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第四章 〜再会と過去
76話 『黒ノ執行No.4』
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アステラ監獄、中央部、灼熱尋問室『サハラ』。中央部で火力発電をし、アステル監獄中のエネルギー源を賄う自給自足システムを採用したこの場所では、火力発電と同時に、そこから出る熱を利用して灼熱のサウナ機関を作り、拷問部屋、および事情聴取部屋として扱っていた。
「ハァ…ハァ…」
現在、その拷問部屋『サハラ』にて、両手足を鉄の錠で固定され、壁に貼り付けにされる罪人・ルヴィア=アルゴードンがいた。
火力発電所から少し離れたこの地は、およそ200度の熱が流れ込み、鉄の錠や石壁をチンチンに熱していく。
「さすがにそろそろ限界だろう。奴を連れ戻せ」
「「ハッ!!」」
看守に命令を下すマンバンヘアに顎髭を生やし、黒スーツに身を包む黒ノ執行No.4の部隊長・ベルド=ザグドレア。
そして、ベルドに命令され、看守の2人は耐熱防護服を着用し、『サハラ』へ入りルヴィアの錠を外し、部屋から連れ出す。
「スゥーーーーーハァ!!スゥー!ハァ!」
『サハラ』から出た途端に、ルヴィアは冷たい外気を喉いっぱいに吸い込み、吐き出す。そして、身体中の熱を放出させる。
「懲りたか?ルヴィア=アルゴードン」
「ハァハァ…ベルド=ザグドレア…」
「私は貴様からある情報を引き出さなければならない。何かわかるだろ?」
「さぁ、さっぱりよ」
「まだシラを切るか。生物兵器についてだ。飛龍のな」
ーー飛龍?!一体何の話をしてるの。
ルヴィアには皆目見当もつかない。
「飛龍なんて知らないわ!」
「私は直に見ている。言い逃れはできまいぞ。(ルヴィア=アルゴードンよ。大臣は寛大なお方だ。生物兵器についての情報を全て話せば…解放すると言っておられる)。分かるだろ?」
ベルドはルヴィアの耳元に顔を並べ、大臣の意向を伝える。
撤退時にサーチマスが見た朱色の皮膚を持つ飛龍。それに大変執心的なサーチマスは、どんな手を尽くしてでもあの飛龍を手中に収めたかった。そして、それを作り出した、もしくは育て上げた人物こそ、ルヴィアだと睨んでいる。
しかし、それはとんだ的外れな話であった。飛龍の正体は、魔獣、グリム・インクであり、ルヴィアが作り出したわけでも、育て上げたわけでもない。むしろ、ルヴィアの左肩に引っ掻き傷を与えた敵対生物でもある。
「本当に知らないって、ぅぁぁぁあああ!!!!」
呪詛魔法・インベクト。ベイダーが得意とする呪いを付与する魔法であり、闇属性とは違う類の呪いでルヴィアを締め上げるベルド。
バサッ。
ベルドはルヴィアの研究室から回収した生物学的資料を全て床へばら撒く。
「それは…」
「貴様の自室にあったものだが、何ともくだらん研究の類だ。飛龍のことは一切載っていなかった。もう一度だけ言うぞ?飛龍についての資料をどこへ隠した?」
「…しら、ない…」
「そうか…残念だ」
ベルドは看守たちに目で合図を出し、ルヴィアを再び『サハラ』へ閉じ込める。この繰り返しで拷問をしていき、ルヴィアから生物兵器についての情報を聞き出していく。
アステラ監獄、上層の間、仮設的に与えられた黒ノ執行No.4の休息所にて、グレイらルヴィアの仲間たちを迎え撃つ任を任された一行は待機する。
