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第43話 お口の……恋人
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「ただいまー」
「おかえり」
紗希がエプロン姿で出迎えてくれた。咲江さんと親父が新婚旅行に出かけて今日でちょうど一週間。あと一週間は俺と紗希だけだ。
「ご飯できてるよ。今日はハンバーグ」
「そっか」
なんか新婚さんみたいだな、と俺は思った。
結婚の二文字が頭から離れなくなった。俺と紗希は血が繋がっていない。だから、法的には結婚できる。
結婚か。
紗希がエプロンをはずしなながらキッチンへ戻っていく。エプロンの下はいつものようにショートパンツ。小ぶりなお尻が俺の視界に飛び込んできた。結婚したら毎晩セックス。青木の言葉を思い出した。
紗希と俺が結婚して……セックスして……紗希が妊娠して……娘が生まれたら、やはりサキュバスなんだろうか。
そういえば、紗希の本当の父親は誰なんだろう? なんで母子家庭だったんだろうか。萌夢ちゃんのことも気になる。弟のを飲んでいると言ったけど、その弟って、実の弟なんだろうか? それとも、うちと同じで血が繋がっていないのだろうか? サキュバスって弟にカミングアウトしてるのだろうか。
ハンバーグは美味しかった。きっと紗希はいい奥さんになるだろう。美人だし、明るいし……気持ちいい。最高の結婚相手だと思う。
食器洗いは俺の役割だ。といっても、食洗機に食器と洗剤を突っ込みスイッチを押すだけだ。
リビングのソファーでくつろぐ紗希を見る。気がついたら、紗希のへそのあたりを見てた。あのへんに……女性特有の臓器があるんだろうか。そして俺の長さは……。
いかんいかん。何を考えているんだ。ナニだけど。
どうも今日は変だ。萌夢ちゃんのフェロモン吸ったせいかもしれない。でなければ、あんな交換条件萌夢ちゃんに言うはずがない。淫夢でなら、カフェラテあげるなんて。
俺、萌夢ちゃんにカフェラテ出したいのだろうか。というか、女なら誰でもいいんだろうか。
悩んでも仕方ない。とりあえず風呂に入ろう。俺は紗希に風呂どうするか聞いた。紗希はテレビ観たいから、後で入る、と答えた。そうか、と俺は言って風呂に入った。
風呂から上がった俺は紗希と場所を交代、ソファに座りテレビを見た。今度は紗希が風呂の番だ。
どうでもいいバラエティ番組が終わるころ、紗希が風呂から上がってきて、ちょこん、と俺の前に跪いた。
「……ね、今お願いしていい?」
上目遣いで紗希がおねだりしてきた。
「……ここで?」
「うん。……だめ?」
「いや……大丈夫だ」
俺はマシンをセットした。紗希が手を伸ばす。慣れた手つきでいつものように、ハンドドリップを開始する。優しいアロマの香り。丁寧なタンピングが気持ちいい。ああ、紗希。なんて気持ちいいんだ、紗希。
俺は紗希の頭をなでる。カップに注がれるスチームミルクはぷっくり膨らんでいる。エスプレッソのクレマと混ざり、紗希の唇にへばり付く。なんて……なんて……。
小刻みに動く抽出口の震動を感じながら、ボイラーの圧を解放、放出した。
「っん! しゅごい、熱い……!」
一口飲んだ紗希が「あふう」と息を漏らす。
「んあ……今日ちょっと……香りが違うかも……ぷは」
飲み干した紗希。口が離れる。口の周りをクレマで汚したまま、俺の顔を見上げる。
そうだよ、紗希。今日のはちょっとだけ……フレバードなんだ。だって、萌夢ちゃんのフェロモン浴びたからね。こみ上げてくる、罪悪感。
紗希が目を閉じた。軽く唇を突き出す。
「キスして……」
紗希が甘い声で言った。俺は紗希の唇に自分の唇を重ねた。かすかに、苦いような、しょっぱいような味がした。俺のエスプレッソの味。紗希に言わせれば、濃ゆいヤツ。
舌を入れたい欲望に駆られた。すごく入れたかった。紗希の舌と俺の舌を絡め合い求め合いたかった。だが、できなかった。それをすることで、一線を越える気がしてならなかったからだ。
「ふふ、恋人みたい」
紗希が笑った。
「アメリカでは普通なんだろ?」
「うん。普通。シアトルとか、普通にみんなキスしてる」
普通なものか。紗希、アメリカでも日本でも、唇へのキスは恋人同士だけなんだぜ。
