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第一章 〜冒険の始まり
9話 『ボーディアン』
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船上を舞台とした星界の使徒との激闘に終止符をうったグレイ。一難去って後始末に追われる船員たちとマタタビら一行。
まず第一にしなければならないこと。それは、ボイラー室を占拠していた星界の使徒の構成員と思わしき人物の身柄の確保と今後の処遇について決めること。マタタビ曰く、他2人に比べれば戦闘力は劣っており、主戦力ではなく下っ端やそれに近い位の者である可能性が高いという。闇属性魔法を扱っていたメラクという戦闘員には、わざわざ取引を持ちかけてまで回収したにも関わらず、1人置いてけぼりを喰らったボイラー室を占拠していた名無しの戦闘員。組織内での序列や個人の重要度が見えてくる。
「とりあえず動ける者、戦闘向きな力を持つ者は一緒に来てくれ。星界の使徒の構成員に変わりはないため、油断せずに行こう」
「「了解!」」
「おっけー」
「はい!」
船員数名とカイト、ミヅキ、それに紛れながらも元気良く手を挙げてアピールするグレイの姿が見られた。
「危ないから船長たちと上で待ってなさい」
「行きます!」
聞き分けの悪いグレイ。相手のことが気になるのか。それとももしや、"魔女の子"という存在について言及していた星界の使徒という組織に興味があるのか。なんとも厄介な存在に目をつけられたものだな。
グレイを引き止められず同行を許すマタタビ。7人で地下のボイラー室に向かい、星界の使徒の構成員と対峙する。黒髪に普通の一般男性と変わらないようなガッチリともしてなくヒョロくもない、ザ普通を体現したような人間。2階でカイトに合流する前にマタタビが戦闘不能にさせた星界の使徒構成員。両腕を縄でぐるぐる巻きに拘束し、身動きの取れない状態で放置していたが、あの時の何も変わらぬ状態で座り込んでいた。今は意識を取り戻してはっきり目を開いてこちらを凝視してくる。
「まず確認だが、お前は星界の使徒の構成員だな」
「…。」
黙秘。
「ナルイと共に変装して、この客船のクルーとして潜伏していたな?」
「…。」
これも黙秘。
「ドゥーぺとメラクを知ってるな」
「!!!」
急に目に力が入り瞳孔をガン開きする構成員。ナルイには反応を示さなかったが、本名と言うべきか、コードネームと言うべきか、ドゥーぺとメラクという名前には強く反応してきた。しかし、何かを口にするわけでもなく、黙秘は貫く姿勢。
「あんたさ、さっさと口を割りなさいよ!話が進まないでしょ!」
黙秘を貫く構成員に痺れを切らしてブチギレるミヅキ。
「あんたは敵!で仲間に切り捨てられた。これから傭兵団に引き渡される!そこで痛い目にあって結局自分からベラベラと自分を切り捨てた仲間のことを売るように喋るのよ!ユノーセイ?早いか遅いかの違いなんだからさっさと喋れっつってんの!」
そこまではまだ話し合っていないのだが、ミヅキの脅しが効いたか。急に体を震わす構成員。ミヅキに臆したのか。それとも他に理由が。
