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第42話 夢で逢えたら……ごっくんだよね?
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「ず、ずるいぞ萌夢ちゃん! フェロモン出すだなんて!」
「え?」
萌夢ちゃんが上目遣いで俺を見た。
「出してませんよ?」
「出てるって!」
萌夢ちゃんが鼻をスンスンした。
「……あ」
萌夢ちゃんの顔が耳まで赤くなる。
「わざとじゃないです! こ、これは、自然に出たんです! 萌夢、オーガニックが飲みたいから、わざとは出さないもん!」
珍しく萌夢ちゃんが取り乱している。
「でも、現実にバニラの匂いが……」
「先輩のバカバカバカ! 知らない!」
いきなり萌夢ちゃんが立ち上がる。
「何をそんなに怒っているんだよ」
「べ、別に、先輩のことなんか、好きじゃないんだから!」
「は?」
「先輩の出すカフェラテが美味しそうだから、出ただけだです!」
「何が出たんだ?」
「しらない! 女子にそんなこと聞かないで!」
確かにクラスの女子に「匂いするけどなんか出した?」とは聞かないし、聞いたら失礼だ。ここは察するべきだろう。
「フェロモンだな」
察した結果、ストレートに言ってみた。
「そうよ、フェロモンよ! フェロモンで悪い? 全く、先輩ってデリカシーないんだから!」
否定はしない。
「仕方ないじゃないですか、美味しそうだったから! 先輩のカフェラテが! だから勝手に出たんです! 梅干し見たらつばが出るみたいなものなんだからっ! ……も、もしかして、妹さんに言っちゃう!? 萌夢がサキュバスで先輩見てフェロモン出したなんて、ばらしちゃう?」
「うーん。どうだろ……」
サキュバス仲間が増えたら嬉しいかな?
「お願いです、先輩! それはやめて!」
「サキュバスなのが恥ずかしいのか?」
「違います。サキュバスなのは、秘密だけどサキュバス同士なら問題ありません。問題は……問題は、フェロモン!!」
「……フェロモン?」
「そう! 先輩見て自然にフェロモン出ちゃったなんて、他のサキュバスに知られたら、萌夢、恥ずかしくて死んじゃう!」
顔を真っ赤にして萌夢ちゃんが言った。
どうやら萌夢ちゃんは自分の意思と関係なくフェロモンが出たことが恥ずかしいようだ。紗希はいつだって自分の意思と関係なくフェロンを出すが、こんな風に恥じたりしない。どちらがサキュバスとして普通の反応なのか、俺には分からないが、とりあえずこの状況は萌夢ちゃんにとっては恥ずかしいようだ。
ふむ。これは取引材料だ。
「わかった。萌夢ちゃん。フェロモンのことは誰にも言わない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。その代わり、俺からカフェラテを強奪しないでくれ」
「え、ええーっ!? 萌夢に諦めろって言うんですか? だったらいいもん。フェロモンのことばれてもいい。今ここで搾り取っちゃう!」
萌夢ちゃんがまるで獲物を狙う熊のような格好で言った。
「慌てるなよ。こうしようじゃないか。俺がうっかり居眠りしたら、淫夢でカフェラテ仕掛けてもかまわない」
「え? いいんですか?」
「ああ。ただし、起きてるときは襲わないで欲しい。フェロモンなんてもってのほかだ。これでおりあわないか?」
「うーん、なんか萌夢に不利な気がする」
「そんなことないさ」
「かなあ」
首をかしげる萌夢ちゃん。
「もしかして、勝手にフェロモンが出ちゃうのを気にしているのか?」
「出ないもん! 自然にはでないっ!」
ムキになる萌夢ちゃん。
「ていうか、先輩の方こそ!」
萌夢ちゃんがすっと手を伸ばし、俺のマシンをさわった。
「もうこんなに熱くなってるくせに……?」
「ちょ! 俺は淫夢でならオッケーって言ったのであってだな……!」
