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 そして、ついに俺は高校生になった。

高校生になって数週間経ち、やっと電車通学に慣れてきたというのに、今日は日直の為普段より一本早い電車に乗らなくてはならなかった。

(ああー…日直めんどくさいな…てか人、多)

俺はあくびをしながら、時間通りに来た電車が目の前に止まるのを待つ。

普段同じ時間の電車に乗るサラリーマンや学生は居らず、いつもとは違う雰囲気でなんだか新鮮に感じる。

(なんかこの時間やけに人多いけど…一駅だけだし耐えるか…)

俺は電車へ乗り込み、手すりを握りその場に立った。

そしてゆっくりと電車が動きだした。

 俺は先輩が卒業して会えていなかったこの空白期間に、自分に自分の気持ちを問いかけてみたことが何度かあった。

…まだ多分、空が好きだ。

多分だ。

多分である理由、それはやはり会えていないし、話せていないから。

会いたい、と思うのに会えないもどかしさで諦めたい気持ちもあったけれど。

今どこで何をしているのかなど知る由もない。

正直、色々な気持ちが混ざりあって自分の気持ちですらよく分からない。

(…ん?あそこにいる人、同じ学校)

そんなことをボーッと考えながら立っていた時、ふと目線を目の前へやると、同じ学校の制服の人を見つけた。

横顔で、顔はよく見えない。

(同級生か…?同級生ならそっと声掛けてみようか)

ここで俺は、ふと学年ごとに制服の胸元の名札の枠線の色が違う、と先生が言っていたのを思い出した。

(名札の色見てみよ…)

不自然に思われない程度に、俺はその人の胸元の名札の色を遠目からチラリと確認してみる。

(あれっ、赤…?なら一個上か)

名札の色は俺と同じ学年の一年とは異なり、学年が一個上の生徒であることが分かった。

(先輩に馴れ馴れしく行くのはな…)

さすがに辞めておくことにした。

(それにしてもこの人、イケメンだな…同じ学校にこんな人いたんだな…)

薄らと目にかかった前髪、ここからの角度ではよく顔が見えない。

しかし、横顔だけでも相当なイケメンであることが分かる。片手には小さな本を持っているようだ。

(ん…?あの鞄についてるキーホルダー…)

その人に見入っている内に、肩に掛る鞄についている猫のキーホルダーが目に入った。

(えっ、このキーホルダー…先輩と同じ)

俺は思わずドキリとする。

(い、いやなわけない。キーホルダー同じだからって期待するのは…)

キーホルダーだけで先輩を連想させてしまうなんて、やはりまだ好きなんだろうなと自分でも感じる。

気を紛らわすように俺は一度目線を自分の手元のスマホへやるが、気になってしまい再度またあの人を見てしまう。

つい先輩を頭に過ってしまっては、先輩なんじゃないかと期待する気持ちが大きくなってしまう。

髪の感じも立ち方も、心做しか先輩に似ているように感じる。

(な、なわけないから…俺…!)

俺は自分にそう言い聞かせた。

そうしていつの間にか、学校近くの目的の駅へ停車していた。

同じ学校の先輩似の人も当然同じ駅で降りた。

俺は慌てて下車し、一歩引き、先輩似の人の後ろからこっそりと追うようにして改札を抜ける。

(先輩…だったらやばいな…っ)

なわけないと思いながらも、少しばかり期待してしまう。

「ごめん遅れた」

俺がただ心の中で葛藤している内に、いつの間にか先輩似の人は友人らしき人と合流し、友人と共に前を歩いていた。

「おせーよ、空」

「ごめん」

っえ…?

(今、空って聞こえ…)

その先輩似の人は横にいる友人に謝っているようだ。

その時にパッと見えた横顔。

俺はつい歩く足を止めてしまった。

(空…っ!!)

待ち合わせ時間に遅れて謝るあの声も、確実に見えた横顔も、やはり空先輩だ。

自分の指先が意識もせず震えているのを感じる。

今の状況がとても信じられない。夢心地な気分で、自分はこのまま死ぬんじゃ無いかと思うほど。

あの人はやはり俺の好きな人、空だ。

…でも今は感情で動いたらダメだ。

まず、今は足がすくんで動かない。

追うにも追えないだろう。

(やばい、俺死ぬのかも…。好きな人と二年ぶりに奇跡的に再開したのでさえヤバいのに、同じ学校…?)

すくむ足を何とか動かし、未だ状況を飲み込めないまま、俺は気持ちの整理のためにも、あえて違う方向の道から学校へ向かうことにした。
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