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第四章 〜再会と過去
78話 『二人の憧れ』
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「火属性魔法・レオ・フルフレイム!!」
カルカロは上空に大きな火の玉を作り出し、そこから一定の出力で火炎放射を放ち始める。
ブゥワーーー!!!!
場を駆け回ることでこれを間一髪で避けていくゼクシード。
ブゥワーーー!!!!
タッタッタッタッタッ!!!
そして、逃げ続けるわけではなく、隙を見つけてはカルカロに狙いを定めてマジックライフルガンを撃ち込む。
ビュン!ビュン!
「無属性魔法・クロースネア!」
カンッ!!カンッ!!
カルカロは無属性のオーラを纏わせた右手で空を引っ掻くように大気を抉り取り、爪痕を残すことで簡易的な残痕シールドを作り出しマジックライフルガンの弾を防ぐ。
「多彩なんだな、あんた」
「こう見えてか?貴様はいつまで…いつまでこの見た目を馬鹿にする気だ!!!!!」
「気にしすぎだろ…」
ーーそういう意味で言ったわけじゃないんだがな…。
激昂したカルカロは両手に火属性のオーラを纏いゼクシードへ向かって駆けていく。
真っ向から突っ込んでくるカルカロへ向かってマジックライフルガンをフルオートで撃ちまくるゼクシード。
ビュンビュンビュン!!!ビュンビュンビュン!!!ビュンビュンビュン!!!
「火属性魔法・レッドクロースネア!!」
先ほどマジックライフルガンの弾を止めた技にさらに火属性のオーラを上乗せさせ出力を上げた魔法でマジックライフルガンの無数の攻撃を防ぎまくるカルカロ。
カカカカカカカカカカンッ!!!!
エナジーボトルの残量が残りわずかとなり、あと数発撃てばリロードの隙が生まれてしまうゼクシードに向かって、まるで燃ゆる猪の如き突進をしてくるカルカロ。
ーーまずは試してみるか…秘策1号と2号を。
ゼクシードは腰に添えていた球体状のグレネードを地面に叩きつけ、着弾点で黒い煙幕を拡散させる。
ズボーーーーーーンッ!!!
「煙幕?!ぬんっ!!」
黒き煙幕はカルカロとゼクシードの2人を呑み込み、視界を殺す。
「小細工ばかり…クソッ」
煙幕の中でゼクシードは、マジックライフルガンのエナジーボトルを取り替え、リロードをした後、1人煙幕から抜け出し、晴れるのを待つ。
「舐めるなよ!こんな煙幕。火属性魔法・烈火衝波」
カルカロは自分を中心に広がる火属性魔法を展開すると、残留する黒き煙幕と熱が化合して大爆発を起こす。
バチバチバチバチ!!!!
ズドーーーーーーン!!!!!
「かぁぁぁ…」
思いもよらない大爆発にカルカロはその中心で巻き込まれ、全身を真っ黒に焼けこげる。
「一体…なにをした…」
「黒色火薬…。お前が火属性魔法の使い手であることはたまたまの幸運だったがな。どちらにしろ爆発は起きてた」
カチャッ!!
「?!…待ってくれ…今はまだ…!!」
「化学の世界へようこそ。俺の領分だ」
ビュンッ!!!!
ブゥワァ!!!ボボボボボッ!!!
「イギャァァァァァアア!!!」
ゼクシードが取り替えたエネルギーボトルに入っていた成分は正規品ではなくアルビニウムを詰め替えたゼクシード特製のアルビニウム弾であり、その弾丸は着弾点でおよそ6500度の白炎を展開し、対象を焼き尽くす。
秘策1号・黒色火薬。
秘策2号・アルビニウム弾。
たとえ、魔法が使えなくとも、それが戦わない理由にはならない。魔法が使えないならそれに代わる戦闘手段を導き出せばいい。なぜグレイが自分をこの世界へ連れ出したのか。頼ってくれたのか。仲間に選んでくれたのか。アルビニウムを作らせるためだけか。違う。
「グレイは僕を信じてくれた。生死の心配ではなく、信じると言ってくれた。これ以上に奮い立つことは無いさ」
「水属性魔法・ウォーターフォール!!」
ザバーーーンッ!!
火属性に無属性、そして水属性魔法まで操る多彩なカルカロ。何とか冷静さを取り戻し、水属性魔法で己を包み込むアルビニウムの白炎を消化し、一命を取り留める。
「ハァハァ…よくも…この私の髪を…」
「いや、元から無かっただろ」
「よくも私の髪を!!!!!!」
ズババババババン!!!!ボボボボボ!!
カルカロはさらに激昂し、そのツルツルの頭を焦がし尽くす勢いで、頭から炎を噴射させる。まるで風に靡く炎の長髪と言っても過言では無いほどに、ゆらゆらと靡く炎にゼクシードは見惚れてしまう。
「嘘…だろ?!髪だ…」
ここまでツルツルのハゲで、頭髪いじりに過敏だったのは、この伏線だったのかと1人で自己完結するゼクシードを他所に、カルカロはさらに馬鹿にされていると勘違いしてゼクシードを睨みつける。
「そこを動くでないぞ!ヒョロガリ研究員!火属性魔法・アトミックウィック!」
「?!」
シュルルルルルルルルッ!!!
