グレイロード

未月 七日

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第二章 〜家族のカタチ

39話 『白き不死鳥』

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 5th・エレメント、デス・クライシスがダイドウ深淵窟内を一掃したかに思えたが、唯一魔力耐性という特異体質のグレイだけがかろうじて耐え抜いていた。
 バタンッ!
 耐え抜いた、と言っても相当なダメージを受けており、グレイは地に片膝をつき、ギリギリのところで踏ん張っていた。
 あまりの攻撃範囲の広さに展開させたセナさえも、無傷では済まされず、こちらも相当なダメージを受けている。諸刃の剣どころか自分さえ巻き込む無差別テロのような5th・エレメント、デス・クライシス。
「やはり…君だけは耐えたか…グレイ…ンッ?!」
 顔を見上げ、グレイに視線をやるセナだったが、グレイの片隅で無傷で寄り添う1人の少年を視認する。
「誰だ…君は?」
 グレイに寄り添う少年、その正体はカイトの弟であるハルトであった。
『グレイ、大丈夫?』
「は…い…、大丈夫です。」
 グレイは両足に力を入れ、少しずつ立ち上がる。
「デス・クライシスを喰らって…何故君は無傷なんだ…」
『まさか僕が見えてるんですか?』
「?!」
 グレイとは違い、ハルトの幼い少年のような姿形さえはっきりと視認できているセナ。
「まさか…守護主アレクシルか」
 一度命を落とし現世から離れた者・死者。その魂は現世とは全く別の黄泉の国へ誘われる。そして、稀に思念体として黄泉の国から舞い戻るように現世へ姿を現わす者、もしくは、成仏できずに黄泉の国へ誘われず現世を彷徨う者たちがいる。ハルトは前者であり、兄であるカイトを救うべく黄泉の国から舞い戻ってきたのである。それをセナは守護する対象、アレクシルと呼んでいた。
「そしてグレイ…お前聖翼者アレクシードなのか?」

ーーアレクシード?!。

 セナの告げるアレクシードが何を指しているのかさっぱりわからないグレイだったが、1つ分かることは、セナにもハルトが見えているということ。常に自分のそばにいたハルトを他の仲間は誰も気づかなかった。きっとセナにも仲間のうちの1人にしか見えていなかっただろうが、デス・クライシスを無傷で耐え抜いたことで、その存在を認知した。そして、ハルトのことをアレクシルと呼び、その存在についても何やら深く理解しているような口ぶり。

「そうか、そうだったのか。お前もアレクシードだったか。それなら、俺と分かり合えるはずだグレイ。俺たちの故郷をめちゃくちゃにしたドセアニアに復讐しようじゃないか。最強の魔導士たる俺と、全ての魔法を耐え抜く君。グリムデーモンが無くとも、簡単にドセアニアに復讐が果たせる!」
 セナは一体何を言っているんだろうか。アレクシード?故郷?まるで話が見えてこないグレイ。
「どういう…ことだ…」
「ん?。まさかお前、自分の出生やその力について、何も知らないのか?」
「?!」
 出生…力…特異体質…。
 星界の使徒の七星であったドゥーぺも何やら自分のことについて知っている節があった。そして、今回のセナも自分のことを何か知っている様子。両親に繋がる手掛かりが、手の届くところにある。しかし、その相手は多くの人々を傷つけた大悪党。許されざる元凶。そんな相手に…。
「久しぶりに会ったよ、同族とは。アレクシード、魂を導き守護する者なり。星界ポラリスと繋がりし唯一の種。俺以外にも生き残りがいたなんて…。」
「星界…ポラリス?!」
 星界の使徒と同じ名前の国。いや、世界、存在という、概念なのか。何もわからない。理解出来ぬまま話は加速していく。
「あまり、ピンと来ていないようだね。君にそのアレクシルが見えるってことは、間違いなく君にはアレクシードの遺伝子が入ってる。両親はアレクシードだ。そして、7年半前に、アレクシードたちが住むノースの果てにある俺たちの故郷は、ドセアニア王国の未界ユニバース開拓侵攻に巻き込まれて滅ぼされたよ。」
「?!」
 セナによって告げられる両親の種族のこと。自分との繋がり。そして、両親の故郷であろうノースの果てにある"ある場所"がドセアニア王国によって滅ぼされたこと。もしかしたら、自分の両親は、未界開拓侵攻とやらに巻き込まれて、すでにこの世を去ってしまったのではないか。
 3年前のフラナ襲撃でドセアニアに対して強い執着心、復讐心を見せていたカイト。まるで他人事のように話を聞いていたグレイだったが、今こうして自分の出生や両親についてドセアニアが深く関わっていることを知ると、自分の心の底から滲み出る負の感情を抑え込むことができなくなってしまう。
『グレイ…意志を強く持つんだ!』
「?!」
『君の原動力は、復讐心なんかじゃないだろ?』
「ハルトさん…」
「余計なことを…アレクシル。干渉できない事を良いことに、安全圏から指図するなよ」

