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第三章 〜新たなる冒険
55話 『十光』
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モスアニア国内の東部にある宿にて。
先の一戦で気を失っていたセイメイはベッドの上で目を覚ます。
「ん…んぁ…?ここは、」
「目覚めたか、セイメイ」
「ナルヒコ…か。」
アズマは椅子に深く座り、膝に肘をつけ前屈みの状態でセイメイを見つめていた。
「セイメイ、他の遊撃隊はどこにいんだ?」
「遊撃隊…いや、そんな者はいなかった…」
「はぁ?!お前1人でシオンを狙いに来たのか?!さすがに人器ありきのお前でも1人で倒せるわけねーだろ。そもそも近接戦闘は弱っちいんだから」
「いなかったんだ…ここに」
セイメイは俯き、シーツを強く握りしめる。まるで予定とは違う事象が起きたかのような言い草で。
「どういうことだ?まさか1人じゃなかったのか?」
「僕は、ミスター・Sを仲介として、七星様から依頼を受けたんだ」
「七星?!」
その言葉に反応を示したのはグレイだった。
七星、それは星界の使徒の7人の幹部連中の総称であり、以前対峙したドゥーぺやメラクたちを指す。
「どうしてあなたが七星と…」
「どうしてって、それは…僕が『十光』だから…」
十光、ルクスデケム。それは星界の使徒がこの3年半の間に闇ブローカーであるシェリアスフォードと共に作り上げた星界の使徒直属の10人の先遣隊であった。
セイメイは服を脱ぎ左肩に刻印されたラテン語の10『X』の文字を見せる。
「これが…十光、第十位の証だ」
「セイメイ!!お前!!」
アズマはセイメイの両肩に掴み掛かる。
「どうしてだよ!!どうしてあんな連中の下僕なんかに」
「俺は力が欲しかった…強くなりたかったんだ!!お前みたいにだよナルヒコ!!」
「?!」
「どんな手を尽くしてでも、悪魔に魂を売ってでもだ!最初っから何もかも持ってたお前には僕の気持ちはわからない!」
セイメイの持つ人器・那須ノ弓鬼もまた星界の使徒に与えられた力だというセイメイ。力を出汁に人間を洗脳、操り、手駒に置く。その星界の使徒の姿勢に強く反発を見せるアズマ。
「だから、だから頼むから、那須ノ弓鬼を返してくれ…頼むから」
力への執着。そして、一度手にしたが最後、それを手放すことに対しての重度な依存と不安。力無ものが力に目覚めるとはこういうことなのだ。
現在、那須ノ弓鬼を所持しているアズマはそれをセイメイに渡すことはせず、預かることにする。この人を魔人間にしてしまう欲望の化身・人器はセイメイには返してはならない。
プルルルルッ!プルルルルッ!
「あい、こちらアズマ~」
『お頭っすか?』
「おう、なんだ!」
『マサトっす!!こっちは、襲撃にあった仲間を回収したっす!そんで、さっきUMNの連中も見たっすね!もうすぐモスアニアに着くと思うっす』
「わかった!他にもこっちの事情を嗅ぎつけた連中がいるかもしんねーから用心しろよマサト」
『あいっす!!そんじゃ、失礼しやっす』
アズマは、リターンのメンバーであるマサトから連絡を受け、セイメイの襲撃にあった仲間たちが無事なことを知り安堵する。
「さっき言ってた仲間の人?」
「あぁ、何とか無事だったみたいだ。」
グレイに仲間の無事を伝えたのち、アズマはセイメイに目を向ける。
「あいつらのこと、生かしておいてくれたんだな」
「依頼になかった…それだけ…」
「本当はまだ…仲間だと思ってくれてんじゃねーのか?セイメイ」
「…?!…違う、違う!違う違う違う!!僕はもう十光の1人なんだ!七星に選んでいただいた1人なんだ!だから、お前たちは仲間じゃない…」
アズマは少し悲しい表情を見せ、セイメイを放置したまま宿の外へ出る。それにグレイもついていく。
部屋に残ったシオンはセイメイに裏社会について質問する。
「あんた、シェリアスフォードについて知ってるのか?」
「あの方の名を気安く口に出すな…命がいくつあっても足りぬぞ…」
「はいはい、で、そのミスター・Sってやつと関わりが深いのか聞いてんだよ」
「知らない。ただの仲介人と業者だ」
ーーこいつも知らないか…全然尻尾を見せないな、シェリアスフォード。
部屋の外、ベランダへ出ていったアズマはグレイに嘆く。
「もしもよ、昔の友人があんな風に、力に溺れ闇に染まり、道を踏み外しちまったらどうするよ…グレイ」
「シオンがああなったら、俺はぶっ飛ばして全力で連れ戻す!!」
「…?!。フッ…フッハッハッハッハッ!!相手は十冠だぞ、本気かよ」
「当たり前だ!だってシオンは、俺の初めての友達だから」
「…?!」
『ナルヒコ…君は僕の初めての友達だ』
「クッ…そうかよ。」
ーー今からでも俺はお前と向き合えるかね、セイメイ。
「グレイ、これ預かっといてくれるか?」
アズマはグレイに人器・那須ノ弓鬼を託す。その禍々しい邪のオーラを内に秘めし人器は普通の人間には扱いきれず邪に飲まれてしまいそうになる。俺が呪いなのか、それとも魔法の類なのかは分からないけれど、魔力耐性を持つグレイならもしやと考えた末の判断だった。
「大丈夫なの?俺魔法とか使えないし、」
「そうなのか?」
「うん、俺魔力適性0だから」
「それなら、むしろ都合がいいってもんだが…てか、じゃああの白い炎はなんだよ?魔法じゃなかったらなんなんだ」
セイメイを打ち倒したアル・ウイコアラパンチ・改。その根幹にあるグレイの拳に纏わりついて白炎の正体を不思議がるアズマに、グレイはガラスケースを見せる。改良版・アルビニウムと旧アルビニウムの2種類、そして水属性版のアルビニウムを。
バタバタバタバタバタバタッ!!!!