燃え盛る炎の髪がものすごい速度でゼクシードへ襲いかかる。それに対し、ゼクシードはすぐさま黒色火薬煙幕を前目に投げ込み、視界を遮ろうとするも判断遅れて間に合わず。視界が塞がり切る前に燃ゆる炎の髪はゼクシードへ伸び手首手足を絡めとる。
「グァァァァァァ!!!!」
その燃ゆる炎の髪はただの拘束魔法ではなく、拘束した部位を焼き尽くす。アルビニウムほどではないが、千数百度の朱色の炎がゼクシードの手首足首を皮膚が爛れるまで燃やしていく。
「グァァ…ァァ」
「燃えろ燃えろ燃えろ!!!!燃え尽きろ!!!!」
ーーやはり、魔力適正がない者が、戦いの世界に身を置くのは場違いなのだろうか…。
「いや…そうじゃないだろ…」
「あぁ?!」
「クァァアアア!!!」
ゼクシードは四肢を拘束されながらも無理やり両手両足を動かして、カルカロの燃ゆる炎の髪に抗おうとする。
「僕の憧れる男は魔力適正など無くとも、圧倒的力を持つ魔導士相手に屈しなかった!!」
「何を言っているんだ!もう貴様に勝ち目はないぞ!!!!ファイヤーーー」
カルカロはさらに熱量を上げていき、その燃ゆる炎の色は少しずつ黄色に変化していき3000度程まで上がっていく。
「僕の…憧れは…、人を救うために魔法を使える人だ!!」
ブクブクブクブクブクッ!!!
「ここでお前を生かすことが皆んなの危険に繋がるなら!!!僕が倒す!!!!」
バシャーーーーン!!!
「?!」
「?!」
カルカロはまだしも、それを放ったゼクシードさえ驚きを隠せない状況。
魔力適正を持たないとしてこの23年を生きてきたゼクシードが、今この瞬間に、魔法の片鱗に足を踏み入れる。
ゼクシードは無意識に両手両足に水属性魔法を展開し、カルカロの燃ゆる炎の髪を消化し、その拘束を解く。
「まさか…僕にも魔法が…」
「貴様…水属性魔法の使い手だったのか!!さぞかし心の中で嘲笑っていたのだろうな!!」
--グレイ、君の諦めない心が…セナ、君の真に仲間を思う気持ちが…僕に新しい力を与えてくれた。この力で僕は、君たちの障害になりうるこの敵を、死んでも倒して見せる。
「クソ!!!!無視するんじゃねーー」
「水属性魔法・ウォーターベール」
バシャン!!
カルカロは再び火属性魔法のアトミックウィックをゼクシードに向けて伸ばすと、ゼクシードは魔力に覚醒してすぐ、水属性魔法のウォーターベールを展開してみせる。
「魔法はずっと近くで見てきたんだ。憧れでもあり、皆と理解し合えない僕の弱さの一つでもあったこの忌み嫌う魔法を、お前を倒すためなら扱ってみせるさ!!」
水属性魔法に目覚めるゼクシードと終始劣勢で激昂するカルカロの第二ラウンドが始まろうとしていた。
ー--------------------
タッタッタッタッタッ!!!
タッタッタッタッタッ!!!
キンキンキンキンキンキン!
空間を広く使い、駆け回りながら刀を交わらせる2人。ランマルとアザールの剣士同士の戦いは、互いに力量が拮抗しており、戦況は大きく動くことはなく、停滞していた。
それでも、当人たちの力量が拮抗している場合、その差は装備の差に顕著に現れる。
「あれぇ?!もしかして、刀の方が先にガタがきちゃったかな~」
「…。」
ランマルの持つ刀はハムタウンの武器屋で買った特価品。あくまでランマル基準で、鈍でないと判断し間に合わせで買ったものにすぎなかった。そのため、手入れも施されず、幾度も太刀を交えれば刃こぼれしてしまうのも仕方のないこと。
対するアザールの持つ灰色の柄巻きに金色の縁と鍔。そして、己が反射するほどに磨き抜かれた輝かしい刀剣。業物『金弟・怪童丸』。刀の中では業物に分類される正真正銘の名刀。その品質は言わずもがなであり、ランマルが間に合わせで購入した刀とは雲泥の差があった。
「刀の…差か。」
「こんな幕引きは残念だなぁ。でも仕方ないよね。財力も実力のうちだ」
「そうか。お前はその名刀を金の力で手に入れたに過ぎないわけか。」
「何が言いたい?」
「名刀は、剣士を選ぶぞ」
「なにぃ?」
ランマル曰く、持ち主が刀を選んだのではなく、刀が持ち主を選ぶのだという。
「その証拠に、きっとお前は次の世界を見たことがない」
「次の世界だと?」
「霊装体解放。明刀の秘奥義だ」
明刀の霊装体解放。妖刀の異能戦技。名刀の中でも2種に分けられる明刀の妖刀のそれぞれの特異能力であり、明刀はその物の素材や打ち手によって込められた全ての力を霊装体として余すことなく解き放ち、妖刀はその刀身に刻まれた呪いの力を異能戦技という形で展開する。
刀を交じ合わせ、ランマルは金弟・怪童丸が妖刀でないことを見抜いていた。そのため、力が拮抗したこの状況でアザールが何故に霊装体解放を使わないのか疑問に思っていたが、その答えが明確であり、金弟・怪童丸がアザールに従っていないからだと推察する。
「真にその力を引き出さないのなら、俺にもまだ勝機はあるだろう」
ランマルは腰からもう一振りの脇差しを抜き、二刀流の構えを見せる。
「ここからは削り合いだ」
ランマルの長刀が折られるか、二刀流でアザールを削り切るか。
「火属性纏い・差異二刀流・火々双頭赤狼ノ爪」
ランマルは長刀と脇差し、両方に火属性のオーラを纏わせ、紅き狼の爪を模した鋭さでアザールへ斬り掛かっていく。
長さの違う2本の刀から繰り出されるスピードも間合いも全く違う連撃は、アザールを圧倒し、受け太刀するので精一杯であった。
「クソッ!クソッ!クソッ!なんだこれ、目で、追い切れな…」
カンッ!!
