グレイロード

未月 七日

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第三章 〜新たなる冒険

63話 『十冠のクロエ』

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 グレイがジュラをぶっ飛ばしたことでファントムゲートに亀裂が生じ、そのまま崩壊していき、見知らぬ部屋に佇むグレイ。
「どこだここ…」
 パリンッ!シュゥーーーーー。
 グレイは水属性版のアルビニウムが詰まったケースを破壊し、燃え盛る白炎を鎮火させる。

「これ本当に便利だな。さすがゼクシード」
 タッタッタッタッタッ!!!

 何やらものすごい勢いで階段を駆け上がる音が聞こえ、グレイは背後にある大扉に目をやると、大扉は思いっきり開き、シオンが姿を現した。
「シオン?!」
「ここにいたか…グレイ。ん?やはりお前だったか…ジュラを倒したのは」
「あったりまえよ!」
 グレイは肘を曲げて筋力を見せつけるようにアピールする。
「そっちも?」
「俺は十光の1人をやった。人器もここにある」
 そう言ってシオンは、十光から回収した人器・武田応扇火を見せる。
「他のみんなは大丈夫かな?」
「まだ他のやつには会ってない。」
「じゃあ向かうか!」
「そうだな」

 ゴロンッ。
「「?!」」
 何やらジュラが倒れた方から石ころが動く音がし、2人はジュラに目をやると、ジュラは少しずつ体を起き上がらせ、立とうとしていた。

「この…ガキ…ども。ただで…帰れると…思うなよ」

「やっぱり不死身って話は本当らしいな」
 アズマの事前リークによってヴァンパイアの遺伝子を体内に取り込んでいたジュラが直接的に倒しきれないことを知っていたシオンたち。
「でもお前、太陽の光が苦手なんだろ?」
「なぜ…それを?!」
 自分の弱点がシオンたちに知られて驚愕するジュラ。
 シオンはすぐに煉獄の力でホラーナイトキャッスルの天井をぶち抜き、部屋の中心に陽の光を差し込ませようとする。
「待て!!!!!」
 ボボボボボッッッ!!!ズバン!!!!ズバン!!!!!ズバン!!!!!
 3枚ほどの屋根をぶち破り、一本の陽の光が部屋に差し込む。

 陽の光を間に睨み合うジュラとシオンたち。

「ユウキ=シオン…貴様…よくも我が城を」
「そんなに大事なら身を挺して守ってみろよ?陽の元でな!!」
「クッソ…ガキャァァァアアィ!!!!」
 ズババババババン!!!!!
 ジュラは闇属性のオーラを最大限に放出し、グレイとシオンの2人を威圧する。
「グレイ!合わせろ」
「分かった!!」
 2人は解き放たれた闇属性オーラの中へ駆け出す。

「煉獄…」
 シオンは剣に煉獄の黒炎を纏わせジュラに狙いを定める。
火燕烈火斬ヒエンレッカザン
 横一閃に伸びる黒炎は、羽を開いた燕のごときスピードでジュラを追撃する。
「闇属性魔法・暴食の悪魔グラトニー・デスペアー!!!」
 闇のオーラを纏いし大きな口を開いた悪魔のような壁がジュラとの間に立ちはだかり、いかなる魔法も吸い込み捕食してしまう。
 そして、その奥からは捕食した魔法をエネルギー源として発動させた魔法攻撃が飛んでくる。
 ヒュルルルル!!!!バリバリバリバリ!!!
 闇のオーラを纏いし渦巻きは床をえぐり、2人に襲いかかる。

ーーシオンがやってた。こういう時は…横に広く!