UMNの編成隊はモスアニア北門に差し掛かり、15名で馬を走らせ、そのまま東門を目指して駆け抜けていく。
「そうこうしている内に、お仲間が到着したぞ…グレイ」
「そうみたいだ、おーーーーーい!!!みんなーーーー!!!」
グレイは街中を大所帯で駆け抜けるUMNの編成隊に宿のベランダから大声で自分の存在をアピールするのも距離が離れていたか、馬の足音がうるさいのか、まったくグレイたちに気づかず通過して行ってしまったUMNの編成隊。
「あれ…?!行っちゃった」
「行っちまったな…」
グレイはアズマと向き合い冷や汗をみせる。
「どうしようどうしようどうしよう、置いてかれちゃったよ!!」
「まぁ、今から追いかけりゃいいだろ。シオンを連れて行けよ」
グレイはすぐにシオンの元へ戻りUMNの編成隊がモスアニアを通過したことを話してグレートヒメカを出すように打診する。
「あんたはいいのかよ、アズマ」
「あぁ、俺はこのバカのこともあるし、合流する仲間を待たなきゃいけねー。先に行っててくれ」
「そうか、なら行くぞグレイ」
「え?!本当にいいの?アズマを置いて行って」
「元から居なかった戦力だ。別に支障は無いだろ…」
「それはそうだけど…」
グレイはアズマの方を見つめ、せっかく知り合い、協力関係を結んだのにと残念な顔を見せる。それにアズマの実力も本物でこの先の戦いには必ず必要だと感じる。
「おいおい、そんな乙女チックな目で見つめんなよ、照れるだろ。それにようグレイ…ちょっくら、大切な友人の面をぶっとばして、目覚まさせてやるだけだから、すぐに追いかけるよ」
「うん!!!待ってる!」
こうして、グレイらとアズマは一時的に別行動を取る。そして、グレイらはグレートヒメカに乗り、UMNの編成隊を追走する形で駆け出す。
追走すること2時間、ようやくUMNの編成隊に合流することができたグレイたち。その頃にはすでに16時ほどを回っており、少しずつだが陽が沈み始めていた。
先頭を走るヒュイーゴたちの判断は、視界の悪い状況では戦闘の結果を大きく左右し、さらには奇襲にも受けやすいため、一度道の脇に陣を置き、暖を取ることにする。シオンの先行で先を急ぐ任務となっただけで、アズマから話を聞き、敵の狙いがシオンやグレイにある以上、決して『サモン・スカルパー』や他の闇ギルド、闇業者が逃げ切る可能性は無くなったため、余裕を持つことができた。
「この馬鹿グレイ!!!!!」
「うわわわわわわわ~」
「みんなに心配かけてんじゃねーよ!!!」
「本ッ当は、すいませんでした~~」
ベルモンドにどぎつく怒られる深々と土下座するグレイ。それをみて大笑いするダズと、心配で駆け寄るソウヤ。グレイの危なっかしさを知る仲間たちは今日もまた平常運行だった。
「おまっ、グレイは相当心配されてるんだな…弱いからか?」
「なんだとシオン!!弱いわけないだろーー」
「おいおい、あの孤高の王子様と仲良く戯れてやがんぞ」
「何があったんだろうグレイ君…」
シオンが他人と戯れ合う姿に驚愕する一同だった。
改めてグレイとシオンは、アズマの存在を伏せる形で先行した先で対峙したセイメイ、ならびに星界の使徒の先遣隊である『十光』の存在と敵の目的、関わっている闇ギルドや闇業者、ミスター・S、そして『サモン・スカルパー』の構成員の能力をUMN編成隊の全員に共有する。
みなが何より驚いたのは『サモン・スカルパー』のギルドマスター・ジュラ=バッキンガムの能力が不死身であることだった。
そして、3年半前の一件を経験した者には凶報である星界の使徒の関連性について。今回もまた星界の使徒が関わっており、さらには勢力拡大後の彼らは『十光』なる先遣隊を育成し、それを刺客に差し向けてきた。
「でも、余裕で倒せたんだろぅ~?なら七星はともかく十光は何とかなるんじゃねぇのかぁ~い」
十光に対し安易な考えを示すヒュイーゴらにグレイはあるモノを見せる。それはアズマから預かった人器・那須ノ弓鬼だ。
「なんだいボーイ、その棒は」
「これは、人器・那須ノ弓鬼。弓だよ」
「「「「「「ジンキ?!」」」」」」
一同騒然とする中、グレイは人器の説明をする。
全員、神の名を冠した神級の武器と勘違いしているかもしれないが、人器は人間の一生を投影させた神器に対抗するために生み出された武器で、創成者の意思・想いが強く反映された神級に匹敵する武器である。
「詰まるところ神器=人器と言っても過言じゃないってことかしら?坊や」
「過言じゃないと思いますよ」
ミネルバの問いに真っ向から肯定するグレイ。実際、どんな状況下であっても、那須ノ弓鬼を扱うセイメイ相手に、神器の助け無しではシオンは致命的な一発、いや、2発を受けかけたからだ。たまたまアズマが協力的でいただけで、グレイとシオン対セイメイならどうなっていたかは分からない。アズマが幾度も那須ノ弓鬼を弱体化させただけの結果に違いないのだ。
「それでは、もし他に9人の十光がいたとして、それぞれが人器を持ち、敵対してくると考えるべきか…」
フェルナンドはあり得る全ての事象を想定し、作戦にあたるべきだと語る。
「見張は心してかかれよ!敵の数がわからねぇー以上は昼夜問わず警戒しろ!」
