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第三章 〜新たなる冒険
49話 『サモン・スカルパー』 煉獄ノ友編
しおりを挟むノース大陸東部の森にて。
「どうしてやつがここにいるんだ!」
「知らないっすよ!でもあれは本物だぁ!」
装備一式と持ち出せた僅かばかりの金品を手に森を駆ける2人の盗賊。
木々の間を抜け、森を飛ぶ黒マントの青年は、徐々に盗賊との距離を詰め、すぐそこ、手が届く距離まで来ていた。
「煉獄・蛇目…」
黒炎と紫炎が混ざり合う異界の焔で形取られた蛇が2人の盗賊の体をすり抜け、貫通した全てのものを異界の焔で焼き尽くす。
「「ぃぎゃぁぁぁぁぁああああ!!!」」
あまりの熱さに腹の底から叫ぶ盗賊たち。その身体を焼き尽くす黒炎を払い、盗賊たちに歩み寄る黒マントの青年。
「お前たち…シェリアスフォードという名前を知っているか?」
「「?!」」
盗賊たちは瞳孔を広げ、その名に恐怖を覚える。
「シェ、シェシェシェ、シェリアス、フォードだと?!」
「知ってるのか?やつは今どこにいる?」
「し、知るもんかよ!あのお方を裏切ることは、イコール死ぬってことなんだよ!!」
「そうか…協力感謝した…」
黒マントの青年は、盗賊たちが落とした金品を回収し、彼らに背を向け去っていく。
「ハァハァ…助かったのか、俺たち」
「本当に死神みてーなやつだったなぁ…ハァ。」
パチンッ!!
黒マントの青年は、去り際に盗賊たちの身体に再び黒炎を着火させ、今度は肉の一つも残さずに燃やし尽くす。
「いぎゃぁぁああああ!!!誰か!!!」
「ぁぁぁあああ!!!助けて!助けて!!誰か!!!!」
「今回も…手がかりなしか…。どこにいるんだ、シェリアスフォード…」
黒マントの青年は、ノース大陸東部の森で盗賊団を壊滅させたのち、中央部に拠点を置くUMN『国際魔導連合』本部へ足を運ぶ。
そして、受付にて盗賊から奪った金品と身分を証明する冒険者カードを提示し、依頼完了の報告をする。
「これが盗難物の一部だ。持ち出せなかった物は拠点にそのまま置いてあるから人を派遣しろ…」
依頼をまとめている冒険者ギルドの受付嬢に端的に要件を伝え報酬金を受け取り、冒険者カードを更新させ、すぐさま次の依頼を探しにいく青年を、受付嬢は引き止める。
「ユウキさん!!ちょっと待ってください!」
「…?。」
「これをどうぞ…」
受付嬢はユウキという名前の青年に1枚の通達書類を渡す。それは、UMNにて、現在ノース大陸で活動をしている魔導士、および冒険者全員に渡している通達書類でありその内容は、近々ある独立ギルドに対して、武力行使による強制解体、および解散運動を行うための人員の要請を求むものであった。
「なんだこれは?」
「実は最近、独立ギルドの『サモン・スカルパー』に裏組織との関係性があるという報告が度々上がっており、さらには他の独立ギルドに対して業務妨害、および多大な過失を与えたことが問題となっていまして、UMN総出でサモン・スカルパーに対抗するパーティーを編成して、解体する任務が実行されるそうです。そのご連絡です。」
「サモン・スカルパーを?それに裏組織か…。」
「サモン・スカルパーも実力者を揃えた独立ギルドですから、UMNとしても一線級で活躍されているユウキさんに協力してもらいたいんですよ…」
「わかった…前向きに検討しておく。それとは別で、闇手や裏組織に関わる仕事をもっと回してくれ…」
「わかりました!そういった依頼はできる限りユウキさんに回しますね!いつもありがとうございます」
そう言ってシオンは受付を後にする。
ユウキ=シオン(15)。
以前まではイースト大陸の冒険者ギルドを拠点に活動していた孤高の冒険者だったが、ノース大陸で最大規模の魔導連合、UMNが発足されたことでノース大陸に移住し、ノース大陸を中心に活躍し始めた冒険者である。そして、前年度と、今年度、共にUMNの十冠に選ばれている強者である。
十冠『テンスターズ』とは、その年その年に、難度の高い多くの依頼をこなし、UMN、そして世界の治安維持のために大きく貢献した者たち、そしてUMNの評価基準の元で推薦された選りすぐりの実力者にのみ与えられた10の称号と地位であり、それぞれに年俸に似た依頼とは別途のお給金・金貨1000枚と、称号、そしてある一定の権利が与えられる。
