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第二章 〜家族のカタチ
22話 『雷の大賢者』
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星界の使徒本部。
ドゥーぺ、メラクの2名による巫女奪還作戦失敗後。
「予定より早かったなドゥーぺ、メラク。何があった」
長テーブルの最奥に座る星界の使徒のリーダー、 天璣・ファクダ。
予定では船を利用しての3週間後の合流だったために、急遽ゲートでの帰還を余儀なくされた2人に問いかける。
「結論から言えばメラクが巫女を取り逃がした」
「はぁ?!」
ドゥーぺの告発により全員の前で公開処刑を喰らい起こり散らかすメラクだったが、傷だらけの顔にボロボロの格好で何を言っても周りの目は差別と嫌悪、軽蔑、負の感情でしか表さなかった。
「今回は相手が悪かったんだ」
「ほぉ、言い訳の余地はある。話を聞こう」
メラクにチャンスを与えるファクダ。
「マタタビっていうクソジジイが妙に粘着してきてなぁ。それもゾンビみてーに何度も挑んでくるやつだった。それに巫女の覚醒も相まって、1人で捌くのは無理だった。それに光属性を扱うガキもいたな。弱点属性で後ろから援護射撃してきやがって、相性やタイミングが悪かったんだ」
「マタタビ…か。」
深く考え込むファクダ。言い訳の内容に刺さるものがあったのか、メラクの処遇について決めかねているのか。待っていられず口を挟む他の七星たち。
「ここまで醜態を晒して星界の使徒のメンツは丸潰れさ。それにこいつは素顔を見られちまってる。今後の活動に影響が出るんじゃないか」
真っ先に口を挟んだのは玉衡・アリオトだった。
「でも闇属性魔法は希少だ。扱えるものは世界中探しても少ないだろう。また新しいやつを見つけてきて、ここまで育て上げるのかい?相当な時間を要するよ」
メラクを擁護するのは 搖光・アルカイド。
アルカイドの言い分は最もであり、闇属性魔法は努力でどうこうなる次元の属性ではなく生まれ持った素質で扱えるかどうかが決まるもの。5属性と同列に扱っていいものではない。当の七星たちも、メラクを除いて闇属性魔法を扱えるものの存在は1人しか知らない。星界の使徒結成から5年の月日を経て、確認したのはたったの2人だけ。それほど希少な存在で簡単に始末できない。
「5年で2人。ここでメラクを抹殺して次に候補者が見つかるのは2、3年後かな?それで使い物になるまで半年か1年か。時間が惜しいだろ。それにメラクは見た目ちゃちゃっと変えれるもんね!何の問題もなし」
グッジョブサインを示すアルカイド。
「まあ今回はいいだろう。相手もマタタビだ。一筋縄ではいかない」
ようやく口を開いたファクダもアルカイドを支持する様子。それに付け加えられたマタタビを認めるような言動。それに反応を示す他の七星たち。
「マタタビってやつはそんなに強いのか?」
マタタビについて質問を投げかけたのは 開陽 ・ミザールだ。
「一時代を担った大魔導士だ。本人は冒険者という肩書きに強く固執しているが、魔法をメインに扱う老兵だ。」
「そうだ!ほぼ全属性の魔法を使ってくるジジイだ」
「マタタビ。大魔導士。冒険者。全属性。インプットした。相当な実力者みたいだな。肝に銘じておこう」
周りから聞いたマタタビの情報を脳にインプットさて情報を更新するミザール。
「つまり、巫女さんはそのマタタビってやつと常に一緒にいるわけなんだよな?」
マタタビの話に付け加え巫女についても触れたのは 天権・メグレスだ。
「委託した山賊の話によれば、巫女誘拐時はマタタビらとは関係を持っていないただの人気アイドルだったらしいが…此度の戦いで魔力を覚醒させ、マタタビらと協力するに至ったわけだが、自分の身が狙われていると悟った以上は、今後も同行すると思われる。」
それに対して自分の見解を伝えるドゥーぺ。
「厄介な組み合わせだなぁーこりゃ」
マナ、肉体、精神のそれぞれを瞬時に回復させる効果をもつ巫女の歌声。7属性全ての特徴に当てはまらない異質の魔力。これがさらに進化を遂げ、人間の範疇を超えた力になれば手がつけられなくなる。星界の使徒の目的のためには進化を続けてほしいが、強硬手段を行使しても太刀打ちできなくなれば元も子もない。
「早めに手中に収めて管理したいね」
「そうですね。」
「全員、これより新たな命令を下す。よく聞け!巫女奪還は一時中断。先に目星をつけてる七賢者を始末する。」
星界の使徒リーダー・ファクダの命令により、星界の使徒の次なる標的は七賢者に代わった。
「「「「「「了」」」」」」
ハフマン=ワーマス。
フセミ=カルトロス。
下調べからこの2名が現状、最も七賢者と思わしき人物であるという結果に至ったため、この2名を同時に始末することにした星界の使徒。
ハフマン=ワーマスへは、ドゥーぺとメラクが差し向けられた。
そして、フセミ=カルトロスへは、メグレスとアリオトが差し向けられた。
「そして、アルカイド。お前にはノース大陸北東のドセアニアに向かってもらう。ドセアニアが保有している火の魔女書を回収しに行け」
「私がですかな?侵入、強奪はメラクの方が適任なのでは?」
「やつはまだ半人前だ。今回も失敗している。火の魔女書は必ず手中に収めたい。したがって、お前がむかえ」
「了」
ファクダの命令により、アルカイドはノース大陸北東部を牛耳る大国ドセアニア王国へ向かい、火の魔女書とやらを回収する任を任される。
星界の使徒幹部5名は、各々が目的地へ散らばり作戦を開始する。七賢者の抹殺と火の魔女書確保のために。
------------------ーーー
