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第三章 〜新たなる冒険
52話 『四秀選考の底力』
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編成隊最前列では、前方に40名弱、左右に10数名ほどの闇ギルド魔導士たちに囲まれ待ち伏せを喰らっていた。
「明らかに今通りかかりましたよぉ~って感じじゃなさそうだよなぁ~ボーイたち」
パチンッ!パチンッ!
ヒュイーゴは、腰に備えていた鞭を手に取り強く引っ張りながら臨戦態勢に入る。
「つまり、この子達がここにいるってことは、移動ルートの情報が漏れちゃってるってことかしら?」
両腕を胸の下で組み、バストを強調するような姿勢で立つ紫色の長髪のこの女性は、独立ギルド『魅惑の刻』所属のミネルバ=ストックケイン(27)であった。彼女またヒュイーゴと同じく今年の四秀選考のBティアに選ばれている実力ある魔導士。
「由々しき事態ですね!」
ミネルバの横に支えるは、同じく『魅惑の刻』所属の女性魔導士・リルロッテ=サリーナ(19)。ミネルバの弟子にして、今年の四秀選考のCティアに選ばれる実力者。
外の騒がしさに惹かれるように馬車からぞろぞろと降りてくるそれぞれの魔導士および冒険者たち。
「それじゃあ可愛がってあげるわよ…チュッ!」
ミネルバは自分の指に口付けをし、少量の口紅を付着させ、指についた口紅から赤いハートを生成し量産していく。
「情熱の紅き運び手!!」
敵に向けられた多くの紅きハートは次第にその真の姿を露わにしていく。ハートは形を変え、コウモリのような姿に変貌し、敵の首筋を噛みちぎっていく。
「「「「ぎゃぁぁぁああああ!!!」」」」
「ひゅーーー、至高の美女には棘ありってか?怖い怖い!でもぉ~味方なら、ここ強いゼェ!!」
「ヒュイーゴ殿、そなたも戦士なら刀を抜け」
敵を前に手を休めるヒュイーゴを他所に、敵陣へ切り込んでいく茶髪で灰色のコートを羽織る戦士・フェルナンド=ナッシュ(25)。彼もまた今年の四秀選考に選ばれており、Aティアに分類される手練であった。
「霊装体解放…」
フェルナンドは、剣を抜くやいなや、剣から青白いオーラを出現させ、それらを身に纏い始め、ヒョウを彷彿とさせるかのような速さで敵を切り刻んでいく。
「あれがAティア・フェルナンドの霊装体解放かぁ~こわぇこわぇ。そんな人らを前にしたら、俺なんて見劣りしちゃうじゃねーかよぉ~!!縛り上げろ!海蛇!!!」
ヒュイーゴは、右手に構えた鞭に水属性のオーラを集中させ、そのオーラは動物の形態へ変化していく。まるでウミヘビのように長くしなやかに。そして、海蛇は敵の1人、また1人と縛り上げていき、顔の付近で水属性オーラを拡大させ、窒息させていく。
「「ボボボボボッッッ!!!」」
「苦しいかぁ!!そりゃそうだろうなぁ!だってそこはもう海だからなぁ!!」
前方、そして左右全ての敵をたった3人で片付けてしまう四秀選考の魔導士たち。
「すごいですミネルバ師匠!!」
「あらそうぉ?もっと褒めてもいいのよ」
「はい!すごいです!かっこいいです!美しいです!」
「あら、言いすぎよ、フフフ、フフフフ、グヘヘヘヘヘヘッ!」
弟子であるリルロッテに褒められ、満足げな笑みを浮かべるミネルバの、度がすぎた表現に一同恐怖の視線を向ける。
「何か前方が騒がしいなぁ…」
中央付近に配属されていた馬車で居眠りをしていたジモンは、窓を開け、外にいたシオンに事情を聞く。
「おい!煉獄の~何かあったのか?」
「いや、何もない。前は前で事態を収集させたらしい」
「んぁ?あぁそういうことか…んじゃ、まぁ俺はまだ寝るから護衛よろしく~」
「…。」
シオンは決してジモンを護衛しているわけではないが、自分の与えられた仕事をただこなすだけだと、無視した前だけを向く。