そんな名誉ある称号を、シオンは拠点を移して1年でその称号を手にし、現在2年連続で受賞している。その実力は、現在ノース大陸に拠点を置く全ての魔導士の中で、5本の指には入ると言われており、単体の実力と、こなしてきた年間40件以上ものSランク依頼、およびSSランク依頼の影響あってだろう。つまり、名実ともに認める最強格の冒険者兼魔導士であった。
ーー-------------------
シオンが依頼を終えた同時刻、グレイは餓鬼洞山にて修行を終え、エヴァンにてダズと和牛のステーキを食していた。
「うん、うめぇなこりゃ!さすがは日出る国様々の高級食材だ」
「やっぱり和◯◯ってニホン国原産の物のことなんだ」
「そりゃそうだとも!和服、和牛、和菓子に和米な。」
「後半、食べ物しか出てないじゃないですか」
「そうか?ガハッハッハッハ!!」
グレイはステーキを噛みちぎり、口の中でよく噛んで飲み込む。
「そういえば、これな…」
ダズはグレイにある2枚の通達書類を渡す。
1枚は、今年中に見直される依頼のクエストランクで、月光和熊の依頼もその一つに入っていた。
「師匠の言った通りになりましたね。今年の12月でBランク降格。金貨20枚。まぁ師匠のおかげでこの3年は実害出てませんもんね。」
「言うてる場合か…金貨30枚を切る以上、間に合わないなら俺が討伐する」
この3年間で一度も月光和熊に勝てていないグレイ。クエストランクもAランクで、1人で討伐するにはそれなりの実力と手間がかかってしまう。仕方ないといえば仕方ないが、12月で報酬金が下がってしまうことを知りダズは、グレイが倒せなかった場合は、どちらにしろそこで修行を終わらせ、自分が月光和熊を討伐させて、グレイを独立させる予定だった。
「お金に貪欲じゃありません?下がったっていいじゃないですか」
「まぁちょっと事情があってな。すまんがこれは決定事項だ。どうでもいいから今年中にあの熊を倒せ」
「了解、です…。」
そして、もう1枚の通達書類は、独立ギルド『サモン・スカルパー』解体のための人員募集の書類だった。
「独立ギルドを解体させるんですか?」
「あぁ、それな。それは、独立ギルドの中でも、悪事を働く闇ギルドに認定されたギルドだ。」
「闇ギルド…そんな独立ギルドがあるんですね」
「昔からぼちぼちあったけどな。ここ数年で一気に急増したんだ」
「どうしてですか?UMN発足は活発化するテロリスト組織や、そういう闇ギルドの抑止力のためのものでしょ?」
UMN発足に携わったグレイは、その発足理由や理念を知っている。靱の一件や星界の使徒、それらの抑制のために発足された。それに、今では新生・ドセアニア連合王国と同盟を結ぶ国家は14カ国に登り、UMNに加入する独立ギルドは135に登る。それだけ巨大で力のある組織に、まるで対抗するかのように数を増やしていく闇ギルドたち。
「UMNのあるシステムが原因だな…」
「システム?」
「十冠と四秀選考だな」
十冠とは別に、年1回8月に選考されるSティアからCティアまでの優秀者に当てられた称号と一定の権利、そしてボーナス。これらが四秀選考である。
「そのシステムが何だって言うんですか?」
「優秀なもんが公に晒されるわけだから、闇ギルドの連中の標的にされるってわけだ。懸賞金付きでな」
「何それ?!非道すぎる!」
「特に狙われてんのは、四秀選考に選ばれてるBティアからCティアの連中だ。もちろん優秀だが、決して倒せない相手じゃない。そんな連中を多対一で締めて闇ブローカーに引き渡すってのが、最近問題になってんだ」
多くの闇組織やテロリスト組織が邪魔に思う魔導士たちの始末を懸賞金付きで依頼し、闇ブローカーが仲介に入る。それが今回の独立ギルド・サモン・スカルパーの解体にも繋がったのだ。
「師匠は参加するんですか?このサモン・スカルパーの解体に」
「人手が足りないようなら参加するべきだが…多分のお前さんの旧友たちも参加すると思うからな…」
「旧友?まさか…みんなが集まるの?!」
ダズの言う旧友とは、きっとレオネード・ハーツやホーリー・シンフォ、あの時を共に過ごした仲間たちのことだろう。そう確信して心躍らせるグレイ。
「俺も参加したい!この要請」
こうして、闇ギルドに堕ちた独立ギルド・サモン・スカルパーの解体依頼というグレイの新たな目的が決まる。
3年ぶりの再会を楽しみに、グレイはダズと共に1週間後の開かれる会合のため、UMN本部を目指す。
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