そして現在。ヘカスト王国周辺の街にて。
アリオトとメグレスは、イースト大陸南部、へカスト王国地下収容所に収容されているというフセミ=カルトロスの下へ向かっていた。
「なんでまた王国の地下なんかにいんだよ?」
「さぁーねーー。でも奴さん、結構な大罪を犯して投獄されてるって話だ。構成員が言ってた」
アリオトの疑問に対して答えるメグレス。
七賢者の1人、大賢者ともいわれる重要人物が何故大罪なんかを犯したのか。その理由は誰にもわからない。それでも、星界の使徒の目的成就のためには、ヘカスト王国を敵に回さなければいけなくなってしまった。
「やんのか?一国と」
「もしかすると、奴さんの狙いはそこかもなー。見方は違えど大国を味方につける方法。俺をやりたきゃ一国を相手にしろと言ってるみたいだ」
「きしょい手だな、大賢者様よぉ!」
ヘカスト王国地下収容所。王国の地下にあるだけあって、その警備は万全のもの。ネズミ1匹入れないという布陣であった。
事前に現着させていた星界の使徒構成員が8人。そして、星界の使徒幹部である七星が2人。この10人で本作戦にあたる。
「アリオト様、メグレス様。事前調査の結果を報告します。」
七星の下へ馳せ参じた構成員は事前調査の報告をする。
ヘカスト王国裏門、地下収容所行き受付場では、厳重な警備と身体検査の徹底、そして、魔力阻害具を身体につけた上で、監視員を1人同行させるという義務のもと、地下収容所投獄中の罪人と面談することが可能となっている。
「大賢者に会うためには、身体検査をクリアした上で1人監視をつけられんのか。めんどくセーな」
「魔力阻害具をつけられるのも厄介だ。精度がどんなものか分からないが、完全に魔力が使えなくなる代物なら大賢者を抹殺できないぞ?」
「ま、アレを使えば問題ねーだろ。問題なのは敵が大賢者だけじゃねーってことだ」
今回は大賢者の始末だけではなく、その後のヘカスト王国との一戦も考えられる。
「なら二手に別れるか?大賢者の抹殺とヘカスト王国騎士団の足止め」
「だな。そうしよう。俺が大賢者をやる」
「無理そうならテキトーに合図送ってくれや。すぐに向かうゼェ」
「なめんじゃねーぞメグレス!俺様が負けるかよ」
話し合いがついた七星たち。アリオトが大賢者であろうフセミ=カルトロスと対峙し、メグレスがヘカスト王国の騎士団を対処することとなった。
決行は夕方、見張りの騎士が入れ替わってから。明確に戦力がダウンし、食事時や休眠など1番相手の虚をつける時間帯。
作戦決行時間になり、1人の星界の使徒構成員が一般都市民の格好をしてヘカスト王国裏門、地下収容所行き受付場に足を踏み入れる。
「どうも、面会をしたいのですが」
「相手は誰だ」
「フセミ=カルトロスです」
「ちょっと待ってろ」
構成員は警備員と対峙していた。周りにはライフル銃や長剣を構えた騎士が5人。防犯カメラも2箇所に確認できた。構成員もそこそこの監視体制であることは理解している。
「身体検査を行う。両手を上げ壁を向け」
「はい。」
足の爪先から、上げた両手の指先まで念入りにチェックされる。あらかじめ所持していた財産や短刀などは全て没収される。これらはあくまで本命を隠し通すためのフェイク。身体検査がある以上、わかりやすく物を持ち込もうとする仕草を見せ、体内部に本命を隠し、身体検査を潜り抜けようとしていた。
「体には異常なし。着衣にも異常はありません。持ち込み物は、短剣一本に、金貨銀貨銅貨合わせてこれだけ。他は紙とペンだけですね。」
「ご苦労。紙の一枚すら持ち込むことは許さないが、怪しいものが特には無い以上、面会に進んでもらって構わない。そして、この手錠をつけてもらうと同時に1人護衛をつけるがよろしいかな?」
「結構ですとも。行きましょう」
事前調査にあった魔力阻害具とはこの手錠のことらしい。つけた途端身体から送られてくるはずのマナが両手まで送られない。他の部分には流せるため、両手を駆使した魔法放出はできないらしい。魔導士が両手を使うという思考から作られたものだろう。
そのまま魔力阻害具を付けられた構成員と1人の騎士は地下収容所へ向かい建物に入り、すぐに階段を降りていった。
「アリオトだ!第一関門はクリア。ゲート展開後、作戦を遂行する」
「こちらメグレス。了解だ。ゲート侵入後、また連絡をくれ」
「了解。」
通信機を駆使して連絡を取り合う七星たち。
地下収容所の階段を降りていき、最下層、地下3階収容所。犯罪者の中でもヘカスト王国が最大レベルの危険人物と判断されたものだけが収容される地下3階収容所。そこの1番奥に投獄されているフセミ=カルトロス。
フセミに近づくにつれ、構成員は事を起こす。構成員は、手錠で拘束された腕を目一杯回し、遠心力を乗せたまま騎士の頭に手錠部分をぶつける。咄嗟のことで対応しきれず、騎士は顔面にもろに一撃喰らってしまいよろけてそのまま倒れる。そして、構成員は器用に拘束された手を動かし、騎士の腰に添えられていた長剣を抜き取り自分の手首を切り裂く。なんたる奇行か。収容されていた罪人たちも顔を真っ青にするほどだったが、そんなのはお構いなしに、切り裂いた手首の中から巻物を地面に落とす構成員。
「ゲート、展開。」
構成員が口ずさむと同時に、収容所通路に生み出される黒い穴。それは、闇属性魔法を媒介とした移動用の穴だった。
「ゲート展開確認。作戦を遂行する」
「了解。」
外で待ち構えていたアリオトの手の中にあった巻物が、収容所内で展開された巻物とリンクし、アリオトの目の前にも同じ黒い穴が展開される。アリオトはその穴に足を踏み入れ、一瞬にして収容所内部に侵入してみせた。
「ご苦労だったな。手首をだせ」
「はっ!」
バキン!