「な、なにも、何も分からない。覚えてない。」
体を震わし、大量の汗をかいて現実逃避に走る構成員。その態度に余計腹を当てるミヅキ。
「迫真の演技ね!主演男優賞もんよ」
「本当に何も覚えてないんですか?」
キレるミヅキを他所に、しゃがみ込んで目線の高さを合わせて相手の目を覗き込むように見つめ問いかけるグレイ。その目は冷たく、光のない無関心のような目をしていて、嘘を簡単に見抜いてしまうのではないかと思わせるような圧がこもっていた。それには、その場にいた誰もがゾワっとする感覚を感じた。
「…。」
「…。」
冷たい目で覗き込むグレイと、言葉を発せられずに固まる構成員。息を止めたまま互いに見つめ合い何秒経ったことか。構成員の顔は徐々に汗ばみ、一滴が頬から顎へつたい、落ちる。そこで、グレイは急に立ち上がり、構成員も我に返って大きく息を吸い込む。
「この人は嘘はついてません!」
「何でわかんのよっ」
「知りません!」
「はい?!」
何この子。
グレイの行動、言動、全てが理解できないみんな。敵であるはずの構成員さえ呆れ顔で首を傾げる。わかることはグレイがただただ不思議ちゃんであるということだけ。
「お名前は何ていうんですか」
「…。」
「あぁーーそういう設定でしたね」
「設定言うてもうてるがな!」
ミヅキというツッコミ役がいてくれて助かると思った一同。グレイという少年に振り回され続け話が進んでるのか進んでないのか分からない状況。
「名前無いのも可哀想ですし、つけちゃってもいいですか」
「勝手にしてくれ」
「アンタもややこしくなるから、無言貫いてたんなら最後まで黙ってなさいよ…ハァ」
もうツッコミはこりごり。一年分の活動エネルギーを使い果たしたかのように大きなため息をつくミヅキ。
「ある情報だけで…むむむ…ボイラー室…を占拠してた人…星界の…この際それは置いといて…守る?…占拠…守ってたのかな…番人?シールド?盾、ボイラー室を守るもの…」
あの小さい頭の中にはどれほどの言葉飛び交っているのか、どんな解釈をしてどんな名前を与えるのか、気になりすぎるカイトだったが1つどうしても納得できないところがあった。
「そいつは敵だぞ?ボイラー室を占拠してて、ボイラーを盾にしながら戦ってたんだぞ!計画が頓挫した時はいつでもボイラー壊して運行妨害する気だったかもしんねーぜ」
「そうなんですか?!」
「いや…」
「違うじゃないですか!」
「「「そっち信じんのかよ!!!!」」」
ミヅキだけではなく、船員もマタタビも全員でツッコミを入れる。わざとボケてるのかグレイは。それとも天然ってやつか。何で味方より敵を信じるんだよ。
「ボイラー室を守ってた人なんです!ボイラー守護者…守護者?!…ガーディアン!ボイラーガーディアンさん!!」
ボイラーガーディアン??ボイラーの守護者ってことか?それって人の名前なのか。どう考えても役割だと思うのだが。
「みなさん気に入らないですか?長いですかね?」
「「「いやいや、そこじゃなくて」」」
「じゃあボーディアンさんにしましょう」
グレイを抜いた6人はそれぞれ"センスアリ!"と"ダサい~"の札を持ち、一斉に自分の思う方を上げる。
ダサい~、ダサい~、ダサい~、ダサい~、ダサい~、センスアリ!