俺の制止など聞かずに、萌夢ちゃんはさわり続ける。
「大丈夫。ハンドドリップしませんから。今はね」
「今は?」
「そ。先輩、萌夢の隣にいるだけで……ふふ。先輩のアレ……カフェラテしたそうだよ?」
萌夢ちゃんが抽出口をくいくいつまむ。
「そ、それは……」
「こんなになってるなんて、萌夢にもチャンスがあるってことですよね。へへ。先輩の濃ゆいのは、絶対萌夢のものにしてみせます。ぜったい、先輩の方から萌夢に飲んで、濃ゆいの飲んで、って言わせる。萌夢の魅力にメロメロなんだからっ! これからの部活、覚悟してくださいね? せ・ん・ぱ・い!」
最後に萌夢ちゃんが手に力を込めた。キュッと握りしめる。ずきん。大きくうずく俺のダブルボイラー。
「あぐっ!」
そのとき、部室の扉が開いた。
「遅くなりましたー……え? 萌夢ちゃん?」
俺は思った。見られたと。萌夢ちゃんが握りしめている現場を。だが、幸い、うまいこと長机が萌夢ちゃんの手を隠していたようだ。
「仲……いいね」
姫島さんの目に映ったのは、ただ隣同士並んで座っている男女の姿であったようだ。姫島さんから見えないのをいいことに萌夢ちゃんはニギニギしてきた。
「びくん、って動きましたよ」
耳元で萌夢ちゃんがささやく。俺は無言で彼女の手をどけた。
「萌夢ちゃん、昼休み学食で言ったとおり、部活では……姫島さんの前では、あくまで部長と部員だ。並んで座るのもやめておこう。ほら、姫島さんも目のやり場に困っている」
「いえ、私は……」
戸惑う姫島さん。
「はーい、そうします。ごめんね、雪ちゃん」
意外にも萌夢ちゃんは聞きわけがよかった。が、再び俺に手を伸ばし、ぎゅっと強く握ってきた。俺は危うく声を上げそうになる。再度萌夢ちゃんの手をどける。
「じゃ、先輩、萌夢はいつもの席に戻りまーす。雪ちゃんはそこにしたらどう?」
コの字の縦棒に当たる部分の長机を指さし、萌夢ちゃんが言った。
「うん、そうする」
雪ちゃんが移動。俺は着座した。
「なんか、この席……部長さんみたい」
言われてみればそうだ。姫島さんの席は教室前方であり、普通教室であれば教卓があるべき場所だ。
「ほんとだね。じゃあ、次期部長は雪ちゃんだね。ね、先輩」
萌夢ちゃんが笑う。
「気が早いよ。まだ5月だぞ?」
俺が言ったのを聞いた姫島さんが笑った。つられて萌夢ちゃんも笑った。俺も笑った。
こうして、文芸部に三人目の部員が誕生した。
「え?」
萌夢ちゃんが上目遣いで俺を見た。
「出してませんよ?」
「出てるって!」
萌夢ちゃんが鼻をスンスンした。
「……あ」
萌夢ちゃんの顔が耳まで赤くなる。
「わざとじゃないです! こ、これは、自然に出たんです! 萌夢、オーガニックが飲みたいから、わざとは出さないもん!」
珍しく萌夢ちゃんが取り乱している。
「でも、現実にバニラの匂いが……」
「先輩のバカバカバカ! 知らない!」
いきなり萌夢ちゃんが立ち上がる。
「何をそんなに怒っているんだよ」
「べ、別に、先輩のことなんか、好きじゃないんだから!」
「は?」
「先輩の出すカフェラテが美味しそうだから、出ただけだです!」
「何が出たんだ?」
「しらない! 女子にそんなこと聞かないで!」
確かにクラスの女子に「匂いするけどなんか出した?」とは聞かないし、聞いたら失礼だ。ここは察するべきだろう。
「フェロモンだな」
察した結果、ストレートに言ってみた。
「そうよ、フェロモンよ! フェロモンで悪い? 全く、先輩ってデリカシーないんだから!」
否定はしない。
「仕方ないじゃないですか、美味しそうだったから! 先輩のカフェラテが! だから勝手に出たんです! 梅干し見たらつばが出るみたいなものなんだからっ! ……も、もしかして、妹さんに言っちゃう!? 萌夢がサキュバスで先輩見てフェロモン出したなんて、ばらしちゃう?」
「うーん。どうだろ……」
サキュバス仲間が増えたら嬉しいかな?
