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第二章 〜家族のカタチ
34話 『2大エース』
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グレイらが靭アジトに向かったことで、戦力が減ってしまったダイドウ深淵窟を守護するメンバー。カイト、マタタビ、ボーディアン、シュウ、ドセアニア兵士1名、そして後から合流したハルミの6名でグリムデーモンを守護する。
ダイドウ深淵窟の周辺では事前にスタンバイしていた靭リーダーのセナと幹部のカガチ、ナギ、そして構成員10名が深淵窟に入るタイミングを伺っていた。
セナが仕掛けていた罠、それは水属性と土属性魔法の複合属性である泥属性魔法で作り上げた自分とミヅキの泥人形をアジトに配置し、それが戦闘を始めたタイミングで完全に分断策が成功した合図とし、深淵窟に侵入しようとしていた。
「泥人形の足がやられた。侵入するぞ」
「「「「「「「了解」」」」」」」
セナの合図で、ダイドウ深淵窟に飛び込む靭メンバー。大きな着地音と共にダイドウ深淵窟の最下層に辿り着く一行は、そのままグリムデーモンの封印されし奥地へと進んでいく。小さな物音でさえ反響し、響き渡るダイドウ深淵窟。マタタビたちもそれに気づき、警戒体制をとる。
「来たみたいだ」
「索敵します!」
ーー光の代行者。
カイトは光のオーラでトカゲの形をした生き物を数匹生成させ、壁を這い回らせる。そのまま光のトカゲを操作し、敵を位置を探る。
カイトたちが守護する場所からおよそ170m地点に複数の人影を確認するカイト。
「居ました。距離、約170m。数は・10人以上…?!」
「さすがに深淵窟の中じゃ、明るすぎやしないかい?」
ボゥ!ボゥ!ボゥ!ボゥ!
ルクス・アジェンティスの存在に気づき、迎撃するセナ。正確にトカゲは火属性魔法で焼かれ消滅してしまう。
「すみません。消滅しました…」
「いや、距離と数が知れたのは大きい。あと数分もせぬ内に来るぞ!」
「いくぞシュウ」
「やるか…」
レオネード・ハーツとホーリー・シンフォの若き2大エースが立ち上がる。
2人はマタタビらから離れ100m程手前で迎撃体制に入る。そして数分もしない内にセナたち靭のメンバーは、ハルミとシュウの2人と対峙する。
「ミヅキさんを抱えてるが…貴様はナナシか?」
ミヅキを抱えるセナに対してナナシではないかと疑問をぶつけるシュウ。
「そうだよ。ホーリー・シンフォのシュウ=オバナ」
「お前は靭のリーダーか?」
「そうだよ。君たちに1週間以上先の予定を記した依頼文を送った者だよ」
「そうか…その依頼…こちらから破棄させてもらう!」
「律儀だね、フフッ」
シュウは永宗光彦に手を添え、腰を落として構える。
ーー光剣・裂乱。
無属性オーラを纏ったシュウの刀が抜かれた時、その凝固したオーラはセナたちに向かって伸びたかと思えば、切先から枝分かれし始め、十数発の弾丸のように飛ぶ斬撃に変わる。
「ウォーターベール」
セナの展開する水属性魔法・ウォーターベールによって威力を殺される光剣・裂乱。
「光の代行者!」
ハルミはカイトのルクス・アジェンティスを見よう見まねで展開。ウォーターベールに対抗したような光の巨大なサメを生成する。
「「「?!」」」
あまりの応用力に目を見張る靭幹部たち。ハルミの生成した光のサメはウォーターベールを突き破り、セナに襲いかかる。
それに対し、セナの前に体を出し、自分の片腕を犠牲にして光のサメに対抗するナギ。右腕にがっちりと噛みつき離さない光のサメの腹を横から切り裂くカガチ。
「そのルクス・アジェンティスはただでは消えないぜ」
ハルミの指パッチンと共に光のサメは炸裂し、もろすごい光を放ち、相手の目をくらませる。
「「「クッ!…」」」
目眩しによって集中力を削がれ、ウォーターベールを解いてしまうセナ。その一瞬でシュウは靭メンバーに切り掛かる。ものすごいルーメンの目眩しの中、かろうじて見えたシュウの影に合わせて切り掛かるカガチとシュウの剣技がぶつかる。
シュウは靭メンバーの1人を捕らえたところで、足を踏み、簡単な土属性魔法で土壁をカガチと他の間に展開し分断する。
「貴様…!」
「お前の相手は俺だ」
「おいおい!他の十数人、全部丸投げかよ?!」
カガチの相手に集中するシュウに全てを丸投げされるハルミは、苦言を吐きながらも、光属性魔法を駆使して捌き始める。
ハルミに飛び掛かる靭の構成員たち。強制労働を課せられていた元奴隷だけあって、その肉体は磨きぬかれた頑丈さを持ち、体術に相当な自信を持っていた。
しかし、相手はレオネード・ハーツのエース。ただの格闘自慢では相手にならない。
「フラッシュ!」
ハルミは目眩しのフラッシュを展開し、その先に光の錬成で光の双剣を錬成し、軽やかな動きで、空を舞い、構成員を削り倒していく。
ーーバブルガン!