その日の夜は、ベルモンドとソウヤ、他にはギムなどレオネード・ハーツが中心となり、テントを夜通し見張を努める。
モスアニアから南東リーバングレートリーフまでの途中の森にテントを張る一同。そして、その奥地にある高く険しい岩場にある崖の先で、夜空を眺めるグレイの元を訪れるシオン。
「寝ないのか」
「うん…眠れなくて」
シオンは、グレイの背に腰掛けて背中越しに語らう。
「ねぇ、友達ってどんな人だったの?」
「…。」
シオンは、こちらの世界に転生してきて、すぐに煉獄の魔力を覚醒させ、その黒炎にて焼き尽くしてしまった友人のことを思い出すだけで、自分を殺したくなるほどに憎んでしまう。2度とあのようなことはしたくないし、そもそも友人など作りたくもなかった。それでもグレイはシオンを友達と言い張り、引かないのだ。
「俺さぁ、シオンが同い年の、初めての友達なんだ~」
「…?!」
「俺…両親はいないし、お金持ちじゃないし、魔法も使えなかった。だから、故郷のマクアケ村じゃ、ずっといじめられてた。」
シオンには、この世界の価値観が理解できなかった。なぜなら、シオンやアズマが生まれ育った世界の『日本』国は、世界で1番平和で裕福な国だと言われてきた。多少苦悩はあれど、世界で見たら何もかも1番と言っていい。水道水は綺麗であちこちに設置され、すこし蛇口を捻れば簡単に飲み水が飲めるほどに。そして、個人個人裕福の度合いは違えど、義務教育は全員が受けられ、勉学も学べ、格差はあれど差別が起きやすいものではない。そして、こっちの世界とは確実に違うこと、魔法の有無。つまり、魔法の出来、不出来でいじめられる事象なんか決して起きるわけがないからだ。
「そうか…災難だったな。」
同情…軽々しくそんなことしていいのか、グレイの気持ちも分からぬままに気安く口にしていいのか、シオンは俯き考える。
「でもシオンは違う。」
「え?」
「シオンは、俺に両親がいなくても、お金がなくても、魔法が使えなくても、何とも思わないでしょ?」
「いや、魔法は使えるだろ?」
「使えないよ!俺。」
「じゃああの白い炎は…」
「あれはアルビニウムっていう、すんごい年上の友達が作ってくれた薬品だよ!魔法じゃない」
グレイは、アズマ同様にアルビニウムの説明をシオンにする。そして、自分の魔力適正の無さについてもだ。
魔法も使えない、力もない。それでも両親を探しに行きたい。そんなわがままを聞いてくれたゼクシードがグレイのために作ってくれた改良版・アルビニウム。グレイはこの力で未界を目指していることをシオンに伝える。
「シオンは、両親に会いたくはないの?」
「両親か…」
こっちの世界に転生してから4年ほどが経過し、すでに両親の存在は薄れかけていた。突然異世界に飛ばされ、見知らぬ土地、見知らぬ言語、見知らぬ人間、そして幻想的な魔法。そして友人の死、左目の負傷。これらの事象が11歳のシオンの精神にもたらしたものは計り知れなかった。両親のことなど考える余裕さえなかったここ数年、薄れかけていた両親の存在を思い出させてくれるグレイ。シオンは今一度両親の顔を思い浮かべる。
「会えるのか…また」
「会えるよ…きっと」
ーーー------------------
リーバングレートリーフに向けての2日目。
レオネード・ハーツの面々を馬車に乗せ、UMN編成隊は再び動き出す。現在地からリーバングレートリーフまでの道のりは、約63kmほど。馬を全速力で走らせれば2時間程度で到着できる。独立ギルド、現闇ギルド『サモン・スカルパー』のギルドまではもう手の届く距離まで来ていた。
一方その頃、モスアニアに陣取っていたアズマたちの目の前には、UMN編成隊との合流を止めに来たのか、それともセイメイを狙ってか、十光の九位と八位の座に着く者たちが襲撃しに来た。
「お頭~宿前に恐ろしい奴らがきてるっす!!」
「んぁ??何もんだよ」
「分からないっすけど、お頭に会いてーって2人が」
マサト=ビッツァ(17)。アズマの舎弟にして、リターンのメンバーである彼は、アズマに近況を説明する。
「マサトォォオオ!!ちょっくら皆んなを頼むわ」
「私もいますよ。頭」
マサトとは別に仲間たちを回収して回った1人、ベンジャミン=スミス(24)。彼もまたアズマの秘書、兼執事として支える者だ。
「お前は言わなくても分かってんだろ?」
「えぇ、もちろんですとも」
「スミッさん!!オレを守ってくれよ~」
「お断りします、ニコッ」
「ガーーーーン!!」
マサトは膝から崩れ落ちそのまま床に伏せて死んだふりをする。
「バカなことしてねーで、しっかり頼んだぞ、お前ら」
「御意」
「了解っす!!」
アズマは宿の階段を降りて行き、フロントにて十光の2人と対峙する。
「お、来たな、アズマ=ナルヒコ」
「…。」
「誰だお前ら??」
「我らは星界の使徒・先遣隊『十光』が2人、九位・ムガチ!」
「同じく八位・アイバだ…」
ムガチとアイバと名乗るその2人はセイメイと同じ十光の手の者だった。
「ふーーん、で?何しに来た」
「敗北者であるセイメイを始末し、人器を回収しに来た」
「なるほど…簡単に仲間をぽんぽん切り捨てやがって。さぞかし星界の使徒ってのは層が厚いんだな」
「弱き者に用は無いのさ!」
バチバチバチバチ!!!
