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第二章 〜家族のカタチ
35話 『刀を愛すとは』
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キン!キン!キン!
ダイドウ深淵窟内に鳴り響く鋼がぶつかり合う音。ホーリー・シンフォのエース・シュウと靭の幹部・カガチはお互いに引くことなく前のめりに斬り合う。
岩壁をつたい、空中を飛び回り、地を這い、立体的に剣技を交える2人。
「なかなかのものだな」
「そりゃどうも…」
剣技の洗練さ、高速さはシュウに軍配が上がるも、雷属性の帯電オーラを利用した身体的な身軽さ、高速さはカガチに軍配が上がる。
ただの剣技の撃ち合いでは埒があかないとみるやシュウは大技で決めにかかる。
「光剣・明鏡止水!」
精神を研ぎ澄まし、邪を捨て、ただ素直に剣を振るうシュウ。頭では考えず精神に身を置くことで、最速かつ、最短の高速剣技を放つ。
「雷業・一式」
カガチも自身の体を帯電させることで、脊髄反射で物事を判断する雷業の一式を発動する。
全くの無駄がないシュウの最速攻撃、明鏡止水を、脊髄に負荷をかけ、無理やり体を動かし、明鏡止水の一撃を避けるカガチ。
「?!…明鏡止水を避けるのか」
シュウの大技を交わしたところで次はカガチのターン。
「雷業・二式」
雷業の二式に当てられた技は、マイナス電子を大いに含んだ電弾を無数に放出させるもの。
ーー陽動か。
雷業・二式は、シュウの周辺を埋め尽くさんとするかのように量産、展開されていく。ただし、雷属性魔法でありながら、このサンダーボールはそこまで速い技ではなさそうである。目で起動を読み取れば決して避けれない技ではない。
しかし、この二式は三式の布石。
「雷業・三式!」
カガチの帯電オーラは急激に増幅し、雷のごとき速さで、シュウの頭上にあったサンダーボールの位置に瞬間移動するカガチ。シュウにはまるで何が起こったのか分からず、ただただカガチを目の前から失っただけ。
「ッ!消えた?!」
「雷業・秘奥義、鳴神羅!」
ズババババババンッ!!!!!!!
シュウの頭上に瞬間移動したカガチから放たれる、大規模落雷。
雷業・三式の能力は、帯電させたマイナス電子に向かってプラスの自分を高速で引き寄せるもの。つまり、理論上は、二式で放ったサンダーボールの全ての位置に一瞬で飛ぶことができるというもの。今回は、シュウの頭上に飛び、大技を繰り出して見せた。
「カァッ…。」
もはや声と呼べるものではなく、音が漏れ出しただけのシュウは、両膝をつき両腕は脱力。全身から煙をあげ、その場に静止していた。
「たわいもない…。」
カガチは刀を納め、その場を後にしようとしたその時、雷業・秘奥義、鳴神羅を喰らったシュウが煙上げ消える。
ポスンッ!
「?!」
カガチの前から姿を消し、一枚の木の葉に変わるシュウ。
消えたシュウを探し周囲を見回すカガチ。しかし、いくら周囲を索敵してもシュウの姿は見えない。
「一体どこに消えた?」
「下だ!」
「下?!」
急に足元がひび割れ、穴が空き、そこから一本の腕が伸びてカガチの片足を掴み地面に引きずり込む。
「アッ!しまっ」
プン!プン!プン!
片足が地に奪われ身動きの取れなくなったカガチに畳み掛けるシュウは、影分身の術を使い、3人の分身体を生み出しカガチに襲いかかる。
足を地に奪われるカガチ。それでも刀を操る腕は自由なため、納めた刀に手を置こうとすると、1人目のシュウに刀の持ち手を押さえられ、2人目、3人目のシュウに斬りかかられる。完全に包囲されるカガチ。刀も押さえられ、打つ手無しかに思われたが、カガチは帯電オーラを全開にしシュウを寄せ付けないように雷を放出し続ける。
バチバチバチバチ!!