 タッタッタッタッタッ!!!
 グレイはシオンから離れ横いっぱいにスペースを取るため走り出す。
「グレイ…?!フッ!つくづくお前は」
 シオンもグレイの意図を読み取り逆方向に走り出し、ジュラを撹乱、翻弄する。

ーー煉獄・炎天ノ矢エンテンノヤ

 ジュラの攻撃から逃げ回りながらシオンは隙あらば遠距離攻撃でジュラを迎撃する。
 それに呼応するようにジュラに詰め寄るグレイ。
 ジュラは煉獄・炎天ノ矢に対してグラトニー・デスペアーで対応するも、逆方向から走り込むグレイには体術で応戦。懐に跳び込んできての回し蹴りを右腕で受け、そこから逆回転の空中回し蹴りを左腕で受けるも、グレイの膂力に負けもろに頭に喰らってしまう。
「グハァ!!」
「煉獄…」
「ユウキ?!」
 グレイの強打を喰らいながらも視界の端にシオンが詰め寄ってくるのを捉えるジュラは、自分を中心に闇属性の拘束魔法を展開。
「デーモンクラッチ!!」
 ゲートを介して暗黒世界から呼び出された無数の黒い手がグレイとシオンの2人に襲いかかる。
「煉獄・蛇目!!…クッ…ゥグレイ!!」
 シオンは煉獄の黒炎で対峙するもその黒い手の多さに押され、全身を無数の闇に包み込まれる。
「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!おらぁ!!!!!!」
 ズバン!!
 一方グレイは、自分に掴み掛かる全ての手を無力化し、掻き分けながらジュラの右頬に左ストレートをぶちこむ。
 さらに服の肩を引っ張り、部屋の中心、陽の光の差し込む場所へジュラを引っ張り、もう片方の手で襟元を掴んで投げ飛ばす。
「やめ…て、くれ…」
 投げ飛ばされたジュラは抵抗する力がなく、簡単に宙を舞い、陽の光が当たった部位が焼けこげ煙を上げる。
 ジュァァァァァァァ!
「イギャァァァアアアア!!!!」
 身体が陽の光にさらされ、その照り焼け痛みに叫び声を上げるジュラ。その四肢は焼け落ち、溶けていく。
 それを他所にグレイは闇属性の拘束魔法・デーモンクラッチに囚われるシオンを救い出すため、黒い球体に爪を食い込ませ、指を突っ込んで引き裂く。
「ふん、ぎぃぃいいいい」
 ベリベリベリ!!
「シオン!!!!」
「助かったよ…グレイ」
 シオンはグレイに無事救出され、2人でジュラの最後を見届ける。

 足や腕の四肢は焼け溶け、あの場から移動することもできず、ただひたすらに焼かれ死ぬのを待つジュラ。
「あの男…不死身はいいが、陽の元で戦えず、陽の光を浴びれば、あれだけ苦しむことになる。リスクだって馬鹿にならないだろ」
「あの人は男じゃないよ」
「ん?」
 シオンはジュラを男と表現したがグレイはそれを否定する。
「あの人は歴とした女性。だからヴァンパイアなんだよ」
「…。」
 ジュラ=バッキンガム。その素顔と体を直視したグレイにだけわかるジュラの性別。その取り繕った化粧の下は凛々しく整った顔に無数の手術痕と縫い目の嵐。そして、胸は削がれ傷跡が残る。それが何のためか、理由なんて本人にしかわからない。女を辞めたかったのか。男に憧れたのか。それとも他に理由があるのか。世界はまだまだ広く、人口も増え続け、その分だけ無数で色とりどりな価値観が生まれる。それでも、共通してやってはいけないことはある。その禁忌を犯す限り、UMNやグレイたちはその悪事を見過ごさない。

ーー私の野望はここで終わるのか。セルシア…ラプトゥーヌ…ベンジャミン…。私はお前たちに何か形あるものを残せただろうか。この狭く澱み腐り切った世界で、誰にも必要とされず真意を奥底に閉じ込めてしまったお前たちに…羽を大きく伸ばし、自由に羽ばたける世界を、与えてやれただろうか…。それとも…さらなる地獄を与えてしまったか。



 闇ギルド『サモン・スカルパー』ギルドマスター・ジュラ=バッキンガム、死去。
 グレイおよびシオンの勝利。

「やったな」
「うん。でも…」
「あぁ」
「「まだ終わってない」」
 シオンとグレイは、その身が動く限り、次は仲間たちのために動く。
 ホラーナイトキャッスルの最上階での一戦に勝利した2人は階段を駆け下り、他に飛ばされた仲間たちを探す。
 


