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第二章 〜家族のカタチ
12話 『5人目』
しおりを挟む話の流れで旅に同行することとなったボーディアンだが、自分の真にしたいことが見えてこない。星界の使徒構成員として職務を全うするべきか、このパーティの一員として今後協力的に動くべきか。全ての始まりはこのグレイという少年の一言だった。
ーーそれなら僕たちと一緒に行きますか?記憶を取り戻すために。
それまでのやり取りから今に至るまで、誰がどう見ても俺が嘘をついていることは気づいている。それでも何故か旅に同行させるグレイ。その目的は一体何なのか。11歳のあの頭の中はどうなっているのか。
「ボーディアンさんは魔法使えるんですよね」
「あぁ…勿論だ」
「羨ましいです。どんな魔法を使うんですか」
「お前の仲間みたいな特別で面白いもんじゃないぞ」
その発言に少し驚きの表情を見せたグレイ。
「それはカイトさんやミヅキさんのことですか?」
「他に誰がいるっていうんだ」
「ボーディアンさんも僕の仲間ですよ」
「?!」
グレイの一言にまたしても意表をつかれるボーディアン。何故だ、何故俺なんかを。
急に立ち上がり上からグレイを見下して、睨みつけるボーディアン。握りしめた拳は内側に爪痕が残るほどに深く、そして力強く握られていた。
アケル・インナヴィ号にて、星界の使徒との激闘を繰り広げ、一歩間違えればカイトもマタタビも殺されていた。たまたま巫女の覚醒が重なっただけの奇跡。上で何が起きていたのかは正確には把握できていないが、メラク様がボロ負けして、ドゥーぺ様が逃げ腰のように取引を持ちかけて戦いは終結したと聞いた。正直あの2人がそんなあっさり負けるはずもないし、事実俺の元へ来た時のこいつら体中ボロボロで包帯ぐるぐる巻き、今にも死にそうな状態だった。そんなことを平気でやれる連中の仲間だった俺に、何故そんな言葉をかけられるんだ。仲間?ふざけるな。一度はお前たちに牙を向け、星界の使徒には見捨てられ、行き場の無い俺をどこまでコケにすれば気が済むんだ。
「グレイ!いい加減にしろ。お人よしが過ぎるといずれ痛い目を見るぞ!お前が今前にしているのは殺人者だ!人を何十人も殺めた腐りきった人間だ!」
「お前と俺では…生きる世界が違うんだ…」
最後にそう残してグレイの元を去っていくボーディアン。
「ちょっとアンタね!」
「ミヅキ!。そっとしときなさい」
「あんな言い方ないでしょ!それにあいつ1人にしたら何しでかすか分からないわよ」
グレイら一行から徐々に距離をとっていくボーディアンの後ろ姿。その背中を見つめるグレイ。自分の発言が気に障ってしまったらしいと理解するグレイ。ただただボーディアンと仲良くなりたいだけのグレイだったが、そう簡単にもいかない。
グレイら一行からだいぶ離れた森の木陰に入り座り込むボーディアン。11歳のガキ相手にムキになりすぎてしまったことを反省する。それでも、あんなにも簡単に仲間を殺そうとした敵を許せてしまうグレイにどうしても納得がいかず、むしゃくしゃしてしまう。今までに会ったことのないタイプの人間。いつもヘラヘラとしているのに、唐突に豹変する性格と大きな器の持ち主。ああいうタイプは大事なものを失って初めて後悔するタイプだろうとボーディアンの長い人生観が読み解く。
それはそうとこれからどうするか。自分をパーティに置いてくれているグレイは自ら拒絶してしまったし、星界の使徒の情報を知っている以上は、自分も必ず命を狙われる。口封じのために、今頃血眼になって探し回っているのだろう。もし、ミヅキとグレイ、さらに光属性魔法という特殊な力を持ったカイトの3人の居場所を星界の使徒に教えれば、この命は助かるだろうか。それかもう一度あの組織に…。星界の使徒の目的のために必要な巫女の力。正直ミヅキ1人を拉致して星界の使徒の誰かに身柄を渡すだけでも大手柄のはず。これから先、俺がやるべきことは…。
畑ではカイトが火属性のBランク魔法"烈火乱れ撃ちを練習していた。
火属性魔法の中でも特に弾速が速く、さらには広範囲を対処できる優れ技で、集団戦に特化した魔法である。15時まではあと1時間ほど。もしも、この1時間でマスターすることができるなら、数も多くすばしっこいホーンラビットの群れに有効になってくる。
マナを火に変換して、ファイアボールを作る。そこから、全て放つのではなく、細かく分解、放出に時間差をつけて、連鎖的に放つ。
ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!ピュン!