カガチに直で触れていた地面に隠れていたシュウ、斬りかかろうとする2人のシュウは呆気なくやられてしまう。
ポスンッポスンッポスンッ!しかし、そのどれもが分身体であった。
1、2分ほどの帯電オーラの全開放出はそれだけのリスクもあり、カガチのコートは焼けこげ、黒い煙を上げる。勿論コートの下の身体にも影響が出ているはず。ただマナを消費しただけではなく、火傷や麻痺を感じているはずだ。
「姿を表せ、忍者」
「知ってんのか、忍のこと」
天井に隠れていたシュウが地に降りてくる。
「変わり身、分身、話には聞いたことがある。東洋の黒い悪魔、絶滅危惧種の忍者。その生き残りか」
「忍を忌み嫌い、自ら距離を取り、関わることを伏せていたはずなんだがな…こんな力にでも縋らなきゃ、アンタには勝てないほどに己が未熟らしい。」
「お前が未熟?こちらがただただ強者であるとは考えないのか」
「アンタの剣には…何の重みも感じない」
「?!…何がわかる、お前に何がわかるんだ!!!」
シュウの煽りに血が上り、剣を乱暴に振るうカガチ。その単調な攻撃にシュウは受け止めることさえせず、ただ身軽な体を左右に振るい避け続ける。
何度振り下ろしても当たらないその攻撃に嫌気がさしたか、シュウは素手でカガチの一太刀を受け止め、刃を握りしめる。
「?!」
シュウ曰く、重さの乗らない刃では人の手は切り落とせないという。がっちり刃を握りしめるシュウの手のひらは刃で切れ、流血していく。
「他人にどうこう言う気もないが、人を殺めるためだけに刀を振るうなら捨ててしまえ。」
「何…だと…」
「そんな主人を持った刀が可哀想だ。まるで、人の心を無くしたアイツらと変わらない」
「お前に…お前に…私の何がわかるんだ!」
バチバチバチバチ!!!
カガチは自分とシュウが一本の刀で繋がっていることをいいことに、自分の帯電オーラを刀を通じてシュウに流し込む。ものすごい炸裂音を立てながら、雷はカガチとシュウの体を焼き尽くしていく。
バチバチバチバチ!!!!バチバチバチバチ!!!バチバチバチバチ!!!
「クッ!!」
「ッ!!ァァア」
それに耐えるシュウ。先に痛みに耐えられなくなり声を漏らすカガチ。それでもこの男だけは…セナの邪魔になるこの男だけは倒さなければ、その一心で帯電オーラを放ち続ける。
「な、ぜ、何故、放さない?」
「この、ままだと、アンタは負ける…」
「何を…根拠に!クッ…」
「アンタが…俺より、か弱いからだ」
ーーそうか。気づいていたか。
シュウはこのまま帯電し続けたとしても勝算がしっかりとあった。
その後も、5分ほど帯電オーラが放出され、2人はそのまま崩れ落ちる。シュウは片膝をつき、カガチは倒れ込む。2人の間には肉が焦げたような悪臭と煙が漂っていた。
勝敗は…立ち上がり、まだ動ける余力を残していたシュウが勝つ。
「わたしは…」
「?」
「わたしは…刀なんか好きじゃなかった…」
「…。」
「セナが靭を発足させて、わたしは刀を貰った。初めて人から何かを貰う感覚に舞い上がってしまった。それが、人を殺すために渡されたとも知らずに。セナの復讐心に掻き立てられ、多くの国の兵士たちをこの手にかけてきた。虚しさと後悔が心を締め付ける日々も、皆んなが居てくれればどおってことなかった。むしろ、わたしがやらなきゃ、他の皆んなが危険な目に遭う。作戦失敗は靭の足がつくことになる。刀は、わたしと皆んなを繋ぎ止めておくための物でしかなかったの…。だから…だから…貴方のように強くはなれない…(泣)」