『第八の間』にて。
 十光の1人と肉弾戦を繰り広げていたベルモンドの元へ駆けつける巨体。
「のぉぉああああああ!!!」
 ズゴン!!!!!バキバキバキバキ!!!
 ダズ=バッハトルテが十光の1人に奇襲を仕掛け、脳天に鉄槌を下し床にめり込ませ、そのまま二撃目で床から突き落とす。
 ズドーーーーン!!!!!
「おいおいおい…バケモンかよ…」
「無事だったか?ベルモンド」
「あんたのおかげでな…」
 無事…と呼んでいいのか、額や口から流血をし、腕などに青あざを作るベルモンドに無事かと野暮なことを聞くダズ。

「そうだ!!ソウヤは?あいつもきっと俺と同じで」
「落ち着け…まだソウヤは見てない。これからだ」
「急がねーと!嫌な予感がすんだ」
「おめぇーはもう動けねーだろ」
「なめんじゃねーぞ!ダズ!俺はもう自分の手が届かないところで仲間を失うことなんか懲り懲りなんだよ!!ミヒャの二の舞を演じるわけにはいかねーんだ!!」
 3年前の旧ドセアニア王国襲撃事件の被害者となったミヒャ。その間、主犯格組織の靱のアジトで足止めを喰らっていたベルモンド。それが間違いだったとは思わないし、トールと交わした男と男の約束。それでも、自分は何かしていたわけじゃない。動こうと思えば動けた状況で仲間を見殺しにしたことと変わりないと感じるベルモンドにとって、今回も状況は同じである。
 ジュラにファントムゲートで異空間に飛ばされ、ソウヤと離れ離れになり、それでもしっかり十光と対峙するという役目を与えられ、現在に至る。何も間違ったことはない。それでも、今足を動かさず、ソウヤを死なせるようなことがあっちゃならない。家族をもう2度と失いたくないから。
「行かせろや!!ダズ!」

ーー-------------------

『第六の間』で見事十光の1人を無傷で倒したマジカルリバティー・ヨシノと合流を果たしたミネルバの弟子・リルロッテは、気を失った十光の1人を背負って、そのまま『第七の間』に現着して、ミネルバ、スメヒロ、マジカルリバティー・ヨシノ、リルロッテの4人対十光の2人の構図を作る。

「まさか…ここまで数が増えるとは」
「どうすんだよナリータ!」
「人器は決して奪われてはならない…一旦引くぞ」
「くそっ!こうなっちゃ仕方ねーか。ニーナはどうすんだ?」
 ニーナ。マジカルリバティー・ヨシノが無傷で倒した十光の少女の名だ。マジカルリバティー・ヨシノがここまで担いできたからだ。
「ニーナは置いていく。撤退するぞ」

 ビビビビビビビッ!!!ビュン!!ビュン!!ビュン!!ビュン!!
「「?!」」
「「「「?!」」」」
 十光の2人の背後に突然現れる闇属性を媒介とした黒き4つのゲート。
「なんだこのゲートは?!」
 
 そこから現れたのは白いローブに身を包み、それぞれの担当する色と十光のシンボルが入った腕章を右腕につけた4人の人、いや人ならざる者も混じった構成隊だった。
「撤退って、一体どこにだよ?雑魚ども」
「誰だ…貴様らは」
「真十光…つっても分かんねーか?何せ存在も知らされず、自分たちが十光だと勘違いしてた連中だもんな!!!」
「真十光?!勘違い?!何を言うか…一体何を?!何を、何を」
「ナリータ!!落ち着け!」
 瞳孔が思いっきり開き、現状を整理できないナリータは意識を飛ばす。
「ナリータ!!おい!ナリータ!!!」

 ガランッ!!
 ナリータは人器を落とし、気を失う。そして、人器は元の柄の状態に収縮する。
 グチャッ!!
「ハッ?!?!」


 元の姿に収縮した人器を拾うエグゼクトは、そのままナリータの頭を踏み潰し、もう1人の十光・デグスへ歩み寄る。

「てんめぇ!!何もんか知らねーが!殺してやる!!!!」
「だから~もういいや、馬鹿はさっさと死ねや」
ーー血属性魔法ケツゾクセイマホウ血染め纏いエンチャント・ブラッド

