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第四章 〜再会と過去
73話 『対グリム・インク』
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グッガァァァア!!!!!!!
飛龍は咆哮を放ち、グレイたちを威圧する。
「これが…グリム・インク…まるでドラゴンじゃないか」
「グレイふせろ!」
ランマルの声に体が反応し、体を伏せるグレイに、炎のブレスを吐き付ける飛龍。
ボボボボボボボッ!!!!!
魔獣の森は一瞬にして大火災となる。
「こいつ!こっちが遠慮してアルビニウム抑えてたってのに!」
ルヴィアの住まう森を焼いてはいけないと思っていたグレイは、ベルド戦でアルビニウムを使用しなかった。にも関わらず、グリム・インクは至極当たり前かのように炎のブレスを吐きまくり、周囲を燃やし尽くす。
「いい加減にしろよお前!!!」
「無属性魔法、ルミナス・ショット!!」
ピュンピュンピュン!!!
ニーナは無属性魔法の光線で飛龍の翼を狙い、高度を落とさせる。
「ナイスだ、ニーナ!!」
「火炎・一閃」
さらにランマルは刀に炎を纏わせ驚異的なジャンプ力で飛龍の高さまで飛び、顔を横に切り付ける。
グッガァァァア!!!
暴れ回る飛龍の腹へ飛び込み、拳を打ちつけるグレイ。
グッガァァァア!!!
一度地につき、飛龍の動きを観察する一同。
「ニーナ!もう一回だ!」
「わかったわ!!ルミナス・ショット!!!」
ピュンピュンピュン!!!
飛龍へ向かう無属性魔法の光線に対して、急激な上昇を見せ天空で攻撃を避ける飛龍。さすがに同じ手は食わんと言わんばかりであった。
「あそこまで飛ばれては攻撃が届かないぞ」
「ゼクシード!何か良い案はない?!」
「急に言われても…来るぞ!」
上空数千メートルからもの凄い速度で直下してくる飛龍。そのまま炎のブレスを放つ。
「とりあえず散開しろぉぉおお!!」
ゼクシードの大声で東西南北、それぞれに広がる一同。
そして狙われたのはニーナ。
「なんでこっち来てるのよーーー!!!!」
ニーナ目掛けて森を低空飛行していく飛龍。そのまま炎のブレスを放ってニーナの周囲の木々を燃やして通せん坊する。
「こっちだ!」
右からの呼びかけられ、グレイの声に引かれて、ニーナはグレイの元へ駆け出す。2人は合流して、それを追う飛龍。
「前へ行け!」
ブレスの構えを見せる飛龍の動きを見て、ニーナを1人先へ行かせ、ブレスの対処に残るグレイ。
グッハァ!!ボーーーーーーー!!!
飛龍の放つ炎のブレスを体全身で止めて見せるグレイ。
「クッ…」
メラメラメラメラ。
「魔法…のはずなのに、熱い…」
魔力耐性を持つグレイには大したことないかに思われた攻撃が、まさかの想像以上の火力でグレイは火傷を負う。
飛龍は自分のブレスに飛び込んできたグレイに思わず目を丸くし、明後日の方向へ飛んでいく。
次に狙われたのはランマルだった。
「こっちか…。ついてこい!ドラゴン!」
ランマルが飛龍を引き連れている間にニーナはグレイに駆け寄る。
「グレイ大丈夫?!」
「あぁ、問題ない…。ただ…あのブレス、相当な威力があるよ。みんなが喰らったらひとたまりもないかも」
『それは違うなグレイ』
「シルフィア?」
『彼奴のブレスには…闇の魔力が込められている。あれはただの炎にあらず…じゃな。お主の特異体質は…闇属性魔法には少々効果が薄いらしい…』
「え?!それ本当?」
『そうじゃ』
初めて知る自分の特異体質『魔力耐性』の弱点。それは、闇属性魔法に効果が薄いこと。
