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第二章 〜家族のカタチ
45話 『同志』 奴隷解放戦線編 完
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新生・ドセアニア連合王国建国から2週間ほどが経った9月20日、新たに司法制度が制定され、旧・ドセアニア王城の跡地に最高裁判所が建設される。そして、旧・ドセアニア王国に対して侵略、略奪行為を図ったとして、元靭の幹部、ならびに構成員たち30名あまりが起訴される。
その中でも、ゼクシード=インフェルノは、過去の靭諜報員としての活動があるものの、靭・リーダーであるセナの撃退に大きく貢献したとして、懲役2年執行猶予3年の判決が降る。3年間罪を重ねなければ懲役の2年は免除されるというもので、他の人々と何ら遜色ない生活を送ることができる。
そして、次に刑期が短いものとしては、元靭の幹部であるハナ=ヒートハルトがあげられる。
ハナは、旧・ドセアニア王国の第二次侵攻作戦に大きく関与し、靭の指揮を担っていた人物として、実刑を受ける事になるものの、旧・ドセアニア王国を襲う巨大隕石を止めるために尽力したとして、懲役3年と比較的短い懲役刑を実刑される。
その次は、カガチ、ナギ、デモンズ、この3人に関してはそれぞれ懲役4年の実刑判決が降る。ゼクシードやハナと違い、靭幹部としての犯行だけに留まる彼女らがここまで短い懲役刑になったのには、深い訳があり、それが次の罪人であった。
「元靭の幹部であり、一連の騒動の全ての計画を立案、実行、および組織構成員への洗脳・恐喝の疑いで被告人、トール=ライドバンズを無期懲役の実刑判決とす。」
「「「「?!」」」」
ゼクシードを除く4人の元幹部たちは、驚きの表情を隠せない。
「どういう事ですか?!何故トールが!」
「むしろ1番何もしていないじゃないか!第一次侵攻だって、実行したのは俺たちだ!」
「何かの間違いダァ!」
「ゼクシード!何で黙ってるのよ!アンタも何か言いなさいよ!」
「…。」
元幹部の内、4人を除いたゼクシードのみが知る事実。それは、トールとベルモンドが結託し、靭内部で起きた全ての事象をトールに肩代わりさせる計画が進められていた。作戦の立案も実行も全てはトールがしたこと。そして、構成員や元幹部、全員を洗脳し付き従えた疑いがあるとして、ベルモンドは司法に訴えかけていたのだ。これら全てはトールの意志であり、他の全員の罪を肩代わりし、刑期を短くする為であった。
他の構成員たちも同じ実刑判決を下され、各々が連行車に乗って地上牢獄へと幽閉されていく。
途中、トールはベルモンドと顔を合わせる機会があり、拘束された腕を伸ばし、ベルモンドと拳を合わせる。
「ありがとな…ベルモンド。約束守ってくれて」
「フッ、本当に不器用なやつだなアンタ。でもアンタを無期懲役にしたことで、今度は酒を交わす約束が果たせなさそうだ」
ーーー------------------
セナ撃退後、いち早く意識を取り戻したトールは、ベルモンドと共にアジトの外へ出て、戦況を全て把握し、この先の展開を全て予測していた。そして、レオネード・ハーツたち増援が駆けつけた時点で、ドセアニア王国の再建とここまでのシナリオを全て悟ったトールは、事前にベルモンドと口裏を合わせることで、他の構成員全員を自分が洗脳していたことにし、自分を無期懲役刑などに仕向け、他の者の刑期を免除、もしくは短くするように取り計らってもらうよう約束を交わしていた。
「全部俺がやった事にしてくれ。」
「んぁ?何バカなこと言ってんだよ!アンタは何もしてねー、そんで、バカやったやつらはしっかりと償って更生させる。当たり前だろ?」
「全て元を辿れば俺が元凶だ。俺の足がこうなってしまったせいで、セナもゼクシードも、そしてみんなを巻き込んでしまった。最初に言っただろ?」