一方先頭では今回の事態について話し合いが進められていた。
「どうして、こんなところで待ち伏せなんてされてたのかしらね」
「そもそもコイツらはぁ、UMNに刃向かうとか世間知らずも良いところな野良の盗賊なのか?それとも、闇ギルドや『サモン・スカルパー』に雇われた連中かぁ?」
生きて拘束した敵に事情を聞くも一切の情報を吐こうとはせず、まいる魔導士たち。
「俺は、中央と後方を確認してくる。」
そういってフェルナンドは中央と後方で似たような事案が起きていないかを確認しに行った。
「もしサモン・スカルパーの手によるものなら、これは時間稼ぎとか、奇襲で仕留める作戦か…」
「それなら、一層速くリーバングレートリーフ向かった方がいいんじゃねーかぁー?」
もしこの盗賊たちがサモン・スカルパーに雇われてるのだとしたら、今頃サモン・スカルパーはUMN相手から逃げ切る支度をしているはず。すぐさま拠点に向かう必要があるが…。
「この連中も放っておくわけにはいかないわ」
「幸なことにUMN本部はさほど遠くはねぇーし、一度戻って引き渡すか?」
「賛成しかねるな…」
中央部隊からシオンがグレートヒメカに乗り現れる。
「サモン・スカルパーが差し向けたのなら、みすみす逃す事態になるだろ。今すぐにリーバングレートリーフに迎え」
「迎え…グヌヌ、15のクソガキがぁ…」
ヒュイーゴは年下に舐められることが生きてる中で1番嫌いなことで、グレイといいシオンといい若くしてイキリ散らかす子供に我慢ができない。
「十冠様だからってな、なんでも意見が通ると思ってんじゃねぇーーって話さクソガキボーイ」
「なら、そこでそのカス共の面倒でも見てろ…俺は1人で行く」
シオンはいち早くUMN編成隊を再稼働させに来たわけで、もし動かないのなら元から1人で突き進む気であったのだ。
「俺もそれに賛成です!すぐに向かった方がいい」
「…?」
なにやら聞き馴染みのある声にシオンは視線を落とすと、そこには先ほどグレートヒメカと戯れあっていた灰色髪の青年がいたのだ。
「俺も乗せて欲しい、ユウキ!」
「ふざけるな…自分の馬でいけ」
ヒヒーーーィン!!
「…?!」
グレートヒメカは急に甲高い鳴き声を発し、グレイの元へ歩み寄る。
「グレートヒメカ?本気か」
グレートヒメカはグレイの横につけ、軽く足を曲げて乗り込むのを待っていた。
「お前名前は?」
「俺はグレイ!」
「そうか…乗れ…」
「え?いいの?!」
「そう言ってる。さっさとしろ」
グレイは満面の笑みを浮かべシオンに差し出された手を掴み、一気にグレートヒメカの背に乗る。
ヒヒーーーィン!!!
グレートヒメカはグレイを背負うや否や、すぐさま体の向きを変え、ノース大陸南東部へ向かって駆け出していく。
「うわぁぁああ!はやっ」
「ちょ、ちょっとユウキ君、本当に行っちゃうの?!」
「…。」
シオンはグレイを連れてそのまま駆け出して行った。
「ちょっと無視ぃ?!酷くな~~い??」
「ミネルバ師匠を無視するなんて酷いです!」
「お前は初めて会った時、この馬が人懐っこいと言ったな」
「うん、初対面で顔を舐めてきたし、結構人懐っこいと思うけど…」
「こいつは…グレートヒメカは大の人嫌いだ。」
「本当?!」
シオン曰く、グレートヒメカは大の人間嫌いで、これまでにシオン以外に心を開いた者は居ないという。そのため、乗馬には向いておらず、レース用にも、運転用にも、なんなら家庭用の家畜にだって向いておらず、馬肉としての価値しか無く、殺処分が決まっていたところをシオンが助けたという。
「だからこいつはさっきみたいな人が集まる環境は耐えられなくて、リーバングレートリーフへ駆け出したというよりかは、いち早くあの場から逃げ出したがってたんだ」
「そうなんだ…大丈夫だったか?」
ヒヒーーーィン!!!