ダサい~5票、センスアリ!1票という結果に。センスアリを上げたミヅキは口を開く。
「いいじゃない、ボーディアン!人攫いしてボコボコに負けて、仲間に見捨てられて、そのくせ記憶喪失とか言って同情かっちゃって哀れよ!アワレ!そんなやつにまともな名前なんかくれてやる必要ないわ!あんたは今日からボーディアンよ!いい気味だわホントッ!」
そういう意味でのセンスアリ!だったのか。性格悪いなこいつ。グレイはグレイで悪気なくこれだからタチが悪いな。
不服そうな顔をするボーディアンだったが、記憶喪失を語る以上は致し方ないと言葉を飲み込む。
「それでコイツどうすんのよ。ここに放置すんの?」
「そうだな…これからの事は考えておく必要があるな。目的地のエヴァンを統括している傭兵団に引き渡すなり、色々と」
「そうですね。記憶云々は抜きにして悪人であることに変わりないですからね」
ボーディアンの処遇について決めかねる一同を他所にボーディアンと語らうグレイ。
「ボーディアンさんは、これからどうしたいですか?」
「これからだと?」
「ポラリスに戻りたいとか…」
多くある選択肢の一つとして星界の使徒とコンタクトを取ることを提案したグレイだったが、それを強く拒絶するかのように身震いし始めるボーディアン。星界の使徒という存在に恐怖心を抱いているのだろうか。構成員だったというのに。もし置いてかれる、見捨てられる、切り捨てられるという行為に、それ以上の意味を持っているのだとしたら、それに本気で怯えているのだろう。
「それなら僕たちと一緒に行きますか?記憶を取り戻すために」
「?!」
「「「?!」」」
ボーディアンだけではなく、これから先同行を視野に入れていたカイトとミヅキ、その保護者代わりであるマタタビ、全員がグレイの提案に驚き、全力で反対する。
「ダメよ!あんたそろそろ天然ボケやめなさいよ!敵と同行なんか絶対無理!」
「そうだぞ、グレイ!なんでそんなやつを庇うんだよ!煮るなり焼くなり傭兵団に引き渡すなりやり方はいくらでもあるが、許すのだけは反対だぞ!」
感情が前のめりに現れ、強い物言いでグレイを否定する2人とは打って変わって落ち着いた口調で話し出すマタタビ。
「親のことについてか?グレイ」
親について触れられ振り向くグレイ。
「ドゥーぺという者が言っていた魔女の子という言葉が気になるのかい?星界の使徒が両親について何か知っていると?彼を利用して何か引き出そうとしているのかい?」
「そういうこと?」
何やら察するミヅキたち。
魔女の子という言葉を聞いてから何やらいつもと違う雰囲気を漂わしていたと感じるマタタビ。この旅の1番の目的は、両親について知ることだった。11年間両親について何も知らされてこなかったグレイにとって初めての情報。魔女や獣、人外の存在だったとしても、死んでいたり行方不だったとしても、それがどういう形の内容であれ、掴んだ唯一の希望を離したくないのだろう。
「いいえ…」
「?」
「僕はじいじとマタタビさんと約束をしました。僕が立派な冒険者として認めてもらえた時、その時に両親について教えてくれるって。だから僕は認めてもらえるように頑張るだけです。ボーディアンさんを助けることとお母さんとお父さんのことは関係ありません」
ボーディアンを助けることと両親についての繋がりは完全に無いと言い放つグレイ。ただただグレイの親切心で助けたいというだけの話。
「そうか…好きにしなさい」
グレイの行いを支持するマタタビ。何だか気に入らない様子のカイトとミヅキだったが、自分たちがこれからお世話になる相手が決めたことには従うしかないと割り切る。
「そういえば2人とも旅に同行するんですか?」
「へぇ?!」
「んぇ?!」
今更?という雰囲気で驚く2人だった。
「まあアタシ巫女だから、狙われてるから、守る義務があるでしょ?」
「俺もアイツらには借りがあるからな!ドゥーぺにリベンジするまでは」
「来たいなら来たいって素直に言えばいいのに、何も聞いてないですよ」