構成員はアリオトの命令で手首を前へ差し出し、手錠を破壊してもらう。しかし、片方の手首は切り裂かれたままで、決して治せるわけではなかった。
「お前はこのままゲートを渡って外にいるやつとコンタクトを取れ。そいつらなら多少処置できんだろ。こっちは俺1人でいい」
「了解しました。失礼します。」
アリオトに敬礼をした構成員は戦線を離脱する。ゲートを展開しアリオトを収容所内部に侵入させる。構成員は任務を無事やり遂げたのである。
「さてと。テメェが七賢者の1人で間違いねーか?フセミ=カルトロス!」
薄暗い地下収容所の鉄格子の中に、かろうじて姿が確認できた黒髪の青年。
コツコツと足音を立てながら、フセミが投獄されている檻に近づいていくアリオト。
「誰だ…アンタ」
「質問を質問で返してんじゃねーよ、馬鹿が!」
雷鳴閃哮。
ズバババン!!ズドン!バリバリバリ。
アリオトはフセミ目掛けて雷撃を放つ。その精密な魔力操作は、鉄格子を壊すことなく、隙間を抜け、フセミに直撃する。
直撃したフセミは身体中から黒い煙をあげ、辺りにはまだ飛散した雷が残り続ける。
バチバチ。バチ。バチバチ。
黒煙が薄まり、フセミの姿が浮き出てきたと思えば、フセミの体は青白く輝きを放ち、まるで身体中が帯電しているように電気を放っていた。
「おいおいおいおいおい。まさか雷が効かねーんじゃねーだろうな。」
「スゥーーーーーー。今のはほんの挨拶程度だろ?」
青白く帯電した目でアリオトを睨みつけるフセミ。
アリオトの得意属性である雷属性がまるで効かない様子。もし、フセミが雷属性に耐性があるのだとしたら、この勝負はアリオトが圧倒的に不利であった。
ーー雷は、効かねーか。普通に耐えてんのか、それとも、吸収?吸収なんてできんのか。あの身体中の電気と青白いオーラ。どっちだ。後者なら何発打っても意味がねー。こいつは七賢者の中でも雷だったか。
「魔力比べと行こうと思ったんだがなぁ…そういうのが通じるタイプじゃなさそうだなテメェは!。雷月!」
半月を模した雷属性の攻撃を鉄格子目掛けて放つアリオト。そのまま鉄格子を破り肉弾戦に持ち込もうとするアリオト。よくよく見ると、フセミの手首には手錠がされており、これは構成員にもつけられていた魔力阻害具だろう。つまり、フセミは両手にマナを集中させることはできないということ。
「両手が塞がってるらしいな!」
アリオトに教えられたフセミは両手に目を落とす。しかし、それはアリオトを油断させる仕草。フセミはステップをきかせ、一瞬にしてアリオトの背後へ瞬間移動する。
「なっ?!」
「足は動くぞ…オラッ!」
ズドン!
そのまま体を半回転させて、横腹に雷のスピードを上乗せさせた蹴りを1発喰らわせる。そのままアリオトは壁に打ち付けられヒビを入れる壁。
バキン!
