倒れる選手が続出して波乱の大会として終わっている。
しかもこの熱帯化は日本だけではなく世界的な大問題であり、温暖化対策が急務だと今更ながら政治家が発言していた。
そしてその日の夕方、TVニュースで大々的に事故の放送があり、被害にあったアスリート家族を中心に悲惨な事故の内容が報道された。
「あんたが助けたっての、この人たちかい?」
おばあちゃんがテレビと美月を見返して驚いている。母は台所で夕食の支度をしていたが、おたまを持ったままニュースを見にリビングへ来た。
「なに?どうかしたの?」
「ほら、事故があったでしょ。海に落ちた自動車からこの子が助けたらしいのよ」
美月の母はスーパーで働いていて、さっき帰宅したばかりだった。国道で大事故があったのは知っていたが、娘がそれに関わっていたとは知らない。
「へ~、美月の趣味がこんなところで役立つとはね」
美月はそう言われながらも、体育座りで画面に映し出されたアスリート家族の紹介映像を見ている。
「凄いじゃない」
「美月、もしかしてあんたも有名人になるかもよ」
しかし美月の表情は少し不安気で、母とおばあちゃんに褒められても嬉しくはなかった。正直、面倒な事にならなければいいがと思っていた。
美月はそれを不審な表情で見下ろしいる茂人に別れを告げて、警察に協力していた知り合いの漁師に軽トラックで家まで送ってもらう事にした。
「じゃーシゲト。またあとでね。夕ご飯食べたら遊びに行くから」
「うん、家で待ってる」
茂人は6月に魚とカモメの死骸の内臓と頭部にヌガーを発見してから、毎日のように海水と魚の調査をしていた。
しかし二度とあの不思議な形状の微生物を見る事はできなかった。ヌガーはどこへ消えたのだろう。海中で全部死滅したのか?
もう諦めかけていたが、最近になって関東近辺で悲惨な事故や事件が発生している事に不審を持ち、温度と湿度の高い異常気象との関連性を疑い始めていた。
あのシャトルの羽は海ではなく、空を泳ぐのではないだろうか?
そして今日この近辺で事故が起こり、もしかしたら自分の妄想的な推理が正しいのではと思い、心の中に不安と興奮が湧き上がっている。
茂人は家を出る前に消え去った霧状の雲を探すように空を見上げ、まだ警察官が現場検証をしている壊れたガードレールをチラッと見てから自転車の向きを変えて走り出した。
じめっとした高湿度の空気がペダルまで重くさせている。ポケットに入れてあったオーガニック・コットンタオルで腕と顔の汗を拭う。
アレルギー体質の茂人としてはこの蒸し暑い気候はキツかった。7月から気温以上に湿度の高い酷暑が日本全国を襲い、東京オリンピックもこの蒸し暑さで倒れる選手が続出して波乱の大会として終わっている。
しかもこの熱帯化は日本だけではなく世界的な大問題であり、温暖化対策が急務だと今更ながら政治家が発言していた。
そしてその日の夕方、TVニュースで大々的に事故の放送があり、被害にあったアスリート家族を中心に悲惨な事故の内容が報道された。
「あんたが助けたっての、この人たちかい?」
おばあちゃんがテレビと美月を見返して驚いている。母は台所で夕食の支度をしていたが、おたまを持ったままニュースを見にリビングへ来た。
「なに?どうかしたの?」
「ほら、事故があったでしょ。海に落ちた自動車からこの子が助けたらしいのよ」
美月の母はスーパーで働いていて、さっき帰宅したばかりだった。国道で大事故があったのは知っていたが、娘がそれに関わっていたとは知らない。
「へ~、美月の趣味がこんなところで役立つとはね」
美月はそう言われながらも、体育座りで画面に映し出されたアスリート家族の紹介映像を見ている。
「凄いじゃない」
「美月、もしかしてあんたも有名人になるかもよ」
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