 エグゼクトは異質な属性魔法を展開し、先ほど手にかけたナリータの体内から大量の血液を徴収し、自らの右腕に纏わせる。
「てんめぇ!!!!!」
 人器・羊王猛毛の拳を右手で受け止め、人器が生成する綿飴のような毛玉に大量の血を吸わせ、その重さに耐えきれず、毛玉は地に落ち、デグスの身から剥がれる。
「なんだよ?!この魔法は」
「おら、アホはさっさと死ね」
 グチャッ!!!
 エグゼクトはデグスの頭を鷲掴み握りつぶす。

 そして2本目の人器を回収する。


「何が…起きてるの?」
「仲間割れ…ですか」
「リルロッテさん、彼女を。そして女性方、後ろへ」
 目の前の光景に驚愕するミネルバとリルロッテ、そしてスメヒロの3人と気を失ったニーナを下がらせ1人前に出るマジカルリバティー・ヨシノ。
「恐ろしいですな…真十光」



「少々驚きましたね。エグゼクトより頭の足りない者が十光になっていたとは…」
 デグスの頭の悪さを無意識に馬鹿にしてしまうアパッシオ。
「どう言う意味だよ!アパッシオ!」
「そのままですよ」
「無駄口を叩くな。奥の女も十光だろ。さっさと行け」
「はいよ」
 イナの命令によって、十光の1人、ニーナの元へ歩み寄るエグゼクト。それに正面から面と向かって対峙するマジカルリバティー・ヨシノ。しかし、その表情は曇り、冷や汗をかくほど。
「いいねぇ、ビビってるくせに目は逸らさねーな。ジヒヒヒッ!!」
 ゴクリッ…。来る!!!

「伏せろ!!」
「?!」

 背後から聞こえてくる少年の高い声。
「煉獄・火燕烈火斬!!」 
 ヒュゥーーーーーーン!!!!!
 甲高い燕の鳴き声にも似た空を切る音とともに煉獄の黒炎がエグゼクトに向かって襲いかかる。合図と共にマジカルリバティー・ヨシノは体を低くし、火燕烈火斬の軌道から外れる。
 そのままエグゼクトの体に火燕烈火斬が炸裂する。
 ボボボボボッ!!!!!!
「ユウキ君!!」
「ユウキさん!!」
「ユウキさん!!」
「これはこれは、カッコいい登場ですな…憧れますぞ」

 遅れて現着するはジュラを倒して駆けつけてきたシオンとグレイだった。
「またしても俺たちは当たりらしいな」
「つくづくね!!」

 シオンの煉獄の黒炎を喰らって腕を火傷するエグゼクト。しかし、その皮膚の厚さは尋常ではなく、致命傷には至らない。
「ふーーー、良い炎だ。黒炎とは珍しい属性を使うな」

「全然喰らってないじゃん」
「うっせー」
 グレイはシオンをおちょくるも、内心ではあの煉獄がこれほどのダメージしか与えられてないことに焦りを覚える。そして、それはシオンも同様だった。

 改めて対峙する真十光、
 朱皇・エグゼクト
 青皇・アパッシオ
 紫皇・イナ

 そして4人目は…

「え?!ドゥーぺ??」
「「「?!」」」
 グレイの発言に耳を疑う真十光の皇帝たち。
「なんだと?」
 イナはグレイに真意を問う。

「だってその狐の仮面。模様も何もかもドゥーぺがつけてたのと一緒だ。髪は…短いけど」

 イナら真十光と共にホラーナイトキャッスルに襲来したもう1人の刺客。赤と青の模様が入った狐のお面をつけた黒髪ボブほどの皇帝。その服装は他の真十光らと同様に白基調のコートに己が担当する色と十光のシンボルが入った腕章を右腕につけた見た目。
 それでも外見はどことなくグレイの知るドゥーぺに似ていた。