アリオトの反撃がないため、少し時間を使って手首に付けられた手錠を無理やり壊すフセミ。
「こんなもんいつでも壊せんだよ、バカが」
「1発不意打ちきめたくれーで調子乗んなよクソガキが…」
服が破れた横腹を抑えながらフセミと改めて対峙するアリオトは、右手に炎を纏っていた。雷属性が効かないとみるなり、火属性で対抗する構えを見せる。
「火も使えるのか。器用だな」
「ぅっせーーーなっ!」
右拳を振りかざし、フセミに接近するアリオト。しかし、またしてもフセミはステップをきかせ、アリオトの背後へ瞬間移動する。
「次は背中だ。」
「そいつはテメェーの専売特許じゃねーんだよ!」
「?!」
アリオトはフセミと同じようにステップをきかせてフセミの背後へ瞬間移動してみせた。互いに雷属性の使い手。フセミにできることがアリオトにできないわけがない。
不意を突かれたフセミだったが、かろうじてアリオトの拳を腕で防ぐ。少し吹っ飛ばされたフセミ。両爪先に力を込め地面を踏ん張り、攻撃を耐える。炎を纏った拳をもろに受けた腕は、煙をあげ、少し火傷を負っていた。
そしてダメージを喰らったのはフセミだけではなく、アリオトの右拳にも切り傷が見て取れ、流血していた。
「なんでだよ。攻撃したのは俺だろ」
「なんでだろうな。」
ーー雷の速さで反撃でも喰らったか?いや、左腕は完全にガードに入っていたし、右手は動かしてねーはずだ。なら足か、他の手段か。それに、常にあいつの体を帯電させてる青白いオーラは何だ。雷属性魔法でも見たことねーぞ。よほど雷に対する耐性があんだろうな。
本来、マナは自分の生命エネルギーであり、魔法はそれを媒介として生み出されたもの。マナは自分のであっても、魔法は自分に備わっているものではないため、火は熱いし、氷は冷たい。雷は痺れるし、鋭利な風魔法に触れれば切れてしまう可能性がある。魔導士たちはそうならないために日々鍛錬を積み、魔法を使いこなしている。ただどれだけ鍛錬を積もうとも、人体に近い位置で炎を展開し続ければ体は焼けこげるし、水や氷に長時間触れ続ければ神経は麻痺する。そんな中、フセミは何の副作用も無しに、常に自分の体に雷を帯電させ、青白いオーラを纏わせていたのだ。
ーーもし、この傷があのオーラによるものなら…。
アリオトは足に電気を流し、高速移動しながらフセミに接近。それに対応するようにフセミを瞬間移動をする。目まぐるしい高速移動の中、幾度も拳を交える2人。十数秒経ってから、一度落ち着く2人。
アリオトは自分の拳を見てみると、案の定、甲の皮がめくれ、流血が止まらなくなっていた。
ーー正しかったな。あの青白いオーラは電気の刃みたいなもんで、触れれば触れるだけ、傷を負っちまう。まるでハリセンボンやウニを相手にしてるみたいだ。このまま肉弾戦をし続けた場合、フセミに良いのが入らない限りは一方的にこっちがやられる。常時発動型のオート反撃とか、チートだろこいつ。距離を取って、火属性で。
「考えたね。」
アリオトが考え事をしている最中に、動き出すフセミ。そのまま、足を振り下ろし、一撃。そのまま飛び跳ね回し蹴りを喰らわし二撃。攻撃の手を緩めず、右ストレートの三撃目を仮面に打ち込み、アリオトを壁に打ちつける。
そのまま仮面は破られ、破片が落ちる。
「そういう顔をしてるんだ」
頭から血を流し、停止するアリオト。完全に勝負がついたかにみられたが、アリオトはまだ諦めていなかった。
急に体を動かすなり、前屈みに倒れ込むアリオト。そのまま、両手を地につき、広域な雷属性魔法を展開する。
「雷電磁波!」
2人を閉じ込めていた部屋から外に電撃が漏れ出し、そのまま他の部屋の鉄格子を全てぶち破る広域魔法。そのまま、鉄格子の壊れた部屋から次々に放たれる囚人達。
「テメェーら!シャバに出てーならこいつを殺せ!そうすりゃ外の自由は担保してやる!」
アリオトのとった行動は、囚人達を放ち、協力させることであった。久しぶりの自由の身となった囚人達だが、ここがまだ地下収容所であることを思い出し、真の自由は得られていないことを確信し、アリオトの言葉に乗る。
「ほんとにこいつをやったらシャバに出れんのか!!」
「また何人も殺せるんだな!!」
「ひゃっほーーー!!!殺し殺し殺し」
「ぶち殺してやるよ!クソガキ」
投獄されていた囚人達は、全員大罪人。どいつもこいつも頭のネジが飛んだバケモノたちであった。
放たれた囚人の数は12人。その実力は地下3階に投獄されるレベル。フセミと対等とはいかなくともそれなりの実力者たちで間違いはない。その12人を同時に相手取るフセミ。オーラを全開に放ち、雷の速度で体重を決め込んでいく。
ズドン!ズドン!ズドン!!!ズドン!ズドン!ズドン!