「不器用すぎるだろ、アンタ」
「そうかもな。でも、あいつらは皆んな俺の大事な家族なんだ。あいつらの人生を、こんなところで終わらせたくねーんだ。頼むよベルモンド」
「ならよ。一つだけ約束してくれ。いつかきっと酒を交わそう。」
「あぁ。お前となら気持ちよく飲めそうだ…」
---------------------
「お前がうまいことやってくれよ!脱獄でもいいぜ!ナンテナ」
「アホか…フッ」
こうして2人は友情を確かめ合い、トールは幽閉されていくのであった。
「3年か…」
「良かったじゃないですか、実刑判決にならなくて」
「そうだね。セナの一件もあるけど、トールがうまいことやったみたいだ。」
これから約3年から4年の間、仲間と離れ1人孤独の身となってしまったゼクシード。1番の理解者であったトールは無期懲役となり、2度と日の目を浴びることがなくなり、トールの意志とはいえ、露骨に落ち込む。
「ハァーーー、どうしようか、これから…」
「僕もどうしましょうか。強くなって未界の地を目指す!なんて啖呵切ったわりには具体的なことは何も思いつかなくて。そもそも僕…魔法使えないですし、」
「白い悪魔はどうだった?」
グレイがセナ戦で使用した火炎を発現させる化合薬品。ゼクシードが作ったもので、セナを倒す決め手となった物だ。
「もう、死ぬほど熱かったですよ。ちょっとまだ骨が治ってないんで包帯は取れないですけど、火傷跡が一生消えないって言われました」
「そうか…半分はマナを液状化させたもので、半分は化学物質だからね。人体に影響を与えてしまったみたいだ。本当にすまなかった」
ゼクシードはグレイに深く謝罪し、一生かけてグレイの傷跡と向き合うことを約束する。
「どうにか治す手段を…」
「いえいえ、大丈夫ですよ!自分で選んだ結果ですから。後悔はしてないです」
そんなグレイの言葉にゼクシードは救われる。
「魔法は使えないけど、君の特異体質は、この世界で1番の魔法の対抗策だ。魔法が効かないなら、近接戦闘で敵を無力化することもできるはずだ。まずは、体づくりや体術を極めるのはどうかな?試行錯誤して魔法を覚えるよりも現実味があるし、具体的だ。」
「そうですね!まずはそこ始めますか」
「誰かいないかい?そういったことに精通してる人…」
「んーーーーー。」
「グレェーーーーーーイ!!」
「…?!」
遠くからグレイの名を叫び、大きく手を振る老体がグレイたちへ歩み寄ってくる。その自分は、エヴァンの街で行われた紅白海賊王祭りにて、グレイらと協力し、惜しくも準優勝につけてしまった赤チームのNo. 1実力者、生きる伝説の海賊・ダズ=バッハトルテであった。
「ダズさん?!どうしてここに!」
「何やらドセアニアで大きなことが起きてるって聞いてな!テロリスト組織やベイダー兵器を追い返したんだってな!グレイ。やるじゃないか!」
ノースの北部にあるドセアニア王国で何やら騒がしい事態になってると風の噂で聞きつけたダズは、グレイらが向かった先と一致していることに気づき、急いで駆けつけた次第であった。
「だ、誰?」
ゼクシードは、突如現れた巨体の男に驚き、怯えた表情を浮かべる。
「こちら、ダズ=バッハトルテさん!生きる伝説の海賊と呼ばれている方です」
「やぁ若者!なんかお前はヒョロヒョロしてて何だか弱そうだな」
「えぇ、戦闘員じゃないんでっ!!っていって!!!」
ダズはヒョロヒョロとしたゼクシードの背中を軽く叩いて、笑い声を上げる。
「本当に骨だな!ガッハッハッハッハッ!!もっと肉を食え!肉を」
「はぁ…そうですね」
「そうだ!ダズさん!」
「ん?何だ?」
「もしかして、未界について、何か知っていたりしませんか?」
「未界?!未界に興味があんのかグレイ!」
何やらダズは未界について知識がある様子。そして、やけに食いつきが良かった。
「実はどうしても行きたくて!」
「何か目的があんのか…あの場所はなぁ…地獄だぞ」