筋がいいカイトは30分程度でフレアバレットを放ってみせた。しかし、出力が圧倒的に低い。子供騙しには使えても、まだまだ実践的とは言えない。対するミヅキはマナが全然練れていない。歌を媒介としたバフ魔法をあんなに簡単に扱っていたというのに、こと5属性魔法に関してはからっきしであった。
「全然うまくいかないわ。どうやって水出すのよ」
「まあそれが普通だ。カイトは高学院生だし、5属性は使えて当たり前だが、ミヅキは中高学院に通っていないのか?」
「12で親元離れてるから、そんな余裕ないわよ」
「ならあの歌の魔法はどうしているんだ」
「知らないわよ、歌ったら効果が出るのよ」
天才肌の感覚派か。すごい漠然とやってのけるな。基本5属性に分類できない歌の力。
「歌に関しては今までどんなことができんだ?」
「初めて目で見て効果が出たのは、6歳の時に畑に歌いかけたら稲穂に成長したわ。それでバケモノバケモノ言われて抑えるようにして生きてきたけど、それ以降も私のライブに来てくれたら傷が治るとか、露骨に元気が出るとか書き込みされるようになったわ。そんなの嘘だろってマネージャーと笑って話したものよ。それであの船でのことね」
どれをとっても歌を介していることは事実。それが歌に乗せてるのではなく、勝手に乗ってるような感覚。本人も気付かぬうちに色々な効果が発揮されている。いくら考えても分からない。どの魔法書にも記録がないからだ。
理由はわからないが、グレイは魔法適性が無い代わりに魔力耐性を持っている。それに似た感じなのだとしたら、ミヅキは特別な力を持っているが故に、魔力操作が苦手だったりするのだろうか。
「まあ旅はこれからだ。少しずつコツを掴んでいきなさい」
「はーーい」
およそ1時間くらいが経過したか、そろそろ害獣を迎え撃つ準備をするマタタビら一行。まだ実践で使えるほどではないフレアバレット。今回はフレアバレットは使わず、光属性魔法で戦うことにしたカイト。そして全くウォーター・ベールを使えないミヅキは、今回は後ろで待機することになった。
「暇よ!暇」
まあ攻撃魔法が使えないんじゃ仕方ないだろう。
「ってちょっと!何でグレイは前に出てんのよ。アンタも魔法使えないでしょ」
「でも僕はナイフが使えるのです」
そういってナックルナイフを手にはめるグレイ。しっかり練習しているのがわかるほど様になってきている。
「そんなーーアタシだけ放置なのーー」
不満を漏らすミヅキを尻目に、ホーンラビットを迎え撃つ一同。遠くからかすかに聞こえてくるトトトトという足音。それは徐々に近くなっていき、12匹の群れの足音は大きくなってきた。
ドドドドドドドドッ!