ムガチは体を帯電させ、雷属性のオーラを発散させる。
「おい、待てよ。やるんなら表でろや!他人に迷惑かけんなやゴミカスども」
「なんだと!!!誰がゴミカスだと?!!」
「表にでりゃ相手してやっから、正々堂々かかってこいや!カス」
「てんめぇーーーー」
ムガチは幾度の侮辱に怒りを露わにし、アズマを睨みつける。
ーー2対1か…それに人器も…まぁ持ってるよな。分が悪ぃな。
アズマは宿の外に出るや否や、すぐさまポケットからタバコを取り出し口に咥えて火をつける。
スゥーーーー、フゥーーーーーー。
「タバコ吸いながらとは、随分と舐められたもんだ」
「気にすんなよ?むしろ本気の一歩手前だからよぉ」
「本気で来ないと死ぬぞ!!!」
ムガチは、再び体を帯電させ、雷属性を応用させた高速移動でアズマに突っ込んでいく。
「第五形態、猫神の助手…」
アズマはムガチとの直線上に左腕を伸ばして拳をグーに握りしめて置いておく。そこに、わかりやすく真っ直ぐに突っ込んできたムガチの頭を、自分に到達する少し手前で殴りつける。否、正確にはムガチが透明な拳にぶつかりに行ったのだ。
「フンガァ???!!!何が…おき、」
「クッ!!ソ、いってぇーーなぁ!!!オイッ」
猫神の助手は、アズマ本人の腕とリンクしているため、痛みも傷も負ってしまう負傷は全て自身の肉体に刻まれる。
「オラァ!!」
普通なら届かない距離のムガチ相手に、遠隔で殴りつけるアズマ。神器の第五形態様様であった。
「土属性魔法・グランドアップ!」
「?!」
ムガチをフルボッコにしていたアズマの足元の地盤を上げ、バランスを崩させるアイバ。
「まぁ、ただ見てるだけなわけねーよな…」
「土属性魔法・ロックグレイモヤ」
バランスを崩し、後ろ向きに倒れ込むアズマの背後に鋭く伸びた棘地帯が生成される。
「ロックグレイモヤだぁ?!」
背後に伸びたロックグレイモヤに驚き、体を強張らせるアズマ。瞬時に神器・七変竜を第四形態の爆撃大剣・ブリーブに変え、その重さで体を一方向に傾け、対処でき得るだけの棘を切り裂く。しかし、その全部には対応しきれず、何本かの棘に切り傷をつけられてしまう。
「いてぇーなぁオイ…。血出ちまったよ。てかさぁ!!この革ジャン高かったんだからな?!金貨120枚だぞ!!ジーバイスだぞ!ジーバイス!!わかる?!」
自分が怪我させられたこともそうだが、お気に入りの革ジャンが傷つけられたことに腹を立たせるアズマ。切り裂かれた生地の部分を何度もチェックして悲しみに浸る。
「マジでよぉ~勘弁してくれや」
「てんめぇー!終始ふざけやがって!」
「ふざけてんのはお前らだろうが!ブランドもわからねーボンクラどもが!!」
アズマは怒りのあまり、七変竜を第三形態に変身させ、ガローキャノンで勝負を決めにかかる。
「ただじゃおかねー。このジーバイスの受けた痛みは、そっくりそのまま返してやんよ!!」
「服のために戦うのか…やつは」
「ハゼロヤ…」
ーーガローキャノン!!!
ピュイーーン…ズバーーーーーーーーン!!!!!
ズバババババババババン!!!!!