「そっか~なら良かった」
「言葉がわかるのか?お前」
シオンは、グレートヒメカと対話するかのような素振りを見せるグレイに驚く。
そんなグレイは、14歳にして獣人語をマスターしているため、それに精通する獣の言葉も大体は理解できていた。
「まぁね!」
「話せるのか?」
「さすがに馬の言葉は喋れないけど、聞くことなら」
「他とは変わってるな…そりゃグレートヒメカも気にいるわけだ。俺はシオンだ、そう呼んでくれ」
「シオン?ユウキじゃないの?」
グレイはシオンの名前に少し違和感を持つ。普通なら家族の者たちと分けるため姓ではなく、名を呼ぶことが多いこの世界で、あえて姓で呼ばせようとするシオンに疑問を持っていた。しかし、シオンは自分の姓がユウキであり、名がシオンだと説明する。
「俺の名前は結城紫音…結ぶに城、そして紫の音って書いて結城紫音だ。だから名前はシオンだ」
「へぇ???ん???はぁ???」
グレイの頭はこんがらがってしまう。一体シオンは何を言っているんだ。
「ムスブ…シロ?ムラサキノオト?へ???」
「やっぱりお前も理解できないか…漢字の名前だよ」
「あぁ!!そういうことか!ユウキはニホン国出身の人なんだ!!!」
「うん…まぁ正しいようで正しくないが…多分お前の思ってるニホン国とは違うぞ…」
シオンの不可解な漢字の名前や意味深な発言にグレイは困惑しつつも、ある1つの点を指摘する。
「さっきから『お前』ってやめてくれる?俺はグレイ…そんでもう友達だろ!」
「?!…そうか。友達か…。」
「ね!!!だからグレイって呼んで!ネ!早く!」
「い、今か?!///」
「今今今!!!」
ヒヒーーーィン!!!ヒヒーーーィン!!!
「ほら、グレートヒメカもそう言ってる」
「本当かよ?!」
意気地なしなご主人に代わり、グレートヒメカは何度もグレイの名前を天に向かって叫ぶ。
「ん……、、グレイ///」
「ほほほほほほ……?!?!よろしく!シオン!!!!」
こうしてひょんな偶然からシオンと友達になることができたグレイは、たった2人でグレートヒメカの背にまたがり、リーバングレートリーフを目指すのであった。
---------------------
「グレイが先に向かったァァァァァ??!!!そりゃあどういう事だよソウヤ!!」
「いや、グレイ君が1人で先頭を確認してくるって言ったっきり帰ってこなくて…様子を見に行ったら、煉獄のユウキと2人で先に向かったって皆んなから言われて…」
先頭で状況を確認してきたソウヤは、ベルモンドたちにグレイの近況を説明するが、ベルモンドは気が気でなかった。
「おい、師匠さん、良いのかよ?」
「んーーー、まぁ十冠がいるし、いいんじゃねーのぉ?それに、気の強そうなガキが同行を認めたんだろぉ?何か起こりそうな予感がする」
「師匠なら少しは心配しろ筋肉ダルマ!マタタビを見習え!!」
同じグレイの師匠として、片やグレイの身を一番に案じる弟子思いな師匠と、片や放任主義でなるようになるさ精神の筋肉師匠。グレイに対する価値観は天と地ほども違った。
「マタタビは心配性すぎんだよ。それにアイツも今年で15だぞ?立派なガキだ!大丈夫に決まってんだろ」
「立派なガキって、ガキじゃねーかよ!!それ心配だろ」
「立派なガキは立派なガキなんだから大丈夫だろ!」
「ダメだ…僕には全く理解できない」
ベルモンドとダズの意味のわからない言い合いに頭をこんがらせるソウヤは考えることを放棄した。
「それで、なんで前方は動かねーんだ?」
「僕ら同様に敵の待ち伏せにあって、倒した相手をドセアニアに連行するか否かを話し合ってた」
「何やってんだよ!くそっ!今にもグレイはどんどん離れてっちまうって言うのに」
