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S級勇者様のスーパーなクエスト

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「弱すぎるぜ! 弱すぎて反吐が出ちまうぜェェ!」

 次々と襲いかかるゴブリンをまるでハエのように勇者ハア・トオが薙ぎ倒していく。

 一見、何の変哲もない平手打ちのように見えるがそうではない。ハア・トオが使っているのは東洋仕込みの特殊拳法。肉体にあるピンポイントな弱点に拳を叩き込むという、どこかで聞いたことのあるような無いようなアレで物理的限界を超えた破壊力を発揮するのだ。

 ハア・トオに倒されているゴブリンをよく見るといい。側頭部をチョップされたものは反対の耳から脳髄が炸裂しているはずだ。胸部を叩かれたゴブリンの背中からは脊椎が飛び出しているはずだ。

「グウルガァ……」

 ダンジョン最奥部。ホブゴブリン。腐臭を漂わせハア・トオに迫る。

「来ルナラ、来イ。女ノ命ハナイゾ」

 ホブゴブリンが羽交締めにしているのは村長の娘だ。
 たかがゴブリンダンジョン討伐なのにS級クエスト指定な理由はここにあった。

 ホブゴブリンを倒すだけでなく、誘拐された村長の娘を無事助けること。それも無傷で。

 ゴブリンは人間の女を祝いの儀式に使う。ホブゴブリンに跡継ぎが生まれた最初の新月の夜、女を攫う。そして、その女を満月の夜、跡継ぎにくわせるのだ。そうすることで長寿と健康がもたらされると信じている。

 このクエストは一刻を争った。満月になると娘はゴブリンの子を孕んでしまう。

「大人しく娘を渡せ。そうしたら苦しまずに殺してやる」
「女ガドウナッテモイイノカ?」
「やれるもんならやってみろ」

 ハア・トオは知っていた。今日は月齢14日。満月は明日。
 大事な儀式のために囲っていた娘を殺すわけはない。

「俺はよぉ、テメェらゴブリンとは交渉しねェんだよっ!」

 200キロの巨漢とは思えぬ速さでハア・トオがホブゴブリンに突進した。肩、肘、手首の関節を外しホブゴブリンの予想外の距離から拳を叩き込む。

「ギャグゥ!」
「首にあるツボを突いた。このツボはだなァ……」

 ハア・トオがツボと人体破壊のメカニズムを解釈するが、諸事象により省略だ。

「てなわけで、もうすぐテメェの動脈は弾ける」

 ハア・トオの指がホブゴブリンの首に刺さっていく。

「ウ、ゥ、ウガンダっ!!!」

 悲鳴と同時にホブゴブリンの動脈が首から弾け飛んだ。肉と血がダンジョンの床を濡らす。

「へへ、ゴブリンなんざ、ハア・トオ様の前ではスライム以下でさァ!」

 腰巾着の刺青モヒカン男がハア・トオを礼賛する。

「たりめーよ」

 ハア・トオがデブとしては異例なほど爽やかに笑う。

「もう安心だ」

 ゴブリンの体液と肉片にまみれ放心状態の女に優しくハア・トオが話しかけた。

「娘さん、村に帰ろうぜ。村長が待ってる」
「ひゅー! いい女ですぜ、ハア・トオ様! このまま、ここで、ヤッちまいましょうぜ!」

 モヒカンが卑猥な口ぶりで言った。娘の顔が恐怖で引きつる。
 直後、ハア・トオがモヒカンに手刀を見舞う。スパ。トサカのごときモヒカンが宙に舞った。モヒカン改めハゲは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

「ひ、ひえええ!」
「ったく、テメェは女と見りゃヤルことしか能がねぇのか? このクエストはなあ、この娘さんを無事連れて帰ってナンボなんだよ。手篭めにしていいと思ってるのか? 馬鹿野郎めが!」

 ハゲに言い捨てる。

「手下がとんだ無礼をいたしました。何卒お許しを」

 ハア・トオが丁寧に詫びた。

「い、いえ……こちらこそ、助けて頂き、感謝しております」
「はっはっは、これくらいのクエスト、朝飯前ですよ。このS級冒険者のハア・トオには!」


☆ ☆ ☆


「今回もダメでしたね」

 村から王都へ向かう道中、ハゲがハア・トオに言った。

「ああ。せっかくいい人キャラで惚れさせようと思ったのによォ。吊り橋効果とか言ったか? 絶対絶命のピンチにある女は惚れやすいんじゃねーのかよ? ゴブリンに捕まって殺されかけてたんだぜェ? 絶対絶命だろうが!」
「ったく、恩知らずな女でサァ」
「全くだ。こんなことなら、お前の言う通り、その場でヤッでおけばよかった。俺様の巨根を一度でも味わえば、他の男では満足できなくなるってのにヨォ!」
「だからその場でヤろうと言ったンす、俺」
「今度からそうしよう。助けた女は犯す。犯して犯して犯しまくる。俺の巨根の言いなりになるまでな!」
「それでこそ、ハア・トオ様でサァ!」

 猥雑な笑い声が往還に響いた。




 誰か殺してくれ、こいつら。


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