周囲が光に包まれる中、アイバは那須ノ弓鬼同様の短い柄を握りしめ、人器を解放する。
「韓非ノ無盾」
韓非子の儒家『矛盾』を強く反映させた、最強の矛と盾のうちの盾。全ての攻撃を無に帰す最強の盾でガローキャノンを防ぐ。
シュウ~~。
濃く、広域に広がる弾幕が薄れていき、そこから見えたのは、強靭な丸盾とその後ろに隠れる2人の影だった。
ーーあれがやつの人器か…ガローキャノンをいとも簡単に防ぎやがった。
「やるじゃねーかお前。たしかアイバだったか」
「当たり前だ…制約で矛を封じた最強の盾だぞ。簡単に貫けるわけがなかろうて」
ーーなるほどな。ただただ思想を反映させただけじゃなくて、条件・制約をかけて能力を底上げした人器ってわけか。
制約付きの最強の盾『韓非ノ無盾』に手こずるアズマだった。
先の一戦で気を失っていたセイメイはベッドの上で目を覚ます。
「ん…んぁ…?ここは、」
「目覚めたか、セイメイ」
「ナルヒコ…か。」
アズマは椅子に深く座り、膝に肘をつけ前屈みの状態でセイメイを見つめていた。
「セイメイ、他の遊撃隊はどこにいんだ?」
「遊撃隊…いや、そんな者はいなかった…」
「はぁ?!お前1人でシオンを狙いに来たのか?!さすがに人器ありきのお前でも1人で倒せるわけねーだろ。そもそも近接戦闘は弱っちいんだから」
「いなかったんだ…ここに」
セイメイは俯き、シーツを強く握りしめる。まるで予定とは違う事象が起きたかのような言い草で。
「どういうことだ?まさか1人じゃなかったのか?」
「僕は、ミスター・Sを仲介として、七星様から依頼を受けたんだ」
「七星?!」
その言葉に反応を示したのはグレイだった。
七星、それは星界の使徒の7人の幹部連中の総称であり、以前対峙したドゥーぺやメラクたちを指す。
「どうしてあなたが七星と…」
「どうしてって、それは…僕が『十光』だから…」
十光、ルクスデケム。それは星界の使徒がこの3年半の間に闇ブローカーであるシェリアスフォードと共に作り上げた星界の使徒直属の10人の先遣隊であった。
セイメイは服を脱ぎ左肩に刻印されたラテン語の10『X』の文字を見せる。
「これが…十光、第十位の証だ」
「セイメイ!!お前!!」
アズマはセイメイの両肩に掴み掛かる。
「どうしてだよ!!どうしてあんな連中の下僕なんかに」
「俺は力が欲しかった…強くなりたかったんだ!!お前みたいにだよナルヒコ!!」
「?!」
「どんな手を尽くしてでも、悪魔に魂を売ってでもだ!最初っから何もかも持ってたお前には僕の気持ちはわからない!」
セイメイの持つ人器・那須ノ弓鬼もまた星界の使徒に与えられた力だというセイメイ。力を出汁に人間を洗脳、操り、手駒に置く。その星界の使徒の姿勢に強く反発を見せるアズマ。
「だから、だから頼むから、那須ノ弓鬼を返してくれ…頼むから」
力への執着。そして、一度手にしたが最後、それを手放すことに対しての重度な依存と不安。力無ものが力に目覚めるとはこういうことなのだ。
現在、那須ノ弓鬼を所持しているアズマはそれをセイメイに渡すことはせず、預かることにする。この人を魔人間にしてしまう欲望の化身・人器はセイメイには返してはならない。
プルルルルッ!プルルルルッ!
「あい、こちらアズマ~」
『お頭っすか?』
「おう、なんだ!」
『マサトっす!!こっちは、襲撃にあった仲間を回収したっす!そんで、さっきUMNの連中も見たっすね!もうすぐモスアニアに着くと思うっす』
「わかった!他にもこっちの事情を嗅ぎつけた連中がいるかもしんねーから用心しろよマサト」
『あいっす!!そんじゃ、失礼しやっす』
アズマは、リターンのメンバーであるマサトから連絡を受け、セイメイの襲撃にあった仲間たちが無事なことを知り安堵する。
「さっき言ってた仲間の人?」
「あぁ、何とか無事だったみたいだ。」
グレイに仲間の無事を伝えたのち、アズマはセイメイに目を向ける。
「あいつらのこと、生かしておいてくれたんだな」
「依頼になかった…それだけ…」
「本当はまだ…仲間だと思ってくれてんじゃねーのか?セイメイ」
「…?!…違う、違う!違う違う違う!!僕はもう十光の1人なんだ!七星に選んでいただいた1人なんだ!だから、お前たちは仲間じゃない…」
アズマは少し悲しい表情を見せ、セイメイを放置したまま宿の外へ出る。それにグレイもついていく。
部屋に残ったシオンはセイメイに裏社会について質問する。
「あんた、シェリアスフォードについて知ってるのか?」
「あの方の名を気安く口に出すな…命がいくつあっても足りぬぞ…」
「はいはい、で、そのミスター・Sってやつと関わりが深いのか聞いてんだよ」
「知らない。ただの仲介人と業者だ」
ーーこいつも知らないか…全然尻尾を見せないな、シェリアスフォード。
部屋の外、ベランダへ出ていったアズマはグレイに嘆く。
「もしもよ、昔の友人があんな風に、力に溺れ闇に染まり、道を踏み外しちまったらどうするよ…グレイ」
「シオンがああなったら、俺はぶっ飛ばして全力で連れ戻す!!」
「…?!。フッ…フッハッハッハッハッ!!相手は十冠だぞ、本気かよ」
「当たり前だ!だってシオンは、俺の初めての友達だから」
「…?!」
『ナルヒコ…君は僕の初めての友達だ』
「クッ…そうかよ。」
ーー今からでも俺はお前と向き合えるかね、セイメイ。
「グレイ、これ預かっといてくれるか?」
アズマはグレイに人器・那須ノ弓鬼を託す。その禍々しい邪のオーラを内に秘めし人器は普通の人間には扱いきれず邪に飲まれてしまいそうになる。俺が呪いなのか、それとも魔法の類なのかは分からないけれど、魔力耐性を持つグレイならもしやと考えた末の判断だった。
「大丈夫なの?俺魔法とか使えないし、」
「そうなのか?」
「うん、俺魔力適性0だから」
「それなら、むしろ都合がいいってもんだが…てか、じゃああの白い炎はなんだよ?魔法じゃなかったらなんなんだ」
セイメイを打ち倒したアル・ウイコアラパンチ・改。その根幹にあるグレイの拳に纏わりついて白炎の正体を不思議がるアズマに、グレイはガラスケースを見せる。改良版・アルビニウムと旧アルビニウムの2種類、そして水属性版のアルビニウムを。
バタバタバタバタバタバタッ!!!!