「本当に来るのかねぇ」
黒ノ執行No.4の副隊長、アザール・エンフォート(23)。黒服に黒ハットを合わせるセンスに刀を扱う剣士は、グレイらの襲撃について語り始める。
「どう言うことです?」
黒ノ執行No.4の戦闘員、カルカロ=リーズホック(25)。ワイシャツの第一ボタンを閉めると首がなくなるほどに肉肉しい見た目をしており、さらには毛の一つもないツルツルの頭。仲間たちからは『坊さん』と呼ばれる彼は、アザールの意図を確認する。
「だって、大魔法省の管轄だぜ、ここ。それもそう遠くない距離の。この前とは状況がまるで違うからなぁ。こっちの敷居まで侵略してくるようなアホじゃないだろってことさ」
「どうでしょうかね。大魔法省と一戦交え、あの少女を回収するだけの価値が、あの少女の作りし生物兵器にあるのではないですかな?」
「生物兵器ねぇ~。そういや、まだ尋問中だったか」
『うぁぁぁあああああ!!!!』
黒ノ執行No.4の休息所にまで響き渡るルヴィアの叫び声は、いくら大魔法省の関係者といえども心痛めるものがある。
「本当に飛龍だったんですか?ルヴィア=アルゴードンの生物兵器とは」
黒ノ執行No.4のレオナルド=キルキス(22)が口を開く。金髪と黒髪のメッシュ柄にパーマをかけたような髪型をする彼は、人数分の紅茶を配膳しながら現れる。
「そうだよ。俺とベルドはこの目で見たからねぇ。ただ…その前に、キメラみたいなやつも居たんだよなぁ。ライオン頭にな!翼が生えてて、蛇かなんかの尻尾があるような…」
「キメラ?冗談でしょ。そんな伝説上の生き物…」
「そんなこと言ったら飛龍もですぞ、レオナルド殿」
「とにかくだ、上はその飛龍を欲しがってる。だから必死こいてベルドは尋問してんだ。が、あっちから来てくれるなら好都合じゃねーの。全員始末して飛龍をゲット。あとは調教すりゃいいだけだ。未界侵攻もそう遠くないぜ」
大魔法省の長年の計画『未界侵攻作戦』。飛龍以外にも、大魔法省は星界の使徒との取引で、15頭のグリム・サテュソンを手に入れている。そして多くの実力ある魔導士たち。未界侵攻作戦の準備は着々となされていた。
「あとは、俺たちの働き次第だ…」
黒ノ執行No.4たちは、天窓の奥、空高くを見つめ、本任務の重要性を再確認するのであった。
プルルルル!!プルルルル!!
アステラ監獄灼熱尋問室『サハラ』へ繋がれた一本の電話。
ガチャ。
「はい、こちらアステラ監獄」
『ベルドか!』
「大臣…」
『まだ情報は掴めぬのか!!』
「えぇ、口が硬い女で。もう手首、足首の皮膚はただれ、全身も痛み切ってきます。これ以上は、生死に関わるかと」
『そんな御託はどうでもいい!!急がなければやつらがくるぞ!!』
「生物兵器…ですか。それなら、いっそのこと待ち構えて捕獲してしまえば良いのでは?そもそもあの少年たちに飛龍を扱いきれるとは到底思えませんが」
『上手くやれるのか?』
「はい。お任せください。その代わりに…」
ベルドもアザール同様に、飛龍の捕獲を視野に入れていた。そのため、大魔法省本部に増援の進言をすると近々、執行部から増援が送られてくる旨が伝えられる。
ベルドは一時、休息所へ戻り、黒ノ執行No.4たちへこれからの作戦の概要を伝える。大魔法省に楯突くルヴィア=アルゴードンの仲間たちを始末し、彼らの操る生物兵器・飛龍を捕獲すること。罪人たちの生死は問わない旨を伝える。