次々に構成員を倒していくハルミを止めるべく、ナギはハルミに向かって低速のシャボン攻撃を放つ。速度は遅いが、得体の知れない攻撃にハルミは一度距離を保つ。
次第にダイドウ深淵窟の一部のエリアがナギの放ち続けるシャボンで満たされていく。
「これは…一体」
敵の得体の知れないシャボンに気押されるハルミと対照的に、シュウは自分の方に飛んできたシャボンを躊躇なく切り破裂させる。しかし、威力がそれほどないことに気づき、その旨をハルミに伝える。
「このシャボンは大したことない!躊躇なく破壊しろ」
「オッケー!」
再び双剣を振り回し、エリアを埋め尽くすシャボンを次々に破壊していくハルミ。数十個壊したあたりで、ハルミは予期せぬ不意打ちを喰らってしまう。それは、ハルミが最後に破壊したシャボンはナギが放ったものではなく、セナが放ったものであり、そのシャボンの中には水属性魔法が入っていたために、それを破壊したことで、シャボンから漏れた水流を全身に浴びてしまう。それに追い打ちをかけるかのように雷属性魔法を込めたシャボン、土属性魔法を込めたシャボン、風属性魔法を込めたシャボンと次々に他の属性を込めたシャボンがハルミに襲いかかり、ハルミの体を傷つけていく。
バチバチ!ズドン!ビュン!バチバチ!ズドン!ビュン!
「うぁぁぁああ!!」
「ハルミ?!」
「よそ見か?」
ハルミの叫び声が聞こえ、シュウはハルミの容態を気にするそぶりを見せるが、カガチも攻撃の手を緩めることなく追撃していく。
「サンライズ・ブリッツ」
ハルミは空に太陽レベルの光を放つ魔法を展開し、太陽を炸裂させ、無数の光の雨を降らす。ハルミを中心に守るように展開された光の雨は十数秒間、何者も寄せ付けないほどに降り注いでいた。もちろんナギとセナ、2人が放つシャボンも例外なく全て破壊される。
「ハァ、ハァ、ハァ。2つの属性を融合させるんじゃなく、シャボンを器として大気中に滞在させ続けるなんて…洒落てるな」
ーーこれなら無限に時間差攻撃を仕掛けられるし、いざとなれば複合属性も操れる。そもそもあの白髪がナナシだって言うんなら、紅白海賊王祭りで見せたあのどす黒い攻撃も、きっとこの方法を駆使した3種以上の複合属性魔法ってことになる。他属性を封じ込めても破裂しない水属性のシャボン玉。それらを融合させずに滞在させ続ける互いの比率と精密な魔力操作。相当な練度だな。水属性だけで言えば、僕でも、ソウヤでも、なんならマタタビさんでさえ、敵わないんじゃないか?。さすがに多対一じゃ連続する全属性を捌けない。後方に託すか…。
「ウォーターベール!」
ハルミもシュウと同様、敵の幹部らしい人物、ナギをセナや他の構成員たちと水の壁で分断する。一団から確実に主力の1人を剥がす作戦であった。
「ハッハッハッハッ!土の壁に水の壁。互いに分断策か。潔いな。こちらも分断策を決めた以上時間が惜しい。ここで主力を2人削げるなら願ったり叶ったりだ。いくぞお前たち。」
カガチとナギ、靭の幹部2人と分断されたセナだったが、シュウとハルミ、独立ギルドの2大エースを敵陣から削げるなら儲けものだと語り、残りの構成員6名余りとミヅキを連れて、ダイドウ深淵窟のさらに奥に進んでいく。
「すいません、マタタビさん。あとは頼みます!」
シュウ対カガチ。ハルミ対ナギ。互いの主力がダイドウ深淵窟中枢でぶつかり合う。
グリムデーモン守護の任に就いていたものは、残り4名。カイト、マタタビ、ボーディア、そしてドセアニア兵士1人。この4名でセナと残りの構成員を相手取る。
---------------------
一方、ダイドウ深淵窟へ向かい馬を走らせる、グレイ、ソウヤ、リリアン、ゼクシードたちは残り10分そこらの地点まで着いていた。