UMNの編成隊はモスアニア北門に差し掛かり、15名で馬を走らせ、そのまま東門を目指して駆け抜けていく。
「そうこうしている内に、お仲間が到着したぞ…グレイ」
「そうみたいだ、おーーーーーい!!!みんなーーーー!!!」
グレイは街中を大所帯で駆け抜けるUMNの編成隊に宿のベランダから大声で自分の存在をアピールするのも距離が離れていたか、馬の足音がうるさいのか、まったくグレイたちに気づかず通過して行ってしまったUMNの編成隊。
「あれ…?!行っちゃった」
「行っちまったな…」
グレイはアズマと向き合い冷や汗をみせる。
「どうしようどうしようどうしよう、置いてかれちゃったよ!!」
「まぁ、今から追いかけりゃいいだろ。シオンを連れて行けよ」
グレイはすぐにシオンの元へ戻りUMNの編成隊がモスアニアを通過したことを話してグレートヒメカを出すように打診する。
「あんたはいいのかよ、アズマ」
「あぁ、俺はこのバカのこともあるし、合流する仲間を待たなきゃいけねー。先に行っててくれ」
「そうか、なら行くぞグレイ」
「え?!本当にいいの?アズマを置いて行って」
「元から居なかった戦力だ。別に支障は無いだろ…」
「それはそうだけど…」
グレイはアズマの方を見つめ、せっかく知り合い、協力関係を結んだのにと残念な顔を見せる。それにアズマの実力も本物でこの先の戦いには必ず必要だと感じる。
「おいおい、そんな乙女チックな目で見つめんなよ、照れるだろ。それにようグレイ…ちょっくら、大切な友人の面をぶっとばして、目覚まさせてやるだけだから、すぐに追いかけるよ」
「うん!!!待ってる!」
こうして、グレイらとアズマは一時的に別行動を取る。そして、グレイらはグレートヒメカに乗り、UMNの編成隊を追走する形で駆け出す。
追走すること2時間、ようやくUMNの編成隊に合流することができたグレイたち。その頃にはすでに16時ほどを回っており、少しずつだが陽が沈み始めていた。
先頭を走るヒュイーゴたちの判断は、視界の悪い状況では戦闘の結果を大きく左右し、さらには奇襲にも受けやすいため、一度道の脇に陣を置き、暖を取ることにする。シオンの先行で先を急ぐ任務となっただけで、アズマから話を聞き、敵の狙いがシオンやグレイにある以上、決して『サモン・スカルパー』や他の闇ギルド、闇業者が逃げ切る可能性は無くなったため、余裕を持つことができた。
「この馬鹿グレイ!!!!!」
「うわわわわわわわ~」
「みんなに心配かけてんじゃねーよ!!!」
「本ッ当は、すいませんでした~~」
ベルモンドにどぎつく怒られる深々と土下座するグレイ。それをみて大笑いするダズと、心配で駆け寄るソウヤ。グレイの危なっかしさを知る仲間たちは今日もまた平常運行だった。
「おまっ、グレイは相当心配されてるんだな…弱いからか?」
「なんだとシオン!!弱いわけないだろーー」
「おいおい、あの孤高の王子様と仲良く戯れてやがんぞ」
「何があったんだろうグレイ君…」
シオンが他人と戯れ合う姿に驚愕する一同だった。
改めてグレイとシオンは、アズマの存在を伏せる形で先行した先で対峙したセイメイ、ならびに星界の使徒の先遣隊である『十光』の存在と敵の目的、関わっている闇ギルドや闇業者、ミスター・S、そして『サモン・スカルパー』の構成員の能力をUMN編成隊の全員に共有する。
みなが何より驚いたのは『サモン・スカルパー』のギルドマスター・ジュラ=バッキンガムの能力が不死身であることだった。
そして、3年半前の一件を経験した者には凶報である星界の使徒の関連性について。今回もまた星界の使徒が関わっており、さらには勢力拡大後の彼らは『十光』なる先遣隊を育成し、それを刺客に差し向けてきた。
「でも、余裕で倒せたんだろぅ~?なら七星はともかく十光は何とかなるんじゃねぇのかぁ~い」
十光に対し安易な考えを示すヒュイーゴらにグレイはあるモノを見せる。それはアズマから預かった人器・那須ノ弓鬼だ。
「なんだいボーイ、その棒は」
「これは、人器・那須ノ弓鬼。弓だよ」
「「「「「「ジンキ?!」」」」」」
一同騒然とする中、グレイは人器の説明をする。
全員、神の名を冠した神級の武器と勘違いしているかもしれないが、人器は人間の一生を投影させた神器に対抗するために生み出された武器で、創成者の意思・想いが強く反映された神級に匹敵する武器である。
「詰まるところ神器=人器と言っても過言じゃないってことかしら?坊や」
「過言じゃないと思いますよ」
ミネルバの問いに真っ向から肯定するグレイ。実際、どんな状況下であっても、那須ノ弓鬼を扱うセイメイ相手に、神器の助け無しではシオンは致命的な一発、いや、2発を受けかけたからだ。たまたまアズマが協力的でいただけで、グレイとシオン対セイメイならどうなっていたかは分からない。アズマが幾度も那須ノ弓鬼を弱体化させただけの結果に違いないのだ。
「それでは、もし他に9人の十光がいたとして、それぞれが人器を持ち、敵対してくると考えるべきか…」
フェルナンドはあり得る全ての事象を想定し、作戦にあたるべきだと語る。
「見張は心してかかれよ!敵の数がわからねぇー以上は昼夜問わず警戒しろ!」
その日の夜は、ベルモンドとソウヤ、他にはギムなどレオネード・ハーツが中心となり、テントを夜通し見張を努める。