受け太刀するアザールの金弟・怪童丸を長刀で弾き、生まれた隙を逃さず、脇差しで首元を狙い右腕を伸ばすランマル。
「風属性魔法・風殺」
ビュンッ!!!!
アザールの全身から放たれる低級風属性魔法の風圧によって、伸ばす脇差しの軌道が多少ズレ、首元を狙ったはずの一撃はアザールの肩を斬り裂く。
ズバッ!!!
「クッ!!!!」
ズバンッ!!
アザールはランマルの一撃を喰らいながらも、右足でランマルの腹を蹴り、軽快なステップを効かせて後方へ後退する。
「差異二刀流…対峙するのは初めてだ…これほどとはねぇ~」
「まだ余裕そうか?」
「当たり前だろ。舐めるなよ侍くん」
刀の品質では負けているものの、使用する魔法の属性では有利を取れている。そして何よりアザールはまだ差異二刀流に対処しきれていない。攻めるなら、今!
ザッ!!!!タッタッタッタッタッ!!!
ザッ!!!!タッタッタッタッタッ!!!
ズバッ!!キンキンキン!!ザッ!!シュン!カンキン!シュン!!!
再び走り出し刀を交える2人。
互いに一歩も譲らず、刀を捌いていく。
ランマルは2本の刀に、終始マナを注ぎ続けその強度を高め、簡単には刃こぼれしてなるものかという気合いを感じさせ、一方アザールは風属性纏いで力押しの姿勢を見せる。手数のランマル、力押しのアザール。その2人の決着は唐突に訪れる。
「風属性纏い・威風天冠!」
「差異二刀流・双刀去なし人」
カカカカカッ!!!パキンッ!!
「?!」
ニヤリッ。
力押しのアザールによる、風属性纏いの魔法攻撃が展開され、それに対してランマルは技術で対処しようと、体を回転させながら2本の刀による多段攻撃の蓄積ダメージで威風天冠をしのごうとするも、先に限界を迎えたのはランマルの長刀の方であった。
ーー勝った!
アザールは確信めいたものを見る。否、勝機を掴んだのは、紛れもなくランマルの方であった。
長刀を折られながらも、幾度にわたる多段攻撃でアザールの一太刀は軌道を変え、空を切るようにしてランマルに当てることはできず、逆にランマルは残った脇差しで隙だらけのアザールの腹から右肩までを上へ斬り裂く。
ブシャーーーーー!!!!
「なっ?!」
ーー脇差しだと?!
「何故この世に間合いの短い脇差しが存在するのか。刀を扱う身として、今一度勉学に励むといいさ。」
サッ!!シャキーーーーン。
ランマルは脇差しに残るアザールの血を払い落とし、右腰に差し込まれた鞘へ脇差しを収める。
勝負あり。互いの接近戦によるごちゃついた密集地帯の中で、アザールの技を去なし、さらには小回りの効く脇差しでトドメを刺したランマルの勝利に終わる。
「悪いが長刀が折られてしまったのでな。この刀、頂いてくぞ。」
さらにランマルは、この戦いにおいて、業物『金弟・怪童丸』を手にする。
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一方ニーナは、レオナルドが待ち受けるアステラ監獄外枠上層部にて、フロアに足を踏み入れるや否や、後方上部からの不意打ち『セイント・ショックダーツ』に横腹を撃ち抜かれてしまい、床へ倒れ込み、出血をしていた。
「死にましたかね…とまぁ、聞いて答えるバカは居ませんよね」
レオナルドは後ろで腕を組み、一歩ずつ倒れたニーナに歩み寄っていく。
「目を覚ましてください。まだ死に至っていないでしょう。属性詠唱を省いて奇襲を狙いましたからね。出力は落ちているはずですよ」
属性詠唱『〇〇属性魔法』の前詠唱であり、言の葉を口にするだけでもその出力を底上げすることに繋がるため、逆を言えば属性詠唱を省いた場合、敵に主となる属性を悟られず、さらには今回のように展開までの時間を短縮させ、意表をつくことができる。その代わりとして出力は落ちてしまう。
属性詠唱を省く行為は、あくまで初弾を確実に当て、相手を抑制することにあるため、仕留め切る策ではない。
「フッ…さすがに気づいてんのね…ゥッ…」
ニーナは左横腹を右手で強く抑え、力づくで止血を試みるもドクドクと体内の血液が抜けていくのを感じる。
「光属性魔法…ね。珍しいじゃない」
「よく分かりましたね。属性詠唱を省いた意味がないじゃないですか」
「当てたじゃない、この陰湿野郎」
「勝ちに貪欲と言ってください。私は子供でも女でも、老兵でも、容赦はしませんよ」
「あっそ…聞いてないし!」
ピュンピュンピュン!!!
「?!」
ーー属性詠唱の破棄どころか、魔法名称の破棄まで…。どれだけ傲慢な女なのか。
ニーナはレオナルドの意表をつくため、左手を後ろに隠し、片手で無属性魔法をすでに展開していた。しかし、属性詠唱どころか、魔法の名まで口にすることなく、微弱な出力で魔法を展開する、魔導士としては奇行そのものとも言える行為をするが、魔法名称破棄による意表をついた『無属性魔法・ルミナスショット』の3連発は、レオナルドの両太ももと足元の床の3点に着弾する。
ブチュン!ブチュン!