「オーケーボス。まぁ俺もあの剣士と真剣勝負したかったしな。好都合だ」
「お前の元まで辿り着ければの話だがな」
「どういうことだよベルド」
「執行部から増援が派遣させる。魔獣捕獲用の専門部隊だが、数も相当なものらしい。対人もお手のものだろうな」
「ほぅ~そりゃ困ったな…へへへっ。あの剣士とはやれないんかね」
それから24時間、丸一日が経ち、大魔法省からアステラ監獄へ増援が派遣される。数にして、120名。さらには電撃弾が装填された大型バリスタが6台と、それぞれがライフルガンや杖、遠距離特化の武器を持ち、アステラ監獄前へ配置される。
「なんだなんだ!!」
「外が騒がしいぞ」
アステラ監獄に収容されていた多くの囚人たちは、鉄格子の隙間から監獄の外へ目をやると、黒スーツを着た兵士の大群や大型バリスタを目にし、騒ぎ始める。
「一体何が起きるってんだ」
「まさか、俺らの公開死刑か?!ガッハッハ」
「馬鹿野郎!笑い事じゃねーっての。あんな巨大なバリスタで撃ち抜かれてみろ!肉すら残らねーよ」
「違いねーや。ありゃ人間用じゃねーな」
囚人たちをも驚愕させる6台の大型バリスタの狙う先こそ、大魔法省が警戒する怪物が来る方角である。
「ん?なんだあれ…」
「おい、おいおいおい、あれは?!」
「ドラゴンだぁ!!!!ドラゴンがきたぞ!!!!!」
「「「「「「?!」」」」」」
黒服の1人が空を指差すと、全員がその方向へ目をやる。
ルヴィア連行から4日目にして、サーチマス大臣の執心する朱色の皮膚を持つ飛龍が中型海賊船を抱えて、上空から姿を現す。
「ガァァァァァァ!!!!!!!」
「…来たか。思いの外遅かったな」
ベルドはゆっくりと瞳を開け、執行部の部下たちを連れ、アステラ監獄の上層階の大扉を開け、姿を現す。
ベルドを中心に横に並ぶ黒スーツの4人。
「うひょう~マジで来ちゃったよ!!怖いもの知らずなんかね」
「無駄口叩いてんじゃねぇアザール。奴らを全力で叩きのめすことだけを考えろ」
ガガガガガッ!!
地を這う120名ほどの黒服達は、6台の大型バリスタを動かし、飛龍へ狙いを定める。
「よーく狙いを定めろ!お前達!!」
大魔法省から派遣された地上班を指揮する執行部『黒ノ執行No.7』の部隊長・マットドック=ハリアス(35)の指示で、地上班は空高く舞う飛龍に狙いを合わせるように大型バリスタを調整していく。
「うてぇ!!!!」
パスンッ!!!!!
パスンッ!!!!!
パスンッ!!!!!
手始めに3発の大型電撃弾が放たれ、飛龍目掛けて襲いかかってくる。
「グリム・インク!!旋回しろ!!」
ガァァァァァ!!!!!!
グリム・インクはグレイの声に呼応するように、上空を円状に飛び回り、電撃弾を避けていく。
「ぁぁぁあああ!!目が~~」
ものすごいスピードと豪快な動きに目を回すニーナ。
「凄いな…まるで魔獣を…操ってるみたいじゃないか…グレイ」
「いや、操っているんだ。そもそもあいつはグリム・インクを従えている。何故かはわからないが…」
「高度を落とせ!」
ガァァァァァァ!!!!
グレイの意思が完全にグリム・インクに伝わり、グリム・インクはグレイのなすがままに高度を落としていく。
「みんな!!!」
「任せろ!」
「あぁ!」
「準備OK~」
「こっちも…うてぇ!!!」
ズバンッ!!
ズバンッ!!
ズバンッ!!
