エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第一章・ヌガーの発生

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 茂人がマスクを外すと美月が濡れタオルで顔を綺麗に拭いてやり、さらにアルコール消毒して研究室での解剖は終わりにして、シンクの魚とカモメの死骸も廃棄容器に入れて始末する。

 そして茂人がガラス容器に採取した白ネバの液体をスポイトでスライドガラスに滴らし、プレパラートを顕微鏡にセットして観察した。

「新種の原生生物のようだ。でも、残念ながら死んでるね」

 海に潜む新種の微生物を発見し、美月にも見せてやる。それはバトミントンのシャトルのようにコルクと白い羽があり、ゼラチンのような細胞に包まれていた。

 しかし空中へ浮遊した羽の動きはなく、他の微生物ケンミジンコとボルボックスと呼ばれる植物プランクトンと藻類の一種の動きが見られた。

「変な形で匂いも独特。クラゲの子どもかな?」

「とにかく、珍しい生物の発見だぞ」

 この時、茂人と美月は海に生きる微生物だと思っていたが、浮遊できなかった微生物はゼラチンの細胞に包まれたまま海水に溺れて死滅し、魚とカモメの餌食になって体内に巣食った微生物も全滅していた。

 もちろん二人が知る筈はないが、空中に浮遊した綿毛だけが大気の成分と太陽光を浴び、水蒸気の中で成育し生き残った。

 そして二人はこの微生物を白ネバと甘い匂いから『ヌガー』と名付けたのである。
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