後方にて、前方の判断を待ち侘びていたベルモンドたちは、怒りを露わにしていたが、ほど無くし2台の馬車が方向転換し後方の方へ下がってくる。
「おいおいおい、戻ってきたぞ」
ベルモンドらの元で一時停止する前方にいた魔導士たちは、ベルモンドたちに事情を説明する。その内容は、一部魔導士(半数)は、盗賊犯たちを新生・ドセアニア連合王国まで連行するため、このまま引き返すといい、今回編成された中でも選りすぐりの精鋭だけを残して、リーバングレートリーフへ向かうと言うのであった。その際、シオンと共に先行したグレイと親しい間柄にある後方部隊もリーバングレートリーフ行きの部隊へ合流させる旨を話し、一同は新生・ドセアニア連合王国に向けて後退していったのであった。
「何はともあれ…これでグレイ君を追えるわけだし、良かったね」
「あぁ、すぐさま先頭に合流して先行するグレイを目指すぞ!」
「「「「「おぉおおお!!」」」」」
UMN編成隊の中で、グレイとシオンの2人を抜いた30名のうち、リーバングレートリーフに向けて残った人員は…
『十冠』
・ジモン=K=マクガレー(30)。
『四秀選考・Aティア』
・ベルモンド=アドラス(26)
・フェルナンド=ナッシュ(25)。
・アビル=ラムネード(21)。
『四秀選考・Bティア』
・ソウヤ=コガネ(21)。
・ヒュイーゴ=ブリティッシュ(26)。
・ミネルバ=ストックケイン(27)。
・マジカルリバティー・ヨシノ(31)。
『四秀選考・Cティア』
・スメヒロ=ミナミ(23)。
・リルロッテ=サリーナ(19)。
そして残る5名がダズ=バッハトルテとギム=ファンティオ、そしてナツナ=イズモを含めた5人の冒険者および魔導士たち。
そこにグレイとシオンの2人を加えた計17名で、先にリーバングレートリーフにある『サモン・スカルパー』のギルドを叩きにいく。もちろん残りの15名も、盗賊犯を連行後、新たに部隊を編成して応援に向かう。
「明らかに今通りかかりましたよぉ~って感じじゃなさそうだよなぁ~ボーイたち」
パチンッ!パチンッ!
ヒュイーゴは、腰に備えていた鞭を手に取り強く引っ張りながら臨戦態勢に入る。
「つまり、この子達がここにいるってことは、移動ルートの情報が漏れちゃってるってことかしら?」
両腕を胸の下で組み、バストを強調するような姿勢で立つ紫色の長髪のこの女性は、独立ギルド『魅惑の刻』所属のミネルバ=ストックケイン(27)であった。彼女またヒュイーゴと同じく今年の四秀選考のBティアに選ばれている実力ある魔導士。
「由々しき事態ですね!」
ミネルバの横に支えるは、同じく『魅惑の刻』所属の女性魔導士・リルロッテ=サリーナ(19)。ミネルバの弟子にして、今年の四秀選考のCティアに選ばれる実力者。
外の騒がしさに惹かれるように馬車からぞろぞろと降りてくるそれぞれの魔導士および冒険者たち。
「それじゃあ可愛がってあげるわよ…チュッ!」
ミネルバは自分の指に口付けをし、少量の口紅を付着させ、指についた口紅から赤いハートを生成し量産していく。
「情熱の紅き運び手!!」
敵に向けられた多くの紅きハートは次第にその真の姿を露わにしていく。ハートは形を変え、コウモリのような姿に変貌し、敵の首筋を噛みちぎっていく。
「「「「ぎゃぁぁぁああああ!!!」」」」
「ひゅーーー、至高の美女には棘ありってか?怖い怖い!でもぉ~味方なら、ここ強いゼェ!!」
「ヒュイーゴ殿、そなたも戦士なら刀を抜け」
敵を前に手を休めるヒュイーゴを他所に、敵陣へ切り込んでいく茶髪で灰色のコートを羽織る戦士・フェルナンド=ナッシュ(25)。彼もまた今年の四秀選考に選ばれており、Aティアに分類される手練であった。
「霊装体解放…」