倒れ込み、額を地につけ涙流すカガチに寄り添い、隣に座り込みかガチの体を持ち上げるシュウ。向き直したカガチはフードが脱げ、エメラルド色の艶やか長髪、そして、透き通るようなコバルトターコイズの宝石ような目をあらわにする。
「刀を愛せ。そうすれば、きっと見えてる景色は一変する…」
ただ繋がりを保つためだけに刀を振るっていた少女は、過ちに嘆き、シュウの胸を引っ張り顔をうずくめる。
「カガチがやられたか…」
「何か予期せぬ事態に見舞われたかな?」
「いや…少しマナが減っただけだよ」
「?。」
ミヅキを構成員に託したセナは全力でマタタビ、カイト、ボーディアンと対峙する。
「嵐属性魔法・テンペスター」
水属性と風属性の複合属性魔法、嵐属性魔法のテンペスター。乱気流を生み出し、黒い竜巻を生成させ、マタタビらに放つ。
「洞窟でそのような規模の風属性魔法の応用はいかがなものかな」
「ここを崩してもグリムデーモンは死なないだろう」
「人は死ぬだろう!クッ!」
マタタビも対抗せざるおえなくなり、水属性と風属性の複合属性魔法、嵐属性魔法のテンペスターを同じ出力で当てる。
「さすがだマタタビ=ダンストン!想像通りだよ」
ズババババババン!!!!
巨大な2つの黒い竜巻がぶつかり合う。
「ならこれはどうかな。泥属性魔法・泥弾! 㵢属性魔法・ 㵢追砲!」
テンペスターの脇をすり抜けるように、展開される2種の魔法。
水属性と土属性の複合属性魔法・泥属性魔法の泥弾と、水属性と雷属性の複合属性魔法・| 㵢属性魔法の㵢追放を同時に放つセナ。
「何?!」
何十年も冒険者をしているマタタビは驚きを隠せない。両手を使わなければ発動することができない複合属性魔法の2種同時発動なんて、何なら嵐属性魔法を発動してすぐに泥属性魔法と㵢属性魔法を複合、生み出すなんて信じられない。
「なんて悪夢だ…」
もう夢であれと願うばかりのマタタビ。
「水属性魔法・ウォーターベール!」
自分の今できる抵抗をするしかないと、水属性魔法のウォーターベールを展開する。泥弾こそ防げたものの、雷属性の性質を持つ㵢追砲がウォーターベールを打ち破りマタタビに直撃する。
「クハァ!!」
「マタタビさん!」
「気にするな!!自分のすべきことをしなさい!」
マタタビのもとへ駆け寄ろうとするカイトを止め、立ち上がるマタタビ。
ーーそうだ、マタタビさんの負担を和らげるには、俺も攻撃を打ち込み続けるしかない。
「ルクス・バレット!!」
カイトは両手で銃の構えを取り、指先から光の弾丸をセナに向けて発射する。
ピカン!ピカン!ピカン!
「光属性魔法…うんんん…興味深いね。でもハルミ君に比べて君のは淡い。ロックストーン!」
土属性魔法で岩を生成し、ルクス・バレットを防ぐセナ。単一の属性を打ち破ろうにもカイトの出力ではセナに及ばない。
「なら、光属性魔法・サンライト・フラッシュ!!」
ハルミのサンライズ・ブリッツを応用し、攻撃に転じさせるのではなく、敵の目を眩ませることだけに特化させた太陽レベルの閃光を放つカイト。
「なっ、ん…」
いかなる攻撃をも防いできたセナだったが、目眩しには対応できず。真っ向勝負で唯一セナに抗える術かもしれない光属性魔法。
「くっ、風と水で…」
好機と見るや否や、セナに向かって突っ込んでいくカイト。しかし、周囲が見えないながらも、セナは水属性と風属性のもう1つの複合属性である音属性魔法を展開し、カイトの足を無理やり止めさせる。
「音属性魔法・爆音波」
ギインギインギインギインギイン!!!