「クッ…。ノミほどの出力の分際でこの僕の足を…」
致命傷でもなく、太ももを貫通するほどの威力もない。それでもダメージを与えるという面においては成功と言える。なにより足を狙ったのがでかい。レオナルドは足を動かすだけで、少量の痛みを伴うこととなる。
「あんたがやってんのはこういうことなんだよ!陰湿野郎!一丁前に魔導士語るなら、正々堂々来なさいよ!」
「正々堂々?戦いとは命の取り合いですよ?生き残りたくば相手を殺すのみ。相手を殺すためにはいかなる手段も厭わない。でなければ新たな戦いに備えられない。戦いとはその繰り返し。いかに手傷を負わずに次を対処するか。奇襲して殺めて何が悪い。貴女の考えは、戦いを軽んじる快楽者の戯言だ。」
「意味わかんな。戦いってのは、好きな人のために体を張ることなんだよ!!」
「は?!」
ニーナの自論に困惑するレオナルド。大魔法省が6年かけて作り上げた闇を生きる生粋の暗殺者・レオナルド=キルキス。大魔法省の管轄する養護施設で育ち、その多くを大魔法省の企てる『六年計画』の検体として招集され、日々殺し合いの術を学ばされてきたレオナルドにとって、好きな者・愛する者のために戦いはあるのだと言うニーナの自論は全くもって意味がわからなかった。
「くだらない戯言を!その考えを改めさてやる!光属性魔法!セイント・サンライズ!」
レオナルドは無数の光の矢をニーナへ向けて放つ。
「無属性魔法・トライシールド!!」
ガガガガガガンッ!!!
無数の光の矢を受け止める3枚の透明なシールド。
「無属性魔法・ルミナスショット!」
ニーナは左手でトライシールドを操り、右手でルミナスショットを展開し、遠距離からの攻防一体術でレオナルドを追い込んでいく。
ーークッ!足が…。
思いの外、太ももを攻撃されたことが戦況を優勢に働かせたか、レオナルドは無属性魔法のトライシールドのように、相手の攻撃を確実に防げる万能な魔法を覚えていないために、機動力を削がれては対処に困る。
この状況でレオナルドが取れる行動は、ニーナのルミナスショットを越える量の光属性魔法で攻撃手段を撃ち落とし抑え込むことのみ。
「光属性魔法・セイント・サンライズ!ならびに、セイント・フラッシュ!!」
ピカーーーーン!!!!
セイント・サンライズによってルミナスショットを全て撃ち落とし、ニーナを抑制させつつ、隙を見て視界を奪うフラッシュを焚き、新たな魔法を展開する。
「光属性魔法・光の代行者!ルクス・ゴーレム!」
ピカーーーーーン!!!
レオナルドは、ルクス・アジェンティスによって光属性のオーラを媒介とした3メートル級の大型ゴーレムを生み出す。
「なにあれ…」
「ルクス・アジェンティス。私に代わって君の攻撃を防ぐ代行者ですね」
「光属性魔法、汎用性が高いとは聞いてたけど…ここまで」
ピュン!!!
キンッ!!!
再びニーナは属性詠唱と魔法名称を破棄したルミナスショットをルクス・ゴーレム目掛けて放つも全くの無傷で耐えられる。
「またその技か。生半可な出力ではこのゴーレムを貫くことはできないぞ。そして、ここからが光属性魔法の真骨頂だ!!」
「光の代行者!!ルクス・ゼブラ!!ルクス・モンキー!!」
「同時に3体も?!」
レオナルドは続々とルクス・アジェンティスで生物を具象化していき、数の力でニーナを圧倒する。
「光属性魔法はその発動が手間でね。何せ両手を合わせなければ魔法は発動できない。が、一度発動させてしまえば、己のマナが尽きるまで、魔法の残留や複数展開、いくらでも可能性の幅を広げられる最強の属性魔法だ。両手両足の決められた数の魔法の展開というこの世の縛りを無視できる唯一の属性魔法だ!!わかるか?これは生まれ持った才の違いだ!私は神に選ばれた光の信仰者!貴女ごときに負けるわけにはいかないのだよ!!行け!!!!ルクス・ゼブラ!!!ルクス・モンキー!!!!」
バタバタバタバタ!!!
ウキッ!!キーーー!!!
レオナルドによって具象化された光の動物たちは手負いのニーナに向かって襲いかかってくる。
「無属性魔法・トライシールド!!ならびに、無属性魔法・ルミナス・L・ショット」
突進してくるルクス・ゼブラ。トライシールドが展開されたことを見て大きくジャンプするルクス・モンキー。
ガコンッ!!
「クッ!!」
ニーナに突撃してくるルクス・ゼブラをトライシールドで受け止め、上空から飛びかかってくるルクス・モンキーへ、ルミナスL・ショットを放つニーナ。
キキッキーーー!!!
ルクス・モンキーは自分が光線に狙われているのを察知し、空中で二段ジャンプして横に飛び、一直線に伸びる光線を避けてみせるが、ルミナス・L・ショットの真骨頂は、一度だけL字に軌道を変えることができるところにあるため、ニーナはルミナスショットの軌道を直角に曲げ、逃げるルクス・モンキーの体へ5発の光線をお見舞いする。
キキッキーーー?!?!ジュワァァァ。
ワン!!ワン!!
ガシャン!!ガシャン!!
同胞であるルクス・モンキーが倒されたことで激昂したルクス・ゼブラがさらにトライシールドへ頭突きをし、ニーナを攻撃していく。その振動に腹の傷が痛むニーナは、表情を崩す。
「クッ…痛い…」
ーーもうダメかも…グレイ。あたしじゃ貴方の役には…立…
「つんだ!!グレイのために!!戦え!あたし!」
「ん?まだやるのか。相当傷が深いはずなのに」
「言ったでしょ…好きな人のために戦ってんだって!任されたんだよ!ルヴィアがこっちにいるかもしれないからって!あたしはグレイに任されたんだ!!それなのに、1人先に投げ出せるわけないでしょ!」
「きっと今頃は、君の愛するそのグレイとやらは死んでいるさ」
「はぁ?!」
「何せ、相手は黒ノ執行きっての天才暗殺者だからね。子供が勝てるような相手じゃないよ。(そうでしょ、部隊長…)」
ーーグレイ…!