「来るぞ、」
「はい」
「はい!」
森の方を注視して構える3人。そして茂みから一気に飛び出してくるホーンラビットたち。それぞれ左右正面に分かれて広がり人間たちを撹乱しようとしていた。野生の勘か、それともそういう習性なのか、どちらにせよ分かれてちょこまか動かれるのは厄介だな。ただこちらも3人いるぞ。
「分かれて1匹ずつ仕留めるぞ」
「左行きます!」
「じゃあ僕は右!」
「まかせた!」
4本足をすごい速度で回転させ猛スピードで走りまわるホーンラビット。
「光の千千波!」
光のオーラをものすごい数の細い針状に分解して、それをホーンラビット目掛けて放つカイト。エイムが合わなくとも、約千本×千本の針があれば必ずどこかしらには当たるはず。案の定、走りまわるホーンラビットの体に何十本もの黄色く光る針が突き刺さる。致命傷にはなり得ないがホーンラビットの動きは少しずつ鈍くなっていった。
光の千千波。約百万本の針が飛んでくるような感覚の技だが、威力は注射されたり蚊に刺されるような感覚で死ぬレベルの殺傷力持ち合わせていない。あくまで広く浅く当てることに特化した技。虫や小動物相手ならまだしも、人間相手はほぼ無傷と言っていい。こういう状況にのみ役立つ技なのだ。
動きが鈍く遅くなったホーンラビットを1匹ずつ狩っていくカイト。
「まず、1匹!!」
ルクス・アルケミスで錬成した光の剣で、また1匹、また1匹と数を減らしていく。
マタタビは、カイトに教えたフレアバレットで瞬時に5匹のホーンラビットを焼き尽くす。
グレイはというと…1匹のホーンラビットに弄ばれていた。頭に乗られ、背中に乗られ足元を駆け回られ、完全に舐められている。
「あれ?あぁ、どこいくのーー!あーー、イテッ。」
「何やってるのよグレイ!」
害獣駆除において全く戦力にならないグレイをどやすミヅキ。
「もうアタシが出るわ!」
グレイの元へ一歩ずつ歩み寄るミヅキ。その直後、背後からグレイ目掛けて放たれる火属性魔法。
「グレイ!」
いち早く気づいて大声を出したのはグレイと向き合っていたミヅキ。その先に見えたのは…ボーディアンだった。あいつ!!
ミヅキの大声に気付き順次にグレイを方を確認するマタタビとカイト。火属性魔法が飛んでくる方へ振り向くグレイ。その横顔をギリギリで通り過ぎ、その奥にいるホーンラビットに直撃して、ホーンラビットは丸焦げになった。
「あっ?!」
足を止める一同。ボーディアンが狙ったのはホーンラビットだったのか。
グレイの元へ一歩ずつ近づいてくるボーディアン。そしてグレイの目の前に仁王立ちして、またしても上からグレイを睨みつける。
「お前は甘すぎる。何においてもだ。その甘さはいずれ仲間を危険に晒すぞ。今回は所詮畑を荒らすだけの害獣だが、これが星界の使徒だったら、お前が遊んでいる間に仲間は死ぬだろうな」
「遊んでません!」
「自覚がないなら余計にタチが悪いな」
「俺が今お前を狙ってたら…俺がお前らの居所を星界の使徒に漏らしたら…俺が巫女を拉致して逃亡したら…敵を仲間にするということはそういうことだ。改めて、俺はお前の甘さを失くすために同行してやる。常に仲間に刃物を突きつけられてると思って旅することだな」
一触即発するかに見られたグレイとボーディアンだったが、グレイは簡単にボーディアンに笑顔を見せてその場を収めた。しかし、それに納得がいかないボーディアン。
「そういうところだ、クソガキ」
「そうですか(笑)」
「クッ!」
もはや煽りにも取れる満面の笑みで対抗するグレイだった。
その後はボーディアンの協力もあり、無事12匹のホーンラビットを討伐することに成功。戦利品を持って冒険者ギルドに戻り、銀貨6枚と5キロの野菜を手にして宿へ戻った一行。今日の夕飯は、5キロのニンジンとキャベツで作る野菜炒め。グレイの大好物であった。
「食材2つだけ…質素ね」
「…量があれば何でもいい」
「まあお金が残るなら」
「グレイが好きなものを食べなさい」
「野菜炒め~野菜炒め~」
「野菜炒めで舞い上がれるなんてコスパ最強ねあの子」
本当にその通りです。クリアスにいたときもハンバーグが野菜炒めに負けるくらいでしたからね。
グレイ特製、2種の野菜炒めを完食してその日は体を休める一同。こうして、ノース大陸南岸の都市、エヴァンに来ての初日が終わる。
明日はいよいよ紅白海賊王祭りの開幕。朝イチのチーム分け抽選のために早く眠りにつくカイトとグレイであった。
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