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第二章 〜家族のカタチ
25話 『雷獣、再臨』 奴隷解放戦線編
しおりを挟む六法剣、ヘカストの槍、ヘカストの盾、アリオス傭兵団、合わせて21人。対するは手負いの5人。絶体絶命のピンチに立ち上がる七星、 玉衡・アリオト。
アリオトの復活に誰しもが驚いていた。初撃で猛毒の塗られた剣撃を喰らったにも関わらず、毒死せずに平然とした顔で立ち上がったのである。
『悪いな、消化すんのに時間かかっちまった…?!』
玉衡の戦能は体内に落とし込んだ力を自らの力に昇華させるというもの。毒を喰らったアリオトだったが、今際の際で毒を消化し耐性を獲得した。次からアリオトに対しては今回喰らった毒と同質の物かそれ以下の毒は通用しない。
毒を克服し、立ち上がったアリオトは自分の声が聞こえないことに気づく。
『おい、メグレス!メグレスどこだ!』
周りを見渡し、メグレスを見つけると、メグレスは自分の耳に指を差し、流血した耳を見せる。それを見て、アリオトは自分の耳に指をぶちこみ、抜き出した指が真っ赤に染まっているの確認し状況を理解する。
『あぁ。鼓膜が破れてんのか。』
鼓膜の破れたもの同士、意思疎通は指の差す方向に何かあるというものだけ。メグレスは六法剣たちの方へ指を差し、敵がいるのを伝える。
『1、2…21か?まあ試すのには悪くねー数だ。』
アリオトは、人生2度目の雷獣戦攻を発動する。体は青白く輝きを放ち、ビリビリと帯電する。
「なんだアレは…?」
「雷獣戦攻、囚人フセミと同じ魔法だ」
投獄していたはずのフセミ=カルトロスと同じ能力を持つ敵に驚きを隠せないヘカストの槍と盾たち。
「能力はどんなものですか?」
フセミ=カルトロスの能力を知らないアリオス傭兵団が尋ねる。
「名は雷獣戦攻。常に体を帯電させ、触れたものを感電させる能力。その応用型に、自分のテリトリーを広げるものと、そのテリトリー上を高速移動する能力を有しています。」
「なるほど…手強いですね」
『そんで、これが雷獣戦攻・『領域』。』
アリオトは自分を中心に青白く帯電した格子状のエリアを展開。
「くるぞ!」
ーー雷獣戦攻・『 猎豹』。
稲妻のごとき速度で、固まっていたアリオス傭兵団の2人の心臓をえぐり取る。
「?!」
「?!」
「こいつ!!」
アリオス傭兵団はやられた味方に報いるため剣を振るうも雷獣戦攻・『猎豹』で逃げられてしまう。移動先に土属性の柱を伸ばすドンカスだったが、それも避けられてしまう。
『あぁ~いいな、この力。』
『最高だぁ!!』
雷獣戦攻・『猎豹』で再び加速するアリオト。
ーーなるほど。あの格子状の上を移動することで倍近い速度を上乗せしているのか。それなら…。
レグメスは、アリオトの展開した雷獣戦攻・『領域』に上乗せする形で、泥属性魔法・泥海を展開し、泥の海を足元に広げる。
「一旦退避!泥に巻き込まれるぞ!」
『逃すかよ!』
泥海から逃れようとするヘカストの騎士団たちを逃さないアリオト。稲妻のごとき速さで次々に打撃を与えていき、時間を稼いだことで、泥海に足を奪われる騎士たち。
「まずい、足を止めたら!」
『おせぇ…』
シュピン!シュピン!シュピン!
一瞬にして、六法剣のハルエ、ジバ、マタギーユの3人、そしてヘカストの槍の2人、ヘカストの盾1人の首や心臓を切り裂き無力化する。
シュピン!シュピン!シュピン!シュピン!