ーー5th・エレメント、ヘル・ブレス!

 基本5属性を融合させたドス黒い色の息吹が思念体であるハルトに襲いかかる。
 ハルトに襲いかかる紫と黒の禍々しい息吹の前に立ち、片腕を伸ばしてヘル・ブレスからハルトを守るグレイ。
 ボボボボボボボボボボ!!!!!
 5th・エレメントというだけあってその出力は単一属性魔法の約5倍。そんな攻撃を受けたグレイの右腕は焼けこげ、ボロボロに見える。
 右腕も震えているものの、表情を変えず痛みに耐えるグレイ。
「何をしているグレイ。所詮そいつは思念体だ。こっちの世界の魔法なんか効きやしないぞ?守るだけ無駄だ」
『グレイ…どうして?!』
「干渉するとかしないとか、魔法が効くとか効かないとか、関係ない!仲間の家族を守ることに理由なんかいらない!」

「ハルトさん…ありがとうございます。ハルトさんのおかげで吹っ切れました。」
『?!』
「僕が今すべきことは、あいつを倒すことだ!」
「やる気か…グレイ。ドセアニアに対してなんとも思わないのか!!ヘル・ブレス!!」
「何とも思わないわけ…ないだろ!!!」
 ヘル・ブレスに対してもう1度右腕を前へ伸ばして防ぎながら突き進むグレイ。度重なる5th・エレメントを喰らい、右腕を捨て去る覚悟で真っ向から挑み続けるグレイ。そして、左手に3つのアルビニウムを握りしめセナへ接近していく。
「それなら、何故!何故、俺と協力しない!!憎きドセアニアに復讐しようとしないんだ!!」
ーークソッ!5th・エレメントを使いすぎたか…マナがもう、底をつく…。放てて、1発か2発。なら、残りの全てのマナを使って、この小僧を弾き返す。
「5th・エレメント!!!!」
 セナは叫びながら両腕を広げ、5属性の込められたシャボン玉を無数に生み出し、それら全てを1つにまとめ上げる。
「デストロイ・エレメンタルノヴァ!!」
 5属性が混じり合い、ドス黒いオーラを纏った紫色の光線が、真っ直ぐに駆け寄ってくるグレイに放たれる。
 しかし、グレイの右手はボロボロ。左手にはセナを唯一倒せる希望のアルビニウムが握られている。この攻撃は手では防げない。

ーー死ぬ…。


『グレーーーーーーイ!!!』



『ーー兄さんを頼むよ、グレイ、』





 5th・エレメント、デス・クライシスを受け気を失っていた一同。しかし、あの一瞬の出来事の最中、ミヅキのリリアン、2人のバフ効果を付与させる魔法式が他の全員を保護するように展開されていた。そのため、ミヅキとリリアン、2人を除いた者たちは、かろうじて今、意識を取り戻していた。
 その1人、カイトはドス黒い光線に向かって走っていくグレイの背中に、一縷の光を見る。
 その光はグレイを包み込むように大きく輝きを放ち、まるで、1人少年のような風貌で、グレイを守っていた。

「……ハ、ルト…?」
 ピシィーーーーーーーーーー!!!