フェルナンドは、剣を抜くやいなや、剣から青白いオーラを出現させ、それらを身に纏い始め、ヒョウを彷彿とさせるかのような速さで敵を切り刻んでいく。
「あれがAティア・フェルナンドの霊装体解放かぁ~こわぇこわぇ。そんな人らを前にしたら、俺なんて見劣りしちゃうじゃねーかよぉ~!!縛り上げろ!海蛇!!!」
ヒュイーゴは、右手に構えた鞭に水属性のオーラを集中させ、そのオーラは動物の形態へ変化していく。まるでウミヘビのように長くしなやかに。そして、海蛇は敵の1人、また1人と縛り上げていき、顔の付近で水属性オーラを拡大させ、窒息させていく。
「「ボボボボボッッッ!!!」」
「苦しいかぁ!!そりゃそうだろうなぁ!だってそこはもう海だからなぁ!!」
前方、そして左右全ての敵をたった3人で片付けてしまう四秀選考の魔導士たち。
「すごいですミネルバ師匠!!」
「あらそうぉ?もっと褒めてもいいのよ」
「はい!すごいです!かっこいいです!美しいです!」
「あら、言いすぎよ、フフフ、フフフフ、グヘヘヘヘヘヘッ!」
弟子であるリルロッテに褒められ、満足げな笑みを浮かべるミネルバの、度がすぎた表現に一同恐怖の視線を向ける。
「何か前方が騒がしいなぁ…」
中央付近に配属されていた馬車で居眠りをしていたジモンは、窓を開け、外にいたシオンに事情を聞く。
「おい!煉獄の~何かあったのか?」
「いや、何もない。前は前で事態を収集させたらしい」
「んぁ?あぁそういうことか…んじゃ、まぁ俺はまだ寝るから護衛よろしく~」
「…。」
シオンは決してジモンを護衛しているわけではないが、自分の与えられた仕事をただこなすだけだと、無視した前だけを向く。
一方先頭では今回の事態について話し合いが進められていた。
「どうして、こんなところで待ち伏せなんてされてたのかしらね」
「そもそもコイツらはぁ、UMNに刃向かうとか世間知らずも良いところな野良の盗賊なのか?それとも、闇ギルドや『サモン・スカルパー』に雇われた連中かぁ?」
生きて拘束した敵に事情を聞くも一切の情報を吐こうとはせず、まいる魔導士たち。
「俺は、中央と後方を確認してくる。」
そういってフェルナンドは中央と後方で似たような事案が起きていないかを確認しに行った。
「もしサモン・スカルパーの手によるものなら、これは時間稼ぎとか、奇襲で仕留める作戦か…」
「それなら、一層速くリーバングレートリーフ向かった方がいいんじゃねーかぁー?」
もしこの盗賊たちがサモン・スカルパーに雇われてるのだとしたら、今頃サモン・スカルパーはUMN相手から逃げ切る支度をしているはず。すぐさま拠点に向かう必要があるが…。
「この連中も放っておくわけにはいかないわ」
「幸なことにUMN本部はさほど遠くはねぇーし、一度戻って引き渡すか?」
「賛成しかねるな…」
中央部隊からシオンがグレートヒメカに乗り現れる。
「サモン・スカルパーが差し向けたのなら、みすみす逃す事態になるだろ。今すぐにリーバングレートリーフに迎え」
「迎え…グヌヌ、15のクソガキがぁ…」
ヒュイーゴは年下に舐められることが生きてる中で1番嫌いなことで、グレイといいシオンといい若くしてイキリ散らかす子供に我慢ができない。
「十冠様だからってな、なんでも意見が通ると思ってんじゃねぇーーって話さクソガキボーイ」
「なら、そこでそのカス共の面倒でも見てろ…俺は1人で行く」
シオンはいち早くUMN編成隊を再稼働させに来たわけで、もし動かないのなら元から1人で突き進む気であったのだ。
「俺もそれに賛成です!すぐに向かった方がいい」
「…?」
なにやら聞き馴染みのある声にシオンは視線を落とすと、そこには先ほどグレートヒメカと戯れあっていた灰色髪の青年がいたのだ。
「俺も乗せて欲しい、ユウキ!」
「ふざけるな…自分の馬でいけ」
ヒヒーーーィン!!