レオナルドが言い放ったグレイの相手になるであろう男の存在に、ニーナは不穏な空気に包まれる。黒ノ執行きっての…天才暗殺者…。
カルカロは上空に大きな火の玉を作り出し、そこから一定の出力で火炎放射を放ち始める。
ブゥワーーー!!!!
場を駆け回ることでこれを間一髪で避けていくゼクシード。
ブゥワーーー!!!!
タッタッタッタッタッ!!!
そして、逃げ続けるわけではなく、隙を見つけてはカルカロに狙いを定めてマジックライフルガンを撃ち込む。
ビュン!ビュン!
「無属性魔法・クロースネア!」
カンッ!!カンッ!!
カルカロは無属性のオーラを纏わせた右手で空を引っ掻くように大気を抉り取り、爪痕を残すことで簡易的な残痕シールドを作り出しマジックライフルガンの弾を防ぐ。
「多彩なんだな、あんた」
「こう見えてか?貴様はいつまで…いつまでこの見た目を馬鹿にする気だ!!!!!」
「気にしすぎだろ…」
ーーそういう意味で言ったわけじゃないんだがな…。
激昂したカルカロは両手に火属性のオーラを纏いゼクシードへ向かって駆けていく。
真っ向から突っ込んでくるカルカロへ向かってマジックライフルガンをフルオートで撃ちまくるゼクシード。
ビュンビュンビュン!!!ビュンビュンビュン!!!ビュンビュンビュン!!!
「火属性魔法・レッドクロースネア!!」
先ほどマジックライフルガンの弾を止めた技にさらに火属性のオーラを上乗せさせ出力を上げた魔法でマジックライフルガンの無数の攻撃を防ぎまくるカルカロ。
カカカカカカカカカカンッ!!!!
エナジーボトルの残量が残りわずかとなり、あと数発撃てばリロードの隙が生まれてしまうゼクシードに向かって、まるで燃ゆる猪の如き突進をしてくるカルカロ。
ーーまずは試してみるか…秘策1号と2号を。
ゼクシードは腰に添えていた球体状のグレネードを地面に叩きつけ、着弾点で黒い煙幕を拡散させる。
ズボーーーーーーンッ!!!
「煙幕?!ぬんっ!!」
黒き煙幕はカルカロとゼクシードの2人を呑み込み、視界を殺す。
「小細工ばかり…クソッ」
煙幕の中でゼクシードは、マジックライフルガンのエナジーボトルを取り替え、リロードをした後、1人煙幕から抜け出し、晴れるのを待つ。
「舐めるなよ!こんな煙幕。火属性魔法・烈火衝波」
カルカロは自分を中心に広がる火属性魔法を展開すると、残留する黒き煙幕と熱が化合して大爆発を起こす。
バチバチバチバチ!!!!
ズドーーーーーーン!!!!!
「かぁぁぁ…」
思いもよらない大爆発にカルカロはその中心で巻き込まれ、全身を真っ黒に焼けこげる。
「一体…なにをした…」
「黒色火薬…。お前が火属性魔法の使い手であることはたまたまの幸運だったがな。どちらにしろ爆発は起きてた」
カチャッ!!
「?!…待ってくれ…今はまだ…!!」
「化学の世界へようこそ。俺の領分だ」
ビュンッ!!!!
ブゥワァ!!!ボボボボボッ!!!
「イギャァァァァァアア!!!」
ゼクシードが取り替えたエネルギーボトルに入っていた成分は正規品ではなくアルビニウムを詰め替えたゼクシード特製のアルビニウム弾であり、その弾丸は着弾点でおよそ6500度の白炎を展開し、対象を焼き尽くす。
秘策1号・黒色火薬。
秘策2号・アルビニウム弾。
たとえ、魔法が使えなくとも、それが戦わない理由にはならない。魔法が使えないならそれに代わる戦闘手段を導き出せばいい。なぜグレイが自分をこの世界へ連れ出したのか。頼ってくれたのか。仲間に選んでくれたのか。アルビニウムを作らせるためだけか。違う。
「グレイは僕を信じてくれた。生死の心配ではなく、信じると言ってくれた。これ以上に奮い立つことは無いさ」
「水属性魔法・ウォーターフォール!!」
ザバーーーンッ!!
火属性に無属性、そして水属性魔法まで操る多彩なカルカロ。何とか冷静さを取り戻し、水属性魔法で己を包み込むアルビニウムの白炎を消化し、一命を取り留める。
「ハァハァ…よくも…この私の髪を…」
「いや、元から無かっただろ」
「よくも私の髪を!!!!!!」
ズババババババン!!!!ボボボボボ!!
カルカロはさらに激昂し、そのツルツルの頭を焦がし尽くす勢いで、頭から炎を噴射させる。まるで風に靡く炎の長髪と言っても過言では無いほどに、ゆらゆらと靡く炎にゼクシードは見惚れてしまう。
「嘘…だろ?!髪だ…」
ここまでツルツルのハゲで、頭髪いじりに過敏だったのは、この伏線だったのかと1人で自己完結するゼクシードを他所に、カルカロはさらに馬鹿にされていると勘違いしてゼクシードを睨みつける。
「そこを動くでないぞ!ヒョロガリ研究員!火属性魔法・アトミックウィック!」
「?!」
シュルルルルルルルルッ!!!
