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第49話 フェロモン・ボーイ
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「特定の行動や生理現象を引き起こす? それはどういう……」
「だーかーらー、性フェロモンなんですってば先輩。わかるでしょ?」
俺の鼻腔の毛細血管がフェロモンを吸い込む。口の粘膜や肺からも吸収されていく。血流に乗ってフェロモンが脳に届きだした。
かくん。身体から力が抜けた――いや、力が入った? なんとも奇妙な感覚だ。
「あ、効いてきたかな、フェロモン?」
「約束と違うだろ! フェロモン、止めろ!」
「違わないです。だって……カフェラテのためじゃないから」
萌夢ちゃんがスカートをパタパタさせながら言った。むわん、とフェロモンが俺を襲う。が、確かにマシンは起動しない。だが……なんとなく身体の自由は奪われている感覚があるんだが?
「さてと。そろそろ……かな?」
萌夢ちゃんがとろんとした目でささやいた。
うん。こうしてみると萌夢ちゃん、かわいいよな。幼いところあるのに身体はセクシーでギャップ萌えだし。
……ってなんで、俺、そんな感情を!?
「先輩と萌夢……密室で二人きり……誰も見てないよ?」
「そ、そうだけど、そうだけど!」
部室で男女の高校生が二人きり。誰も見ていない。何——ナニやっても見つからない。
ずきん。胸の奥で。腰の奥でも鈍いうずき。
「……萌夢、キスとかしてみたいなあ」
「キ、キス!?」
「うん。高校生だもん。恋愛とか、キスとか……したいの。先輩は?」
「お、俺も……その……なんというか……」
したい。
そう思った瞬間、身体が勝手に動き出した。すーっと萌夢ちゃんの方へ歩み出す。
いやいやだめだ。近寄っては駄目だ。俺は自分を制した。
つもりだった。
どうしたんだ?
身体がいうことをきかない。気がついたら萌夢ちゃんの真ん前に立っていた。そしていきなり萌夢ちゃんをハグ。萌夢ちゃんの大きな胸が押しつぶされて俺の大胸筋に当たる。フェロモンの香りに混じって良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「先輩ったら大胆なんだから」
「ちょ、違うんだ! か、身体が勝手に!」
離れようとしたが、逆に俺の腕に力が入った。左手はいつのまにか萌夢ちゃんの肩甲骨当たり、右手は背中を下降、腰へと向かっていた。
「……いいよ、先輩だったら。そこ……触っても……」
萌夢ちゃんの身体から力が抜け、俺に身体を預ける。お互いの首が絡まる。接近する顔と顔。目に留まる肉厚の唇。胸の奥から湧き上がるキスの衝動。萌夢ちゃんが顔を上げた。俺と目が合う。
「……キスして」
軽く唇を突き出し、目を瞑る萌夢ちゃん。彼女の腕に力が入り、俺を引き寄せる。
「駄目だ……キスは……駄目だ……」
言葉とは反対に俺の腕にも力が入り萌夢ちゃんを引き寄せる。頭部は勝手に前傾、彼女の唇に自分のそれを重ねようと動く。
なぜなんだ。どうして身体が勝手に動くんだ……?
ん? 身体が勝手に動く?
萌夢ちゃんの言葉を思い出した。
つまり、「特定の行動や生理現象」が引き起こされているのでは?