「グレイ。改めて確認しておきたいことがある。君の体質は、魔法を無力化することができるんだよね?」
「わかりません…自分でもどうなってるのか」
「でもグレイ君はハルミレベルの魔導士の攻撃を耐え抜いたし、さっきだって靭リーダーの攻撃を無傷で受けきってた…」
「そうだ。君自身が理解できていなくても、君の体質は他を一蹴してる」
改めて話題に上がるグレイの体質『魔力耐性』。これまで、アケル・インナヴィ号では星界の使徒の七星、ドゥーぺを相手に、全ての風属性魔法を耐え抜き、撤退に追い込むことに成功。紅白海賊王祭りでは、大多数の攻撃魔法やミヒャのバーニング・ブロッサム、そしてハルミのスターバレットの300連打を全て受けきって見せた。そして最後に偽物とは言え、セナの泥人形による泥弾を無傷で耐える。これらは全て常人では考えられないことであり、グレイの特異体質あってこそのものだった。
「話を聞く限りでは完全に魔法攻撃を無力化できるわけではないらしいね。一定の出力以下、もしくは耐久力によるものか。この2パターンのどちらが理由で、君は魔法攻撃を防げている。」
そういえば、以前ドゥーぺと対峙した際に、彼女に「でも君の力は…完璧ではないらしいね」と言われたことがあった。あれは『魔力耐性』が完璧なものではないという意味だったのかと今なら思う。それに彼女はきっと自分の出生や親について何か知ってるようなそぶりでもあった。
「君の魔力耐性のレベルによって、これから先の話が変わってくる」
「何の話だい?」
なにやらグレイの特異体質について深く聞くゼクシードに不信感を抱くソウヤ。
「セナを倒すための手段を僕が提供するって話だよ」
「?!」
ゼクシードはトール同様、ポケットから透明の液体が入ったガラスケースをグレイたちに見せる。
「それは何ですか?」
「僕が作ったもので、名称は『白い悪魔』。酸素に触れると炸裂し燃え上がる。そして約6500度近い熱と白炎を巻き起こす化学薬品。でもその製造方法はマナを媒介としたもので歴とした魔法とも言える。正直魔力耐性のない者には扱いきれないほど危険なもので、数秒間人体に当てるだけでも火傷じゃ済まなくなるほどの火力と熱だ。これをグレイ君、君に使ってもらいたい」
6500度の白炎。数秒で火傷より酷い始末に。そんなものグレイに触れさせていいはずがない。
「ダメだ!貴様、グレイ君を利用するためにここまで着いてきたのか?」
「私も危険だと思います。何よりミヅキさんをら攫った組織の仲間です。私は信用できません!」
ソウヤだけでなくリリアンも反対意見だった。
「生半可な気持ちでセナは倒せないよ?復讐の悪魔に魅せられたセナの強さは、人間の想像を遥かに超えている。こっちも悪魔に魂を売る覚悟じゃなきゃ倒せない。僕はこの瞬間をずっと待っていた。セナに対抗する手段とそれを扱える者が揃うこの瞬間を!…だから頼むよ、グレイ君。セナを止めてやってくれ…」
「僕は、ミヅキさんを助けるために戦っています!皆さんの言う復讐とか、ドセアニア国民のためとか、そんなものどうだっていいんです!1人の仲間を助けるために戦う、それだけです」
つまり、グレイはゼクシードの申し出を断ったということか。周りもやや困惑した表情を見せるも、とにかくアルビニウムは受け取らない方向で話は進んだ。一応安堵の表情を見せるソウヤとリリアンだったが、ゼクシードだけは不満な様子。しかし、ここまで着いてきたからには自分の力でセナを止めるしかないとゼクシードも覚悟を決める。自分がアルビニウムを使ってセナを倒すと。
ガガガガガッ!ガガガガガッ!