「…。」
 ドゥーぺと思わしき人物は一向に口を噤み、グレイから顔を逸らすような素振りを見せる。

「何を言うかと思えば、こいつがドゥーぺ様だって??ジーヒッヒッヒッヒッ!!ありえねーだろ!!なぁ!ソラ!」
 コクリッ。
 エグゼクトにソラと呼ばれる最後の真十光の1人。空皇クウコウ・ソラ。

「ソラ?じゃあ本当にドゥーぺじゃないんだ…」
「知り合いじゃないのか?」
「違うらしい…」
 正直、シオンには敵が誰であろうが関係のないこと。裏組織の関係のあるものは情報を抜いて殺し、それ以外はただ倒すだけに過ぎない。

「アパッシオ、他の人器はどこにある」
 イナは人器の位置を正確に把握できるアパッシオに星界の使徒が保有していた人器の全ての位置を聞く。
「現在回収した2本を抜いて、この場に3本あります。2本はあの少年たち2人が待っていますね」

「「?!」」
ーーバレてる?!。

「そしてもう1本は後ろの少女が持っています。その他には…3本は下の階に、2本は…移動中、1本は逆方向に、もう1本は何やらこちらに接近してきていますね」

「そうか。ならばアパッシオ、ソラ、お前たちは下にある3本を回収しに行け。エグゼクト、お前は目の前の奴らを全員始末しろ。残り1本は到着次第回収する」
「御意」
「…。」
「全員始末!!!了解だぁ!!!!!」
 それぞれが人器回収に動く新十光たち。
 アパッシオは水属性魔法で床に穴を開け、ソラと共に下層へ降りていく。
 そしてこの場に残ったエグゼクトとイナを相手にグレイとシオンは奮闘する。
 
「オラァ!!!!」
 バチバチバチバチ!!!!!
 エグゼクトの拳に対して、黒炎を纏わせた剣で受け止めるシオン。しかし、その強靭な皮膚は刃を通さず、火花を散らす。
ーーなんて肉体してんだコイツ。
 ガキンッ!!ガンッ!!ガンッ!!!バチンッ!!!
 スーーーッ!!スーーーッ!!
 シオンはエグゼクトの拳を弾き飛ばし互いに後退する。

 一方グレイは、イナを機動力で掻き回し、イナを中心に駆け回って隙を見て殴りや蹴りを入れるも、イナは両手をポケットに入れたまま、全てを攻撃に対し、目を瞑って避ける。 
 スカッ!!!!スカッ!!!!スカッ!!!!スカッ!!!!
「全然当たらない!!」
 スカッ!!!!スカッ!!!!
 気配や呼吸でも感じ取っているのか。目を瞑って素早いグレイの攻撃に全て対処できているなんてありえない。
 
 攻撃を避けつつ左手をポケットから出す素振りを見せるや否や、グレイはイナから一気に距離を取る。
「ほぉ…攻撃が来ると察したか。冷静だな…」
「そっちこそだいぶ余裕だな」
「貴様の打撃など、何度も打ち込んでも当たりはしない」
「随分と自信があるみたいだな!!」
 タッタッタッタッタッ!!
 再びグレイは接近した飛び蹴りを繰り出すも、動作が大ぶりで避けられてしまう。その後の拳の連打も全てすかされ、言葉通り一撃たりとも当たらない。もはや白いコートを掠めることさえできない。

「避けることに特化した能力か?」
「どういう意味だ?」
「一撃でも喰らったら脆いから避けに特化してるんじゃないのか?!」
「フッ…戯言を」

 イナは左手をポケットから出し、左手を返してグレイを挑発する。
「貴様の全力でかかってこい、人の子よ。そのことごとくを打ち砕いてやる」
「?!…力比べか!!」
 グレイは残り1つの元祖アルビニウムのケースを手に、イナに向かって駆け出す。
「ならとっておきを見せてやるよ!!!!」

 パリンッ!!!
「喰らえ!!白き鷹の拳アル・ホークス!!」
 イナの目の前で元祖アルビニウムのケースを割り、全身を凄まじい火力の白炎で包み込み、白炎を纏わせた右ストレートでイナを攻撃するグレイ。ジュラに対して放ったアル・ホークスよりかは改良版アルビニウム分の火力が削がれるものの、それでも凄まじい火力を放つ白炎がイナに襲いかかる。
 
 ボボボボボウッ!!!!!!!
 ズバンッ!!!!!