「ぁぁぁあああ!!うる、っさ!」
すかさず耳を塞ぐも近寄りすぎて、耳に多大なるダメージを受け、膝から崩れ落ちるカイト。マタタビも火属性魔法をセナに向けるも、風属性と水属性の性質を併せ持つ音に火属性魔法は押し返され消されてしまう。
「悪くない攻撃だったが、こっちの対応力の方が一枚上手だったみたいだ…」
咄嗟の判断で音属性魔法を使用したのはいいものの、少なからず自分の鼓膜も傷つけてしまったセナ。数秒ほど元の聴力に戻るには時間がかかる。それを予期してかしまいか、1人裏を取っていたボーディアンが染井時雨を手に、セナに切り掛かる。
「炎剣・裂消火月!」
炎を剣に纏いセナの背中を切り付けようとするボーディアンに少し遅れて気づくセナ。
「後ろ?!…」
背後に腕を持っていき、瞬時に水を含むシャボン玉を生み出すセナ。ボーディアンはセナの生み出したシャボンを切ってしまい、シャボン玉から小規模のウォーターベールが吹き出し、浮力で押し返される刀。しかし、ボーディアンの腕力か、染井時雨の切れ味の良さか、ウォーターベールに押されながらも水の中を抵抗し、セナの背中を何とか切りつけることに成功。水で炎も消され、切り傷も浅いものの、初めてセナに一太刀を入れた一同。
「クッ…ソ…!」
セナは左手に水属性魔法を集中させ、振り向き様にボーディアンに向けて水属性魔法・水流波を放つ。それに対抗して、ボーディアンも火属性魔法・火炎爆を発動し、2つの魔法が衝突し、水蒸気と煙をあげ、互いに見失ったため、後退し距離を取る2人。属性の相性的に優っていたセナは無傷、ボーディアンは水流波を軽く喰らってしまい、少しよろける。
「ふーー。なんとか火炎爆が間に合ったな。」
「クッ…クッ…!!」
背中に一太刀を喰らい怒りが登ってくるセナ。
「魔素吸収…」
セナは両手を開き、マナドレインと口にするとどこからか、マナを大量に吸収していく。
「ふぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
「どうした?!」
カガチの急な容態の変化に驚くシュウ。
カガチは胸を抑え、大量の汗をかき苦しみだしたのである。
「しっかりしろ!!」
---------------------
一方、他のところでも似た事象は起き、その1つが靭アジトにいたトールであった。
「なあ、あんた何で残ったんだ?」
「んぁ?テメェが残れっつったんだろ!アホか」
「俺を倒す道だってあったろ」
「その場合、テメェはあの通路を崩落させて道を塞ぐ気だったろ?どう考えても時間かかんだろ」
「あんたが残って戦力ダウンしてもか?」
「まぁ…俺がいなくてもアイツらなら何とかすんだろ」
送り出したグレイ、ソウヤ、リリアン、タツマキ、ミヒャの5人を信頼しているベルモンド。それに、それだけではなく、事前に残っていたハルミやマタタビ、カイト、ボーディアン、シュウ達のこともきっと信頼している。ドセアニアに向かうことを決めたあの11人ならきっとセナを倒し、グリムデーモンの復活を阻止するだろうと信じていた。
「信頼か…長く忘れた感覚だ。もしかしたら、感じたことさえ無いかもしれないな。フッ…。」
「テメェ何笑ってんだ!何がおかしいんだよ?」
「いや、すまない。生まれて初めて、『信頼』してみようかなと思ってね。ゼクシードと、ゼクシードが希望を見出した少年に」
「いいじゃねーの。信頼、しろよ」
「ウグッ!!!グァ、ァァァァァァアアア!!!」
「おい、どうした!!おい!!おい!!」
トールもまたカガチ同様に、胸を抑え苦しみ出す。表情もどことなく細くゲッソリし始めてるかのように、何かを吸い取られているかのように顔色を悪くしていく。