「ね、もう一回キスして」
「もう一回だけだぞ」
でないと、俺の理性が飛ぶ。
「ありがと」
再び俺たちはキスをした。紗希の柔らかい唇。さっきまでカフェラテ飲んでいた唇。そうだよな。本来、唇ってキスをするところだ。
数秒間のキスが永遠に思えた。俺は紗希を抱きしめる。手に力が入る。
さらに、ぎゅっと紗希を抱きしめる。手の先が背中を回り、乳房の横にまで来た。指先がノーブラの胸の横に当たる。柔らかい胸だ。
紗希の唇が離れた。
「もう、兄さん、手が胸に当たってる! えっち!」
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ」
紗希の顔を見た。笑っている。怒っている様子はない。
「わかってるよ。兄さん。でも……」
紗希が手を伸ばしてきた。
「……それって、オーガニックだよね。カフェラテ、もっと濃ゆくなるかも、だよ?」
「は?」
「ねえ、兄さん。……試してみない?」
いきなりの直球トーク。
「た、ためすって?」
「……文字通り、試すの」
紗希がマシンにキスした。俺はびくん、と反応した。
「まだ出るでしょ? ボイラー大丈夫そうだし」
ハンドドリップ2回目が始まった。
♡ ♡ ♡
「んはあ……やっぱり濃ゆかったね。今回も香りが違ったな」
紗希が笑顔で言った。
次の日も、その次の日も、俺は紗希に飲ませた。
萌夢ちゃんはあれ以来部室でフェロモンを出すことはない。姫島さんに俺と付き合ってると言ったわりには、彼女ぽいこともしてこない。一緒に学校に行くわけでもなく、ランチを一緒にもしない。部活でも今まで通りだ。もう俺の彼女設定、忘れたのかもしれない。
虎視眈々と俺が居眠りするのを待っているようではあるがな。
姫島さんは黙々とラノベを書いている。結局紗希には俺と萌夢ちゃんことは言わなかったようだ。
青木は姫島さんが文芸部に入ったと聞いて「“図書館の姫”まで文芸部なのかよ! ふざけるな! 殺す! お前を殺して俺も死ぬ!」と意味不明に騒いだ。で、これまたいつものように俺と一緒に登校している。
そんな感じで、しばらくは穏やかな日々が過ぎていったが、当然、それは長くは続かなかったのである。
「おかえり」
紗希がエプロン姿で出迎えてくれた。咲江さんと親父が新婚旅行に出かけて今日でちょうど一週間。あと一週間は俺と紗希だけだ。
「ご飯できてるよ。今日はハンバーグ」
「そっか」
なんか新婚さんみたいだな、と俺は思った。
結婚の二文字が頭から離れなくなった。俺と紗希は血が繋がっていない。だから、法的には結婚できる。
結婚か。
紗希がエプロンをはずしなながらキッチンへ戻っていく。エプロンの下はいつものようにショートパンツ。小ぶりなお尻が俺の視界に飛び込んできた。結婚したら毎晩セックス。青木の言葉を思い出した。
紗希と俺が結婚して……セックスして……紗希が妊娠して……娘が生まれたら、やはりサキュバスなんだろうか。
そういえば、紗希の本当の父親は誰なんだろう? なんで母子家庭だったんだろうか。萌夢ちゃんのことも気になる。弟のを飲んでいると言ったけど、その弟って、実の弟なんだろうか? それとも、うちと同じで血が繋がっていないのだろうか? サキュバスって弟にカミングアウトしてるのだろうか。
ハンバーグは美味しかった。きっと紗希はいい奥さんになるだろう。美人だし、明るいし……気持ちいい。最高の結婚相手だと思う。
食器洗いは俺の役割だ。といっても、食洗機に食器と洗剤を突っ込みスイッチを押すだけだ。
リビングのソファーでくつろぐ紗希を見る。気がついたら、紗希のへそのあたりを見てた。あのへんに……女性特有の臓器があるんだろうか。そして俺の長さは……。
いかんいかん。何を考えているんだ。ナニだけど。
どうも今日は変だ。萌夢ちゃんのフェロモン吸ったせいかもしれない。でなければ、あんな交換条件萌夢ちゃんに言うはずがない。淫夢でなら、カフェラテあげるなんて。
俺、萌夢ちゃんにカフェラテ出したいのだろうか。というか、女なら誰でもいいんだろうか。
悩んでも仕方ない。とりあえず風呂に入ろう。俺は紗希に風呂どうするか聞いた。紗希はテレビ観たいから、後で入る、と答えた。そうか、と俺は言って風呂に入った。
