グレイロード

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第三章 〜新たなる冒険

60話 『決意の力』

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『第四の間』

 恐竜種・ラプトルと化したラプトゥーヌ=ジュラシック相手に真鳥と水星剣の2種類の型で戦うソウヤ。

「ジェット・ダイナソー!!」
「水星剣・水面撫で下ろし!」
 ビュン!!!!!スカッ!!
 飄属性魔法を活かしてジェット機のように地と水平に飛び込んでくるラプトルの姿をしたラプトゥーヌ相手に、水属性オーラを纏いし刃で間一髪、受け流すソウヤ。
 再び地を蹴りものすごいスピードで、幾度となくソウヤに突っ込んでいくラプトゥーヌ。

 ビュン!!!!!キンッ!
 ビュン!!!!!スカッ!
 ビュン!!!!!キンッ!
 
 防戦一方のソウヤは攻撃に転じることができない。
「マモッテルダケカ!!」
 ビュン!!!!!キンッ!
ーークソッ…速すぎる。対処するだけで手一杯だ。

「オマエミタイナ、ザコヲコロスダケデ、ケンショウキン118マイ!!簡単な仕事だ!!!!」

 レオネード・ハーツ、水星剣のソウヤ。闇市での懸賞金は金貨118枚。今年の四秀選考に選ばれたことでその額は跳ね上がる。そんな彼を狙う者も少なくはなく、ラプトゥーヌもまたその1人であった。
「雑魚…確かに、そうかもな。」
 レオネード・ハーツに在籍して今年で11年…。先輩面なんてしたことはないけれど、やっぱり後から入ってきた人たちに抜かされていくのは思うところもあった。ハルミやカイト君、ベルモンドにタッツーさん。みんな必死に努力して、今の地位を確立した。妬ましくないし誇りに思う。でも、時折自分のメンタルがやられたり深く落ち込んだ時、ふと思ってしまう。どうして自分はこんなに弱いのかと。才能なんて言葉で片付けるのはみんなに失礼だ。だから、僕もみんなと同じくらい、負けないように努力したこの3年間。
「僕1人が揶揄されるのは構わないけど…僕の負けがレオネード・ハーツの顔を汚すことになっちゃいけないんだよ!!」

「ハッハッハッ!!!威勢ダケダ!!ジェットォォオオオオ!!ダイナソーォォオオオオ!!!廻」
 ビュルルルルルルルルル!!!!ギュイン!!
 ラプトゥーヌは飄属性オーラを思いっきり回転させ、貫通力を高めた状態でソウヤに突っ込んでいく。
「水星剣・秘奥義二の弾・一刀河仙イットウカセン!!」
 剣を両手で持ち、貯めていたマナを全て解放させ、並外れた魔力量の一撃を振り下ろす。滝が地へ打ちつけるかのような勢いで振り下ろされた水撃はラプトゥーヌのジェット・ダイナソー廻と激突し、ソウヤの剣の刀身を破壊した。

 バキンッ!!!!
「?!…」
 直撃こそは避けたものの、飄属性オーラの風圧がソウヤを襲い、ソウヤは吹き飛ばされてしまう。
ーーベルモンド…また僕は、みんなの足を引っ張るだけになってしまうみたいだ…。ごめん。

 ボンッ!カンカラカン…。


「?!…ソウヤ?!」
「よそ見かクソ野郎!!!!」
『第八の間』にて。
 第八の間に飛ばされたベルモンドは十光の1人、マッシュベルと名乗る人物と対峙していた。互いに筋肉質な肉体から繰り出す格闘術がメインで、土属性魔法の硬化を上手いこと絡めて殴り合っていた。
 そんな最中、ベルモンドはふとソウヤに呼ばれるような感覚を味わう。まさか、そんなことは思いたくはないが、どうにもソウヤの状況が気になり、集中力を欠いてしまう。