燃え盛る炎の髪がものすごい速度でゼクシードへ襲いかかる。それに対し、ゼクシードはすぐさま黒色火薬煙幕を前目に投げ込み、視界を遮ろうとするも判断遅れて間に合わず。視界が塞がり切る前に燃ゆる炎の髪はゼクシードへ伸び手首手足を絡めとる。
「グァァァァァァ!!!!」
その燃ゆる炎の髪はただの拘束魔法ではなく、拘束した部位を焼き尽くす。アルビニウムほどではないが、千数百度の朱色の炎がゼクシードの手首足首を皮膚が爛れるまで燃やしていく。
「グァァ…ァァ」
「燃えろ燃えろ燃えろ!!!!燃え尽きろ!!!!」
ーーやはり、魔力適正がない者が、戦いの世界に身を置くのは場違いなのだろうか…。
「いや…そうじゃないだろ…」
「あぁ?!」
「クァァアアア!!!」
ゼクシードは四肢を拘束されながらも無理やり両手両足を動かして、カルカロの燃ゆる炎の髪に抗おうとする。
「僕の憧れる男は魔力適正など無くとも、圧倒的力を持つ魔導士相手に屈しなかった!!」
「何を言っているんだ!もう貴様に勝ち目はないぞ!!!!ファイヤーーー」
カルカロはさらに熱量を上げていき、その燃ゆる炎の色は少しずつ黄色に変化していき3000度程まで上がっていく。
「僕の…憧れは…、人を救うために魔法を使える人だ!!」
ブクブクブクブクブクッ!!!
「ここでお前を生かすことが皆んなの危険に繋がるなら!!!僕が倒す!!!!」
バシャーーーーン!!!
「?!」
「?!」
カルカロはまだしも、それを放ったゼクシードさえ驚きを隠せない状況。
魔力適正を持たないとしてこの23年を生きてきたゼクシードが、今この瞬間に、魔法の片鱗に足を踏み入れる。
ゼクシードは無意識に両手両足に水属性魔法を展開し、カルカロの燃ゆる炎の髪を消化し、その拘束を解く。
「まさか…僕にも魔法が…」
「貴様…水属性魔法の使い手だったのか!!さぞかし心の中で嘲笑っていたのだろうな!!」
--グレイ、君の諦めない心が…セナ、君の真に仲間を思う気持ちが…僕に新しい力を与えてくれた。この力で僕は、君たちの障害になりうるこの敵を、死んでも倒して見せる。
「クソ!!!!無視するんじゃねーー」
「水属性魔法・ウォーターベール」
バシャン!!
カルカロは再び火属性魔法のアトミックウィックをゼクシードに向けて伸ばすと、ゼクシードは魔力に覚醒してすぐ、水属性魔法のウォーターベールを展開してみせる。
「魔法はずっと近くで見てきたんだ。憧れでもあり、皆と理解し合えない僕の弱さの一つでもあったこの忌み嫌う魔法を、お前を倒すためなら扱ってみせるさ!!」
水属性魔法に目覚めるゼクシードと終始劣勢で激昂するカルカロの第二ラウンドが始まろうとしていた。
ー--------------------
タッタッタッタッタッ!!!
タッタッタッタッタッ!!!
キンキンキンキンキンキン!
空間を広く使い、駆け回りながら刀を交わらせる2人。ランマルとアザールの剣士同士の戦いは、互いに力量が拮抗しており、戦況は大きく動くことはなく、停滞していた。
それでも、当人たちの力量が拮抗している場合、その差は装備の差に顕著に現れる。
「あれぇ?!もしかして、刀の方が先にガタがきちゃったかな~」
「…。」
ランマルの持つ刀はハムタウンの武器屋で買った特価品。あくまでランマル基準で、鈍でないと判断し間に合わせで買ったものにすぎなかった。そのため、手入れも施されず、幾度も太刀を交えれば刃こぼれしてしまうのも仕方のないこと。
対するアザールの持つ灰色の柄巻きに金色の縁と鍔。そして、己が反射するほどに磨き抜かれた輝かしい刀剣。業物『金弟・怪童丸』。刀の中では業物に分類される正真正銘の名刀。その品質は言わずもがなであり、ランマルが間に合わせで購入した刀とは雲泥の差があった。
「刀の…差か。」
「こんな幕引きは残念だなぁ。でも仕方ないよね。財力も実力のうちだ」
「そうか。お前はその名刀を金の力で手に入れたに過ぎないわけか。」
「何が言いたい?」
「名刀は、剣士を選ぶぞ」
「なにぃ?」
ランマル曰く、持ち主が刀を選んだのではなく、刀が持ち主を選ぶのだという。
「その証拠に、きっとお前は次の世界を見たことがない」
「次の世界だと?」
「霊装体解放。明刀の秘奥義だ」
明刀の霊装体解放。妖刀の異能戦技。名刀の中でも2種に分けられる明刀の妖刀のそれぞれの特異能力であり、明刀はその物の素材や打ち手によって込められた全ての力を霊装体として余すことなく解き放ち、妖刀はその刀身に刻まれた呪いの力を異能戦技という形で展開する。
刀を交じ合わせ、ランマルは金弟・怪童丸が妖刀でないことを見抜いていた。そのため、力が拮抗したこの状況でアザールが何故に霊装体解放を使わないのか疑問に思っていたが、その答えが明確であり、金弟・怪童丸がアザールに従っていないからだと推察する。
「真にその力を引き出さないのなら、俺にもまだ勝機はあるだろう」
ランマルは腰からもう一振りの脇差しを抜き、二刀流の構えを見せる。
「ここからは削り合いだ」
ランマルの長刀が折られるか、二刀流でアザールを削り切るか。
「火属性纏い・差異二刀流・火々双頭赤狼ノ爪」
ランマルは長刀と脇差し、両方に火属性のオーラを纏わせ、紅き狼の爪を模した鋭さでアザールへ斬り掛かっていく。
長さの違う2本の刀から繰り出されるスピードも間合いも全く違う連撃は、アザールを圧倒し、受け太刀するので精一杯であった。
「クソッ!クソッ!クソッ!なんだこれ、目で、追い切れな…」
カンッ!!