 数十秒間にわたり長く長く放出されるデストロイ・エレメンタルノヴァ。セナ自身にも手応えはあったし、これで確実にグレイを消し炭にすることができたと思い込んでいるセナ。しかし、デストロイ・エレメンタルノヴァを、打ち破り、白き炎を身に纏う少年が、ドス黒い光線の中から姿を現わす。
「グレイ?!なぜ!!」
「セナァァァァァアアア!!!」
 左拳を白炎で燃やし、セナに殴りかかろうとするグレイ。しかし、体術自体ならホーン・ラビットに弄ばれるほどのグレイ。そんなグレイの左ストレートを止められないセナではなく、右肘を曲げ、グレイのストレートに合わせようと前のめりになったところで、グレイは右手に仕込んでいた2つのアルビニウム入りのケースを同時に割り、液体を噴射させ右腕に白炎の衣を纏う。
 ボボボボボ!!!!ボボボボボ!!!!
「右だと?!」
 幾度の5th・エレメントの攻撃を防ぎボロボロで使い物にならなくなったはずの右腕。もう攻撃手段が左腕一本しかないと思わせておいて、グレイはここ1番で右腕を使用したのである。


「今まで奪ってきた人たちの魂も!!繋いでくれた皆んなの意志も!ハルトの想いも!全部全部全部全部全部全部!!!!!ひっくるめて!!僕たちの怒りを受け取れぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
 フィユァァァァァ!!!!!!!
 まるで白い炎を纏いし不死鳥のような姿でセナの腹を殴りつけるグレイ。

 白き不死鳥の拳。
『アル・フェニックス』
 ズドン!!!
 ズドン!!!
 ズドン!!!
 三画角で吹き飛ばされるセナ。アルビニウムを纏いし2人は、互いに白炎を身体を蝕まれ、燃え続ける。
「ハルトーー!!!!」
 意識を取り戻したカイトは、ハルトに見えた白炎に飲まれるグレイを強く抱きしめ、炎を攫い落とそうとする。
「ハルト!ハルト!ハルト!」
「ウォーター・ホース…」
 グレイとカイトに向かって水属性魔法を微弱で当てるソウヤ。
 バタンッ!
 この程度の魔法でさえ展開して、倒れ込むソウヤ。そのおかげもあってか、カイトは少しの火傷で済まされたが、グレイは重傷すぎたのである。右腕は元々相当なダメージが蓄積していたにも関わらず、皮膚は見え、筋繊維はズタズタ。身体中焦げだらけ、悪臭を漂わせる。たとえグレイに魔力耐性という特異体質が備わっていたとしても、完全でないその力は、魔法攻撃を受け続ければいずれこうなるのは明白。通常の5倍規模の5th・エレメントを防ぎ続け、仕舞いにはアルビニウムで酷使してしまった。それでもグレイはかろうじて意識を保ち、駆けつけてくれたカイトたちにニッコリと笑顔を振り撒く。
「カイトさん…やりました…よ」
「……ハァァックッ、グレイ…フッ、クッ、、グレイ!!!!」
 顔面をぐちゃぐちゃにし泣きじゃくりながら強く抱きしめ、グレイの無事を確認し安堵するカイト。
 その後も、ぞろぞろと意識を取り戻した仲間たちがグレイへ駆け寄る。
「グレイ…なんて子だ…こんな体になってまで…」
「いやいや、彼がいなきゃ…僕らみんな、死んでましたよ…」
「あぁ…この子は…まさに希望の子だ」
「かっこいいじゃん…グレイ君」
 グレイに駆け寄り頭を撫でるマタタビ。そして、グレイの勇姿を見てサングラスを濡らすハルミ。


 ダイドウ深淵窟、グリムデーモン復活を目論む奴隷解放戦線を企てたテロリスト組織・靱との一戦は、カイト、マタタビ、ミヅキ、ボーディアン、ハルミ、ソウヤ、シュウ、リリアン、ゼクシード、そして勇敢なる少年グレイの10名によって制圧され、グリムデーモンの復活を阻止する。


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