モスアニアから南東リーバングレートリーフまでの途中の森にテントを張る一同。そして、その奥地にある高く険しい岩場にある崖の先で、夜空を眺めるグレイの元を訪れるシオン。
「寝ないのか」
「うん…眠れなくて」
シオンは、グレイの背に腰掛けて背中越しに語らう。
「ねぇ、友達ってどんな人だったの?」
「…。」
シオンは、こちらの世界に転生してきて、すぐに煉獄の魔力を覚醒させ、その黒炎にて焼き尽くしてしまった友人のことを思い出すだけで、自分を殺したくなるほどに憎んでしまう。2度とあのようなことはしたくないし、そもそも友人など作りたくもなかった。それでもグレイはシオンを友達と言い張り、引かないのだ。
「俺さぁ、シオンが同い年の、初めての友達なんだ~」
「…?!」
「俺…両親はいないし、お金持ちじゃないし、魔法も使えなかった。だから、故郷のマクアケ村じゃ、ずっといじめられてた。」
シオンには、この世界の価値観が理解できなかった。なぜなら、シオンやアズマが生まれ育った世界の『日本』国は、世界で1番平和で裕福な国だと言われてきた。多少苦悩はあれど、世界で見たら何もかも1番と言っていい。水道水は綺麗であちこちに設置され、すこし蛇口を捻れば簡単に飲み水が飲めるほどに。そして、個人個人裕福の度合いは違えど、義務教育は全員が受けられ、勉学も学べ、格差はあれど差別が起きやすいものではない。そして、こっちの世界とは確実に違うこと、魔法の有無。つまり、魔法の出来、不出来でいじめられる事象なんか決して起きるわけがないからだ。
「そうか…災難だったな。」
同情…軽々しくそんなことしていいのか、グレイの気持ちも分からぬままに気安く口にしていいのか、シオンは俯き考える。
「でもシオンは違う。」
「え?」
「シオンは、俺に両親がいなくても、お金がなくても、魔法が使えなくても、何とも思わないでしょ?」
「いや、魔法は使えるだろ?」
「使えないよ!俺。」
「じゃああの白い炎は…」
「あれはアルビニウムっていう、すんごい年上の友達が作ってくれた薬品だよ!魔法じゃない」
グレイは、アズマ同様にアルビニウムの説明をシオンにする。そして、自分の魔力適正の無さについてもだ。
魔法も使えない、力もない。それでも両親を探しに行きたい。そんなわがままを聞いてくれたゼクシードがグレイのために作ってくれた改良版・アルビニウム。グレイはこの力で未界を目指していることをシオンに伝える。
「シオンは、両親に会いたくはないの?」
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こっちの世界に転生してから4年ほどが経過し、すでに両親の存在は薄れかけていた。突然異世界に飛ばされ、見知らぬ土地、見知らぬ言語、見知らぬ人間、そして幻想的な魔法。そして友人の死、左目の負傷。これらの事象が11歳のシオンの精神にもたらしたものは計り知れなかった。両親のことなど考える余裕さえなかったここ数年、薄れかけていた両親の存在を思い出させてくれるグレイ。シオンは今一度両親の顔を思い浮かべる。
「会えるのか…また」
「会えるよ…きっと」
ーーー------------------
リーバングレートリーフに向けての2日目。
レオネード・ハーツの面々を馬車に乗せ、UMN編成隊は再び動き出す。現在地からリーバングレートリーフまでの道のりは、約63kmほど。馬を全速力で走らせれば2時間程度で到着できる。独立ギルド、現闇ギルド『サモン・スカルパー』のギルドまではもう手の届く距離まで来ていた。
一方その頃、モスアニアに陣取っていたアズマたちの目の前には、UMN編成隊との合流を止めに来たのか、それともセイメイを狙ってか、十光の九位と八位の座に着く者たちが襲撃しに来た。
「お頭~宿前に恐ろしい奴らがきてるっす!!」
「んぁ??何もんだよ」
「分からないっすけど、お頭に会いてーって2人が」
マサト=ビッツァ(17)。アズマの舎弟にして、リターンのメンバーである彼は、アズマに近況を説明する。
「マサトォォオオ!!ちょっくら皆んなを頼むわ」
「私もいますよ。頭」
マサトとは別に仲間たちを回収して回った1人、ベンジャミン=スミス(24)。彼もまたアズマの秘書、兼執事として支える者だ。
「お前は言わなくても分かってんだろ?」
「えぇ、もちろんですとも」
「スミッさん!!オレを守ってくれよ~」
「お断りします、ニコッ」
「ガーーーーン!!」
マサトは膝から崩れ落ちそのまま床に伏せて死んだふりをする。
「バカなことしてねーで、しっかり頼んだぞ、お前ら」
「御意」
「了解っす!!」
アズマは宿の階段を降りて行き、フロントにて十光の2人と対峙する。
「お、来たな、アズマ=ナルヒコ」
「…。」
「誰だお前ら??」
「我らは星界の使徒・先遣隊『十光』が2人、九位・ムガチ!」
「同じく八位・アイバだ…」
ムガチとアイバと名乗るその2人はセイメイと同じ十光の手の者だった。
「ふーーん、で?何しに来た」
「敗北者であるセイメイを始末し、人器を回収しに来た」
「なるほど…簡単に仲間をぽんぽん切り捨てやがって。さぞかし星界の使徒ってのは層が厚いんだな」
「弱き者に用は無いのさ!」
バチバチバチバチ!!!