「「地獄?!」」
思わずゼクシードも反応してしまう。セナの故郷がある場所であり、人類が未だ開拓できない未開の地。研究者として、それについて深く興味が湧くゼクシード。
「まずは、こっちじゃ見たこともねー生命が生息してる。未界には未界の生態系が確立してんだ。こっちじゃ生物の大半を占めてるのは人間だが、あっちじゃ人間は淘汰されてる。」
「未知の生命…世界の常識を覆す生態系…」
「そうだ。そんでもって、夢が広がってる!」
「「?!」」
「無限の物質、無限の種族、無限の生命、そして金銀財宝…ナンテナ。未だ開拓されてない地だから何があってもおかしくねーって話さ。」
未界について意気揚々と語り出すダズ。気持ちが高揚したか、口が止まらずペラペラと未界について語り尽くす。
「ダズさんは、どうしてそんなに詳しいんですか?」
「なにせ、一度航海したからな。未界を。」
「えぇ?!そうなんですか?」
「あぁ。まだ20か、そこらの頃だな。右も左も分かんねーが腕っぷしだけには自信があったからよ、乗ったんだよ、サイレンスメアリー号に。」
約30年前、海賊全盛期の時代に名を馳せた、ルマンディー=サラザールが指揮するサイレンスメアリー号に乗船した若き日のダズは、当時19歳で、ノース南岸部にあるエヴァンから西ルートで時計回りに海岸を北上していき、未界、ユニバースの海を航海した経験があるという。
「今でも忘れねーよ。こーんなでっけぇ亀が居たりなぁ!天に突き刺さるような巨大な木が遠くの方に見えたりなぁ!終いには、恐ろしい獣や海の主なんかに襲われて、サイレンスメアリー号は撃沈。その時、俺はある生物に助けられて…気づけばノース大陸西部の沖合に流れ着いてた。」
「ある生物って…」
「人魚姫だよ」
「「人魚姫…?!」」
未だに自分でも信じられない体験。巨大なサメや巨大なイカに襲われて、沈没してしまった海賊船。海へ放り出された船員たちの中で唯一生還した自分。海の中は暗く、冷たく、深海へ引き摺り込まれていく感覚だけがあった。そんな時、一筋の光と共に体を包む温かい何か、そして、ピンク色の鱗が一瞬視界に映ったかと思えば、女性に笑い声が聞こえ…そこで意識を失い、目が覚めた時にはノース大陸の西部沖合に打ち上げられていた。
「それ以来俺は海賊業を続け、人魚姫を追ってだ。それが俺の夢だ!いつかきっと、また未界へ足を運ぶ!生涯かけて叶える夢、カッケェだろ」
「はい!!すごく」
「人魚姫かぁ。空想上の生き物じゃないんだね。未だ未知の生命たちが住まう領域。」
「だってエルフや獣人も未界出身だろ?たまたま人間と共存できて、たまたまこっちの世界で一部のやつらが馴染んでるってだけの話だからな。エルフだって最初は空想上の生き物だった。でも今や街中に姿を晒し、人権さえ獲得してる。立派な人類だ」
ダズから聞く未界の話は、とても有意義な物でグレイやゼクシードたちの興味を惹きつける十分な話だった。
「ダズさん!僕に稽古をつけてください!僕はもっともっと強くなって、未界へ行きたいんです!そして、両親の手がかりを探したい!」
「そうか。そうか。あぁ、その目だ。あの頃の俺と同じ目をしている。いいだろう、同じ志を持つ同志として、お前を一人前の戦士に鍛え上げてやる!」
ダズとグレイ、共に未界を夢見る同志は、新たな修行の旅へと出る。
「僕も暇だから着いて行こうかな」
「是非!一緒に行きましょう、ゼクシードさん!」
ゼクシードは、グレイとダズの修行の旅に同行することとなる。
意志を固めたグレイは、今まで共に旅をしたカイト、ミヅキ、そして師匠であるマタタビに別れを告げに行く。
「兄さんとお姉ちゃんは///これからどうするんですか?」
未だ兄さん呼びとお姉ちゃん呼びに抵抗があり照れるグレイ。
「アタシはマタタビさんに魔法を教わってから、当分はホーリー・シンフォが面倒を見てくれることになったわ。リリアンもいるし、安心ね」