話し合いの最中にものすごい地響きがグレイたちを襲う。
「何ですか急に?!」
「地震…?」
「キャァ!」
リリアンとソウヤが乗っていた馬が地響きに驚き、暴れたことで2人は振り落とされてしまい、馬は遠くへ駆けていってしまった。
「ソウヤさん!リリアンさん!」
グレイも無理やり馬から飛び降り、前周り受け身をして、無事着地。そのまま2人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと地面に体を打っただけ…大丈夫」
「私も…平気です」
ゼクシードは馬を強く引き、近場に止める。
「まさか、グリムデーモンが」
「マグニチュード4程度。多分グリムデーモンじゃない。」
ソウヤの縁起でもない発言に恐怖する2人だったがゼクシードはそれを否定する。
「マグニ?何だって」
「震度の話だよ。地下35m地点に幽閉されてるグリムデーモン。地表から結構近いし、グリムデーモンが暴れたら、もっと大きな地震が起きるはずだよ。多分深淵窟で大規模な魔法がぶつかり合ってるんだ。もしかしたら、深淵窟自体がもたなくなるかもね。急ごう」
研究職に就くゼクシードの考察を頼りにダイドウ深淵窟へ急ぐグレイたち。今まさにダイドウ深淵窟で大規模な魔法の応酬が繰り広げられている。
グレイら一行はグリムデーモン復活までに間に合うことができるか。馬を一頭無くした一行は丘を全力で走る。
ダイドウ深淵窟の周辺では事前にスタンバイしていた靭リーダーのセナと幹部のカガチ、ナギ、そして構成員10名が深淵窟に入るタイミングを伺っていた。
セナが仕掛けていた罠、それは水属性と土属性魔法の複合属性である泥属性魔法で作り上げた自分とミヅキの泥人形をアジトに配置し、それが戦闘を始めたタイミングで完全に分断策が成功した合図とし、深淵窟に侵入しようとしていた。
「泥人形の足がやられた。侵入するぞ」
「「「「「「「了解」」」」」」」
セナの合図で、ダイドウ深淵窟に飛び込む靭メンバー。大きな着地音と共にダイドウ深淵窟の最下層に辿り着く一行は、そのままグリムデーモンの封印されし奥地へと進んでいく。小さな物音でさえ反響し、響き渡るダイドウ深淵窟。マタタビたちもそれに気づき、警戒体制をとる。
「来たみたいだ」
「索敵します!」
ーー光の代行者。
カイトは光のオーラでトカゲの形をした生き物を数匹生成させ、壁を這い回らせる。そのまま光のトカゲを操作し、敵を位置を探る。
カイトたちが守護する場所からおよそ170m地点に複数の人影を確認するカイト。
「居ました。距離、約170m。数は・10人以上…?!」
「さすがに深淵窟の中じゃ、明るすぎやしないかい?」
ボゥ!ボゥ!ボゥ!ボゥ!