ムガチは体を帯電させ、雷属性のオーラを発散させる。
「おい、待てよ。やるんなら表でろや!他人に迷惑かけんなやゴミカスども」
「なんだと!!!誰がゴミカスだと?!!」
「表にでりゃ相手してやっから、正々堂々かかってこいや!カス」
「てんめぇーーーー」
ムガチは幾度の侮辱に怒りを露わにし、アズマを睨みつける。
ーー2対1か…それに人器も…まぁ持ってるよな。分が悪ぃな。
アズマは宿の外に出るや否や、すぐさまポケットからタバコを取り出し口に咥えて火をつける。
スゥーーーー、フゥーーーーーー。
「タバコ吸いながらとは、随分と舐められたもんだ」
「気にすんなよ?むしろ本気の一歩手前だからよぉ」
「本気で来ないと死ぬぞ!!!」
ムガチは、再び体を帯電させ、雷属性を応用させた高速移動でアズマに突っ込んでいく。
「第五形態、猫神の助手…」
アズマはムガチとの直線上に左腕を伸ばして拳をグーに握りしめて置いておく。そこに、わかりやすく真っ直ぐに突っ込んできたムガチの頭を、自分に到達する少し手前で殴りつける。否、正確にはムガチが透明な拳にぶつかりに行ったのだ。
「フンガァ???!!!何が…おき、」
「クッ!!ソ、いってぇーーなぁ!!!オイッ」
猫神の助手は、アズマ本人の腕とリンクしているため、痛みも傷も負ってしまう負傷は全て自身の肉体に刻まれる。
「オラァ!!」
普通なら届かない距離のムガチ相手に、遠隔で殴りつけるアズマ。神器の第五形態様様であった。
「土属性魔法・グランドアップ!」
「?!」
ムガチをフルボッコにしていたアズマの足元の地盤を上げ、バランスを崩させるアイバ。
「まぁ、ただ見てるだけなわけねーよな…」
「土属性魔法・ロックグレイモヤ」
バランスを崩し、後ろ向きに倒れ込むアズマの背後に鋭く伸びた棘地帯が生成される。
「ロックグレイモヤだぁ?!」
背後に伸びたロックグレイモヤに驚き、体を強張らせるアズマ。瞬時に神器・七変竜を第四形態の爆撃大剣・ブリーブに変え、その重さで体を一方向に傾け、対処でき得るだけの棘を切り裂く。しかし、その全部には対応しきれず、何本かの棘に切り傷をつけられてしまう。
「いてぇーなぁオイ…。血出ちまったよ。てかさぁ!!この革ジャン高かったんだからな?!金貨120枚だぞ!!ジーバイスだぞ!ジーバイス!!わかる?!」
自分が怪我させられたこともそうだが、お気に入りの革ジャンが傷つけられたことに腹を立たせるアズマ。切り裂かれた生地の部分を何度もチェックして悲しみに浸る。
「マジでよぉ~勘弁してくれや」
「てんめぇー!終始ふざけやがって!」
「ふざけてんのはお前らだろうが!ブランドもわからねーボンクラどもが!!」
アズマは怒りのあまり、七変竜を第三形態に変身させ、ガローキャノンで勝負を決めにかかる。
「ただじゃおかねー。このジーバイスの受けた痛みは、そっくりそのまま返してやんよ!!」
「服のために戦うのか…やつは」
「ハゼロヤ…」
ーーガローキャノン!!!
ピュイーーン…ズバーーーーーーーーン!!!!!
ズバババババババババン!!!!!
周囲が光に包まれる中、アイバは那須ノ弓鬼同様の短い柄を握りしめ、人器を解放する。
「韓非ノ無盾」
韓非子の儒家『矛盾』を強く反映させた、最強の矛と盾のうちの盾。全ての攻撃を無に帰す最強の盾でガローキャノンを防ぐ。
シュウ~~。
濃く、広域に広がる弾幕が薄れていき、そこから見えたのは、強靭な丸盾とその後ろに隠れる2人の影だった。
ーーあれがやつの人器か…ガローキャノンをいとも簡単に防ぎやがった。
「やるじゃねーかお前。たしかアイバだったか」
「当たり前だ…制約で矛を封じた最強の盾だぞ。簡単に貫けるわけがなかろうて」
ーーなるほどな。ただただ思想を反映させただけじゃなくて、条件・制約をかけて能力を底上げした人器ってわけか。
制約付きの最強の盾『韓非ノ無盾』に手こずるアズマだった。
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