闇属性魔法を得意としていたジュラ=バッキンガム相手には何とも感じなかったが、今目の前で対峙しているグリム・インクは、ジュラ以上の闇属性魔法の使い手で出力が出せるということなのだろうか。
『真なる悪魔と偽りの力を同じだと思わぬことだ』
「どういう意味?」
『いずれわかる。今はお仲間が危険じゃぞ』
「?!」
グレイはシルフィアの指摘に従って、ランマルの元へ駆けていく。
ーーそうだ。とりあえず今しなきゃ行けないことはあのグリム・インクを止めて、みんなを守ること。それ以外に考えることなんかいらない。
「ランマルさん!!!こっちです!」
「?!」
ランマルはグレイに気づき、方向転換をしてグレイの元へ駆けていく。
「シルフィア!!力を貸して!」
実体化したシルフィアはグレイの合図に合わせて風属性魔法を展開する。
「いくよ!」
『あぁ』
「精霊武装・風魔拳!!!」
シルフィアと自分のストレートのタイミングを完璧に合わせ、0コンマ数秒の誤差のうちに抑えた風属性魔法を纏いし拳が飛龍へ襲いかかるが、グレイが前へ来たことで、飛龍は旋回して上空へ舞い上がる。
「?!」
ーーまた逃げられた!!それより…次は
ゼクシードが狙われた。
「ニーナ!カバーに入ってくれ!ゼクシードは魔力適性が無いんだ!」
「嘘?!やばいじゃん!!!」
ここにきて魔法が一切使えないゼクシードが飛龍に狙われる。
「僕の方に来たか…考えろ」
ーー考え続けろゼクシード!君にはそれしか取り柄が無いだろ!考えろ!!!!考えろ!!!!
ーーー------------------
「これは…ライオン?それとも蛇なの?」
「伝説の生物、キメラだよ。ただこいつ自身はキメラじゃない。」
「どういうこと?」
「こいつは邪悪な悪夢人。その身を人の望むモノへ変貌させる代わりに、邪悪で不遜な欲望を喰らい尽くす悪魔。最も強い欲望に惹かれるベイダーよ」
---------------------
人の望む姿…欲望を喰らう…悪魔。グリム・インク…キメラから、飛龍へ。誰かの…望んだ姿?!
ゼクシードは逃げる足を止め、飛龍の方へ振り返る。
「ゼクシード!!!止まるなぁ!!!」
その奇行に慌てふためくグレイの姿。
「あの飛龍が…あの場にいた誰かの望む姿なら…」
僕も…望むよ。セナ…君に会いたいと…。
ピシィーーー!!
飛龍は禍々しい闇のオーラに包まれたかと思いきや、その姿を、ある男の姿へ変え、地に落ちていく。
ズバッ!パキン!パキン!サバァ!!
空から落ち、多くの木の枝に体を打ちつけ、地に落ちる男。グレイも顔馴染みのあるその男は、セナ=ジークフリートであった。
「え?!セナさん?」
「グリム・インク…ルヴィアが言っていただろ。この悪魔は、その人が最も強く思う欲望に姿を変貌させると。今この場で1番強い欲望を出したのは僕なんだ。だからこの悪魔は、セナに姿を変えた」
「じゃああの飛龍は…」
「あの場にいた誰か、君たちでないなら、大魔法省の誰かの欲望の形だ」
「ぅ…ぅ」
「セナ?」
「ゼクシード…?」
セナに姿を変えたグリム・インクは、本来知り得ないゼクシードの名を語り始める。
「どうして?セナさん本人じゃないのに!」
未だ謎多き存在、グリム・インク。それでも声も、見た目も、そして記憶も、全てがセナ本人のそれであった。
「セナ…君の出身は?」
「明地・アレクリア…」
「明地?それがセナさんの…そしてお父さんの…」
セナの口から語られる出身地。アレクシードが住まう未界の地。
「そこはどんなところだ?」
「分からない…」
自分の出身地である明地・アレクリア。しかし、その地の事を一切語らない。否、覚えていないセナ。
「話を変えよう。靭を覚えているか?君が作った組織だ」
「あぁ…いかにも…」
「メンバーは?」
「ハナ…デモンズ…カガチ…ナギ…トール…ゼクシード…」