 イナと衝突したアル・ホークスは、その凄まじい衝撃で周囲に白炎を飛び火させ、二次災害を巻き起こすほど。

 そんな威力のアル・ホークスを…まさかの左腕一本で防ぎ切ってしまうイナ。白基調のコートの袖は焼け切れるも白い肌の腕は全くの無傷。
「?!」
「随分と間抜けな面をする。予想もつかなかったか?」
「クッ!!」
 
 イナの腕と触れ合うグレイの右拳。そのまま力任せで押そうとするもイナは微動だにしない。
「これがとっておきとは…底が知れたな」
  
 バッ!!
 イナは左腕を外に広げ、グレイの右拳を弾き飛ばし、そのまま左手でマナを練ろうとする。

 しかし、イナは左手にマナを集められなかった。
「ん…??何故だ」
「???」
 互いに状況が全く理解できないイナとグレイ。

ーーまさか。
 自身の肉体だからこそ理解するイナ。まさかのグレイが放ったアル・ホークスが、左腕に対して、外的には大した傷を受けてないにしろ、内的に細胞や筋繊維をズタズタに引き裂いていたことを察するイナ。
「フッ…これは、予想の範疇を超えていた。まさか…内的障害を与える攻撃だったとは」
 正確にはイナの皮膚が頑丈すぎただけの話で、目で見てわかるほどの外的障害を負わなかったにすぎない。それをイナは、グレイの攻撃は初めから内的障害を与えるものだと推測した。
 マナが練れなくなるほどの障害を受けた左腕に免じて、イナは右手をポケットから出し、己の全力の魔法でグレイを叩きのめそうとする。

「お?!マジかよ」
「ん?」
「久しぶりにイナの本気が見れそうだぜ」
「?!」
 エグゼクトと語らうシオンは、グレイたちの方へ目をやると、そこには凄まじいほどのマナを練り上げるイナの姿があった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!

 もはや大気が震えるほどに、体感でもわかる凄まじいマナ。
「これは…ちょっと不味いな。」
ーー魔力耐性を持つグレイならもしかすると…いや、それでもここまでの魔力は見たことない…。

 イナの練り上げた凄まじい魔力にたじろぐシオン。それをゼロ距離で味わうグレイは一体どんな心情なのか。

「グレイ!!逃げろ!」
「?!」
 イナの練り上げるマナに思わず見惚れてしまっていたグレイは咄嗟に逃げる判断を取れず、ただ足を止め佇むしかなかった。
「クソッ!」
ーーまた俺は目の前で友を失くすのか?いや、あの頃とは違うだろ。何のためにこの煉獄を制御し極めてきたんだ。ここで俺を友達だと認めてくれたあいつを守るためだろ!
「煉獄…」
「消え失せろ…人の子よ」
 ボンッ!!
 イナは広間の三分の一ほどを埋め尽くす巨大な紫炎の塊を生み出す。それは怨念と言うのか、邪念と言うのか、まさに負の感情の全てを詰め込んだような憎しみの紫炎の塊。その巨大な塊を無抵抗なグレイに落とす。
復讐の紫炎弾ヘル・フレックス… 」

 
風の大精霊シルフの加護…」
 突如グレイの元へ現れた1人の女性。
「?!」

 ズババババババババババン!!!!!!!
 パリンパリンパリンパリンパリンパリン!!!
 