再度加速するアリオト。それに対し団長、アーギルは近寄らせたくないのか水属性防御魔法・ウォーターベールを展開するも、アリオトはウォーターベールを避けるように大回りする。その時間たったの2秒半。アーギルの後ろを簡単に取り、指先で背中越しに心臓を貫く。
『お前の肉は不味そうだ。クソジジイ』
アーギルに悪態をつきながら心臓を放り投げると次の標的を探しに辺りを見回す。
「ひぃ?!」
「こ、こないでくれ!」
「やめてくれ」
六法剣が4人やられ、団長さえ失う始末。ヘスカトの槍と盾も何人か落ち、戦力差はひっくり返る。
『先に、七賢者をアリオトに始末させて正解だったな。あの力がなきゃ終わってたぜ』
メグレスは勝利を確信し帰り支度をする。そうこうしている内に他の構成員たちも合流する。ただ誰1人としてアリオトには加勢しない。それだけ今のアリオトの力は他を寄せ付けないほどだったからである。
今回合わせた、泥海と雷獣戦攻・『猎豹』の組み合わせはベストマッチと呼べるほどに相性が良かった。メグレスとアリオト。相性のいい2人で、ヘカスト王国を陥落させ、七賢者の1人を抹殺したのであった。
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フセミ=カルトロス抹殺の直後。
2人目の七賢者の可能性が高いとされていたハフマン=ワーマスだったが、ドゥーぺとメラクの2人により抹殺処理されるも、その身体に七賢者の印は確認できず、今回は偽の情報を掴まされたことになる。
「こっちはハズレかよ」
手応えのない仕事に不満を垂れるメラク。
「致し方あるまい。この300年で継手が何代も代わっている。探し当てるのは容易ではない」
「メラク様、ドゥーぺ様、ご報告します。アリオト様、ならびにメグレス様が七賢者の1人、雷の大賢者・フセミ=カルトロスを抹殺しました。」
「クソ!あっちに行けばよかったぜ!」
「そうか。報告ありがとう。下がっていいぞ」
構成員を下がらせ、帰り支度をするドゥーぺ。そのまま何かするわけでもなくメラクの闇属性魔法・ゲートを使用し拠点に帰る星界の使徒たち。
---------------------
フセミ=カルトロス抹殺の数日前。
残るは、火の魔女書を手に入れるためドセアニアに向かったアルカイドのみ。たまたまドセアニア近辺で頻発している奴隷解放運動の主軸である靱の存在を知ったアルカイドは、靱に接触し協力依頼を持ちかけていた。
「初めまして。靱の諸君。私は星界の使徒・七星、アルカイド。君たちに力を貸しにきた。奴隷解放運動、ならびにグリムデーモン復活の協力をしよう。」
なにやら怪しげな組織に詰め寄られる靱の構成員たち。しかし、靱の構成員はその手を拒む。なぜなら、今靱にはリーダーが不在だったからだ。
「支援感謝するが、悪いが今はリーダーが不在でな。日を改めてくれないか。」
「いつ頃戻りそうなんだい?」
「我々にもわからない」
リーダーの行き先も目的も知らされていない靱の構成員たち。次の作戦がいつになるのかも分からないため、自分たちも下手に動けないのである。
「そうか…それは困ったな」
「ちょっとあんた誰よ?」
赤みがかったロングヘアーの女と、ガタイのいいシャクレ顎の大男、長身ヒョロガリで丸メガネをかけた男の3人が構成員たちの後ろから現れる
「お?なんだか身なりが違うね。話のわかりそうな人が来たかな」
「聞いてんだから名乗りなさいよ!あんたは誰なんだよ!」
「では改めまして、星界の使徒の七星、アルカイドと申します。この度、靱のご活躍に心惹かれ支援したく馳せ参じた次第でございます」
胸に手を当て、白々しくも笑顔を取り繕い、上辺の敬意を表明するアルカイド。
「星界の使徒?聞いたことないわね」
「公に活動している組織ではないのでね。」