ゼクシードはグレイと目を合わし、何かを察する。
「もしかしたら…これは、僕の記憶が…そのまま彼の記憶になっているのかもしれない」
「どういうこと?」
「皮肉だ…彼は僕を真に…靭の仲間だと思っていなかったはずだ。きっと、この偽りのセナは、僕の抱く欲望、そのままだ。彼の出身については、聞いたことがあった。でも、詳しくは知らない。きっとグリム・インクも、僕の記憶を喰らい、そこで見たことしか語れない…セナじゃないから」
グリム・インク
人の望む姿に変貌し、その欲望を喰らう悪魔。愛する者、親しい者、大切な何か、憧れるもの、そして野心。何から何まで1番強い欲望に姿を変え、それに擬態することのできるベイダー兵器。その真の力は他人の記憶に干渉し、そのものに成り替わることだった。
ゼクシードの欲望を喰らい、飛龍から他人の姿に変身したことで、空から落ち、大怪我を負ったグリム・インクは、セナの姿のまま、ゼクシードに担がれ、月光丸へ帰還する。一緒に、ルヴィアの居住地にある檻の中で泣き喚いていたグリム・ドックと、研究室にあった残された小瓶に入る青色のスライムも回収する。
「これからどうする?」
「勿論!ルヴィアを助けにいく!」
ワンッ!!ワンッ!!ワンッ!!!
グリム・ドックもグレイの意見に賛成らしい。
「すいません、ランマルさん…遠回りになってしまって」
「構わないさ。それに、君の友がニホン国に向かってくれているのだろ?なら何の心配もない」
「2人もいいかな?」
「別にあの女の子好きくないけど…グレイの頼みなら聞かないわけにはいかないわ!」
「グレイに任せる」
「なら、俺のわがままに付き合ってくれ!ルヴィアを助けて、大魔法省をぶっ飛ばす!」
「フッ…大きく出たな…。」
この世界で現状、UMNと並ぶ二大組織の一角。どんな理由があろうとも、それほどの規模の組織に喧嘩を売るということは、人間界で死を意味すると同義。それでもグレイは1人の友のために立ち上がる。ルヴィアを助けるために。
「どうやっていこうか…やつらは空を飛んで行ってしまったが」
「決まってるだろ。グリム・インク、力を貸してくれ」
グレイはベッドに横たわるセナへ協力を仰ぐ。
「ヤミノマジョノコ…」
「「「「?!」」」」
それは先ほどまで話していたセナの声とはまるで違う。言ってしまえば、グリム・インク本来の声とも捉えられる。
「クロエサマ…ワタクシメヲ、オタヨリニナルトハ」
「何を…言っているんだ?」
「コノミ、コノタマシイ、スベテハアナタサマノモノデス」
グリム・インクは、セナから小悪魔に姿を変え、月光丸の外へ出ていく。
そして、月光丸の頭上で、もう一度闇のオーラを纏わせ、その姿を朱色の飛龍に変える。
グリム・インクの、グレイに対する気がかいな発言。
それでも、今は完全にこちら側に協力的なため、グレイは深くまでは考えず、グリム・インク、又の姿を飛龍の力を借りて、イースト大陸中部、大魔法省、並びに大魔法省が管轄するアステラ監獄へ向かって飛龍を飛ばす。
飛龍はその強靭な2つの腕で月光丸の船体を掴み、空高く舞い上がる。
「うぉおおお?!すごい!これが、飛ぶ感覚?!」
「飛龍…さすがは伝説の生物だ」
「凄い!!凄いよグレイ!!私たち今空を飛んでるのよ!!」
「これは夢か?!」
ハムタウン上空を旋回し、そのままイースト大陸の方角へ目掛けて加速していく飛龍。
グレイたちの、ルヴィア奪還作戦が始まる。
飛龍は咆哮を放ち、グレイたちを威圧する。
「これが…グリム・インク…まるでドラゴンじゃないか」
「グレイふせろ!」
ランマルの声に体が反応し、体を伏せるグレイに、炎のブレスを吐き付ける飛龍。
ボボボボボボボッ!!!!!