「ま、まさか、これフェロモンの仕業かっ!?」
唇の接触寸前のところで言葉を絞り出した。
「あ、気づいちゃいました?」
「汚いぞ、萌夢ちゃん! そうやって無理矢理カフェラテを搾り取ってもだな――」
「カフェラテは関係ないよ、先輩?」
「はうっ!」
萌夢ちゃんがマシンに軽くタッチ。
「ほら、起動はしているけど抽出準備ってほどではないでしょ? すぐ出そうじゃないよね? それって、フェロモンぽくないって思わない?」
「た、確かに……」
フェロモンを浴びたエスプレッソマシンは圧が急上昇すると同時に抽出口がトランスフォーム、大量抽出に備え先端をギンギンに尖らせる。その理屈は説明不可能――すなわちイタリン・ファンタジーであり、例えるならイタリアン・メロディック・スピードメタルの歌詞の世界、まさにラプソディーな世界観だ。
だが、今の俺。マシンはそうなっていない。確かに起動はしている。だがそれは「夜明のコーヒー」を二人で飲もうとしているだけのスタンバイであり、その意味ではラテンかつフレンチな破廉恥を連想させるものであり、俺のハートを殺しにピンクなムードの集団、すなわちピンキーなキラーズがボサノヴァのリズムに乗ってやってきたと表現できよう。
「ねぇ先輩。今どんな気持ち?」
「どんなって……」
「萌夢のこと、好きでしょ? キスしたいでしょ? ……えっちしたいでしょ?」
「そ、そんなことは……」
ある。
この胸のときめきと欲望。性欲と愛が渾然一体となった感情。まさに……恋なのではなかろうか?
――気を付けろ! これは性フェロモンによる作られた感情と身体反応だ!
吹っ飛びかけの理性が俺に訴える。
――それくらいわかってますって。
――分っているなら、なんとかしろ! お前は偽物の感情で行動するのか?
――ていわれましてもですね、どうしようもないんですよ。身体が勝手に動くし。頭の中は萌夢ちゃんで一杯だし。
――ぐぬう! なら仕方ない。キスでもセックスでも好きにせえ!
あっさり理性が諦めた。駄目だこりゃ。
「さ、先輩。萌夢とキスしよ」
「ぐわああっ!」
最後の力を振り絞って俺は萌夢ちゃんから腕を離す。
上半身はいうことを聞いたが下半身が抵抗、脚がイスにぶつかり床に転倒、床を転がる俺。スネを打ったことで発生した激痛により少しだが正気に戻ったが、激痛とフェロモン攻撃のせいでやはり身体は自由に動かせない。
「先輩、性フェロモンから逃げるのは無理ですよ? おとなしく、キスして」
「い、嫌だ! 汚いぞ! フェロモン使うなんて!」
「……そんなに萌夢とキスしたくないの? 萌夢、傷ついちゃうな」
悲しそうな声で萌夢ちゃんが言った。
「だったら、意地でも萌夢とキスしてもらうんだからっ!」
ぶおん。萌夢ちゃんのスカートが再び大きくはためいた。さっきよりも大きく、長く。そして漂ってくる濃厚なバニラクリームの香り。
「さ、キスしよ? キスしたら、もう本当の彼女だよね? そしたら……萌夢の唾液で優しくハンドドリップしてあげる。恋人にカフェラテ出すのは問題ないでしょ、先輩?」
「結局、フェロモンでカフェラテするんじゃないか!」
「違います! 恋人になるためにフェロモン使うんだもん。カフェラテとは関係ないわ」
「そんな屁理屈……ぐはっ!」
追加投入されたフェロモンが脳に到達したらしい。だめだ。理性でどうにもならない。なぜか脚の痛みが消えた。ふらふらと俺は立ち上がった。ゆっくり萌夢ちゃんに近づいていく。
「ま、まて! 萌夢ちゃん、そんな……フェロモンで既成事実をつくって彼女だなんて、そんなので君はいいのか? 俺の気持ちなんかどうでもいいのか?」
自分の意志と関係なく萌夢ちゃんに手を伸ばす俺。それでもなんとか言葉を絞り出す。
「理想をいえば……心から愛して欲しかったな」
「だ、だろ?」
「でもね。朝からあんなの見せつけられたら……萌夢だって焦っちゃう。先輩と妹さん。どう見たって相思相愛なんだもん」
「は? 何言ってるんだ?」
なんとか首をひんまげ、顔を逸らし、キスを阻止しようとするが、限界に近い。
「先輩、妹さんのこと好きですよね? とゆーか、妹さんも先輩のこと、好きですよね? 萌夢、今日確信しました」
「ち、違う! な、何を根拠に……」
ぶるん。頭が勝手に回転。萌夢ちゃんに正対した。
「やっとこっち向いたね、先輩。さ、萌夢に……キスして」
萌夢ちゃんが目を瞑り口を突き出した。
「だーかーらー、性フェロモンなんですってば先輩。わかるでしょ?」
俺の鼻腔の毛細血管がフェロモンを吸い込む。口の粘膜や肺からも吸収されていく。血流に乗ってフェロモンが脳に届きだした。
かくん。身体から力が抜けた――いや、力が入った? なんとも奇妙な感覚だ。
「あ、効いてきたかな、フェロモン?」
「約束と違うだろ! フェロモン、止めろ!」
「違わないです。だって……カフェラテのためじゃないから」
萌夢ちゃんがスカートをパタパタさせながら言った。むわん、とフェロモンが俺を襲う。が、確かにマシンは起動しない。だが……なんとなく身体の自由は奪われている感覚があるんだが?