「…?!」
グレートヒメカは急に甲高い鳴き声を発し、グレイの元へ歩み寄る。
「グレートヒメカ?本気か」
グレートヒメカはグレイの横につけ、軽く足を曲げて乗り込むのを待っていた。
「お前名前は?」
「俺はグレイ!」
「そうか…乗れ…」
「え?いいの?!」
「そう言ってる。さっさとしろ」
グレイは満面の笑みを浮かべシオンに差し出された手を掴み、一気にグレートヒメカの背に乗る。
ヒヒーーーィン!!!
グレートヒメカはグレイを背負うや否や、すぐさま体の向きを変え、ノース大陸南東部へ向かって駆け出していく。
「うわぁぁああ!はやっ」
「ちょ、ちょっとユウキ君、本当に行っちゃうの?!」
「…。」
シオンはグレイを連れてそのまま駆け出して行った。
「ちょっと無視ぃ?!酷くな~~い??」
「ミネルバ師匠を無視するなんて酷いです!」
「お前は初めて会った時、この馬が人懐っこいと言ったな」
「うん、初対面で顔を舐めてきたし、結構人懐っこいと思うけど…」
「こいつは…グレートヒメカは大の人嫌いだ。」
「本当?!」
シオン曰く、グレートヒメカは大の人間嫌いで、これまでにシオン以外に心を開いた者は居ないという。そのため、乗馬には向いておらず、レース用にも、運転用にも、なんなら家庭用の家畜にだって向いておらず、馬肉としての価値しか無く、殺処分が決まっていたところをシオンが助けたという。
「だからこいつはさっきみたいな人が集まる環境は耐えられなくて、リーバングレートリーフへ駆け出したというよりかは、いち早くあの場から逃げ出したがってたんだ」
「そうなんだ…大丈夫だったか?」
ヒヒーーーィン!!!
「そっか~なら良かった」
「言葉がわかるのか?お前」
シオンは、グレートヒメカと対話するかのような素振りを見せるグレイに驚く。
そんなグレイは、14歳にして獣人語をマスターしているため、それに精通する獣の言葉も大体は理解できていた。
「まぁね!」
「話せるのか?」
「さすがに馬の言葉は喋れないけど、聞くことなら」
「他とは変わってるな…そりゃグレートヒメカも気にいるわけだ。俺はシオンだ、そう呼んでくれ」
「シオン?ユウキじゃないの?」
グレイはシオンの名前に少し違和感を持つ。普通なら家族の者たちと分けるため姓ではなく、名を呼ぶことが多いこの世界で、あえて姓で呼ばせようとするシオンに疑問を持っていた。しかし、シオンは自分の姓がユウキであり、名がシオンだと説明する。
「俺の名前は結城紫音…結ぶに城、そして紫の音って書いて結城紫音だ。だから名前はシオンだ」
「へぇ???ん???はぁ???」
グレイの頭はこんがらがってしまう。一体シオンは何を言っているんだ。
「ムスブ…シロ?ムラサキノオト?へ???」
「やっぱりお前も理解できないか…漢字の名前だよ」
「あぁ!!そういうことか!ユウキはニホン国出身の人なんだ!!!」
「うん…まぁ正しいようで正しくないが…多分お前の思ってるニホン国とは違うぞ…」
シオンの不可解な漢字の名前や意味深な発言にグレイは困惑しつつも、ある1つの点を指摘する。
「さっきから『お前』ってやめてくれる?俺はグレイ…そんでもう友達だろ!」
「?!…そうか。友達か…。」
「ね!!!だからグレイって呼んで!ネ!早く!」
「い、今か?!///」
「今今今!!!」
ヒヒーーーィン!!!ヒヒーーーィン!!!