「「マタタビさーーーーん!」」
「グレイが正しい」
トホホ~。
「「同行させてください」」
「はい!喜んで!」
ボイラー室での一件を終えて一階デッキに戻ると、雨が止み、暗い空が徐々に明るさを取り戻していた。夜通し戦闘していたことに今気づくみんな。疲れが急に襲い眠りについてしまい、それを船員たちがベッドへ運ぶのでした。
8月10日。冒険に出てから5日目終わり。
新たにカイト=アルケイとミヅキ=イーサムが旅の仲間として加わった。そして、仲間と呼ぶべきか否か、不確かな存在として、流れでボーディアンも旅に同行することになった。
そして、白ずくめの襲撃を受け戦場となった客船にて、奮闘する冒険者たちと白ずくめとの激闘は、後にアケル・インナヴィ号事件と語られることになる。
そしてそのまま8月11日。6日目に入る。船の旅はまだまだ続きそうだが、このボロボロの船でどこまで行けるのか、誰にも想像がつかない。
まず第一にしなければならないこと。それは、ボイラー室を占拠していた星界の使徒の構成員と思わしき人物の身柄の確保と今後の処遇について決めること。マタタビ曰く、他2人に比べれば戦闘力は劣っており、主戦力ではなく下っ端やそれに近い位の者である可能性が高いという。闇属性魔法を扱っていたメラクという戦闘員には、わざわざ取引を持ちかけてまで回収したにも関わらず、1人置いてけぼりを喰らったボイラー室を占拠していた名無しの戦闘員。組織内での序列や個人の重要度が見えてくる。
「とりあえず動ける者、戦闘向きな力を持つ者は一緒に来てくれ。星界の使徒の構成員に変わりはないため、油断せずに行こう」
「「了解!」」
「おっけー」
「はい!」
船員数名とカイト、ミヅキ、それに紛れながらも元気良く手を挙げてアピールするグレイの姿が見られた。
「危ないから船長たちと上で待ってなさい」
「行きます!」
聞き分けの悪いグレイ。相手のことが気になるのか。それとももしや、"魔女の子"という存在について言及していた星界の使徒という組織に興味があるのか。なんとも厄介な存在に目をつけられたものだな。
グレイを引き止められず同行を許すマタタビ。7人で地下のボイラー室に向かい、星界の使徒の構成員と対峙する。黒髪に普通の一般男性と変わらないようなガッチリともしてなくヒョロくもない、ザ普通を体現したような人間。2階でカイトに合流する前にマタタビが戦闘不能にさせた星界の使徒構成員。両腕を縄でぐるぐる巻きに拘束し、身動きの取れない状態で放置していたが、あの時の何も変わらぬ状態で座り込んでいた。今は意識を取り戻してはっきり目を開いてこちらを凝視してくる。
「まず確認だが、お前は星界の使徒の構成員だな」
「…。」
黙秘。
「ナルイと共に変装して、この客船のクルーとして潜伏していたな?」
「…。」
これも黙秘。
「ドゥーぺとメラクを知ってるな」
「!!!」
急に目に力が入り瞳孔をガン開きする構成員。ナルイには反応を示さなかったが、本名と言うべきか、コードネームと言うべきか、ドゥーぺとメラクという名前には強く反応してきた。しかし、何かを口にするわけでもなく、黙秘は貫く姿勢。
「あんたさ、さっさと口を割りなさいよ!話が進まないでしょ!」
黙秘を貫く構成員に痺れを切らしてブチギレるミヅキ。
「あんたは敵!で仲間に切り捨てられた。これから傭兵団に引き渡される!そこで痛い目にあって結局自分からベラベラと自分を切り捨てた仲間のことを売るように喋るのよ!ユノーセイ?早いか遅いかの違いなんだからさっさと喋れっつってんの!」
そこまではまだ話し合っていないのだが、ミヅキの脅しが効いたか。急に体を震わす構成員。ミヅキに臆したのか。それとも他に理由が。
「な、なにも、何も分からない。覚えてない。」
体を震わし、大量の汗をかいて現実逃避に走る構成員。その態度に余計腹を当てるミヅキ。
「迫真の演技ね!主演男優賞もんよ」
「本当に何も覚えてないんですか?」