ルクス・アジェンティスの存在に気づき、迎撃するセナ。正確にトカゲは火属性魔法で焼かれ消滅してしまう。
「すみません。消滅しました…」
「いや、距離と数が知れたのは大きい。あと数分もせぬ内に来るぞ!」
「いくぞシュウ」
「やるか…」
レオネード・ハーツとホーリー・シンフォの若き2大エースが立ち上がる。
2人はマタタビらから離れ100m程手前で迎撃体制に入る。そして数分もしない内にセナたち靭のメンバーは、ハルミとシュウの2人と対峙する。
「ミヅキさんを抱えてるが…貴様はナナシか?」
ミヅキを抱えるセナに対してナナシではないかと疑問をぶつけるシュウ。
「そうだよ。ホーリー・シンフォのシュウ=オバナ」
「お前は靭のリーダーか?」
「そうだよ。君たちに1週間以上先の予定を記した依頼文を送った者だよ」
「そうか…その依頼…こちらから破棄させてもらう!」
「律儀だね、フフッ」
シュウは永宗光彦に手を添え、腰を落として構える。
ーー光剣・裂乱。
無属性オーラを纏ったシュウの刀が抜かれた時、その凝固したオーラはセナたちに向かって伸びたかと思えば、切先から枝分かれし始め、十数発の弾丸のように飛ぶ斬撃に変わる。
「ウォーターベール」
セナの展開する水属性魔法・ウォーターベールによって威力を殺される光剣・裂乱。
「光の代行者!」
ハルミはカイトのルクス・アジェンティスを見よう見まねで展開。ウォーターベールに対抗したような光の巨大なサメを生成する。
「「「?!」」」
あまりの応用力に目を見張る靭幹部たち。ハルミの生成した光のサメはウォーターベールを突き破り、セナに襲いかかる。
それに対し、セナの前に体を出し、自分の片腕を犠牲にして光のサメに対抗するナギ。右腕にがっちりと噛みつき離さない光のサメの腹を横から切り裂くカガチ。
「そのルクス・アジェンティスはただでは消えないぜ」
ハルミの指パッチンと共に光のサメは炸裂し、もろすごい光を放ち、相手の目をくらませる。
「「「クッ!…」」」
目眩しによって集中力を削がれ、ウォーターベールを解いてしまうセナ。その一瞬でシュウは靭メンバーに切り掛かる。ものすごいルーメンの目眩しの中、かろうじて見えたシュウの影に合わせて切り掛かるカガチとシュウの剣技がぶつかる。
シュウは靭メンバーの1人を捕らえたところで、足を踏み、簡単な土属性魔法で土壁をカガチと他の間に展開し分断する。
「貴様…!」
「お前の相手は俺だ」
「おいおい!他の十数人、全部丸投げかよ?!」
カガチの相手に集中するシュウに全てを丸投げされるハルミは、苦言を吐きながらも、光属性魔法を駆使して捌き始める。
ハルミに飛び掛かる靭の構成員たち。強制労働を課せられていた元奴隷だけあって、その肉体は磨きぬかれた頑丈さを持ち、体術に相当な自信を持っていた。
しかし、相手はレオネード・ハーツのエース。ただの格闘自慢では相手にならない。
「フラッシュ!」
ハルミは目眩しのフラッシュを展開し、その先に光の錬成で光の双剣を錬成し、軽やかな動きで、空を舞い、構成員を削り倒していく。
ーーバブルガン!
次々に構成員を倒していくハルミを止めるべく、ナギはハルミに向かって低速のシャボン攻撃を放つ。速度は遅いが、得体の知れない攻撃にハルミは一度距離を保つ。
次第にダイドウ深淵窟の一部のエリアがナギの放ち続けるシャボンで満たされていく。
「これは…一体」
敵の得体の知れないシャボンに気押されるハルミと対照的に、シュウは自分の方に飛んできたシャボンを躊躇なく切り破裂させる。しかし、威力がそれほどないことに気づき、その旨をハルミに伝える。
「このシャボンは大したことない!躊躇なく破壊しろ」
「オッケー!」
再び双剣を振り回し、エリアを埋め尽くすシャボンを次々に破壊していくハルミ。数十個壊したあたりで、ハルミは予期せぬ不意打ちを喰らってしまう。それは、ハルミが最後に破壊したシャボンはナギが放ったものではなく、セナが放ったものであり、そのシャボンの中には水属性魔法が入っていたために、それを破壊したことで、シャボンから漏れた水流を全身に浴びてしまう。それに追い打ちをかけるかのように雷属性魔法を込めたシャボン、土属性魔法を込めたシャボン、風属性魔法を込めたシャボンと次々に他の属性を込めたシャボンがハルミに襲いかかり、ハルミの体を傷つけていく。
バチバチ!ズドン!ビュン!バチバチ!ズドン!ビュン!