「ほら、グレートヒメカもそう言ってる」
「本当かよ?!」
意気地なしなご主人に代わり、グレートヒメカは何度もグレイの名前を天に向かって叫ぶ。
「ん……、、グレイ///」
「ほほほほほほ……?!?!よろしく!シオン!!!!」
こうしてひょんな偶然からシオンと友達になることができたグレイは、たった2人でグレートヒメカの背にまたがり、リーバングレートリーフを目指すのであった。
---------------------
「グレイが先に向かったァァァァァ??!!!そりゃあどういう事だよソウヤ!!」
「いや、グレイ君が1人で先頭を確認してくるって言ったっきり帰ってこなくて…様子を見に行ったら、煉獄のユウキと2人で先に向かったって皆んなから言われて…」
先頭で状況を確認してきたソウヤは、ベルモンドたちにグレイの近況を説明するが、ベルモンドは気が気でなかった。
「おい、師匠さん、良いのかよ?」
「んーーー、まぁ十冠がいるし、いいんじゃねーのぉ?それに、気の強そうなガキが同行を認めたんだろぉ?何か起こりそうな予感がする」
「師匠なら少しは心配しろ筋肉ダルマ!マタタビを見習え!!」
同じグレイの師匠として、片やグレイの身を一番に案じる弟子思いな師匠と、片や放任主義でなるようになるさ精神の筋肉師匠。グレイに対する価値観は天と地ほども違った。
「マタタビは心配性すぎんだよ。それにアイツも今年で15だぞ?立派なガキだ!大丈夫に決まってんだろ」
「立派なガキって、ガキじゃねーかよ!!それ心配だろ」
「立派なガキは立派なガキなんだから大丈夫だろ!」
「ダメだ…僕には全く理解できない」
ベルモンドとダズの意味のわからない言い合いに頭をこんがらせるソウヤは考えることを放棄した。
「それで、なんで前方は動かねーんだ?」
「僕ら同様に敵の待ち伏せにあって、倒した相手をドセアニアに連行するか否かを話し合ってた」
「何やってんだよ!くそっ!今にもグレイはどんどん離れてっちまうって言うのに」
後方にて、前方の判断を待ち侘びていたベルモンドたちは、怒りを露わにしていたが、ほど無くし2台の馬車が方向転換し後方の方へ下がってくる。
「おいおいおい、戻ってきたぞ」
ベルモンドらの元で一時停止する前方にいた魔導士たちは、ベルモンドたちに事情を説明する。その内容は、一部魔導士(半数)は、盗賊犯たちを新生・ドセアニア連合王国まで連行するため、このまま引き返すといい、今回編成された中でも選りすぐりの精鋭だけを残して、リーバングレートリーフへ向かうと言うのであった。その際、シオンと共に先行したグレイと親しい間柄にある後方部隊もリーバングレートリーフ行きの部隊へ合流させる旨を話し、一同は新生・ドセアニア連合王国に向けて後退していったのであった。
「何はともあれ…これでグレイ君を追えるわけだし、良かったね」
「あぁ、すぐさま先頭に合流して先行するグレイを目指すぞ!」
「「「「「おぉおおお!!」」」」」
UMN編成隊の中で、グレイとシオンの2人を抜いた30名のうち、リーバングレートリーフに向けて残った人員は…
『十冠』
・ジモン=K=マクガレー(30)。
『四秀選考・Aティア』
・ベルモンド=アドラス(26)
・フェルナンド=ナッシュ(25)。
・アビル=ラムネード(21)。
『四秀選考・Bティア』
・ソウヤ=コガネ(21)。
・ヒュイーゴ=ブリティッシュ(26)。
・ミネルバ=ストックケイン(27)。
・マジカルリバティー・ヨシノ(31)。
『四秀選考・Cティア』
・スメヒロ=ミナミ(23)。
・リルロッテ=サリーナ(19)。
そして残る5名がダズ=バッハトルテとギム=ファンティオ、そしてナツナ=イズモを含めた5人の冒険者および魔導士たち。
そこにグレイとシオンの2人を加えた計17名で、先にリーバングレートリーフにある『サモン・スカルパー』のギルドを叩きにいく。もちろん残りの15名も、盗賊犯を連行後、新たに部隊を編成して応援に向かう。
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本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
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