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第三章・守護者の救出
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まだ、数分は潜っていられる。それにあの女性はまだ諦めてない。美月はさっきの男以上の強さを感じた。
息を呑み込み、水をフィンで蹴り、必死に海中に沈む車を追いかけて壊れたドアから車内へ侵入した。そして力尽きて朦朧としている女性の腕を掴んで強引に引っ張り上げた。
その時、挟まっていた足が外れて血が吹き出したが、女性は気丈にも一度だけ目を開けて美月の顔を見てから気を失った。強靭な鋼の筋力と物凄い精神力。
『この人、見たことある。……いや家族全員……』
美月はその女性を抱えてフィンで思いっきり水を蹴って海面へと上昇した。自分はまだ大丈夫だったが、この有名なアスリートが怪我より先に窒息死してしまうかもしれない。
車はブルーに霞む海底へゆっくりと沈み込んで砂と藻を掻き立て、車内には両親の死体だけが取り残され、アメフラシが潰されて紫色の液体を噴出すように血の雲が海中を曇らせた。
それから数十分後、崖の上の事故現場に救急車とパトカーが数台現れて三人の負傷者が救出されて病院に運ばれた。
足を怪我した女性と体格のいい男の怪我は重傷だったが、最強のファミリーと言われるアスリートである。美月は三人とも助かるだろうと思い、タオルを体に巻いて崖下に沈んだ車の付近を眺めていると、茂人が自転車に乗って苦しそうに立ち漕ぎをして脇道の坂を上がって来た。
「美月。大丈夫か?」
「うん。私はね。潜るのは楽勝だったけど、酷い事故だったよ」
「トラックがスゲー勢いで崖から突き落としたらしいな。それに一人轢き殺されたんだって」
茂人は美月のすぐ横で自転車に乗ったまま話している。ここに来るまでに情報を集めたようだが、被害者の家族の事は何も知らなかった。
どうせすぐにニュースになって世間は大騒ぎになるだろうから、美月も敢えて茂人に教えなかった。聴取を受けた警察官も意味深な表情をして、美月にプライベートな話は伏せている。
息を呑み込み、水をフィンで蹴り、必死に海中に沈む車を追いかけて壊れたドアから車内へ侵入した。そして力尽きて朦朧としている女性の腕を掴んで強引に引っ張り上げた。
その時、挟まっていた足が外れて血が吹き出したが、女性は気丈にも一度だけ目を開けて美月の顔を見てから気を失った。強靭な鋼の筋力と物凄い精神力。
『この人、見たことある。……いや家族全員……』
美月はその女性を抱えてフィンで思いっきり水を蹴って海面へと上昇した。自分はまだ大丈夫だったが、この有名なアスリートが怪我より先に窒息死してしまうかもしれない。
車はブルーに霞む海底へゆっくりと沈み込んで砂と藻を掻き立て、車内には両親の死体だけが取り残され、アメフラシが潰されて紫色の液体を噴出すように血の雲が海中を曇らせた。
それから数十分後、崖の上の事故現場に救急車とパトカーが数台現れて三人の負傷者が救出されて病院に運ばれた。
足を怪我した女性と体格のいい男の怪我は重傷だったが、最強のファミリーと言われるアスリートである。美月は三人とも助かるだろうと思い、タオルを体に巻いて崖下に沈んだ車の付近を眺めていると、茂人が自転車に乗って苦しそうに立ち漕ぎをして脇道の坂を上がって来た。
「美月。大丈夫か?」
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