「うぁぁぁああ!!」
「ハルミ?!」
「よそ見か?」
ハルミの叫び声が聞こえ、シュウはハルミの容態を気にするそぶりを見せるが、カガチも攻撃の手を緩めることなく追撃していく。
「サンライズ・ブリッツ」
ハルミは空に太陽レベルの光を放つ魔法を展開し、太陽を炸裂させ、無数の光の雨を降らす。ハルミを中心に守るように展開された光の雨は十数秒間、何者も寄せ付けないほどに降り注いでいた。もちろんナギとセナ、2人が放つシャボンも例外なく全て破壊される。
「ハァ、ハァ、ハァ。2つの属性を融合させるんじゃなく、シャボンを器として大気中に滞在させ続けるなんて…洒落てるな」
ーーこれなら無限に時間差攻撃を仕掛けられるし、いざとなれば複合属性も操れる。そもそもあの白髪がナナシだって言うんなら、紅白海賊王祭りで見せたあのどす黒い攻撃も、きっとこの方法を駆使した3種以上の複合属性魔法ってことになる。他属性を封じ込めても破裂しない水属性のシャボン玉。それらを融合させずに滞在させ続ける互いの比率と精密な魔力操作。相当な練度だな。水属性だけで言えば、僕でも、ソウヤでも、なんならマタタビさんでさえ、敵わないんじゃないか?。さすがに多対一じゃ連続する全属性を捌けない。後方に託すか…。
「ウォーターベール!」
ハルミもシュウと同様、敵の幹部らしい人物、ナギをセナや他の構成員たちと水の壁で分断する。一団から確実に主力の1人を剥がす作戦であった。
「ハッハッハッハッ!土の壁に水の壁。互いに分断策か。潔いな。こちらも分断策を決めた以上時間が惜しい。ここで主力を2人削げるなら願ったり叶ったりだ。いくぞお前たち。」
カガチとナギ、靭の幹部2人と分断されたセナだったが、シュウとハルミ、独立ギルドの2大エースを敵陣から削げるなら儲けものだと語り、残りの構成員6名余りとミヅキを連れて、ダイドウ深淵窟のさらに奥に進んでいく。
「すいません、マタタビさん。あとは頼みます!」
シュウ対カガチ。ハルミ対ナギ。互いの主力がダイドウ深淵窟中枢でぶつかり合う。
グリムデーモン守護の任に就いていたものは、残り4名。カイト、マタタビ、ボーディア、そしてドセアニア兵士1人。この4名でセナと残りの構成員を相手取る。
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一方、ダイドウ深淵窟へ向かい馬を走らせる、グレイ、ソウヤ、リリアン、ゼクシードたちは残り10分そこらの地点まで着いていた。
「グレイ。改めて確認しておきたいことがある。君の体質は、魔法を無力化することができるんだよね?」
「わかりません…自分でもどうなってるのか」
「でもグレイ君はハルミレベルの魔導士の攻撃を耐え抜いたし、さっきだって靭リーダーの攻撃を無傷で受けきってた…」
「そうだ。君自身が理解できていなくても、君の体質は他を一蹴してる」
改めて話題に上がるグレイの体質『魔力耐性』。これまで、アケル・インナヴィ号では星界の使徒の七星、ドゥーぺを相手に、全ての風属性魔法を耐え抜き、撤退に追い込むことに成功。紅白海賊王祭りでは、大多数の攻撃魔法やミヒャのバーニング・ブロッサム、そしてハルミのスターバレットの300連打を全て受けきって見せた。そして最後に偽物とは言え、セナの泥人形による泥弾を無傷で耐える。これらは全て常人では考えられないことであり、グレイの特異体質あってこそのものだった。
「話を聞く限りでは完全に魔法攻撃を無力化できるわけではないらしいね。一定の出力以下、もしくは耐久力によるものか。この2パターンのどちらが理由で、君は魔法攻撃を防げている。」
そういえば、以前ドゥーぺと対峙した際に、彼女に「でも君の力は…完璧ではないらしいね」と言われたことがあった。あれは『魔力耐性』が完璧なものではないという意味だったのかと今なら思う。それに彼女はきっと自分の出生や親について何か知ってるようなそぶりでもあった。
「君の魔力耐性のレベルによって、これから先の話が変わってくる」
「何の話だい?」
なにやらグレイの特異体質について深く聞くゼクシードに不信感を抱くソウヤ。
「セナを倒すための手段を僕が提供するって話だよ」
「?!」
ゼクシードはトール同様、ポケットから透明の液体が入ったガラスケースをグレイたちに見せる。
「それは何ですか?」