「僕は1ヶ月修行した後に、中高学院の夏休みが明けるから、半年勉学に勤しんで、レオネード・ハーツのギルド試験を受けてみようと思うんだ。やっぱり光属性魔法を学ぶならハルミさんのところが1番だから」
ミヅキは自分の立場を重々理解し、事情を知った上で協力的なホーリー・シンフォに身を置き、カイトは光属性魔法を学ぶという目的のために、レオネード・ハーツの門を叩くという。そして、マタタビはと言うと、1人世界を旅し、身を隠すつもりでいたが、UMNを統率するシグレからUMNの用心棒を依頼されたことで、用心棒として年契約を結ぶことにしたらしい。多くの独立ギルドや冒険者が加盟したことで、名実共に力のある組織として拡大していくUMNに身を置けるならこれ以上に心強いものは無いと依頼を承諾する。
「僕は、ダズさんとゼクシードさんと共に修行の旅に出ます!」
「そっか、強くなってお父さんを探しに行くのね」
「はい!」
「グレイの道はいつだって過酷なものになると思うけど、絶対やり遂げられるって僕は信じてる!」
「そうね!グレイ!アンタは強くてカッコよくて頼りになる最高の弟よ!だからもっとカッコよくなって帰って来なさい!」
「頑張れ!グレイ」
「はい!!」
「グレイ…私が君に教えてあげられたことなど、本当にたかが知れている。今更師匠面する気はないが…本当に、一つの文句も吐かずに真っ直ぐ教えを受けた良い子だった。私が送れる物はこんな物しかないが、大切にしてくれるとありがたい。」
マタタビは、懐にしまっていたナックルナイフを取り出しグレイへ差し出す。それはマタタビが初めてグレイに買い与えたナックルナイフであった。セナとの戦いで無くしたと思っていたグレイは、ナックルナイフを強く握り締め、2度と離さぬよう大事に持つ。
「行ってらっしゃい、グレイ」
「行って来ます!お父さん」
「…?!。」
その日グレイは、ひと足先に新生・ドセアニア連合王国を旅立ったのであった。
その中でも、ゼクシード=インフェルノは、過去の靭諜報員としての活動があるものの、靭・リーダーであるセナの撃退に大きく貢献したとして、懲役2年執行猶予3年の判決が降る。3年間罪を重ねなければ懲役の2年は免除されるというもので、他の人々と何ら遜色ない生活を送ることができる。
そして、次に刑期が短いものとしては、元靭の幹部であるハナ=ヒートハルトがあげられる。
ハナは、旧・ドセアニア王国の第二次侵攻作戦に大きく関与し、靭の指揮を担っていた人物として、実刑を受ける事になるものの、旧・ドセアニア王国を襲う巨大隕石を止めるために尽力したとして、懲役3年と比較的短い懲役刑を実刑される。
その次は、カガチ、ナギ、デモンズ、この3人に関してはそれぞれ懲役4年の実刑判決が降る。ゼクシードやハナと違い、靭幹部としての犯行だけに留まる彼女らがここまで短い懲役刑になったのには、深い訳があり、それが次の罪人であった。
「元靭の幹部であり、一連の騒動の全ての計画を立案、実行、および組織構成員への洗脳・恐喝の疑いで被告人、トール=ライドバンズを無期懲役の実刑判決とす。」
「「「「?!」」」」
ゼクシードを除く4人の元幹部たちは、驚きの表情を隠せない。
「どういう事ですか?!何故トールが!」
「むしろ1番何もしていないじゃないか!第一次侵攻だって、実行したのは俺たちだ!」
「何かの間違いダァ!」
「ゼクシード!何で黙ってるのよ!アンタも何か言いなさいよ!」
「…。」
元幹部の内、4人を除いたゼクシードのみが知る事実。それは、トールとベルモンドが結託し、靭内部で起きた全ての事象をトールに肩代わりさせる計画が進められていた。作戦の立案も実行も全てはトールがしたこと。そして、構成員や元幹部、全員を洗脳し付き従えた疑いがあるとして、ベルモンドは司法に訴えかけていたのだ。これら全てはトールの意志であり、他の全員の罪を肩代わりし、刑期を短くする為であった。
他の構成員たちも同じ実刑判決を下され、各々が連行車に乗って地上牢獄へと幽閉されていく。