「おめぇ、さっきから何を考えて戦ってる?」
「あぁ?別になんでもねーよ」
「俺と対峙してる時に他のことを考えるんじゃねー。俺はな、久しぶりの真剣勝負ができるとミスター・Sに言われて来たんだ!!期待を裏切るんじゃねーよ」
ーーミスター・S、確か煉獄のユウキが追いかけてるやつ…、まさか星界の使徒ともズブズブな関係なのか。

「どうなんだよ?やれんのか?やれねーのか?やれねーんならさっさと負けを認めて死んでくれ。俺は先に行く」
「てめぇーを倒せばここから出れんのか?」
「そうだと言ったら?」
「ぶっ潰してやるよ!こっちもここから早く出てーからよー!!」
「ニシッ!!いいじゃねーか!!」
 すぐに目の前にいるマッシュベルを倒し、ソウヤの元へ駆けつけたいベルモンドと、真剣勝負の怠慢戦闘を望むマッシュベル、互いにバトルはヒートアップしていく。

ーーーーー----------------

 一方、『第三の間』では、鬼と化したセルシアに防戦一方のジモン。風属性魔法を足に集中させ、機動力を高めての逃げ回り戦法で対処するも攻撃に転じることができず、少しずつマナを消費していく。このままではジリ貧でジモンが負けてしまう。

「十冠・ジモン=K=マクガレー!懸賞金金貨742枚。ここで首をいただくぞ!!」
「マジかよ。俺の人生の果てはこんなバケモンに殺されることか…やってらんねーぜ」
「弱き者は淘汰されていく!!!!それがこの世の道理だ」
「…。」
---------------------

 15年前、ジモン(当時15歳)。
「あぁ?!魔導士になりてーだぁ?!やめとけあんなクソ職業は。」
「なんでそんなこというんだよ!」
 セルバースにある個人医院の中で喧嘩する親子。ジモンとドクター・マクガレー『本名・パイモン=マクガレー(当時40歳)』。パイモンはジモンが生まれてすぐに妻とは離婚をし、医院を開き、男手一つでジモンをここまで育ててきた。そんなパイモンも若い頃は無属性魔法メインの神官、後方支援として冒険者をしていた。ジモンの目指す魔導士にも精通する部分があり、魔導士についてはよく存じていた。それを踏まえたうえでパイモンは、ジモンが魔導士になることを反対する。
「なんでダメなんだよ!」
「金になんねーからだ。お前をここまで育て上げられたのは冒険者を辞めて、医者になったからだ。医者はいいぞ!年収金貨3000枚も夢じゃねーからな。」
「金かよ」
「そうだとも。誰のおかげで何不自由なく生きていけてると思ってんだ?1人ならまぁなんとかなるだろうがなぁ、家族を持てば冒険者や魔導士なんて職業はやってられなくなるぞ。あれは人生を不幸にさせる選択だ」
「それは自分がそうなったからか?」
「?!」
 息子に痛いところをつかれたパイモン。冒険者をしながらジモンを生み、生計が立てられず思うように幸せな家庭を築けず、気づけば妻はいなくなり、不安定かつ家を開ける冒険者はこの先続けられなくなり、無属性魔法の治癒魔法を活かした医療分野に転職することにしたパイモン。今更それが間違いだったとは思わないし、今はもう苦労などしていない。人生には浮き沈みがあり、転換期がある。数年後、十数年後先のことなど誰にも分からない。先見の明なんて大それた物は持ち合わせていないからこそ、過去の自分の経験を息子に伝え、正しいレールを引いてやることが親だと思っていた。それでもジモンは頑なに自分の言うことを聞かない。
「俺は父さんみたいな半端な男にはなりたくねー」
「半端だぁ?!」
「やりたいこともできず、幸せも取りこぼして、いつも自分の人生に背を向けてるような生き方なんかしたかねーんだよ」
「クッ!!このガキャア!そこまで言うならでてけ!!!!魔導士でもなんでもなりゃいい!そんで苦労して身にしみるといいさ!あの時医者になっとけばよかったってた!!」
---------------------