一方、王国内では、メグレスと4人の構成員たちが、王国騎士たちの足止めをしていた。
構成員たちは、炎を放ったり水を放出したり、遠距離魔法で騎士たちを攻撃。メグレスは、水属性魔法と土属性魔法を融合させた泥属性魔法で騎士たちを押し返していく。泥属性魔法の汎用性は高く、相手の動きを鈍らせ、動きを制限させての遠距離攻撃と、攻守に優れた有能魔法であった。
「泥海!」
足元を泥沼に変え、相手の動きを制限させる。
「泥咆!」
泥を凝固させ、打ち出す遠距離魔法。
そして、相手の脳内に泥属性魔法の存在を叩き込んだところで、土属性魔法のグランドアップを使い、地盤を上げて、屋根と地面で騎士を押し潰し殺す。ブシャっと血飛沫をあげ、十数人もの騎士を一気に倒す。
その時、下の方から地響きが聞こえてきたため、何となく状況を察するメグレス。
「奴さん達、始めたみたいだね。1人地下収容所に向かってくれる?状況確認と報告よろしく~」
「了解しました。」
アリオトに対して信頼はあるものの、最悪の状況を想定して援軍を送るメグレス。最悪の場合は、自分が七賢者と戦わなければならないため、ヘカスト王国騎士団相手でも余力を残しておく必要がある。
「手加減しながら足止めなんて、大変なお仕事だぁ!!泥海!!」
どんどん来る援軍に対して、泥属性魔法で相対するメグレス。
ヘカスト王国、並びに七賢者と星界の使徒との戦いが白熱していく。
ドゥーぺ、メラクの2名による巫女奪還作戦失敗後。
「予定より早かったなドゥーぺ、メラク。何があった」
長テーブルの最奥に座る星界の使徒のリーダー、 天璣・ファクダ。
予定では船を利用しての3週間後の合流だったために、急遽ゲートでの帰還を余儀なくされた2人に問いかける。
「結論から言えばメラクが巫女を取り逃がした」
「はぁ?!」
ドゥーぺの告発により全員の前で公開処刑を喰らい起こり散らかすメラクだったが、傷だらけの顔にボロボロの格好で何を言っても周りの目は差別と嫌悪、軽蔑、負の感情でしか表さなかった。
「今回は相手が悪かったんだ」
「ほぉ、言い訳の余地はある。話を聞こう」
メラクにチャンスを与えるファクダ。
「マタタビっていうクソジジイが妙に粘着してきてなぁ。それもゾンビみてーに何度も挑んでくるやつだった。それに巫女の覚醒も相まって、1人で捌くのは無理だった。それに光属性を扱うガキもいたな。弱点属性で後ろから援護射撃してきやがって、相性やタイミングが悪かったんだ」
「マタタビ…か。」
深く考え込むファクダ。言い訳の内容に刺さるものがあったのか、メラクの処遇について決めかねているのか。待っていられず口を挟む他の七星たち。
「ここまで醜態を晒して星界の使徒のメンツは丸潰れさ。それにこいつは素顔を見られちまってる。今後の活動に影響が出るんじゃないか」
真っ先に口を挟んだのは玉衡・アリオトだった。
「でも闇属性魔法は希少だ。扱えるものは世界中探しても少ないだろう。また新しいやつを見つけてきて、ここまで育て上げるのかい?相当な時間を要するよ」
メラクを擁護するのは 搖光・アルカイド。
アルカイドの言い分は最もであり、闇属性魔法は努力でどうこうなる次元の属性ではなく生まれ持った素質で扱えるかどうかが決まるもの。5属性と同列に扱っていいものではない。当の七星たちも、メラクを除いて闇属性魔法を扱えるものの存在は1人しか知らない。星界の使徒結成から5年の月日を経て、確認したのはたったの2人だけ。それほど希少な存在で簡単に始末できない。
「5年で2人。ここでメラクを抹殺して次に候補者が見つかるのは2、3年後かな?それで使い物になるまで半年か1年か。時間が惜しいだろ。それにメラクは見た目ちゃちゃっと変えれるもんね!何の問題もなし」
グッジョブサインを示すアルカイド。
「まあ今回はいいだろう。相手もマタタビだ。一筋縄ではいかない」
ようやく口を開いたファクダもアルカイドを支持する様子。それに付け加えられたマタタビを認めるような言動。それに反応を示す他の七星たち。
「マタタビってやつはそんなに強いのか?」
マタタビについて質問を投げかけたのは 開陽 ・ミザールだ。
「一時代を担った大魔導士だ。本人は冒険者という肩書きに強く固執しているが、魔法をメインに扱う老兵だ。」
「そうだ!ほぼ全属性の魔法を使ってくるジジイだ」
「マタタビ。大魔導士。冒険者。全属性。インプットした。相当な実力者みたいだな。肝に銘じておこう」
周りから聞いたマタタビの情報を脳にインプットさて情報を更新するミザール。
「つまり、巫女さんはそのマタタビってやつと常に一緒にいるわけなんだよな?」
マタタビの話に付け加え巫女についても触れたのは 天権・メグレスだ。
「委託した山賊の話によれば、巫女誘拐時はマタタビらとは関係を持っていないただの人気アイドルだったらしいが…此度の戦いで魔力を覚醒させ、マタタビらと協力するに至ったわけだが、自分の身が狙われていると悟った以上は、今後も同行すると思われる。」
それに対して自分の見解を伝えるドゥーぺ。
「厄介な組み合わせだなぁーこりゃ」
マナ、肉体、精神のそれぞれを瞬時に回復させる効果をもつ巫女の歌声。7属性全ての特徴に当てはまらない異質の魔力。これがさらに進化を遂げ、人間の範疇を超えた力になれば手がつけられなくなる。星界の使徒の目的のためには進化を続けてほしいが、強硬手段を行使しても太刀打ちできなくなれば元も子もない。
「早めに手中に収めて管理したいね」
「そうですね。」
「全員、これより新たな命令を下す。よく聞け!巫女奪還は一時中断。先に目星をつけてる七賢者を始末する。」
星界の使徒リーダー・ファクダの命令により、星界の使徒の次なる標的は七賢者に代わった。
「「「「「「了」」」」」」
ハフマン=ワーマス。
フセミ=カルトロス。
下調べからこの2名が現状、最も七賢者と思わしき人物であるという結果に至ったため、この2名を同時に始末することにした星界の使徒。
ハフマン=ワーマスへは、ドゥーぺとメラクが差し向けられた。
そして、フセミ=カルトロスへは、メグレスとアリオトが差し向けられた。
「そして、アルカイド。お前にはノース大陸北東のドセアニアに向かってもらう。ドセアニアが保有している火の魔女書を回収しに行け」