「さてと。そろそろ……かな?」
萌夢ちゃんがとろんとした目でささやいた。
うん。こうしてみると萌夢ちゃん、かわいいよな。幼いところあるのに身体はセクシーでギャップ萌えだし。
……ってなんで、俺、そんな感情を!?
「先輩と萌夢……密室で二人きり……誰も見てないよ?」
「そ、そうだけど、そうだけど!」
部室で男女の高校生が二人きり。誰も見ていない。何——ナニやっても見つからない。
ずきん。胸の奥で。腰の奥でも鈍いうずき。
「……萌夢、キスとかしてみたいなあ」
「キ、キス!?」
「うん。高校生だもん。恋愛とか、キスとか……したいの。先輩は?」
「お、俺も……その……なんというか……」
したい。
そう思った瞬間、身体が勝手に動き出した。すーっと萌夢ちゃんの方へ歩み出す。
いやいやだめだ。近寄っては駄目だ。俺は自分を制した。
つもりだった。
どうしたんだ?
身体がいうことをきかない。気がついたら萌夢ちゃんの真ん前に立っていた。そしていきなり萌夢ちゃんをハグ。萌夢ちゃんの大きな胸が押しつぶされて俺の大胸筋に当たる。フェロモンの香りに混じって良い匂いが鼻腔をくすぐった。
「先輩ったら大胆なんだから」
「ちょ、違うんだ! か、身体が勝手に!」
離れようとしたが、逆に俺の腕に力が入った。左手はいつのまにか萌夢ちゃんの肩甲骨当たり、右手は背中を下降、腰へと向かっていた。
「……いいよ、先輩だったら。そこ……触っても……」
萌夢ちゃんの身体から力が抜け、俺に身体を預ける。お互いの首が絡まる。接近する顔と顔。目に留まる肉厚の唇。胸の奥から湧き上がるキスの衝動。萌夢ちゃんが顔を上げた。俺と目が合う。
「……キスして」
軽く唇を突き出し、目を瞑る萌夢ちゃん。彼女の腕に力が入り、俺を引き寄せる。
「駄目だ……キスは……駄目だ……」
言葉とは反対に俺の腕にも力が入り萌夢ちゃんを引き寄せる。頭部は勝手に前傾、彼女の唇に自分のそれを重ねようと動く。
なぜなんだ。どうして身体が勝手に動くんだ……?
ん? 身体が勝手に動く?
萌夢ちゃんの言葉を思い出した。
つまり、「特定の行動や生理現象」が引き起こされているのでは?