月光丸からどこからともなく現れた大砲で地上に置かれた大型バリスタを狙い、ドンピシャで着弾、破壊して見せるゼクシードたち。
「やったーーー!!!当たったわ!」
「あぁ…完璧だ」
月光丸にそもそも完備されていなかった大砲。これは、ゼクシードの提案でこの4日間、時間をかけて集めた代物であり、時間を費やしてでも揃えるべきだという判断に至り、買い揃えた物。それが今回功を制す。
大型バリスタの半分を破壊したグレイら一行は上空に停滞し、グレイは月光丸の船頭まで出ていく。
「ルヴィアはどこだ!!!!!!」
グレイはアステラ監獄中に響き渡る声量でルヴィアの所在を問う。
「連れてこい」
それに応えるようにベルドは鎖に繋がれた白い布を纏う傷だらけのルヴィアを外へ連れ出す。
「取引をしよう!!少年よ」
「?」
ベルドはルヴィアを突き飛ばし、前へ跪かせる。
「この女の解放を条件に、その飛龍を置いていけ」
「(そこか…ルヴィア。)待ってろ!ルヴィア!今助けてやる!」
「交渉決裂か」
ーーただ、時間は稼げたか…。
「うてぇ!!!!」
ズバンッ!!
ズバンッ!!
ズバンッ!!
地上班はベルドの不毛な駆け引きによる多少の時間稼ぎを利用して、動きの止まった飛龍へ大型バリスタの電撃弾を間隔あけて3発打ち込む。
「姿を変えろ…グリム・インク」
ブワァァーーーー!!!
グリム・インクはグレイの指示に忠実に従い、闇のオーラを纏ってその姿をセナに変えていく。
「風属性魔法・ウィンド・ストライダー!!」
セナは襲いかかる電撃弾を風属性魔法で切り裂き無力化する。
「何ぃぃい?!飛龍が…人に…?!」
アザールは目の前の異様な光景に驚愕する。
「それにやつは…セナ=ジークフリート。元靱の創設者だ」
3年半前の旧・ドセアニア王国の滅亡とグリム・デーモン復活を指揮した張本人として、多くの国々、組織、民間にその情報は拡散・共有されていたため、ベルドはその存在を知っていた。
ーーどういうことだ。飛龍の正体がセナ=ジークフリート?。いや、そんなわけは…あの飛龍はルヴィア=アルゴードンの作った生物兵器だろう?。それとも別の存在か…いや、そういえばあの飛龍とは別にキメラもあの場に居たはず…。何がどうなっているんだ。
飛龍はセナに姿を変えたことで、月光丸は、高度数百メートルの空から真っ逆さまに地に落ちていく。
「あぁーーー!!おちるーーー!」
「グレイ!どうする?!」
「受け身を取るしかないだろ」
ランマルの武士道というか原始的というか、どう考えても無謀な提案に一同の表情は青ざめる。
「任せろゼクシード。水属性魔法・バブルレイ」
ポポポポポッ!!!!!!
ゼクシードは両手から無数の泡を生み出し、グレイを、ニーナを、ゼクシードを、ランマルを、そして月光丸でさえも包み込み、空を浮かびながら低速で落ちていく。
「「「なんだこれーーーー」」」
「セナ…君は…」
「ゼクシード、俺は君の知る本当のセナじゃない。それでもこの身を持って償える機会があるのなら…」
それがセナ本人の意思ではなくとも、容姿から声から、何から何までセナと同じその者の言葉に、ゼクシードの心は揺れ動く。
「セナさん!俺たちに力を貸してください!」
「あぁ!もちろんだよグレイ!」
セナ=ジークフリート。光と闇の2種の属性を除く5thエレメントを使いこなす青年。そして、これまで多くの猛者を撃ち倒し、その非道さと残虐の限りを尽くした彼も、味方になればこれほど心強い者はいないのではないかと思わせるほどに、その才と技術は突出していた。
「みんな!!俺に力を貸してくれ!!!」
パシャン!
パシャン!
パシャン!
パシャン!
パシャン!