「私がですかな?侵入、強奪はメラクの方が適任なのでは?」
「やつはまだ半人前だ。今回も失敗している。火の魔女書は必ず手中に収めたい。したがって、お前がむかえ」
「了」
ファクダの命令により、アルカイドはノース大陸北東部を牛耳る大国ドセアニア王国へ向かい、火の魔女書とやらを回収する任を任される。
星界の使徒幹部5名は、各々が目的地へ散らばり作戦を開始する。七賢者の抹殺と火の魔女書確保のために。
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そして現在。ヘカスト王国周辺の街にて。
アリオトとメグレスは、イースト大陸南部、へカスト王国地下収容所に収容されているというフセミ=カルトロスの下へ向かっていた。
「なんでまた王国の地下なんかにいんだよ?」
「さぁーねーー。でも奴さん、結構な大罪を犯して投獄されてるって話だ。構成員が言ってた」
アリオトの疑問に対して答えるメグレス。
七賢者の1人、大賢者ともいわれる重要人物が何故大罪なんかを犯したのか。その理由は誰にもわからない。それでも、星界の使徒の目的成就のためには、ヘカスト王国を敵に回さなければいけなくなってしまった。
「やんのか?一国と」
「もしかすると、奴さんの狙いはそこかもなー。見方は違えど大国を味方につける方法。俺をやりたきゃ一国を相手にしろと言ってるみたいだ」
「きしょい手だな、大賢者様よぉ!」
ヘカスト王国地下収容所。王国の地下にあるだけあって、その警備は万全のもの。ネズミ1匹入れないという布陣であった。
事前に現着させていた星界の使徒構成員が8人。そして、星界の使徒幹部である七星が2人。この10人で本作戦にあたる。
「アリオト様、メグレス様。事前調査の結果を報告します。」
七星の下へ馳せ参じた構成員は事前調査の報告をする。
ヘカスト王国裏門、地下収容所行き受付場では、厳重な警備と身体検査の徹底、そして、魔力阻害具を身体につけた上で、監視員を1人同行させるという義務のもと、地下収容所投獄中の罪人と面談することが可能となっている。
「大賢者に会うためには、身体検査をクリアした上で1人監視をつけられんのか。めんどくセーな」
「魔力阻害具をつけられるのも厄介だ。精度がどんなものか分からないが、完全に魔力が使えなくなる代物なら大賢者を抹殺できないぞ?」
「ま、アレを使えば問題ねーだろ。問題なのは敵が大賢者だけじゃねーってことだ」
今回は大賢者の始末だけではなく、その後のヘカスト王国との一戦も考えられる。
「なら二手に別れるか?大賢者の抹殺とヘカスト王国騎士団の足止め」
「だな。そうしよう。俺が大賢者をやる」
「無理そうならテキトーに合図送ってくれや。すぐに向かうゼェ」
「なめんじゃねーぞメグレス!俺様が負けるかよ」
話し合いがついた七星たち。アリオトが大賢者であろうフセミ=カルトロスと対峙し、メグレスがヘカスト王国の騎士団を対処することとなった。
決行は夕方、見張りの騎士が入れ替わってから。明確に戦力がダウンし、食事時や休眠など1番相手の虚をつける時間帯。
作戦決行時間になり、1人の星界の使徒構成員が一般都市民の格好をしてヘカスト王国裏門、地下収容所行き受付場に足を踏み入れる。
「どうも、面会をしたいのですが」
「相手は誰だ」
「フセミ=カルトロスです」
「ちょっと待ってろ」
構成員は警備員と対峙していた。周りにはライフル銃や長剣を構えた騎士が5人。防犯カメラも2箇所に確認できた。構成員もそこそこの監視体制であることは理解している。
「身体検査を行う。両手を上げ壁を向け」
「はい。」
足の爪先から、上げた両手の指先まで念入りにチェックされる。あらかじめ所持していた財産や短刀などは全て没収される。これらはあくまで本命を隠し通すためのフェイク。身体検査がある以上、わかりやすく物を持ち込もうとする仕草を見せ、体内部に本命を隠し、身体検査を潜り抜けようとしていた。
「体には異常なし。着衣にも異常はありません。持ち込み物は、短剣一本に、金貨銀貨銅貨合わせてこれだけ。他は紙とペンだけですね。」
「ご苦労。紙の一枚すら持ち込むことは許さないが、怪しいものが特には無い以上、面会に進んでもらって構わない。そして、この手錠をつけてもらうと同時に1人護衛をつけるがよろしいかな?」
「結構ですとも。行きましょう」
事前調査にあった魔力阻害具とはこの手錠のことらしい。つけた途端身体から送られてくるはずのマナが両手まで送られない。他の部分には流せるため、両手を駆使した魔法放出はできないらしい。魔導士が両手を使うという思考から作られたものだろう。
そのまま魔力阻害具を付けられた構成員と1人の騎士は地下収容所へ向かい建物に入り、すぐに階段を降りていった。
「アリオトだ!第一関門はクリア。ゲート展開後、作戦を遂行する」
「こちらメグレス。了解だ。ゲート侵入後、また連絡をくれ」
「了解。」
通信機を駆使して連絡を取り合う七星たち。
地下収容所の階段を降りていき、最下層、地下3階収容所。犯罪者の中でもヘカスト王国が最大レベルの危険人物と判断されたものだけが収容される地下3階収容所。そこの1番奥に投獄されているフセミ=カルトロス。
フセミに近づくにつれ、構成員は事を起こす。構成員は、手錠で拘束された腕を目一杯回し、遠心力を乗せたまま騎士の頭に手錠部分をぶつける。咄嗟のことで対応しきれず、騎士は顔面にもろに一撃喰らってしまいよろけてそのまま倒れる。そして、構成員は器用に拘束された手を動かし、騎士の腰に添えられていた長剣を抜き取り自分の手首を切り裂く。なんたる奇行か。収容されていた罪人たちも顔を真っ青にするほどだったが、そんなのはお構いなしに、切り裂いた手首の中から巻物を地面に落とす構成員。
「ゲート、展開。」
構成員が口ずさむと同時に、収容所通路に生み出される黒い穴。それは、闇属性魔法を媒介とした移動用の穴だった。
「ゲート展開確認。作戦を遂行する」
「了解。」
外で待ち構えていたアリオトの手の中にあった巻物が、収容所内で展開された巻物とリンクし、アリオトの目の前にも同じ黒い穴が展開される。アリオトはその穴に足を踏み入れ、一瞬にして収容所内部に侵入してみせた。
「ご苦労だったな。手首をだせ」
「はっ!」
バキン!