魔獣の森は一瞬にして大火災となる。
「こいつ!こっちが遠慮してアルビニウム抑えてたってのに!」
ルヴィアの住まう森を焼いてはいけないと思っていたグレイは、ベルド戦でアルビニウムを使用しなかった。にも関わらず、グリム・インクは至極当たり前かのように炎のブレスを吐きまくり、周囲を燃やし尽くす。
「いい加減にしろよお前!!!」
「無属性魔法、ルミナス・ショット!!」
ピュンピュンピュン!!!
ニーナは無属性魔法の光線で飛龍の翼を狙い、高度を落とさせる。
「ナイスだ、ニーナ!!」
「火炎・一閃」
さらにランマルは刀に炎を纏わせ驚異的なジャンプ力で飛龍の高さまで飛び、顔を横に切り付ける。
グッガァァァア!!!
暴れ回る飛龍の腹へ飛び込み、拳を打ちつけるグレイ。
グッガァァァア!!!
一度地につき、飛龍の動きを観察する一同。
「ニーナ!もう一回だ!」
「わかったわ!!ルミナス・ショット!!!」
ピュンピュンピュン!!!
飛龍へ向かう無属性魔法の光線に対して、急激な上昇を見せ天空で攻撃を避ける飛龍。さすがに同じ手は食わんと言わんばかりであった。
「あそこまで飛ばれては攻撃が届かないぞ」
「ゼクシード!何か良い案はない?!」
「急に言われても…来るぞ!」
上空数千メートルからもの凄い速度で直下してくる飛龍。そのまま炎のブレスを放つ。
「とりあえず散開しろぉぉおお!!」
ゼクシードの大声で東西南北、それぞれに広がる一同。
そして狙われたのはニーナ。
「なんでこっち来てるのよーーー!!!!」
ニーナ目掛けて森を低空飛行していく飛龍。そのまま炎のブレスを放ってニーナの周囲の木々を燃やして通せん坊する。
「こっちだ!」
右からの呼びかけられ、グレイの声に引かれて、ニーナはグレイの元へ駆け出す。2人は合流して、それを追う飛龍。
「前へ行け!」
ブレスの構えを見せる飛龍の動きを見て、ニーナを1人先へ行かせ、ブレスの対処に残るグレイ。
グッハァ!!ボーーーーーーー!!!
飛龍の放つ炎のブレスを体全身で止めて見せるグレイ。
「クッ…」
メラメラメラメラ。
「魔法…のはずなのに、熱い…」
魔力耐性を持つグレイには大したことないかに思われた攻撃が、まさかの想像以上の火力でグレイは火傷を負う。
飛龍は自分のブレスに飛び込んできたグレイに思わず目を丸くし、明後日の方向へ飛んでいく。
次に狙われたのはランマルだった。
「こっちか…。ついてこい!ドラゴン!」
ランマルが飛龍を引き連れている間にニーナはグレイに駆け寄る。
「グレイ大丈夫?!」
「あぁ、問題ない…。ただ…あのブレス、相当な威力があるよ。みんなが喰らったらひとたまりもないかも」
『それは違うなグレイ』
「シルフィア?」
『彼奴のブレスには…闇の魔力が込められている。あれはただの炎にあらず…じゃな。お主の特異体質は…闇属性魔法には少々効果が薄いらしい…』
「え?!それ本当?」
『そうじゃ』
初めて知る自分の特異体質『魔力耐性』の弱点。それは、闇属性魔法に効果が薄いこと。
闇属性魔法を得意としていたジュラ=バッキンガム相手には何とも感じなかったが、今目の前で対峙しているグリム・インクは、ジュラ以上の闇属性魔法の使い手で出力が出せるということなのだろうか。
『真なる悪魔と偽りの力を同じだと思わぬことだ』
「どういう意味?」
『いずれわかる。今はお仲間が危険じゃぞ』
「?!」
グレイはシルフィアの指摘に従って、ランマルの元へ駆けていく。