「お願いです、先輩! それはやめて!」
「サキュバスなのが恥ずかしいのか?」
「違います。サキュバスなのは、秘密だけどサキュバス同士なら問題ありません。問題は……問題は、フェロモン!!」
「……フェロモン?」
「そう! 先輩見て自然にフェロモン出ちゃったなんて、他のサキュバスに知られたら、萌夢、恥ずかしくて死んじゃう!」
顔を真っ赤にして萌夢ちゃんが言った。
どうやら萌夢ちゃんは自分の意思と関係なくフェロモンが出たことが恥ずかしいようだ。紗希はいつだって自分の意思と関係なくフェロンを出すが、こんな風に恥じたりしない。どちらがサキュバスとして普通の反応なのか、俺には分からないが、とりあえずこの状況は萌夢ちゃんにとっては恥ずかしいようだ。
ふむ。これは取引材料だ。
「わかった。萌夢ちゃん。フェロモンのことは誰にも言わない」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。その代わり、俺からカフェラテを強奪しないでくれ」
「え、ええーっ!? 萌夢に諦めろって言うんですか? だったらいいもん。フェロモンのことばれてもいい。今ここで搾り取っちゃう!」
萌夢ちゃんがまるで獲物を狙う熊のような格好で言った。
「慌てるなよ。こうしようじゃないか。俺がうっかり居眠りしたら、淫夢でカフェラテ仕掛けてもかまわない」
「え? いいんですか?」
「ああ。ただし、起きてるときは襲わないで欲しい。フェロモンなんてもってのほかだ。これでおりあわないか?」
「うーん、なんか萌夢に不利な気がする」
「そんなことないさ」
「かなあ」
首をかしげる萌夢ちゃん。
「もしかして、勝手にフェロモンが出ちゃうのを気にしているのか?」
「出ないもん! 自然にはでないっ!」
ムキになる萌夢ちゃん。
「ていうか、先輩の方こそ!」
萌夢ちゃんがすっと手を伸ばし、俺のマシンをさわった。
「もうこんなに熱くなってるくせに……?」
「ちょ! 俺は淫夢でならオッケーって言ったのであってだな……!」
俺の制止など聞かずに、萌夢ちゃんはさわり続ける。
「大丈夫。ハンドドリップしませんから。今はね」
「今は?」
「そ。先輩、萌夢の隣にいるだけで……ふふ。先輩のアレ……カフェラテしたそうだよ?」
萌夢ちゃんが抽出口をくいくいつまむ。
「そ、それは……」
「こんなになってるなんて、萌夢にもチャンスがあるってことですよね。へへ。先輩の濃ゆいのは、絶対萌夢のものにしてみせます。ぜったい、先輩の方から萌夢に飲んで、濃ゆいの飲んで、って言わせる。萌夢の魅力にメロメロなんだからっ! これからの部活、覚悟してくださいね? せ・ん・ぱ・い!」
最後に萌夢ちゃんが手に力を込めた。キュッと握りしめる。ずきん。大きくうずく俺のダブルボイラー。
「あぐっ!」
そのとき、部室の扉が開いた。
「遅くなりましたー……え? 萌夢ちゃん?」
俺は思った。見られたと。萌夢ちゃんが握りしめている現場を。だが、幸い、うまいこと長机が萌夢ちゃんの手を隠していたようだ。
「仲……いいね」
姫島さんの目に映ったのは、ただ隣同士並んで座っている男女の姿であったようだ。姫島さんから見えないのをいいことに萌夢ちゃんはニギニギしてきた。
「びくん、って動きましたよ」
耳元で萌夢ちゃんがささやく。俺は無言で彼女の手をどけた。
「萌夢ちゃん、昼休み学食で言ったとおり、部活では……姫島さんの前では、あくまで部長と部員だ。並んで座るのもやめておこう。ほら、姫島さんも目のやり場に困っている」
「いえ、私は……」
戸惑う姫島さん。
「はーい、そうします。ごめんね、雪ちゃん」
意外にも萌夢ちゃんは聞きわけがよかった。が、再び俺に手を伸ばし、ぎゅっと強く握ってきた。俺は危うく声を上げそうになる。再度萌夢ちゃんの手をどける。
「じゃ、先輩、萌夢はいつもの席に戻りまーす。雪ちゃんはそこにしたらどう?」
コの字の縦棒に当たる部分の長机を指さし、萌夢ちゃんが言った。
「うん、そうする」
雪ちゃんが移動。俺は着座した。
「なんか、この席……部長さんみたい」
言われてみればそうだ。姫島さんの席は教室前方であり、普通教室であれば教卓があるべき場所だ。
「ほんとだね。じゃあ、次期部長は雪ちゃんだね。ね、先輩」
萌夢ちゃんが笑う。
「気が早いよ。まだ5月だぞ?」
俺が言ったのを聞いた姫島さんが笑った。つられて萌夢ちゃんも笑った。俺も笑った。
こうして、文芸部に三人目の部員が誕生した。
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