「目的は何?」
「ただただご支援をしたく…」
「本当のこと言いなさい、エセ紳士」
何やらこちらの真意を見透かされているような感じ。嘘で塗り固めても仕方ないため、ドセアニアにきた目的を話すアルカイド。
「火の魔女書?ドセアニアの保有している国宝、それがあんたらの目的なのね。それを盗み出すための陽動をあたしたちにさせようって魂胆なの」
「人聞きの悪い。利害が一致するやもと思っただけですよ。私たちもドセアニアを狙うのは同じ。むしろ国宝を守る主力を相手取ると言ってるんです。奴隷を解放したい靱、国宝を入手したい星界の使徒。利害は一致するでしょう?」
「そう。ただ今はリーダーがいないわ」
「聞いてますとも。もし話がつかないようなら、何か功績をあげて認めさせましょう。次の標的国の保有する奴隷を救い出してみせましょうか?戦力アップのためにも」
どんな要求も自信満々に受けようとするアルカイド。自分を含め、約30人の星界の使徒構成員。これだけの戦力があれば、中規模レベルの国家なら簡単に陥落させてみせると言っているのだ。実際、この程度の要求をクリアすれば、靱の構成員、総数100人余りが味方につく。中には一国と渡り合えるだけの力を秘めた者たちも僅かばかりだが存在するはず。大国ドセアニア王国を相手にするには必須戦力と言える。
「さ~て、乗りますか?降りますか?フッ!」
アルカイドは巧みな話術で靱の幹部である赤毛のハナと契約を結ぶ。
ノース大陸西部にあるミリオスト国にて地下労働を強制されている奴隷たち、約40人の解放救出を条件に、靱と星界の使徒の協力関係締結を約束するというもの。
ミリオスト国は、昨今相次ぐ戦争により、戦力を大幅に低下させており、ドセアニア王国の後ろ盾がなければ今頃滅んでいるとまで言われるほどに戦員不足であった。そのため、次の靱の標的にされていたわけだが、今回は星界の使徒が代わりに引き受けることとなった。
「ミリオスト国、奴隷40。敵戦力少数っと。まぁ楽そうな仕事だな。」
「アルカイド様。構成員、ミリオスト国・王城付近の家屋を占拠。砦上外壁にてマジックガンらしき武器を所持した者を8人確認。門前に2人の長剣持ち。王城内部は未だ分からずといったところであります。」
「奴隷がいる地下労働施設の位置は?」
「未だ分からず。捜索中であります。」
「とりあえずここ数日間は砦上外壁と門前の兵の監視。一番手薄になる時間を逸れ。そして地下労働施設を見つけろ」
「了」
アルカイドの命令で構成員たちは役割分担をして地下労働施設を探す。
今回の目的はあくまで奴隷解放。ミリオスト国は戦力が落ち始めているため、深追いは避けたいはず。敵戦力を再計算し、奴隷解放のための時間稼ぎさえできればあとは撤退で構わない。この作戦は何よりも地下労働施設を見つけ出すことが先決であった。
アルカイドはメイン武器であるハンドガン仕様のマジックガンを手入れしながらその時を待つ。
「今回も頼むよ。ヘスティア」
神の名を持つアルカイド愛用のマジックガン『ヘスティア』。込める弾丸は実弾ではなく、アルカイドの土と火、そしてそれらを併せ持つ溶のマナである。
アルカイドはヘスティアに口付けをし、ホルスターにしまう。そして、息抜きに街に出て探索する。
ーーこれからこの場で暴動を起こし、何人かの罪なき命が奪われてしまう。あの人か。それともあの少女か。おのお兄さんかもしれない。罪なき魂は、天国で召され、再びこの地に舞い戻る。せめてこれから起こる災厄をどうか許してほしい。
星界の使徒でありながら人の命を決して軽んじないアルカイド。
「せめて施設が見つかるまでの数日を、健やかに生きてくれ」
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