ーーそうだ。とりあえず今しなきゃ行けないことはあのグリム・インクを止めて、みんなを守ること。それ以外に考えることなんかいらない。
「ランマルさん!!!こっちです!」
「?!」
ランマルはグレイに気づき、方向転換をしてグレイの元へ駆けていく。
「シルフィア!!力を貸して!」
実体化したシルフィアはグレイの合図に合わせて風属性魔法を展開する。
「いくよ!」
『あぁ』
「精霊武装・風魔拳!!!」
シルフィアと自分のストレートのタイミングを完璧に合わせ、0コンマ数秒の誤差のうちに抑えた風属性魔法を纏いし拳が飛龍へ襲いかかるが、グレイが前へ来たことで、飛龍は旋回して上空へ舞い上がる。
「?!」
ーーまた逃げられた!!それより…次は
ゼクシードが狙われた。
「ニーナ!カバーに入ってくれ!ゼクシードは魔力適性が無いんだ!」
「嘘?!やばいじゃん!!!」
ここにきて魔法が一切使えないゼクシードが飛龍に狙われる。
「僕の方に来たか…考えろ」
ーー考え続けろゼクシード!君にはそれしか取り柄が無いだろ!考えろ!!!!考えろ!!!!
ーーー------------------
「これは…ライオン?それとも蛇なの?」
「伝説の生物、キメラだよ。ただこいつ自身はキメラじゃない。」
「どういうこと?」
「こいつは邪悪な悪夢人。その身を人の望むモノへ変貌させる代わりに、邪悪で不遜な欲望を喰らい尽くす悪魔。最も強い欲望に惹かれるベイダーよ」
---------------------
人の望む姿…欲望を喰らう…悪魔。グリム・インク…キメラから、飛龍へ。誰かの…望んだ姿?!
ゼクシードは逃げる足を止め、飛龍の方へ振り返る。
「ゼクシード!!!止まるなぁ!!!」
その奇行に慌てふためくグレイの姿。
「あの飛龍が…あの場にいた誰かの望む姿なら…」
僕も…望むよ。セナ…君に会いたいと…。
ピシィーーー!!
飛龍は禍々しい闇のオーラに包まれたかと思いきや、その姿を、ある男の姿へ変え、地に落ちていく。
ズバッ!パキン!パキン!サバァ!!
空から落ち、多くの木の枝に体を打ちつけ、地に落ちる男。グレイも顔馴染みのあるその男は、セナ=ジークフリートであった。
「え?!セナさん?」
「グリム・インク…ルヴィアが言っていただろ。この悪魔は、その人が最も強く思う欲望に姿を変貌させると。今この場で1番強い欲望を出したのは僕なんだ。だからこの悪魔は、セナに姿を変えた」
「じゃああの飛龍は…」
「あの場にいた誰か、君たちでないなら、大魔法省の誰かの欲望の形だ」
「ぅ…ぅ」
「セナ?」
「ゼクシード…?」
セナに姿を変えたグリム・インクは、本来知り得ないゼクシードの名を語り始める。
「どうして?セナさん本人じゃないのに!」
未だ謎多き存在、グリム・インク。それでも声も、見た目も、そして記憶も、全てがセナ本人のそれであった。
「セナ…君の出身は?」
「明地・アレクリア…」
「明地?それがセナさんの…そしてお父さんの…」
セナの口から語られる出身地。アレクシードが住まう未界の地。
「そこはどんなところだ?」
「分からない…」
自分の出身地である明地・アレクリア。しかし、その地の事を一切語らない。否、覚えていないセナ。
「話を変えよう。靭を覚えているか?君が作った組織だ」
「あぁ…いかにも…」
「メンバーは?」
「ハナ…デモンズ…カガチ…ナギ…トール…ゼクシード…」
ゼクシードはグレイと目を合わし、何かを察する。