「セ、」
「せ?」
「セナのやつが、本気を出し始めた」
ダイドウ深淵窟内に鳴り響く鋼がぶつかり合う音。ホーリー・シンフォのエース・シュウと靭の幹部・カガチはお互いに引くことなく前のめりに斬り合う。
岩壁をつたい、空中を飛び回り、地を這い、立体的に剣技を交える2人。
「なかなかのものだな」
「そりゃどうも…」
剣技の洗練さ、高速さはシュウに軍配が上がるも、雷属性の帯電オーラを利用した身体的な身軽さ、高速さはカガチに軍配が上がる。
ただの剣技の撃ち合いでは埒があかないとみるやシュウは大技で決めにかかる。
「光剣・明鏡止水!」
精神を研ぎ澄まし、邪を捨て、ただ素直に剣を振るうシュウ。頭では考えず精神に身を置くことで、最速かつ、最短の高速剣技を放つ。
「雷業・一式」
カガチも自身の体を帯電させることで、脊髄反射で物事を判断する雷業の一式を発動する。
全くの無駄がないシュウの最速攻撃、明鏡止水を、脊髄に負荷をかけ、無理やり体を動かし、明鏡止水の一撃を避けるカガチ。
「?!…明鏡止水を避けるのか」
シュウの大技を交わしたところで次はカガチのターン。
「雷業・二式」
雷業の二式に当てられた技は、マイナス電子を大いに含んだ電弾を無数に放出させるもの。
ーー陽動か。
雷業・二式は、シュウの周辺を埋め尽くさんとするかのように量産、展開されていく。ただし、雷属性魔法でありながら、このサンダーボールはそこまで速い技ではなさそうである。目で起動を読み取れば決して避けれない技ではない。
しかし、この二式は三式の布石。
「雷業・三式!」
カガチの帯電オーラは急激に増幅し、雷のごとき速さで、シュウの頭上にあったサンダーボールの位置に瞬間移動するカガチ。シュウにはまるで何が起こったのか分からず、ただただカガチを目の前から失っただけ。
「ッ!消えた?!」
「雷業・秘奥義、鳴神羅!」
ズババババババンッ!!!!!!!
シュウの頭上に瞬間移動したカガチから放たれる、大規模落雷。
雷業・三式の能力は、帯電させたマイナス電子に向かってプラスの自分を高速で引き寄せるもの。つまり、理論上は、二式で放ったサンダーボールの全ての位置に一瞬で飛ぶことができるというもの。今回は、シュウの頭上に飛び、大技を繰り出して見せた。
「カァッ…。」
もはや声と呼べるものではなく、音が漏れ出しただけのシュウは、両膝をつき両腕は脱力。全身から煙をあげ、その場に静止していた。
「たわいもない…。」
カガチは刀を納め、その場を後にしようとしたその時、雷業・秘奥義、鳴神羅を喰らったシュウが煙上げ消える。
ポスンッ!
「?!」
カガチの前から姿を消し、一枚の木の葉に変わるシュウ。
消えたシュウを探し周囲を見回すカガチ。しかし、いくら周囲を索敵してもシュウの姿は見えない。
「一体どこに消えた?」
「下だ!」
「下?!」
急に足元がひび割れ、穴が空き、そこから一本の腕が伸びてカガチの片足を掴み地面に引きずり込む。
「アッ!しまっ」
プン!プン!プン!
片足が地に奪われ身動きの取れなくなったカガチに畳み掛けるシュウは、影分身の術を使い、3人の分身体を生み出しカガチに襲いかかる。
足を地に奪われるカガチ。それでも刀を操る腕は自由なため、納めた刀に手を置こうとすると、1人目のシュウに刀の持ち手を押さえられ、2人目、3人目のシュウに斬りかかられる。完全に包囲されるカガチ。刀も押さえられ、打つ手無しかに思われたが、カガチは帯電オーラを全開にしシュウを寄せ付けないように雷を放出し続ける。
バチバチバチバチ!!
