エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第一章・ヌガーの発生

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 幸運な二人が夜の海を去って数時間が過ぎた頃、神秘的な美の演目を見せた静寂の海に異変が起こった。満月の輝きが海に滴り落ちて染み込むと、波間の黒い影に揺れていた種子に新しい生命を与えた。

 サンゴの『産卵』といっても、サンゴ自体には雌雄はなく、複数の卵と精子の詰まったバンドル(カプセル)が海中へ放出され、それが水面へ浮いてはじけて受精する。

 その時、放射性物質と大気のスチームを浴びて異様な微生物を産み出し、上昇気流に乗ってタンポポの綿毛のように空中に浮遊して空に飛散して行く。

 そしてモヤが夜に溶け込むように視界から消え去った。

 肉眼では不可能だが、採取して拡大レンズで観察すれば、その微生物がシャトルのコルクと白い羽を持ち、クラゲのように羽をすぼめては開いて、大気の海を泳ぐ奇妙な原生生物であると確認できただろう。

 人知れずその不吉な予兆はすぐに現れたが、自ら傷を負わない限り、人間は自然界への関心は薄い。感動はするが、恐怖と腐った物には蓋をする。

 海面から飛べずに波に浮かぶその白い綿毛を狙って、魚の群れが跳ね上がって餌にすると、その魚を狙ってカモメの群れが波の上を飛び交った。

 それから更に数時間後、付近の海岸に白い泡に混じっておびただしい魚の群れとカモメの死骸が波に運ばれて打ち寄せられた。

 それを朝の散歩をしていた老夫婦が見つけて驚き、船を出そうとしていた漁師が集まってちょっとした騒ぎになったが、一過性の環境問題として捉えただけで、人間の存続が危ぶまれるサインだとは想像すらしなかった。
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