全員のシャボンが弾け、全員が地に足をつけ、120人規模の黒服達と対峙する。
「さぁ、いくぞ!みんな!」
「「「「おぉ!!!」」」」
グレイ達は黒服達へ向かって駆け出していく。
「ハァ…ハァ…」
現在、その拷問部屋『サハラ』にて、両手足を鉄の錠で固定され、壁に貼り付けにされる罪人・ルヴィア=アルゴードンがいた。
火力発電所から少し離れたこの地は、およそ200度の熱が流れ込み、鉄の錠や石壁をチンチンに熱していく。
「さすがにそろそろ限界だろう。奴を連れ戻せ」
「「ハッ!!」」
看守に命令を下すマンバンヘアに顎髭を生やし、黒スーツに身を包む黒ノ執行No.4の部隊長・ベルド=ザグドレア。
そして、ベルドに命令され、看守の2人は耐熱防護服を着用し、『サハラ』へ入りルヴィアの錠を外し、部屋から連れ出す。
「スゥーーーーーハァ!!スゥー!ハァ!」
『サハラ』から出た途端に、ルヴィアは冷たい外気を喉いっぱいに吸い込み、吐き出す。そして、身体中の熱を放出させる。
「懲りたか?ルヴィア=アルゴードン」
「ハァハァ…ベルド=ザグドレア…」
「私は貴様からある情報を引き出さなければならない。何かわかるだろ?」
「さぁ、さっぱりよ」
「まだシラを切るか。生物兵器についてだ。飛龍のな」
ーー飛龍?!一体何の話をしてるの。
ルヴィアには皆目見当もつかない。
「飛龍なんて知らないわ!」
「私は直に見ている。言い逃れはできまいぞ。(ルヴィア=アルゴードンよ。大臣は寛大なお方だ。生物兵器についての情報を全て話せば…解放すると言っておられる)。分かるだろ?」
ベルドはルヴィアの耳元に顔を並べ、大臣の意向を伝える。
撤退時にサーチマスが見た朱色の皮膚を持つ飛龍。それに大変執心的なサーチマスは、どんな手を尽くしてでもあの飛龍を手中に収めたかった。そして、それを作り出した、もしくは育て上げた人物こそ、ルヴィアだと睨んでいる。
しかし、それはとんだ的外れな話であった。飛龍の正体は、魔獣、グリム・インクであり、ルヴィアが作り出したわけでも、育て上げたわけでもない。むしろ、ルヴィアの左肩に引っ掻き傷を与えた敵対生物でもある。
「本当に知らないって、ぅぁぁぁあああ!!!!」
呪詛魔法・インベクト。ベイダーが得意とする呪いを付与する魔法であり、闇属性とは違う類の呪いでルヴィアを締め上げるベルド。
バサッ。
ベルドはルヴィアの研究室から回収した生物学的資料を全て床へばら撒く。
「それは…」
「貴様の自室にあったものだが、何ともくだらん研究の類だ。飛龍のことは一切載っていなかった。もう一度だけ言うぞ?飛龍についての資料をどこへ隠した?」
「…しら、ない…」
「そうか…残念だ」
ベルドは看守たちに目で合図を出し、ルヴィアを再び『サハラ』へ閉じ込める。この繰り返しで拷問をしていき、ルヴィアから生物兵器についての情報を聞き出していく。
アステラ監獄、上層の間、仮設的に与えられた黒ノ執行No.4の休息所にて、グレイらルヴィアの仲間たちを迎え撃つ任を任された一行は待機する。
「本当に来るのかねぇ」
黒ノ執行No.4の副隊長、アザール・エンフォート(23)。黒服に黒ハットを合わせるセンスに刀を扱う剣士は、グレイらの襲撃について語り始める。
「どう言うことです?」