カガチに直で触れていた地面に隠れていたシュウ、斬りかかろうとする2人のシュウは呆気なくやられてしまう。
ポスンッポスンッポスンッ!しかし、そのどれもが分身体であった。
1、2分ほどの帯電オーラの全開放出はそれだけのリスクもあり、カガチのコートは焼けこげ、黒い煙を上げる。勿論コートの下の身体にも影響が出ているはず。ただマナを消費しただけではなく、火傷や麻痺を感じているはずだ。
「姿を表せ、忍者」
「知ってんのか、忍のこと」
天井に隠れていたシュウが地に降りてくる。
「変わり身、分身、話には聞いたことがある。東洋の黒い悪魔、絶滅危惧種の忍者。その生き残りか」
「忍を忌み嫌い、自ら距離を取り、関わることを伏せていたはずなんだがな…こんな力にでも縋らなきゃ、アンタには勝てないほどに己が未熟らしい。」
「お前が未熟?こちらがただただ強者であるとは考えないのか」
「アンタの剣には…何の重みも感じない」
「?!…何がわかる、お前に何がわかるんだ!!!」
シュウの煽りに血が上り、剣を乱暴に振るうカガチ。その単調な攻撃にシュウは受け止めることさえせず、ただ身軽な体を左右に振るい避け続ける。
何度振り下ろしても当たらないその攻撃に嫌気がさしたか、シュウは素手でカガチの一太刀を受け止め、刃を握りしめる。
「?!」
シュウ曰く、重さの乗らない刃では人の手は切り落とせないという。がっちり刃を握りしめるシュウの手のひらは刃で切れ、流血していく。
「他人にどうこう言う気もないが、人を殺めるためだけに刀を振るうなら捨ててしまえ。」
「何…だと…」
「そんな主人を持った刀が可哀想だ。まるで、人の心を無くしたアイツらと変わらない」
「お前に…お前に…私の何がわかるんだ!」
バチバチバチバチ!!!
カガチは自分とシュウが一本の刀で繋がっていることをいいことに、自分の帯電オーラを刀を通じてシュウに流し込む。ものすごい炸裂音を立てながら、雷はカガチとシュウの体を焼き尽くしていく。
バチバチバチバチ!!!!バチバチバチバチ!!!バチバチバチバチ!!!
「クッ!!」
「ッ!!ァァア」
それに耐えるシュウ。先に痛みに耐えられなくなり声を漏らすカガチ。それでもこの男だけは…セナの邪魔になるこの男だけは倒さなければ、その一心で帯電オーラを放ち続ける。
「な、ぜ、何故、放さない?」
「この、ままだと、アンタは負ける…」
「何を…根拠に!クッ…」
「アンタが…俺より、か弱いからだ」
ーーそうか。気づいていたか。
シュウはこのまま帯電し続けたとしても勝算がしっかりとあった。
その後も、5分ほど帯電オーラが放出され、2人はそのまま崩れ落ちる。シュウは片膝をつき、カガチは倒れ込む。2人の間には肉が焦げたような悪臭と煙が漂っていた。
勝敗は…立ち上がり、まだ動ける余力を残していたシュウが勝つ。
「わたしは…」
「?」
「わたしは…刀なんか好きじゃなかった…」
「…。」
「セナが靭を発足させて、わたしは刀を貰った。初めて人から何かを貰う感覚に舞い上がってしまった。それが、人を殺すために渡されたとも知らずに。セナの復讐心に掻き立てられ、多くの国の兵士たちをこの手にかけてきた。虚しさと後悔が心を締め付ける日々も、皆んなが居てくれればどおってことなかった。むしろ、わたしがやらなきゃ、他の皆んなが危険な目に遭う。作戦失敗は靭の足がつくことになる。刀は、わたしと皆んなを繋ぎ止めておくための物でしかなかったの…。だから…だから…貴方のように強くはなれない…(泣)」