 ジモンは父親と喧嘩する形で家を出、さらには故郷であるセルバースを出、15歳にして色々な土地を冒険し、6年前に独立ギルド『リリック・ファンタズマ』に加入し、今こうしてUMNが選考する十冠7位の座に上り詰めた。

「この15年、楽じゃなかったよ…」
「何言ってんだオメェ!」
ーーこんなやつ…通過点にすぎねーんだよ。

「お前…全力出しても勝てねー相手に会ったことあるか?」
「んぁ??今更なんだよ」
「俺はあるぜ!そんで、いつかその男を超える、そのために今までのスタイルを曲げてでもガンスタイルに移行したんだ。」
 基本に忠実で、ひたすら鍛錬を積めば自ずと上達するガンスタイル。悪くはない。スタイルもこの6年で物になってきた実感もある。早撃ちや属性上乗せの強みもある。それでも…
「こいつは俺の理想の姿じゃねー。あの男に負けないために仕方なく強制したスタイルだ。でも今それが、足枷になってんなら、今回ばかりは解禁だぁ」

「さっきからベラベラと、何言ってるか分かんねーんだよ!!!!」

 ジモンは片手に風属性のオーラを、もう片方の手に土属性のオーラを纏わせ、複合させる。
ーー砂属性魔法・砂塵ダスト
 スワァ!!
 両手を合わせ、クロスさせて腕を広げる。一連の流れで砂埃を広域に展開、吹き飛ばし、敵の視界を鈍らせる。
「こざかしい、小手先だけの雑魚が!!」
 ズゴンッ!!
「グァ!!!!なんだ一体?!前が…見えん」
 ジモンはセルシアの周囲に土属性魔法の壁を下から生み出し、敵の意表をつきつつ撹乱する。
 スーーーッ、スワァ!!!スススッ!!
「あーーー、イライラする!!隠れてねーで出てこいや!!」
 視界の悪いセルシアは、とにかく走り回り、この砂塵まみれの世界で無鉄砲に暴れ出す。

「やっぱ単細胞っぽいな、お前」
--砂属性魔法!砂固めサンドロック
「うわぁ!!おお!なんだこれは!!」
 セルシアの赤い皮膚を包み込むように産み出された砂たちが絡まり、四肢をがっちりと固める。
「ググッ!!クァァア!!なんて、力だ??!!」
「動けねーだろ、」
 セルシアの四肢をがっちり固めた砂は、拘束するだけでなく、さらに強く、そして深く絡まり締め上げる。鬼と化し身体能力が向上したセルシアであってもこの拘束からは逃れられない。しかし、そんなジモンであっても強く締めるだけで手一杯。これは鬼と化したセルシアの身体能力ありきの話であるが、締め上げ窒息死させられるだけの力がジモンに無いために、この戦いは延長戦にも連れ込む。
 ジモンの残りのマナ総量によるが、鬼と化したセルシアを倒す手段が今のところ無い以上、マナが尽きてセルシアが解放されればジモンの負け。セルシアを拘束し続け、誰かがこのファントムゲートをこじ開け、セルシアにトドメを刺してくれればジモンの勝ち。
 十冠であっても鬼と化したセルシアを1人で倒すことはできなかった。それだけ鬼の遺伝子は驚異的なものであったと言える。

『第三の間』現状、引き分け。

 ジモンにとって砂属性魔法とは相手を拘束するための手段に過ぎない。複合属性魔法、確かに強力なものであるが、ジモンはその力を過信し、6年前ある男に勝負を挑んで負けた。その男こそ、永年十冠のトップに君臨する最強の男『ゼノハンター』だった。
 ゼノハンターの驚異的な力を前に、当時砂属性魔法だけでのし上がってきたジモンはコテンパンに負けた。それ以来、対ゼノハンター用にガンスタイルを編み出し極める日々が始まった。
 ゼノハンター本当に空想上の人物なのか。それともジモンの語るような実在する最強の男なのか。実際にゼノハンターを見たもの、対峙したもの、関わりのあるものだけが知る存在。果たしてどんな人物なのか。
 
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