キレるミヅキを他所に、しゃがみ込んで目線の高さを合わせて相手の目を覗き込むように見つめ問いかけるグレイ。その目は冷たく、光のない無関心のような目をしていて、嘘を簡単に見抜いてしまうのではないかと思わせるような圧がこもっていた。それには、その場にいた誰もがゾワっとする感覚を感じた。
「…。」
「…。」
冷たい目で覗き込むグレイと、言葉を発せられずに固まる構成員。息を止めたまま互いに見つめ合い何秒経ったことか。構成員の顔は徐々に汗ばみ、一滴が頬から顎へつたい、落ちる。そこで、グレイは急に立ち上がり、構成員も我に返って大きく息を吸い込む。
「この人は嘘はついてません!」
「何でわかんのよっ」
「知りません!」
「はい?!」
何この子。
グレイの行動、言動、全てが理解できないみんな。敵であるはずの構成員さえ呆れ顔で首を傾げる。わかることはグレイがただただ不思議ちゃんであるということだけ。
「お名前は何ていうんですか」
「…。」
「あぁーーそういう設定でしたね」
「設定言うてもうてるがな!」
ミヅキというツッコミ役がいてくれて助かると思った一同。グレイという少年に振り回され続け話が進んでるのか進んでないのか分からない状況。
「名前無いのも可哀想ですし、つけちゃってもいいですか」
「勝手にしてくれ」
「アンタもややこしくなるから、無言貫いてたんなら最後まで黙ってなさいよ…ハァ」
もうツッコミはこりごり。一年分の活動エネルギーを使い果たしたかのように大きなため息をつくミヅキ。
「ある情報だけで…むむむ…ボイラー室…を占拠してた人…星界の…この際それは置いといて…守る?…占拠…守ってたのかな…番人?シールド?盾、ボイラー室を守るもの…」
あの小さい頭の中にはどれほどの言葉飛び交っているのか、どんな解釈をしてどんな名前を与えるのか、気になりすぎるカイトだったが1つどうしても納得できないところがあった。
「そいつは敵だぞ?ボイラー室を占拠してて、ボイラーを盾にしながら戦ってたんだぞ!計画が頓挫した時はいつでもボイラー壊して運行妨害する気だったかもしんねーぜ」
「そうなんですか?!」
「いや…」
「違うじゃないですか!」
「「「そっち信じんのかよ!!!!」」」
ミヅキだけではなく、船員もマタタビも全員でツッコミを入れる。わざとボケてるのかグレイは。それとも天然ってやつか。何で味方より敵を信じるんだよ。
「ボイラー室を守ってた人なんです!ボイラー守護者…守護者?!…ガーディアン!ボイラーガーディアンさん!!」
ボイラーガーディアン??ボイラーの守護者ってことか?それって人の名前なのか。どう考えても役割だと思うのだが。
「みなさん気に入らないですか?長いですかね?」
「「「いやいや、そこじゃなくて」」」
「じゃあボーディアンさんにしましょう」
グレイを抜いた6人はそれぞれ"センスアリ!"と"ダサい~"の札を持ち、一斉に自分の思う方を上げる。
ダサい~、ダサい~、ダサい~、ダサい~、ダサい~、センスアリ!
ダサい~5票、センスアリ!1票という結果に。センスアリを上げたミヅキは口を開く。
「いいじゃない、ボーディアン!人攫いしてボコボコに負けて、仲間に見捨てられて、そのくせ記憶喪失とか言って同情かっちゃって哀れよ!アワレ!そんなやつにまともな名前なんかくれてやる必要ないわ!あんたは今日からボーディアンよ!いい気味だわホントッ!」
そういう意味でのセンスアリ!だったのか。性格悪いなこいつ。グレイはグレイで悪気なくこれだからタチが悪いな。
不服そうな顔をするボーディアンだったが、記憶喪失を語る以上は致し方ないと言葉を飲み込む。
「それでコイツどうすんのよ。ここに放置すんの?」
「そうだな…これからの事は考えておく必要があるな。目的地のエヴァンを統括している傭兵団に引き渡すなり、色々と」
「そうですね。記憶云々は抜きにして悪人であることに変わりないですからね」
ボーディアンの処遇について決めかねる一同を他所にボーディアンと語らうグレイ。
「ボーディアンさんは、これからどうしたいですか?」