構成員はアリオトの命令で手首を前へ差し出し、手錠を破壊してもらう。しかし、片方の手首は切り裂かれたままで、決して治せるわけではなかった。
「お前はこのままゲートを渡って外にいるやつとコンタクトを取れ。そいつらなら多少処置できんだろ。こっちは俺1人でいい」
「了解しました。失礼します。」
アリオトに敬礼をした構成員は戦線を離脱する。ゲートを展開しアリオトを収容所内部に侵入させる。構成員は任務を無事やり遂げたのである。
「さてと。テメェが七賢者の1人で間違いねーか?フセミ=カルトロス!」
薄暗い地下収容所の鉄格子の中に、かろうじて姿が確認できた黒髪の青年。
コツコツと足音を立てながら、フセミが投獄されている檻に近づいていくアリオト。
「誰だ…アンタ」
「質問を質問で返してんじゃねーよ、馬鹿が!」
雷鳴閃哮。
ズバババン!!ズドン!バリバリバリ。
アリオトはフセミ目掛けて雷撃を放つ。その精密な魔力操作は、鉄格子を壊すことなく、隙間を抜け、フセミに直撃する。
直撃したフセミは身体中から黒い煙をあげ、辺りにはまだ飛散した雷が残り続ける。
バチバチ。バチ。バチバチ。
黒煙が薄まり、フセミの姿が浮き出てきたと思えば、フセミの体は青白く輝きを放ち、まるで身体中が帯電しているように電気を放っていた。
「おいおいおいおいおい。まさか雷が効かねーんじゃねーだろうな。」
「スゥーーーーーー。今のはほんの挨拶程度だろ?」
青白く帯電した目でアリオトを睨みつけるフセミ。
アリオトの得意属性である雷属性がまるで効かない様子。もし、フセミが雷属性に耐性があるのだとしたら、この勝負はアリオトが圧倒的に不利であった。
ーー雷は、効かねーか。普通に耐えてんのか、それとも、吸収?吸収なんてできんのか。あの身体中の電気と青白いオーラ。どっちだ。後者なら何発打っても意味がねー。こいつは七賢者の中でも雷だったか。
「魔力比べと行こうと思ったんだがなぁ…そういうのが通じるタイプじゃなさそうだなテメェは!。雷月!」
半月を模した雷属性の攻撃を鉄格子目掛けて放つアリオト。そのまま鉄格子を破り肉弾戦に持ち込もうとするアリオト。よくよく見ると、フセミの手首には手錠がされており、これは構成員にもつけられていた魔力阻害具だろう。つまり、フセミは両手にマナを集中させることはできないということ。
「両手が塞がってるらしいな!」
アリオトに教えられたフセミは両手に目を落とす。しかし、それはアリオトを油断させる仕草。フセミはステップをきかせ、一瞬にしてアリオトの背後へ瞬間移動する。
「なっ?!」
「足は動くぞ…オラッ!」
ズドン!
そのまま体を半回転させて、横腹に雷のスピードを上乗せさせた蹴りを1発喰らわせる。そのままアリオトは壁に打ち付けられヒビを入れる壁。
バキン!