途中、トールはベルモンドと顔を合わせる機会があり、拘束された腕を伸ばし、ベルモンドと拳を合わせる。
「ありがとな…ベルモンド。約束守ってくれて」
「フッ、本当に不器用なやつだなアンタ。でもアンタを無期懲役にしたことで、今度は酒を交わす約束が果たせなさそうだ」
ーーー------------------
セナ撃退後、いち早く意識を取り戻したトールは、ベルモンドと共にアジトの外へ出て、戦況を全て把握し、この先の展開を全て予測していた。そして、レオネード・ハーツたち増援が駆けつけた時点で、ドセアニア王国の再建とここまでのシナリオを全て悟ったトールは、事前にベルモンドと口裏を合わせることで、他の構成員全員を自分が洗脳していたことにし、自分を無期懲役刑などに仕向け、他の者の刑期を免除、もしくは短くするように取り計らってもらうよう約束を交わしていた。
「全部俺がやった事にしてくれ。」
「んぁ?何バカなこと言ってんだよ!アンタは何もしてねー、そんで、バカやったやつらはしっかりと償って更生させる。当たり前だろ?」
「全て元を辿れば俺が元凶だ。俺の足がこうなってしまったせいで、セナもゼクシードも、そしてみんなを巻き込んでしまった。最初に言っただろ?」
「不器用すぎるだろ、アンタ」
「そうかもな。でも、あいつらは皆んな俺の大事な家族なんだ。あいつらの人生を、こんなところで終わらせたくねーんだ。頼むよベルモンド」
「ならよ。一つだけ約束してくれ。いつかきっと酒を交わそう。」
「あぁ。お前となら気持ちよく飲めそうだ…」
---------------------
「お前がうまいことやってくれよ!脱獄でもいいぜ!ナンテナ」
「アホか…フッ」
こうして2人は友情を確かめ合い、トールは幽閉されていくのであった。
「3年か…」
「良かったじゃないですか、実刑判決にならなくて」
「そうだね。セナの一件もあるけど、トールがうまいことやったみたいだ。」
これから約3年から4年の間、仲間と離れ1人孤独の身となってしまったゼクシード。1番の理解者であったトールは無期懲役となり、2度と日の目を浴びることがなくなり、トールの意志とはいえ、露骨に落ち込む。
「ハァーーー、どうしようか、これから…」
「僕もどうしましょうか。強くなって未界の地を目指す!なんて啖呵切ったわりには具体的なことは何も思いつかなくて。そもそも僕…魔法使えないですし、」
「白い悪魔はどうだった?」
グレイがセナ戦で使用した火炎を発現させる化合薬品。ゼクシードが作ったもので、セナを倒す決め手となった物だ。
「もう、死ぬほど熱かったですよ。ちょっとまだ骨が治ってないんで包帯は取れないですけど、火傷跡が一生消えないって言われました」
「そうか…半分はマナを液状化させたもので、半分は化学物質だからね。人体に影響を与えてしまったみたいだ。本当にすまなかった」
ゼクシードはグレイに深く謝罪し、一生かけてグレイの傷跡と向き合うことを約束する。
「どうにか治す手段を…」
「いえいえ、大丈夫ですよ!自分で選んだ結果ですから。後悔はしてないです」
そんなグレイの言葉にゼクシードは救われる。
「魔法は使えないけど、君の特異体質は、この世界で1番の魔法の対抗策だ。魔法が効かないなら、近接戦闘で敵を無力化することもできるはずだ。まずは、体づくりや体術を極めるのはどうかな?試行錯誤して魔法を覚えるよりも現実味があるし、具体的だ。」
「そうですね!まずはそこ始めますか」
「誰かいないかい?そういったことに精通してる人…」
「んーーーーー。」
「グレェーーーーーーイ!!」
「…?!」
遠くからグレイの名を叫び、大きく手を振る老体がグレイたちへ歩み寄ってくる。その自分は、エヴァンの街で行われた紅白海賊王祭りにて、グレイらと協力し、惜しくも準優勝につけてしまった赤チームのNo. 1実力者、生きる伝説の海賊・ダズ=バッハトルテであった。