「ま、まさか、これフェロモンの仕業かっ!?」
唇の接触寸前のところで言葉を絞り出した。
「あ、気づいちゃいました?」
「汚いぞ、萌夢ちゃん! そうやって無理矢理カフェラテを搾り取ってもだな――」
「カフェラテは関係ないよ、先輩?」
「はうっ!」
萌夢ちゃんがマシンに軽くタッチ。
「ほら、起動はしているけど抽出準備ってほどではないでしょ? すぐ出そうじゃないよね? それって、フェロモンぽくないって思わない?」
「た、確かに……」
フェロモンを浴びたエスプレッソマシンは圧が急上昇すると同時に抽出口がトランスフォーム、大量抽出に備え先端をギンギンに尖らせる。その理屈は説明不可能――すなわちイタリン・ファンタジーであり、例えるならイタリアン・メロディック・スピードメタルの歌詞の世界、まさにラプソディーな世界観だ。
だが、今の俺。マシンはそうなっていない。確かに起動はしている。だがそれは「夜明のコーヒー」を二人で飲もうとしているだけのスタンバイであり、その意味ではラテンかつフレンチな破廉恥を連想させるものであり、俺のハートを殺しにピンクなムードの集団、すなわちピンキーなキラーズがボサノヴァのリズムに乗ってやってきたと表現できよう。
「ねぇ先輩。今どんな気持ち?」
「どんなって……」
「萌夢のこと、好きでしょ? キスしたいでしょ? ……えっちしたいでしょ?」
「そ、そんなことは……」
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この胸のときめきと欲望。性欲と愛が渾然一体となった感情。まさに……恋なのではなかろうか?
――気を付けろ! これは性フェロモンによる作られた感情と身体反応だ!
吹っ飛びかけの理性が俺に訴える。
――それくらいわかってますって。
――分っているなら、なんとかしろ! お前は偽物の感情で行動するのか?
――ていわれましてもですね、どうしようもないんですよ。身体が勝手に動くし。頭の中は萌夢ちゃんで一杯だし。
――ぐぬう! なら仕方ない。キスでもセックスでも好きにせえ!
あっさり理性が諦めた。駄目だこりゃ。
「さ、先輩。萌夢とキスしよ」
「ぐわああっ!」
最後の力を振り絞って俺は萌夢ちゃんから腕を離す。
上半身はいうことを聞いたが下半身が抵抗、脚がイスにぶつかり床に転倒、床を転がる俺。スネを打ったことで発生した激痛により少しだが正気に戻ったが、激痛とフェロモン攻撃のせいでやはり身体は自由に動かせない。
「先輩、性フェロモンから逃げるのは無理ですよ? おとなしく、キスして」
「い、嫌だ! 汚いぞ! フェロモン使うなんて!」
「……そんなに萌夢とキスしたくないの? 萌夢、傷ついちゃうな」
悲しそうな声で萌夢ちゃんが言った。
「だったら、意地でも萌夢とキスしてもらうんだからっ!」
ぶおん。萌夢ちゃんのスカートが再び大きくはためいた。さっきよりも大きく、長く。そして漂ってくる濃厚なバニラクリームの香り。
「さ、キスしよ? キスしたら、もう本当の彼女だよね? そしたら……萌夢の唾液で優しくハンドドリップしてあげる。恋人にカフェラテ出すのは問題ないでしょ、先輩?」
「結局、フェロモンでカフェラテするんじゃないか!」
「違います! 恋人になるためにフェロモン使うんだもん。カフェラテとは関係ないわ」
「そんな屁理屈……ぐはっ!」
追加投入されたフェロモンが脳に到達したらしい。だめだ。理性でどうにもならない。なぜか脚の痛みが消えた。ふらふらと俺は立ち上がった。ゆっくり萌夢ちゃんに近づいていく。
「ま、まて! 萌夢ちゃん、そんな……フェロモンで既成事実をつくって彼女だなんて、そんなので君はいいのか? 俺の気持ちなんかどうでもいいのか?」
自分の意志と関係なく萌夢ちゃんに手を伸ばす俺。それでもなんとか言葉を絞り出す。
「理想をいえば……心から愛して欲しかったな」
「だ、だろ?」
「でもね。朝からあんなの見せつけられたら……萌夢だって焦っちゃう。先輩と妹さん。どう見たって相思相愛なんだもん」
「は? 何言ってるんだ?」
なんとか首をひんまげ、顔を逸らし、キスを阻止しようとするが、限界に近い。
「先輩、妹さんのこと好きですよね? とゆーか、妹さんも先輩のこと、好きですよね? 萌夢、今日確信しました」
「ち、違う! な、何を根拠に……」
ぶるん。頭が勝手に回転。萌夢ちゃんに正対した。
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