受け太刀するアザールの金弟・怪童丸を長刀で弾き、生まれた隙を逃さず、脇差しで首元を狙い右腕を伸ばすランマル。
「風属性魔法・風殺」
ビュンッ!!!!
アザールの全身から放たれる低級風属性魔法の風圧によって、伸ばす脇差しの軌道が多少ズレ、首元を狙ったはずの一撃はアザールの肩を斬り裂く。
ズバッ!!!
「クッ!!!!」
ズバンッ!!
アザールはランマルの一撃を喰らいながらも、右足でランマルの腹を蹴り、軽快なステップを効かせて後方へ後退する。
「差異二刀流…対峙するのは初めてだ…これほどとはねぇ~」
「まだ余裕そうか?」
「当たり前だろ。舐めるなよ侍くん」
刀の品質では負けているものの、使用する魔法の属性では有利を取れている。そして何よりアザールはまだ差異二刀流に対処しきれていない。攻めるなら、今!
ザッ!!!!タッタッタッタッタッ!!!
ザッ!!!!タッタッタッタッタッ!!!
ズバッ!!キンキンキン!!ザッ!!シュン!カンキン!シュン!!!
再び走り出し刀を交える2人。
互いに一歩も譲らず、刀を捌いていく。
ランマルは2本の刀に、終始マナを注ぎ続けその強度を高め、簡単には刃こぼれしてなるものかという気合いを感じさせ、一方アザールは風属性纏いで力押しの姿勢を見せる。手数のランマル、力押しのアザール。その2人の決着は唐突に訪れる。
「風属性纏い・威風天冠!」
「差異二刀流・双刀去なし人」
カカカカカッ!!!パキンッ!!
「?!」
ニヤリッ。
力押しのアザールによる、風属性纏いの魔法攻撃が展開され、それに対してランマルは技術で対処しようと、体を回転させながら2本の刀による多段攻撃の蓄積ダメージで威風天冠をしのごうとするも、先に限界を迎えたのはランマルの長刀の方であった。
ーー勝った!
アザールは確信めいたものを見る。否、勝機を掴んだのは、紛れもなくランマルの方であった。
長刀を折られながらも、幾度にわたる多段攻撃でアザールの一太刀は軌道を変え、空を切るようにしてランマルに当てることはできず、逆にランマルは残った脇差しで隙だらけのアザールの腹から右肩までを上へ斬り裂く。
ブシャーーーーー!!!!
「なっ?!」
ーー脇差しだと?!
「何故この世に間合いの短い脇差しが存在するのか。刀を扱う身として、今一度勉学に励むといいさ。」
サッ!!シャキーーーーン。
ランマルは脇差しに残るアザールの血を払い落とし、右腰に差し込まれた鞘へ脇差しを収める。
勝負あり。互いの接近戦によるごちゃついた密集地帯の中で、アザールの技を去なし、さらには小回りの効く脇差しでトドメを刺したランマルの勝利に終わる。
「悪いが長刀が折られてしまったのでな。この刀、頂いてくぞ。」
さらにランマルは、この戦いにおいて、業物『金弟・怪童丸』を手にする。
---------------------
一方ニーナは、レオナルドが待ち受けるアステラ監獄外枠上層部にて、フロアに足を踏み入れるや否や、後方上部からの不意打ち『セイント・ショックダーツ』に横腹を撃ち抜かれてしまい、床へ倒れ込み、出血をしていた。
「死にましたかね…とまぁ、聞いて答えるバカは居ませんよね」
レオナルドは後ろで腕を組み、一歩ずつ倒れたニーナに歩み寄っていく。
「目を覚ましてください。まだ死に至っていないでしょう。属性詠唱を省いて奇襲を狙いましたからね。出力は落ちているはずですよ」
属性詠唱『〇〇属性魔法』の前詠唱であり、言の葉を口にするだけでもその出力を底上げすることに繋がるため、逆を言えば属性詠唱を省いた場合、敵に主となる属性を悟られず、さらには今回のように展開までの時間を短縮させ、意表をつくことができる。その代わりとして出力は落ちてしまう。
属性詠唱を省く行為は、あくまで初弾を確実に当て、相手を抑制することにあるため、仕留め切る策ではない。
「フッ…さすがに気づいてんのね…ゥッ…」
ニーナは左横腹を右手で強く抑え、力づくで止血を試みるもドクドクと体内の血液が抜けていくのを感じる。
「光属性魔法…ね。珍しいじゃない」
「よく分かりましたね。属性詠唱を省いた意味がないじゃないですか」
「当てたじゃない、この陰湿野郎」
「勝ちに貪欲と言ってください。私は子供でも女でも、老兵でも、容赦はしませんよ」
「あっそ…聞いてないし!」
ピュンピュンピュン!!!
「?!」
ーー属性詠唱の破棄どころか、魔法名称の破棄まで…。どれだけ傲慢な女なのか。
ニーナはレオナルドの意表をつくため、左手を後ろに隠し、片手で無属性魔法をすでに展開していた。しかし、属性詠唱どころか、魔法の名まで口にすることなく、微弱な出力で魔法を展開する、魔導士としては奇行そのものとも言える行為をするが、魔法名称破棄による意表をついた『無属性魔法・ルミナスショット』の3連発は、レオナルドの両太ももと足元の床の3点に着弾する。
ブチュン!ブチュン!