風呂から上がった俺は紗希と場所を交代、ソファに座りテレビを見た。今度は紗希が風呂の番だ。
どうでもいいバラエティ番組が終わるころ、紗希が風呂から上がってきて、ちょこん、と俺の前に跪いた。
「……ね、今お願いしていい?」
上目遣いで紗希がおねだりしてきた。
「……ここで?」
「うん。……だめ?」
「いや……大丈夫だ」
俺はマシンをセットした。紗希が手を伸ばす。慣れた手つきでいつものように、ハンドドリップを開始する。優しいアロマの香り。丁寧なタンピングが気持ちいい。ああ、紗希。なんて気持ちいいんだ、紗希。
俺は紗希の頭をなでる。カップに注がれるスチームミルクはぷっくり膨らんでいる。エスプレッソのクレマと混ざり、紗希の唇にへばり付く。なんて……なんて……。
小刻みに動く抽出口の震動を感じながら、ボイラーの圧を解放、放出した。
「っん! しゅごい、熱い……!」
一口飲んだ紗希が「あふう」と息を漏らす。
「んあ……今日ちょっと……香りが違うかも……ぷは」
飲み干した紗希。口が離れる。口の周りをクレマで汚したまま、俺の顔を見上げる。
そうだよ、紗希。今日のはちょっとだけ……フレバードなんだ。だって、萌夢ちゃんのフェロモン浴びたからね。こみ上げてくる、罪悪感。
紗希が目を閉じた。軽く唇を突き出す。
「キスして……」
紗希が甘い声で言った。俺は紗希の唇に自分の唇を重ねた。かすかに、苦いような、しょっぱいような味がした。俺のエスプレッソの味。紗希に言わせれば、濃ゆいヤツ。
舌を入れたい欲望に駆られた。すごく入れたかった。紗希の舌と俺の舌を絡め合い求め合いたかった。だが、できなかった。それをすることで、一線を越える気がしてならなかったからだ。
「ふふ、恋人みたい」
紗希が笑った。
「アメリカでは普通なんだろ?」
「うん。普通。シアトルとか、普通にみんなキスしてる」
普通なものか。紗希、アメリカでも日本でも、唇へのキスは恋人同士だけなんだぜ。
「ね、もう一回キスして」
「もう一回だけだぞ」
でないと、俺の理性が飛ぶ。
「ありがと」
再び俺たちはキスをした。紗希の柔らかい唇。さっきまでカフェラテ飲んでいた唇。そうだよな。本来、唇ってキスをするところだ。
数秒間のキスが永遠に思えた。俺は紗希を抱きしめる。手に力が入る。
さらに、ぎゅっと紗希を抱きしめる。手の先が背中を回り、乳房の横にまで来た。指先がノーブラの胸の横に当たる。柔らかい胸だ。
紗希の唇が離れた。
「もう、兄さん、手が胸に当たってる! えっち!」
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ」
紗希の顔を見た。笑っている。怒っている様子はない。
「わかってるよ。兄さん。でも……」
紗希が手を伸ばしてきた。
「……それって、オーガニックだよね。カフェラテ、もっと濃ゆくなるかも、だよ?」
「は?」
「ねえ、兄さん。……試してみない?」
いきなりの直球トーク。
「た、ためすって?」
「……文字通り、試すの」
紗希がマシンにキスした。俺はびくん、と反応した。
「まだ出るでしょ? ボイラー大丈夫そうだし」
ハンドドリップ2回目が始まった。
♡ ♡ ♡
「んはあ……やっぱり濃ゆかったね。今回も香りが違ったな」
紗希が笑顔で言った。
次の日も、その次の日も、俺は紗希に飲ませた。
萌夢ちゃんはあれ以来部室でフェロモンを出すことはない。姫島さんに俺と付き合ってると言ったわりには、彼女ぽいこともしてこない。一緒に学校に行くわけでもなく、ランチを一緒にもしない。部活でも今まで通りだ。もう俺の彼女設定、忘れたのかもしれない。
虎視眈々と俺が居眠りするのを待っているようではあるがな。
姫島さんは黙々とラノベを書いている。結局紗希には俺と萌夢ちゃんことは言わなかったようだ。
青木は姫島さんが文芸部に入ったと聞いて「“図書館の姫”まで文芸部なのかよ! ふざけるな! 殺す! お前を殺して俺も死ぬ!」と意味不明に騒いだ。で、これまたいつものように俺と一緒に登校している。
そんな感じで、しばらくは穏やかな日々が過ぎていったが、当然、それは長くは続かなかったのである。
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