「ダズさん?!どうしてここに!」
「何やらドセアニアで大きなことが起きてるって聞いてな!テロリスト組織やベイダー兵器を追い返したんだってな!グレイ。やるじゃないか!」
ノースの北部にあるドセアニア王国で何やら騒がしい事態になってると風の噂で聞きつけたダズは、グレイらが向かった先と一致していることに気づき、急いで駆けつけた次第であった。
「だ、誰?」
ゼクシードは、突如現れた巨体の男に驚き、怯えた表情を浮かべる。
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「えぇ、戦闘員じゃないんでっ!!っていって!!!」
ダズはヒョロヒョロとしたゼクシードの背中を軽く叩いて、笑い声を上げる。
「本当に骨だな!ガッハッハッハッハッ!!もっと肉を食え!肉を」
「はぁ…そうですね」
「そうだ!ダズさん!」
「ん?何だ?」
「もしかして、未界について、何か知っていたりしませんか?」
「未界?!未界に興味があんのかグレイ!」
何やらダズは未界について知識がある様子。そして、やけに食いつきが良かった。
「実はどうしても行きたくて!」
「何か目的があんのか…あの場所はなぁ…地獄だぞ」
「「地獄?!」」
思わずゼクシードも反応してしまう。セナの故郷がある場所であり、人類が未だ開拓できない未開の地。研究者として、それについて深く興味が湧くゼクシード。
「まずは、こっちじゃ見たこともねー生命が生息してる。未界には未界の生態系が確立してんだ。こっちじゃ生物の大半を占めてるのは人間だが、あっちじゃ人間は淘汰されてる。」
「未知の生命…世界の常識を覆す生態系…」
「そうだ。そんでもって、夢が広がってる!」
「「?!」」
「無限の物質、無限の種族、無限の生命、そして金銀財宝…ナンテナ。未だ開拓されてない地だから何があってもおかしくねーって話さ。」
未界について意気揚々と語り出すダズ。気持ちが高揚したか、口が止まらずペラペラと未界について語り尽くす。
「ダズさんは、どうしてそんなに詳しいんですか?」
「なにせ、一度航海したからな。未界を。」
「えぇ?!そうなんですか?」
「あぁ。まだ20か、そこらの頃だな。右も左も分かんねーが腕っぷしだけには自信があったからよ、乗ったんだよ、サイレンスメアリー号に。」
約30年前、海賊全盛期の時代に名を馳せた、ルマンディー=サラザールが指揮するサイレンスメアリー号に乗船した若き日のダズは、当時19歳で、ノース南岸部にあるエヴァンから西ルートで時計回りに海岸を北上していき、未界、ユニバースの海を航海した経験があるという。
「今でも忘れねーよ。こーんなでっけぇ亀が居たりなぁ!天に突き刺さるような巨大な木が遠くの方に見えたりなぁ!終いには、恐ろしい獣や海の主なんかに襲われて、サイレンスメアリー号は撃沈。その時、俺はある生物に助けられて…気づけばノース大陸西部の沖合に流れ着いてた。」
「ある生物って…」
「人魚姫だよ」
「「人魚姫…?!」」
未だに自分でも信じられない体験。巨大なサメや巨大なイカに襲われて、沈没してしまった海賊船。海へ放り出された船員たちの中で唯一生還した自分。海の中は暗く、冷たく、深海へ引き摺り込まれていく感覚だけがあった。そんな時、一筋の光と共に体を包む温かい何か、そして、ピンク色の鱗が一瞬視界に映ったかと思えば、女性に笑い声が聞こえ…そこで意識を失い、目が覚めた時にはノース大陸の西部沖合に打ち上げられていた。
「それ以来俺は海賊業を続け、人魚姫を追ってだ。それが俺の夢だ!いつかきっと、また未界へ足を運ぶ!生涯かけて叶える夢、カッケェだろ」
「はい!!すごく」
「人魚姫かぁ。空想上の生き物じゃないんだね。未だ未知の生命たちが住まう領域。」
「だってエルフや獣人も未界出身だろ?たまたま人間と共存できて、たまたまこっちの世界で一部のやつらが馴染んでるってだけの話だからな。エルフだって最初は空想上の生き物だった。でも今や街中に姿を晒し、人権さえ獲得してる。立派な人類だ」