「クッ…。ノミほどの出力の分際でこの僕の足を…」
致命傷でもなく、太ももを貫通するほどの威力もない。それでもダメージを与えるという面においては成功と言える。なにより足を狙ったのがでかい。レオナルドは足を動かすだけで、少量の痛みを伴うこととなる。
「あんたがやってんのはこういうことなんだよ!陰湿野郎!一丁前に魔導士語るなら、正々堂々来なさいよ!」
「正々堂々?戦いとは命の取り合いですよ?生き残りたくば相手を殺すのみ。相手を殺すためにはいかなる手段も厭わない。でなければ新たな戦いに備えられない。戦いとはその繰り返し。いかに手傷を負わずに次を対処するか。奇襲して殺めて何が悪い。貴女の考えは、戦いを軽んじる快楽者の戯言だ。」
「意味わかんな。戦いってのは、好きな人のために体を張ることなんだよ!!」
「は?!」
ニーナの自論に困惑するレオナルド。大魔法省が6年かけて作り上げた闇を生きる生粋の暗殺者・レオナルド=キルキス。大魔法省の管轄する養護施設で育ち、その多くを大魔法省の企てる『六年計画』の検体として招集され、日々殺し合いの術を学ばされてきたレオナルドにとって、好きな者・愛する者のために戦いはあるのだと言うニーナの自論は全くもって意味がわからなかった。
「くだらない戯言を!その考えを改めさてやる!光属性魔法!セイント・サンライズ!」
レオナルドは無数の光の矢をニーナへ向けて放つ。
「無属性魔法・トライシールド!!」
ガガガガガガンッ!!!
無数の光の矢を受け止める3枚の透明なシールド。
「無属性魔法・ルミナスショット!」
ニーナは左手でトライシールドを操り、右手でルミナスショットを展開し、遠距離からの攻防一体術でレオナルドを追い込んでいく。
ーークッ!足が…。
思いの外、太ももを攻撃されたことが戦況を優勢に働かせたか、レオナルドは無属性魔法のトライシールドのように、相手の攻撃を確実に防げる万能な魔法を覚えていないために、機動力を削がれては対処に困る。
この状況でレオナルドが取れる行動は、ニーナのルミナスショットを越える量の光属性魔法で攻撃手段を撃ち落とし抑え込むことのみ。
「光属性魔法・セイント・サンライズ!ならびに、セイント・フラッシュ!!」
ピカーーーーン!!!!
セイント・サンライズによってルミナスショットを全て撃ち落とし、ニーナを抑制させつつ、隙を見て視界を奪うフラッシュを焚き、新たな魔法を展開する。
「光属性魔法・光の代行者!ルクス・ゴーレム!」
ピカーーーーーン!!!
レオナルドは、ルクス・アジェンティスによって光属性のオーラを媒介とした3メートル級の大型ゴーレムを生み出す。
「なにあれ…」
「ルクス・アジェンティス。私に代わって君の攻撃を防ぐ代行者ですね」
「光属性魔法、汎用性が高いとは聞いてたけど…ここまで」
ピュン!!!
キンッ!!!
再びニーナは属性詠唱と魔法名称を破棄したルミナスショットをルクス・ゴーレム目掛けて放つも全くの無傷で耐えられる。
「またその技か。生半可な出力ではこのゴーレムを貫くことはできないぞ。そして、ここからが光属性魔法の真骨頂だ!!」
「光の代行者!!ルクス・ゼブラ!!ルクス・モンキー!!」
「同時に3体も?!」
レオナルドは続々とルクス・アジェンティスで生物を具象化していき、数の力でニーナを圧倒する。
「光属性魔法はその発動が手間でね。何せ両手を合わせなければ魔法は発動できない。が、一度発動させてしまえば、己のマナが尽きるまで、魔法の残留や複数展開、いくらでも可能性の幅を広げられる最強の属性魔法だ。両手両足の決められた数の魔法の展開というこの世の縛りを無視できる唯一の属性魔法だ!!わかるか?これは生まれ持った才の違いだ!私は神に選ばれた光の信仰者!貴女ごときに負けるわけにはいかないのだよ!!行け!!!!ルクス・ゼブラ!!!ルクス・モンキー!!!!」
バタバタバタバタ!!!
ウキッ!!キーーー!!!
レオナルドによって具象化された光の動物たちは手負いのニーナに向かって襲いかかってくる。
「無属性魔法・トライシールド!!ならびに、無属性魔法・ルミナス・L・ショット」
突進してくるルクス・ゼブラ。トライシールドが展開されたことを見て大きくジャンプするルクス・モンキー。
ガコンッ!!
「クッ!!」
ニーナに突撃してくるルクス・ゼブラをトライシールドで受け止め、上空から飛びかかってくるルクス・モンキーへ、ルミナスL・ショットを放つニーナ。
キキッキーーー!!!
ルクス・モンキーは自分が光線に狙われているのを察知し、空中で二段ジャンプして横に飛び、一直線に伸びる光線を避けてみせるが、ルミナス・L・ショットの真骨頂は、一度だけL字に軌道を変えることができるところにあるため、ニーナはルミナスショットの軌道を直角に曲げ、逃げるルクス・モンキーの体へ5発の光線をお見舞いする。
キキッキーーー?!?!ジュワァァァ。
ワン!!ワン!!
ガシャン!!ガシャン!!
同胞であるルクス・モンキーが倒されたことで激昂したルクス・ゼブラがさらにトライシールドへ頭突きをし、ニーナを攻撃していく。その振動に腹の傷が痛むニーナは、表情を崩す。
「クッ…痛い…」
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「つんだ!!グレイのために!!戦え!あたし!」
「ん?まだやるのか。相当傷が深いはずなのに」
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「はぁ?!」
「何せ、相手は黒ノ執行きっての天才暗殺者だからね。子供が勝てるような相手じゃないよ。(そうでしょ、部隊長…)」
ーーグレイ…!
レオナルドが言い放ったグレイの相手になるであろう男の存在に、ニーナは不穏な空気に包まれる。黒ノ執行きっての…天才暗殺者…。
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