エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第三章・守護者の救出

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 フロントガラスの左側が血飛沫で真っ赤に濡れ、眼球を白く濁らせた運転手が血の混じった汗を蒸気させてハンドルを握っている。

 死の生贄を求めてアクセルを踏み込み、海岸沿いの国道を猛スピードで疾走すると、カーブから現れた黒いワゴン車が濁った眼に映り、トラックの運転手はその車をターゲットに選んだ。


 久しぶりの家族旅行にワゴン車の五人の乗員はそれまで楽しそうに話していたが、対向車線から突っ込んで来たトラックに気付いて全員が悲鳴を上げた。

 ドライバーの父親がハンドルを切って避けようとしたがもう手遅れで、ノーブレーキで正面衝突され、ガードレールから弾き飛ばされて崖の下へ転げ落ちて行く。

 トラックも自爆するように崖の岩肌にぶつかり、岩場に落下して爆発して炎上した。

 ワゴン車は奇跡的にタイヤ側から崖下の海面に着水したが、破壊された黒い車体にはすぐに海水が流れ込み沈み始めている。

 その時、フリーダイビングの練習で付近の海底を潜っていた美月が水中まで轟かす音に驚き、海面に激しい泡をたてて落下した車体を下から眺めた。

 魚たちも驚いて海藻やサンゴ礁に隠れて頭だけ出して海中を警戒している。美月は手にしていた貝を捨てて海面へ浮き上がり、15メートル程離れた車へ泳いで近付いて行く。

 しかしその前に黒いワゴン車は家族全員を乗せたまま波に揺られながら水没し始めた。

 それを美月が潜ってイルカのスピードで追いかけた。車が海底へ沈む前に割れたフロントガラスから車内に入って助け出そうとする。

 運転手の父親と助手席にいた母親は最初の衝突事故で頭部を強打して即死状態だった。シートベルトに縛られて、潰れた顔と割れた頭から血を海中に放出して髪が海藻のように揺れている。

 美月は後部席の男の子を真っ先に車から脱出させた。顔と腕に傷があり、打撲も酷そうだが奇跡的に骨折はしてないようだ。車内から脱出すると一人で泳いで浮き上がって行く。

 もう一人の体格のいい男は腕を壊れたドアに挟まれ、もう一人の女性は足を座席に挟まれてもがいている。

 二人とも意識があり、必死に水に争って車内から抜け出そうとしていた。美月は外側から壊れたドアをこじ開けて、男の方を先に脱出させてやった。

 その時、足を挟まれた妹と死んでいる両親を見て、唖然とした表情で浮き上がって行く。腕の損傷は酷いと思うが、美月はその男の強さを感じた。

 そして美月は海底へと沈んで行く車を見て一瞬迷ったが、すぐにもう一人の女性の救出へ向かう。
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