「僕が作ったもので、名称は『白い悪魔』。酸素に触れると炸裂し燃え上がる。そして約6500度近い熱と白炎を巻き起こす化学薬品。でもその製造方法はマナを媒介としたもので歴とした魔法とも言える。正直魔力耐性のない者には扱いきれないほど危険なもので、数秒間人体に当てるだけでも火傷じゃ済まなくなるほどの火力と熱だ。これをグレイ君、君に使ってもらいたい」
6500度の白炎。数秒で火傷より酷い始末に。そんなものグレイに触れさせていいはずがない。
「ダメだ!貴様、グレイ君を利用するためにここまで着いてきたのか?」
「私も危険だと思います。何よりミヅキさんをら攫った組織の仲間です。私は信用できません!」
ソウヤだけでなくリリアンも反対意見だった。
「生半可な気持ちでセナは倒せないよ?復讐の悪魔に魅せられたセナの強さは、人間の想像を遥かに超えている。こっちも悪魔に魂を売る覚悟じゃなきゃ倒せない。僕はこの瞬間をずっと待っていた。セナに対抗する手段とそれを扱える者が揃うこの瞬間を!…だから頼むよ、グレイ君。セナを止めてやってくれ…」
「僕は、ミヅキさんを助けるために戦っています!皆さんの言う復讐とか、ドセアニア国民のためとか、そんなものどうだっていいんです!1人の仲間を助けるために戦う、それだけです」
つまり、グレイはゼクシードの申し出を断ったということか。周りもやや困惑した表情を見せるも、とにかくアルビニウムは受け取らない方向で話は進んだ。一応安堵の表情を見せるソウヤとリリアンだったが、ゼクシードだけは不満な様子。しかし、ここまで着いてきたからには自分の力でセナを止めるしかないとゼクシードも覚悟を決める。自分がアルビニウムを使ってセナを倒すと。
ガガガガガッ!ガガガガガッ!
話し合いの最中にものすごい地響きがグレイたちを襲う。
「何ですか急に?!」
「地震…?」
「キャァ!」
リリアンとソウヤが乗っていた馬が地響きに驚き、暴れたことで2人は振り落とされてしまい、馬は遠くへ駆けていってしまった。
「ソウヤさん!リリアンさん!」
グレイも無理やり馬から飛び降り、前周り受け身をして、無事着地。そのまま2人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと地面に体を打っただけ…大丈夫」
「私も…平気です」
ゼクシードは馬を強く引き、近場に止める。
「まさか、グリムデーモンが」
「マグニチュード4程度。多分グリムデーモンじゃない。」
ソウヤの縁起でもない発言に恐怖する2人だったがゼクシードはそれを否定する。
「マグニ?何だって」
「震度の話だよ。地下35m地点に幽閉されてるグリムデーモン。地表から結構近いし、グリムデーモンが暴れたら、もっと大きな地震が起きるはずだよ。多分深淵窟で大規模な魔法がぶつかり合ってるんだ。もしかしたら、深淵窟自体がもたなくなるかもね。急ごう」
研究職に就くゼクシードの考察を頼りにダイドウ深淵窟へ急ぐグレイたち。今まさにダイドウ深淵窟で大規模な魔法の応酬が繰り広げられている。
グレイら一行はグリムデーモン復活までに間に合うことができるか。馬を一頭無くした一行は丘を全力で走る。
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神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
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魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
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~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
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外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
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