ムーンライト

くるみぱん

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出会い

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次の日から、リンに会うたびにメンチを切られることになるが、知ったこっちゃない。
小学生ではオレが最強だと自負しているが、中学生が相手になると話は別だ。


ある日の野球の練習の帰り。いつも通り日が暮れるまでびっちりしごかれて、疲れた体で自転車を走らせていた。
いつも通る公園の横をさしかかったところで、何やら不穏な声が聞こえてきた。
自転車を止めて、柵の中をのぞくと、ベンチのある小広場に見覚えのある三人組が見えた。
長谷川弟たちだ。そしてそいつらに囲まれているのは…、やはりまたあのおかっぱ。
またやられてんのか…。

辺りはすっかり暗くなっているが、街灯に照らされて、今回は顔がハッキリ見えた。
ぼんやりと白く光る肌。くっきりとした大きな瞳が長谷川弟を見上げている。
同い年のそいつらよりも身長が低く、体も細かった。やっぱり、女みたい。

オレには関係ない。そう思ってまた自転車に戻ろうとした時。
街灯下のベンチの周りに、コンビニ弁当らしき容器とそこから飛び出したのだろう、米や揚げ物らしきもの、そして割りばしが散乱しているのが目に入った。

「早く出せよ!コンビニ行ってたんだから持ってるだろ、金。全部よこせ」

声の方に視線を戻すと、長谷川弟が、おかっぱが手にしている布袋を引っ張っている。おかっぱは必死にその袋を抱え込むが、呆気なく奪われ、その勢いで前に倒れこんだ。

その瞬間、オレは無意識のうちに走り出していた。すぐそばの入口から回り込んで、そいつらに駆け寄った。

「おい!やめろ!」

四人が一斉にオレを見る。
布袋から財布らしきものを取り出している長谷川弟の手を掴んだ。

奴はオレのことを知っていたらしく(やっぱりオレは有名人だ)、一瞬怯んだように見えた。

オレは奴の手から財布と布袋を取り上げ、その肩をドンと突いた。思ったより力が入ったのか、オレよりひと回り体が小さい長谷川弟は尻もちをついた。

「こいつに二度と手出すな」

地面に倒れたままオレを睨みつけてくる長谷川弟に、精一杯ドスを利かせて言い放った。
何でこんなくさいセリフが出てきたのか、いまだにわからない。

三人が不満気に走り去るのを見届けた後、オレはおかっぱに向き直った。


近くで見ると肌の白さと目の大きさが際立って見えた。オレより10センチ以上も下から
上目づかいでオレを見る。

オレを射抜くその漆黒の瞳は強い意志を宿しているように見えた。
心臓がドクンと跳ねた気がした。生まれて初めての感覚。
でも、その感情をその時には言葉で表すことはできなかった。

「お前、名前は?」

「ソ…ラ…」

か細く、喉のつかえを感じさせる声だった。

「ソラ…下の名前か?オレは…アキトだ。あれ、お前のか?」

散乱した弁当の方に顔を向けて聞くと、コクリと頷く。

「何でこんなとこで食べてんだ?家、誰もいねーのか?」

小学生が平日の夜に一人で外で弁当を食べてるってのは、ちょっと異質な状況だ、とその時のオレでも感じた。
ソラは黙ったままオレを見ている。
訴えるようでもなく、悲しそうでもなく、ただ目の前にあるものをよく観察したいといった表情だ。


制服のブレザーは肩が落ちていて、ハーフパンツから覗く膝小僧には出来立ての擦り傷。
その下に伸びる脛はオレが蹴ったら折れそうなくらい細い。
見るからに頼りなげで、放っておけばアイツらじゃなくても目を付けられそうな弱弱しさだ。

「家、どこだ?」



散乱している飯粒やら唐揚げやらを、そばに落ちていたレジ袋に手分けして拾い集めていく。
食べ始めて間もなくアイツらに絡まれたのだろう。ほとんど手を付けていないようだった。

「お前、腹減ってるだろ?帰ってご飯あるのか?」

オレは自転車を押しながら、並んで歩くソラに聞いた。
ソラは一瞬俯いたが、そのままコクリと頷いた。

オレはその様子に何の疑いも持つことなく、そうか、と言ってそれ以上何も言わなかった。


公園から十分ほど歩いた、通りから少し外れた場所に、ぽつんと古そうな二階建てのアパートが建っていた。
ソラが立ち止まり、それを指さしたので、オレも足を止めた。

ソラがオレを見つめる。

何なんだよ?
オレは妙に落ち着かなくなり、じゃあな、と言って自転車を反転させ、来た道をそそくさと歩き始めた。

少し歩いて角を曲がる時に何となく振り向くと、ソラはまだこちらを見て立っていた。
手を上に払って「早く行け」と促し、また前を向いてオレは自転車に乗った。
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