黒ノ執行No.4の戦闘員、カルカロ=リーズホック(25)。ワイシャツの第一ボタンを閉めると首がなくなるほどに肉肉しい見た目をしており、さらには毛の一つもないツルツルの頭。仲間たちからは『坊さん』と呼ばれる彼は、アザールの意図を確認する。
「だって、大魔法省の管轄だぜ、ここ。それもそう遠くない距離の。この前とは状況がまるで違うからなぁ。こっちの敷居まで侵略してくるようなアホじゃないだろってことさ」
「どうでしょうかね。大魔法省と一戦交え、あの少女を回収するだけの価値が、あの少女の作りし生物兵器にあるのではないですかな?」
「生物兵器ねぇ~。そういや、まだ尋問中だったか」
『うぁぁぁあああああ!!!!』
黒ノ執行No.4の休息所にまで響き渡るルヴィアの叫び声は、いくら大魔法省の関係者といえども心痛めるものがある。
「本当に飛龍だったんですか?ルヴィア=アルゴードンの生物兵器とは」
黒ノ執行No.4のレオナルド=キルキス(22)が口を開く。金髪と黒髪のメッシュ柄にパーマをかけたような髪型をする彼は、人数分の紅茶を配膳しながら現れる。
「そうだよ。俺とベルドはこの目で見たからねぇ。ただ…その前に、キメラみたいなやつも居たんだよなぁ。ライオン頭にな!翼が生えてて、蛇かなんかの尻尾があるような…」
「キメラ?冗談でしょ。そんな伝説上の生き物…」
「そんなこと言ったら飛龍もですぞ、レオナルド殿」
「とにかくだ、上はその飛龍を欲しがってる。だから必死こいてベルドは尋問してんだ。が、あっちから来てくれるなら好都合じゃねーの。全員始末して飛龍をゲット。あとは調教すりゃいいだけだ。未界侵攻もそう遠くないぜ」
大魔法省の長年の計画『未界侵攻作戦』。飛龍以外にも、大魔法省は星界の使徒との取引で、15頭のグリム・サテュソンを手に入れている。そして多くの実力ある魔導士たち。未界侵攻作戦の準備は着々となされていた。
「あとは、俺たちの働き次第だ…」
黒ノ執行No.4たちは、天窓の奥、空高くを見つめ、本任務の重要性を再確認するのであった。
プルルルル!!プルルルル!!
アステラ監獄灼熱尋問室『サハラ』へ繋がれた一本の電話。
ガチャ。
「はい、こちらアステラ監獄」
『ベルドか!』
「大臣…」
『まだ情報は掴めぬのか!!』
「えぇ、口が硬い女で。もう手首、足首の皮膚はただれ、全身も痛み切ってきます。これ以上は、生死に関わるかと」
『そんな御託はどうでもいい!!急がなければやつらがくるぞ!!』
「生物兵器…ですか。それなら、いっそのこと待ち構えて捕獲してしまえば良いのでは?そもそもあの少年たちに飛龍を扱いきれるとは到底思えませんが」
『上手くやれるのか?』
「はい。お任せください。その代わりに…」
ベルドもアザール同様に、飛龍の捕獲を視野に入れていた。そのため、大魔法省本部に増援の進言をすると近々、執行部から増援が送られてくる旨が伝えられる。
ベルドは一時、休息所へ戻り、黒ノ執行No.4たちへこれからの作戦の概要を伝える。大魔法省に楯突くルヴィア=アルゴードンの仲間たちを始末し、彼らの操る生物兵器・飛龍を捕獲すること。罪人たちの生死は問わない旨を伝える。
「オーケーボス。まぁ俺もあの剣士と真剣勝負したかったしな。好都合だ」