 広間中に紫炎の熱が拡大し、一室全てを焼き焦がす。


 場が静まり返り、弾幕が消えると、その場にいた全員は倒れ込み、エグゼクトとイナの2人は佇み、グレイらを見下していた。それだけかと思いきや、グレイの側には1人の黒髪ロングの女性が寄り添っていた。

「?!」
 イナは瞳孔を開き少し驚いた表情を見せる。
「どうしてここに」


 十冠第9位・クロエ。
「間一髪…何とか間に合ったな」
 クロエは風属性の大精霊の力を駆使して、グレイに加護を貼り、ゼロ距離で魔法攻撃を受けたグレイを守り、衝撃を緩和させ、一命を取り留める。

 ザッ!!!!
太陽の裁きネオルクス・イウディカーレ!!」
 ビュン!!!!ビュン!!!!!ビュン!!!!
 光属性魔法の輝きがイナに襲いかかり、紫炎の力で数発防ぐも、ネオルクス・イウディカーレの一撃を右腕に喰らう。
 グサッ!!!!!メラメラメラメラ。
 太陽光、太陽と同等の熱量をもつその光は右腕に刺さった途端、熱で右腕を焼く。
「光属性魔法…?何者だ」

「俺のに手出してんじゃねーよ、クソ野郎」
ーー火属性魔法・烈火衝波!!
 ボンッ!!!!!!!!
 立て続けにイナに対し、片手で火属性魔法を叩き込む魔導士。高レベルな光属性魔法と、B級レベルの火属性中級魔法をいとも簡単に扱うその魔導士の正体は、グレイの義理の兄、カイト=アルケイだった。

「嘘…どうしてここに…レオネード・ハーツNo.3…」
「カイト…様…?!?!」
 かろうじて意識を取り留めていたミネルバとスメヒロは、その魔導士の正体に驚く。

 UMNから派遣され、グレイらの救援に駆けつけた十冠第9位のクロエと、レオネード・ハーツの現No.3・カイト=アルケイ。
 その他にも各所で応援に駆けつける優秀な魔導士たち。




『第三の間』
 サモン・スカルパーの幹部であるセルシアと対峙していたジモンの元へ駆けつける十冠第3位・グレン=スザク。
「元気にやってるか?ジモンのおっさん」
「クハッ!!まさか…お前が来るのかよ!グレン」
「そこは、助かりましただろ?!」
 応援に駆けつけたグレンは大剣を振るい、ジモンが全力で拘束していた鬼のセルシアの首をはね飛ばす。
「さて、次だ」


『第九の間』
 
 偽りの淡き光たちと対峙していたヒュイーゴとアビルの前に現れ、偽の十光を始末し2本の人器を回収したアパッシオたちの前に駆けつけたヒュイーゴと同じ独立ギルド『ミランダ・オリハルコン』所属のタトナ=チルトット(21)とテリア=マンタイ(22)。

「お前ら!!よく来てくれたぜぇ~」
 実力はともかく、これで4対2となったヒュイーゴたち。


『アパッシオ…上へ上がってこい。戦況が変わった』
『御意』
 イナから脳内に直接指示を受けるアパッシオ。
「ソラ…上へ上がりますよ。イナ様を護衛しに行きます。」
 コクリッ。
「相変わらず無愛想な子だ。」
 ソラはアパッシオに寄り添い、穴の真下で浮遊魔法を発動させ、アパッシオと自分を上の階へと送る。

「ヒュイーゴさん!逃げられますよ」
「あぁ~見逃してやれぇ~アイツらは相当やばそうだ。俺たちだけで勝てる相手じゃないよぉ~」
ーーなんとか見逃してくれたみたいで…。にしてもアイツら一体、何だったんだ。



 そして遅れて現着するアズマとマサトと、ベンジャミン=スミス。
「おいおい、城中煙だらけじゃねーか」
「相当むちゃをしていますね」
「こりゃあ大事っすよ!お頭!」
「あぁ、急ぐぞ」
 アズマたちは馬を乗り捨て、ホラーナイトキャッスルに足を運ぶ。

 続々とホラーナイトキャッスルに集まってくる戦力たち。
 突如現れ人器を回収して回る真十光たち。現在回収した人器は4本。そして人器を持つものはダズとベルモンドが倒した1人、マジカルリバティー・ヨシノが倒した1人、グレイとシオンの2人、そしてアズマが持つ1本。
 十冠や複数の魔導士たちが駆けつけた今、真十光はどう動くか。


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18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

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