アリオトの反撃がないため、少し時間を使って手首に付けられた手錠を無理やり壊すフセミ。
「こんなもんいつでも壊せんだよ、バカが」
「1発不意打ちきめたくれーで調子乗んなよクソガキが…」
服が破れた横腹を抑えながらフセミと改めて対峙するアリオトは、右手に炎を纏っていた。雷属性が効かないとみるなり、火属性で対抗する構えを見せる。
「火も使えるのか。器用だな」
「ぅっせーーーなっ!」
右拳を振りかざし、フセミに接近するアリオト。しかし、またしてもフセミはステップをきかせ、アリオトの背後へ瞬間移動する。
「次は背中だ。」
「そいつはテメェーの専売特許じゃねーんだよ!」
「?!」
アリオトはフセミと同じようにステップをきかせてフセミの背後へ瞬間移動してみせた。互いに雷属性の使い手。フセミにできることがアリオトにできないわけがない。
不意を突かれたフセミだったが、かろうじてアリオトの拳を腕で防ぐ。少し吹っ飛ばされたフセミ。両爪先に力を込め地面を踏ん張り、攻撃を耐える。炎を纏った拳をもろに受けた腕は、煙をあげ、少し火傷を負っていた。
そしてダメージを喰らったのはフセミだけではなく、アリオトの右拳にも切り傷が見て取れ、流血していた。
「なんでだよ。攻撃したのは俺だろ」
「なんでだろうな。」
ーー雷の速さで反撃でも喰らったか?いや、左腕は完全にガードに入っていたし、右手は動かしてねーはずだ。なら足か、他の手段か。それに、常にあいつの体を帯電させてる青白いオーラは何だ。雷属性魔法でも見たことねーぞ。よほど雷に対する耐性があんだろうな。
本来、マナは自分の生命エネルギーであり、魔法はそれを媒介として生み出されたもの。マナは自分のであっても、魔法は自分に備わっているものではないため、火は熱いし、氷は冷たい。雷は痺れるし、鋭利な風魔法に触れれば切れてしまう可能性がある。魔導士たちはそうならないために日々鍛錬を積み、魔法を使いこなしている。ただどれだけ鍛錬を積もうとも、人体に近い位置で炎を展開し続ければ体は焼けこげるし、水や氷に長時間触れ続ければ神経は麻痺する。そんな中、フセミは何の副作用も無しに、常に自分の体に雷を帯電させ、青白いオーラを纏わせていたのだ。
ーーもし、この傷があのオーラによるものなら…。
アリオトは足に電気を流し、高速移動しながらフセミに接近。それに対応するようにフセミを瞬間移動をする。目まぐるしい高速移動の中、幾度も拳を交える2人。十数秒経ってから、一度落ち着く2人。
アリオトは自分の拳を見てみると、案の定、甲の皮がめくれ、流血が止まらなくなっていた。
ーー正しかったな。あの青白いオーラは電気の刃みたいなもんで、触れれば触れるだけ、傷を負っちまう。まるでハリセンボンやウニを相手にしてるみたいだ。このまま肉弾戦をし続けた場合、フセミに良いのが入らない限りは一方的にこっちがやられる。常時発動型のオート反撃とか、チートだろこいつ。距離を取って、火属性で。
「考えたね。」
アリオトが考え事をしている最中に、動き出すフセミ。そのまま、足を振り下ろし、一撃。そのまま飛び跳ね回し蹴りを喰らわし二撃。攻撃の手を緩めず、右ストレートの三撃目を仮面に打ち込み、アリオトを壁に打ちつける。
そのまま仮面は破られ、破片が落ちる。
「そういう顔をしてるんだ」
頭から血を流し、停止するアリオト。完全に勝負がついたかにみられたが、アリオトはまだ諦めていなかった。
急に体を動かすなり、前屈みに倒れ込むアリオト。そのまま、両手を地につき、広域な雷属性魔法を展開する。
「雷電磁波!」
2人を閉じ込めていた部屋から外に電撃が漏れ出し、そのまま他の部屋の鉄格子を全てぶち破る広域魔法。そのまま、鉄格子の壊れた部屋から次々に放たれる囚人達。
「テメェーら!シャバに出てーならこいつを殺せ!そうすりゃ外の自由は担保してやる!」
アリオトのとった行動は、囚人達を放ち、協力させることであった。久しぶりの自由の身となった囚人達だが、ここがまだ地下収容所であることを思い出し、真の自由は得られていないことを確信し、アリオトの言葉に乗る。
「ほんとにこいつをやったらシャバに出れんのか!!」
「また何人も殺せるんだな!!」
「ひゃっほーーー!!!殺し殺し殺し」
「ぶち殺してやるよ!クソガキ」
投獄されていた囚人達は、全員大罪人。どいつもこいつも頭のネジが飛んだバケモノたちであった。
放たれた囚人の数は12人。その実力は地下3階に投獄されるレベル。フセミと対等とはいかなくともそれなりの実力者たちで間違いはない。その12人を同時に相手取るフセミ。オーラを全開に放ち、雷の速度で体重を決め込んでいく。
ズドン!ズドン!ズドン!!!ズドン!ズドン!ズドン!
一方、王国内では、メグレスと4人の構成員たちが、王国騎士たちの足止めをしていた。
構成員たちは、炎を放ったり水を放出したり、遠距離魔法で騎士たちを攻撃。メグレスは、水属性魔法と土属性魔法を融合させた泥属性魔法で騎士たちを押し返していく。泥属性魔法の汎用性は高く、相手の動きを鈍らせ、動きを制限させての遠距離攻撃と、攻守に優れた有能魔法であった。
「泥海!」
足元を泥沼に変え、相手の動きを制限させる。
「泥咆!」
泥を凝固させ、打ち出す遠距離魔法。
そして、相手の脳内に泥属性魔法の存在を叩き込んだところで、土属性魔法のグランドアップを使い、地盤を上げて、屋根と地面で騎士を押し潰し殺す。ブシャっと血飛沫をあげ、十数人もの騎士を一気に倒す。
その時、下の方から地響きが聞こえてきたため、何となく状況を察するメグレス。
「奴さん達、始めたみたいだね。1人地下収容所に向かってくれる?状況確認と報告よろしく~」
「了解しました。」
アリオトに対して信頼はあるものの、最悪の状況を想定して援軍を送るメグレス。最悪の場合は、自分が七賢者と戦わなければならないため、ヘカスト王国騎士団相手でも余力を残しておく必要がある。
「手加減しながら足止めなんて、大変なお仕事だぁ!!泥海!!」
どんどん来る援軍に対して、泥属性魔法で相対するメグレス。
ヘカスト王国、並びに七賢者と星界の使徒との戦いが白熱していく。
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