「お前の元まで辿り着ければの話だがな」
「どういうことだよベルド」
「執行部から増援が派遣させる。魔獣捕獲用の専門部隊だが、数も相当なものらしい。対人もお手のものだろうな」
「ほぅ~そりゃ困ったな…へへへっ。あの剣士とはやれないんかね」
それから24時間、丸一日が経ち、大魔法省からアステラ監獄へ増援が派遣される。数にして、120名。さらには電撃弾が装填された大型バリスタが6台と、それぞれがライフルガンや杖、遠距離特化の武器を持ち、アステラ監獄前へ配置される。
「なんだなんだ!!」
「外が騒がしいぞ」
アステラ監獄に収容されていた多くの囚人たちは、鉄格子の隙間から監獄の外へ目をやると、黒スーツを着た兵士の大群や大型バリスタを目にし、騒ぎ始める。
「一体何が起きるってんだ」
「まさか、俺らの公開死刑か?!ガッハッハ」
「馬鹿野郎!笑い事じゃねーっての。あんな巨大なバリスタで撃ち抜かれてみろ!肉すら残らねーよ」
「違いねーや。ありゃ人間用じゃねーな」
囚人たちをも驚愕させる6台の大型バリスタの狙う先こそ、大魔法省が警戒する怪物が来る方角である。
「ん?なんだあれ…」
「おい、おいおいおい、あれは?!」
「ドラゴンだぁ!!!!ドラゴンがきたぞ!!!!!」
「「「「「「?!」」」」」」
黒服の1人が空を指差すと、全員がその方向へ目をやる。
ルヴィア連行から4日目にして、サーチマス大臣の執心する朱色の皮膚を持つ飛龍が中型海賊船を抱えて、上空から姿を現す。
「ガァァァァァァ!!!!!!!」
「…来たか。思いの外遅かったな」
ベルドはゆっくりと瞳を開け、執行部の部下たちを連れ、アステラ監獄の上層階の大扉を開け、姿を現す。
ベルドを中心に横に並ぶ黒スーツの4人。
「うひょう~マジで来ちゃったよ!!怖いもの知らずなんかね」
「無駄口叩いてんじゃねぇアザール。奴らを全力で叩きのめすことだけを考えろ」
ガガガガガッ!!
地を這う120名ほどの黒服達は、6台の大型バリスタを動かし、飛龍へ狙いを定める。
「よーく狙いを定めろ!お前達!!」
大魔法省から派遣された地上班を指揮する執行部『黒ノ執行No.7』の部隊長・マットドック=ハリアス(35)の指示で、地上班は空高く舞う飛龍に狙いを合わせるように大型バリスタを調整していく。
「うてぇ!!!!」
パスンッ!!!!!
パスンッ!!!!!
パスンッ!!!!!
手始めに3発の大型電撃弾が放たれ、飛龍目掛けて襲いかかってくる。
「グリム・インク!!旋回しろ!!」
ガァァァァァ!!!!!!
グリム・インクはグレイの声に呼応するように、上空を円状に飛び回り、電撃弾を避けていく。
「ぁぁぁあああ!!目が~~」
ものすごいスピードと豪快な動きに目を回すニーナ。
「凄いな…まるで魔獣を…操ってるみたいじゃないか…グレイ」
「いや、操っているんだ。そもそもあいつはグリム・インクを従えている。何故かはわからないが…」
「高度を落とせ!」
ガァァァァァァ!!!!
グレイの意思が完全にグリム・インクに伝わり、グリム・インクはグレイのなすがままに高度を落としていく。
「みんな!!!」
「任せろ!」
「あぁ!」
「準備OK~」
「こっちも…うてぇ!!!」
ズバンッ!!
ズバンッ!!
ズバンッ!!