倒れ込み、額を地につけ涙流すカガチに寄り添い、隣に座り込みかガチの体を持ち上げるシュウ。向き直したカガチはフードが脱げ、エメラルド色の艶やか長髪、そして、透き通るようなコバルトターコイズの宝石ような目をあらわにする。
「刀を愛せ。そうすれば、きっと見えてる景色は一変する…」
ただ繋がりを保つためだけに刀を振るっていた少女は、過ちに嘆き、シュウの胸を引っ張り顔をうずくめる。
「カガチがやられたか…」
「何か予期せぬ事態に見舞われたかな?」
「いや…少しマナが減っただけだよ」
「?。」
ミヅキを構成員に託したセナは全力でマタタビ、カイト、ボーディアンと対峙する。
「嵐属性魔法・テンペスター」
水属性と風属性の複合属性魔法、嵐属性魔法のテンペスター。乱気流を生み出し、黒い竜巻を生成させ、マタタビらに放つ。
「洞窟でそのような規模の風属性魔法の応用はいかがなものかな」
「ここを崩してもグリムデーモンは死なないだろう」
「人は死ぬだろう!クッ!」
マタタビも対抗せざるおえなくなり、水属性と風属性の複合属性魔法、嵐属性魔法のテンペスターを同じ出力で当てる。
「さすがだマタタビ=ダンストン!想像通りだよ」
ズババババババン!!!!
巨大な2つの黒い竜巻がぶつかり合う。
「ならこれはどうかな。泥属性魔法・泥弾! 㵢属性魔法・ 㵢追砲!」
テンペスターの脇をすり抜けるように、展開される2種の魔法。
水属性と土属性の複合属性魔法・泥属性魔法の泥弾と、水属性と雷属性の複合属性魔法・| 㵢属性魔法の㵢追放を同時に放つセナ。
「何?!」
何十年も冒険者をしているマタタビは驚きを隠せない。両手を使わなければ発動することができない複合属性魔法の2種同時発動なんて、何なら嵐属性魔法を発動してすぐに泥属性魔法と㵢属性魔法を複合、生み出すなんて信じられない。
「なんて悪夢だ…」
もう夢であれと願うばかりのマタタビ。
「水属性魔法・ウォーターベール!」
自分の今できる抵抗をするしかないと、水属性魔法のウォーターベールを展開する。泥弾こそ防げたものの、雷属性の性質を持つ㵢追砲がウォーターベールを打ち破りマタタビに直撃する。
「クハァ!!」
「マタタビさん!」
「気にするな!!自分のすべきことをしなさい!」
マタタビのもとへ駆け寄ろうとするカイトを止め、立ち上がるマタタビ。
ーーそうだ、マタタビさんの負担を和らげるには、俺も攻撃を打ち込み続けるしかない。
「ルクス・バレット!!」
カイトは両手で銃の構えを取り、指先から光の弾丸をセナに向けて発射する。
ピカン!ピカン!ピカン!
「光属性魔法…うんんん…興味深いね。でもハルミ君に比べて君のは淡い。ロックストーン!」
土属性魔法で岩を生成し、ルクス・バレットを防ぐセナ。単一の属性を打ち破ろうにもカイトの出力ではセナに及ばない。
「なら、光属性魔法・サンライト・フラッシュ!!」
ハルミのサンライズ・ブリッツを応用し、攻撃に転じさせるのではなく、敵の目を眩ませることだけに特化させた太陽レベルの閃光を放つカイト。
「なっ、ん…」
いかなる攻撃をも防いできたセナだったが、目眩しには対応できず。真っ向勝負で唯一セナに抗える術かもしれない光属性魔法。
「くっ、風と水で…」
好機と見るや否や、セナに向かって突っ込んでいくカイト。しかし、周囲が見えないながらも、セナは水属性と風属性のもう1つの複合属性である音属性魔法を展開し、カイトの足を無理やり止めさせる。
「音属性魔法・爆音波」
ギインギインギインギインギイン!!!