「もしかしたら…これは、僕の記憶が…そのまま彼の記憶になっているのかもしれない」
「どういうこと?」
「皮肉だ…彼は僕を真に…靭の仲間だと思っていなかったはずだ。きっと、この偽りのセナは、僕の抱く欲望、そのままだ。彼の出身については、聞いたことがあった。でも、詳しくは知らない。きっとグリム・インクも、僕の記憶を喰らい、そこで見たことしか語れない…セナじゃないから」
グリム・インク
人の望む姿に変貌し、その欲望を喰らう悪魔。愛する者、親しい者、大切な何か、憧れるもの、そして野心。何から何まで1番強い欲望に姿を変え、それに擬態することのできるベイダー兵器。その真の力は他人の記憶に干渉し、そのものに成り替わることだった。
ゼクシードの欲望を喰らい、飛龍から他人の姿に変身したことで、空から落ち、大怪我を負ったグリム・インクは、セナの姿のまま、ゼクシードに担がれ、月光丸へ帰還する。一緒に、ルヴィアの居住地にある檻の中で泣き喚いていたグリム・ドックと、研究室にあった残された小瓶に入る青色のスライムも回収する。
「これからどうする?」
「勿論!ルヴィアを助けにいく!」
ワンッ!!ワンッ!!ワンッ!!!
グリム・ドックもグレイの意見に賛成らしい。
「すいません、ランマルさん…遠回りになってしまって」
「構わないさ。それに、君の友がニホン国に向かってくれているのだろ?なら何の心配もない」
「2人もいいかな?」
「別にあの女の子好きくないけど…グレイの頼みなら聞かないわけにはいかないわ!」
「グレイに任せる」
「なら、俺のわがままに付き合ってくれ!ルヴィアを助けて、大魔法省をぶっ飛ばす!」
「フッ…大きく出たな…。」
この世界で現状、UMNと並ぶ二大組織の一角。どんな理由があろうとも、それほどの規模の組織に喧嘩を売るということは、人間界で死を意味すると同義。それでもグレイは1人の友のために立ち上がる。ルヴィアを助けるために。
「どうやっていこうか…やつらは空を飛んで行ってしまったが」
「決まってるだろ。グリム・インク、力を貸してくれ」
グレイはベッドに横たわるセナへ協力を仰ぐ。
「ヤミノマジョノコ…」
「「「「?!」」」」
それは先ほどまで話していたセナの声とはまるで違う。言ってしまえば、グリム・インク本来の声とも捉えられる。
「クロエサマ…ワタクシメヲ、オタヨリニナルトハ」
「何を…言っているんだ?」
「コノミ、コノタマシイ、スベテハアナタサマノモノデス」
グリム・インクは、セナから小悪魔に姿を変え、月光丸の外へ出ていく。
そして、月光丸の頭上で、もう一度闇のオーラを纏わせ、その姿を朱色の飛龍に変える。
グリム・インクの、グレイに対する気がかいな発言。
それでも、今は完全にこちら側に協力的なため、グレイは深くまでは考えず、グリム・インク、又の姿を飛龍の力を借りて、イースト大陸中部、大魔法省、並びに大魔法省が管轄するアステラ監獄へ向かって飛龍を飛ばす。
飛龍はその強靭な2つの腕で月光丸の船体を掴み、空高く舞い上がる。
「うぉおおお?!すごい!これが、飛ぶ感覚?!」
「飛龍…さすがは伝説の生物だ」
「凄い!!凄いよグレイ!!私たち今空を飛んでるのよ!!」
「これは夢か?!」
ハムタウン上空を旋回し、そのままイースト大陸の方角へ目掛けて加速していく飛龍。
グレイたちの、ルヴィア奪還作戦が始まる。
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