月光丸からどこからともなく現れた大砲で地上に置かれた大型バリスタを狙い、ドンピシャで着弾、破壊して見せるゼクシードたち。
「やったーーー!!!当たったわ!」
「あぁ…完璧だ」
月光丸にそもそも完備されていなかった大砲。これは、ゼクシードの提案でこの4日間、時間をかけて集めた代物であり、時間を費やしてでも揃えるべきだという判断に至り、買い揃えた物。それが今回功を制す。
大型バリスタの半分を破壊したグレイら一行は上空に停滞し、グレイは月光丸の船頭まで出ていく。
「ルヴィアはどこだ!!!!!!」
グレイはアステラ監獄中に響き渡る声量でルヴィアの所在を問う。
「連れてこい」
それに応えるようにベルドは鎖に繋がれた白い布を纏う傷だらけのルヴィアを外へ連れ出す。
「取引をしよう!!少年よ」
「?」
ベルドはルヴィアを突き飛ばし、前へ跪かせる。
「この女の解放を条件に、その飛龍を置いていけ」
「(そこか…ルヴィア。)待ってろ!ルヴィア!今助けてやる!」
「交渉決裂か」
ーーただ、時間は稼げたか…。
「うてぇ!!!!」
ズバンッ!!
ズバンッ!!
ズバンッ!!
地上班はベルドの不毛な駆け引きによる多少の時間稼ぎを利用して、動きの止まった飛龍へ大型バリスタの電撃弾を間隔あけて3発打ち込む。
「姿を変えろ…グリム・インク」
ブワァァーーーー!!!
グリム・インクはグレイの指示に忠実に従い、闇のオーラを纏ってその姿をセナに変えていく。
「風属性魔法・ウィンド・ストライダー!!」
セナは襲いかかる電撃弾を風属性魔法で切り裂き無力化する。
「何ぃぃい?!飛龍が…人に…?!」
アザールは目の前の異様な光景に驚愕する。
「それにやつは…セナ=ジークフリート。元靱の創設者だ」
3年半前の旧・ドセアニア王国の滅亡とグリム・デーモン復活を指揮した張本人として、多くの国々、組織、民間にその情報は拡散・共有されていたため、ベルドはその存在を知っていた。
ーーどういうことだ。飛龍の正体がセナ=ジークフリート?。いや、そんなわけは…あの飛龍はルヴィア=アルゴードンの作った生物兵器だろう?。それとも別の存在か…いや、そういえばあの飛龍とは別にキメラもあの場に居たはず…。何がどうなっているんだ。
飛龍はセナに姿を変えたことで、月光丸は、高度数百メートルの空から真っ逆さまに地に落ちていく。
「あぁーーー!!おちるーーー!」
「グレイ!どうする?!」
「受け身を取るしかないだろ」
ランマルの武士道というか原始的というか、どう考えても無謀な提案に一同の表情は青ざめる。
「任せろゼクシード。水属性魔法・バブルレイ」
ポポポポポッ!!!!!!
ゼクシードは両手から無数の泡を生み出し、グレイを、ニーナを、ゼクシードを、ランマルを、そして月光丸でさえも包み込み、空を浮かびながら低速で落ちていく。
「「「なんだこれーーーー」」」
「セナ…君は…」
「ゼクシード、俺は君の知る本当のセナじゃない。それでもこの身を持って償える機会があるのなら…」
それがセナ本人の意思ではなくとも、容姿から声から、何から何までセナと同じその者の言葉に、ゼクシードの心は揺れ動く。
「セナさん!俺たちに力を貸してください!」
「あぁ!もちろんだよグレイ!」
セナ=ジークフリート。光と闇の2種の属性を除く5thエレメントを使いこなす青年。そして、これまで多くの猛者を撃ち倒し、その非道さと残虐の限りを尽くした彼も、味方になればこれほど心強い者はいないのではないかと思わせるほどに、その才と技術は突出していた。
「みんな!!俺に力を貸してくれ!!!」
パシャン!
パシャン!
パシャン!
パシャン!
パシャン!
全員のシャボンが弾け、全員が地に足をつけ、120人規模の黒服達と対峙する。
「さぁ、いくぞ!みんな!」
「「「「おぉ!!!」」」」
グレイ達は黒服達へ向かって駆け出していく。
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三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
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VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
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13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
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…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
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~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
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18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
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月が導く異世界道中
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月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
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26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
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