「ぁぁぁあああ!!うる、っさ!」
すかさず耳を塞ぐも近寄りすぎて、耳に多大なるダメージを受け、膝から崩れ落ちるカイト。マタタビも火属性魔法をセナに向けるも、風属性と水属性の性質を併せ持つ音に火属性魔法は押し返され消されてしまう。
「悪くない攻撃だったが、こっちの対応力の方が一枚上手だったみたいだ…」
咄嗟の判断で音属性魔法を使用したのはいいものの、少なからず自分の鼓膜も傷つけてしまったセナ。数秒ほど元の聴力に戻るには時間がかかる。それを予期してかしまいか、1人裏を取っていたボーディアンが染井時雨を手に、セナに切り掛かる。
「炎剣・裂消火月!」
炎を剣に纏いセナの背中を切り付けようとするボーディアンに少し遅れて気づくセナ。
「後ろ?!…」
背後に腕を持っていき、瞬時に水を含むシャボン玉を生み出すセナ。ボーディアンはセナの生み出したシャボンを切ってしまい、シャボン玉から小規模のウォーターベールが吹き出し、浮力で押し返される刀。しかし、ボーディアンの腕力か、染井時雨の切れ味の良さか、ウォーターベールに押されながらも水の中を抵抗し、セナの背中を何とか切りつけることに成功。水で炎も消され、切り傷も浅いものの、初めてセナに一太刀を入れた一同。
「クッ…ソ…!」
セナは左手に水属性魔法を集中させ、振り向き様にボーディアンに向けて水属性魔法・水流波を放つ。それに対抗して、ボーディアンも火属性魔法・火炎爆を発動し、2つの魔法が衝突し、水蒸気と煙をあげ、互いに見失ったため、後退し距離を取る2人。属性の相性的に優っていたセナは無傷、ボーディアンは水流波を軽く喰らってしまい、少しよろける。
「ふーー。なんとか火炎爆が間に合ったな。」
「クッ…クッ…!!」
背中に一太刀を喰らい怒りが登ってくるセナ。
「魔素吸収…」
セナは両手を開き、マナドレインと口にするとどこからか、マナを大量に吸収していく。
「ふぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
「どうした?!」
カガチの急な容態の変化に驚くシュウ。
カガチは胸を抑え、大量の汗をかき苦しみだしたのである。
「しっかりしろ!!」
---------------------
一方、他のところでも似た事象は起き、その1つが靭アジトにいたトールであった。
「なあ、あんた何で残ったんだ?」
「んぁ?テメェが残れっつったんだろ!アホか」
「俺を倒す道だってあったろ」
「その場合、テメェはあの通路を崩落させて道を塞ぐ気だったろ?どう考えても時間かかんだろ」
「あんたが残って戦力ダウンしてもか?」
「まぁ…俺がいなくてもアイツらなら何とかすんだろ」
送り出したグレイ、ソウヤ、リリアン、タツマキ、ミヒャの5人を信頼しているベルモンド。それに、それだけではなく、事前に残っていたハルミやマタタビ、カイト、ボーディアン、シュウ達のこともきっと信頼している。ドセアニアに向かうことを決めたあの11人ならきっとセナを倒し、グリムデーモンの復活を阻止するだろうと信じていた。
「信頼か…長く忘れた感覚だ。もしかしたら、感じたことさえ無いかもしれないな。フッ…。」
「テメェ何笑ってんだ!何がおかしいんだよ?」
「いや、すまない。生まれて初めて、『信頼』してみようかなと思ってね。ゼクシードと、ゼクシードが希望を見出した少年に」
「いいじゃねーの。信頼、しろよ」
「ウグッ!!!グァ、ァァァァァァアアア!!!」
「おい、どうした!!おい!!おい!!」
トールもまたカガチ同様に、胸を抑え苦しみ出す。表情もどことなく細くゲッソリし始めてるかのように、何かを吸い取られているかのように顔色を悪くしていく。
「セ、」
「せ?」
「セナのやつが、本気を出し始めた」
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