「これからだと?」
「ポラリスに戻りたいとか…」
多くある選択肢の一つとして星界の使徒とコンタクトを取ることを提案したグレイだったが、それを強く拒絶するかのように身震いし始めるボーディアン。星界の使徒という存在に恐怖心を抱いているのだろうか。構成員だったというのに。もし置いてかれる、見捨てられる、切り捨てられるという行為に、それ以上の意味を持っているのだとしたら、それに本気で怯えているのだろう。
「それなら僕たちと一緒に行きますか?記憶を取り戻すために」
「?!」
「「「?!」」」
ボーディアンだけではなく、これから先同行を視野に入れていたカイトとミヅキ、その保護者代わりであるマタタビ、全員がグレイの提案に驚き、全力で反対する。
「ダメよ!あんたそろそろ天然ボケやめなさいよ!敵と同行なんか絶対無理!」
「そうだぞ、グレイ!なんでそんなやつを庇うんだよ!煮るなり焼くなり傭兵団に引き渡すなりやり方はいくらでもあるが、許すのだけは反対だぞ!」
感情が前のめりに現れ、強い物言いでグレイを否定する2人とは打って変わって落ち着いた口調で話し出すマタタビ。
「親のことについてか?グレイ」
親について触れられ振り向くグレイ。
「ドゥーぺという者が言っていた魔女の子という言葉が気になるのかい?星界の使徒が両親について何か知っていると?彼を利用して何か引き出そうとしているのかい?」
「そういうこと?」
何やら察するミヅキたち。
魔女の子という言葉を聞いてから何やらいつもと違う雰囲気を漂わしていたと感じるマタタビ。この旅の1番の目的は、両親について知ることだった。11年間両親について何も知らされてこなかったグレイにとって初めての情報。魔女や獣、人外の存在だったとしても、死んでいたり行方不だったとしても、それがどういう形の内容であれ、掴んだ唯一の希望を離したくないのだろう。
「いいえ…」
「?」
「僕はじいじとマタタビさんと約束をしました。僕が立派な冒険者として認めてもらえた時、その時に両親について教えてくれるって。だから僕は認めてもらえるように頑張るだけです。ボーディアンさんを助けることとお母さんとお父さんのことは関係ありません」
ボーディアンを助けることと両親についての繋がりは完全に無いと言い放つグレイ。ただただグレイの親切心で助けたいというだけの話。
「そうか…好きにしなさい」
グレイの行いを支持するマタタビ。何だか気に入らない様子のカイトとミヅキだったが、自分たちがこれからお世話になる相手が決めたことには従うしかないと割り切る。
「そういえば2人とも旅に同行するんですか?」
「へぇ?!」
「んぇ?!」
今更?という雰囲気で驚く2人だった。
「まあアタシ巫女だから、狙われてるから、守る義務があるでしょ?」
「俺もアイツらには借りがあるからな!ドゥーぺにリベンジするまでは」
「来たいなら来たいって素直に言えばいいのに、何も聞いてないですよ」
「「マタタビさーーーーん!」」
「グレイが正しい」
トホホ~。
「「同行させてください」」
「はい!喜んで!」
ボイラー室での一件を終えて一階デッキに戻ると、雨が止み、暗い空が徐々に明るさを取り戻していた。夜通し戦闘していたことに今気づくみんな。疲れが急に襲い眠りについてしまい、それを船員たちがベッドへ運ぶのでした。
8月10日。冒険に出てから5日目終わり。
新たにカイト=アルケイとミヅキ=イーサムが旅の仲間として加わった。そして、仲間と呼ぶべきか否か、不確かな存在として、流れでボーディアンも旅に同行することになった。
そして、白ずくめの襲撃を受け戦場となった客船にて、奮闘する冒険者たちと白ずくめとの激闘は、後にアケル・インナヴィ号事件と語られることになる。
そしてそのまま8月11日。6日目に入る。船の旅はまだまだ続きそうだが、このボロボロの船でどこまで行けるのか、誰にも想像がつかない。
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