ダズから聞く未界の話は、とても有意義な物でグレイやゼクシードたちの興味を惹きつける十分な話だった。
「ダズさん!僕に稽古をつけてください!僕はもっともっと強くなって、未界へ行きたいんです!そして、両親の手がかりを探したい!」
「そうか。そうか。あぁ、その目だ。あの頃の俺と同じ目をしている。いいだろう、同じ志を持つ同志として、お前を一人前の戦士に鍛え上げてやる!」
ダズとグレイ、共に未界を夢見る同志は、新たな修行の旅へと出る。
「僕も暇だから着いて行こうかな」
「是非!一緒に行きましょう、ゼクシードさん!」
ゼクシードは、グレイとダズの修行の旅に同行することとなる。
意志を固めたグレイは、今まで共に旅をしたカイト、ミヅキ、そして師匠であるマタタビに別れを告げに行く。
「兄さんとお姉ちゃんは///これからどうするんですか?」
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「アタシはマタタビさんに魔法を教わってから、当分はホーリー・シンフォが面倒を見てくれることになったわ。リリアンもいるし、安心ね」
「僕は1ヶ月修行した後に、中高学院の夏休みが明けるから、半年勉学に勤しんで、レオネード・ハーツのギルド試験を受けてみようと思うんだ。やっぱり光属性魔法を学ぶならハルミさんのところが1番だから」
ミヅキは自分の立場を重々理解し、事情を知った上で協力的なホーリー・シンフォに身を置き、カイトは光属性魔法を学ぶという目的のために、レオネード・ハーツの門を叩くという。そして、マタタビはと言うと、1人世界を旅し、身を隠すつもりでいたが、UMNを統率するシグレからUMNの用心棒を依頼されたことで、用心棒として年契約を結ぶことにしたらしい。多くの独立ギルドや冒険者が加盟したことで、名実共に力のある組織として拡大していくUMNに身を置けるならこれ以上に心強いものは無いと依頼を承諾する。
「僕は、ダズさんとゼクシードさんと共に修行の旅に出ます!」
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「はい!」
「グレイの道はいつだって過酷なものになると思うけど、絶対やり遂げられるって僕は信じてる!」
「そうね!グレイ!アンタは強くてカッコよくて頼りになる最高の弟よ!だからもっとカッコよくなって帰って来なさい!」
「頑張れ!グレイ」
「はい!!」
「グレイ…私が君に教えてあげられたことなど、本当にたかが知れている。今更師匠面する気はないが…本当に、一つの文句も吐かずに真っ直ぐ教えを受けた良い子だった。私が送れる物はこんな物しかないが、大切にしてくれるとありがたい。」
マタタビは、懐にしまっていたナックルナイフを取り出しグレイへ差し出す。それはマタタビが初めてグレイに買い与えたナックルナイフであった。セナとの戦いで無くしたと思っていたグレイは、ナックルナイフを強く握り締め、2度と離さぬよう大事に持つ。
「行ってらっしゃい、グレイ」
「行って来ます!お父さん」
「…?!。」
その日グレイは、ひと足先に新生・ドセアニア連合王国を旅立ったのであった。
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次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
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チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
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