エアロゾル・ヌガー

田丸哲二

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第一章・ヌガーの発生

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 2020年6月6日大潮、生暖かい湿気の漂う満月の夜。海野美月は沖ノ島の海で満月がキラキラと輝く幻想的な海原を眺め、去年は見れなかったサンゴの産卵を今年は絶対に体験すると祈る。

『中三の想い出にしてみせる』

 ウエットスーツを着込み、フリーダイビング用のリキッドゴーグルを装着して波間に浮かんで頭を出す。

 この特殊なゴーグルは内部に水を浸した状態で使用し、水中に深く潜っても水圧の影響で目のスクイズを起こさない。

 水中ライトを照らして円を描き、ゴムボートで待機している藤崎茂人にサインを出してから、美月はフィンで水を蹴って潜り始めた。

 プロのフリーダイバーになるのが夢で、七歳から始めた素潜りであるが、今では7~8分は水中で息を止めていられる。

 2年先輩の藤崎茂人はそんな美月ミヅキを尊敬して憧れた。何しろ自分は極度のアレルギー体質で、泳ぐこともできず、喘息もあり吸入器を常備している。

 ライトを点滅させて美月にサインを送り返し、毛布にくるまって静かな波に揺られながら夜空を見上げ、月光が僕らの冒険を優しく見守っているようで、幻想的なシーンに茂人も感動した。


 そしてその夜、美月は幸運なことに二度目のトライで、海底から白煙と共に浮かび上がるミドリイシのサンゴの産卵を見ることができた。

 海面から差し込む満月の柔らかい明かりと水中ライトが、サンゴの中から湧き出てくる無数の丸いバンドルをブルーの世界に浮かび上がらせ、地球から産まれた光の雨を海中に降らして、神秘的な生命の誕生を汚れた人間に教えているようだった。

 茂人もゴムボートに立ち上がって海面をライトで照らし、海中から光の粒が上がってくる光景に見惚れた。

 その海面の星空の中心に美月が人魚のように浮かび上がって、水中をフィンで掻きながら上半身を出して茂人に満面の笑顔を見せた。

生命イノチって美しい』
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