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第30話 妹は貪るようにカフェラテを
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「兄さんだあ……兄さんだあ……」
まるでケダモノのように眼をギラギラさせ、エスプレッソマシンを見つめる。
かぽ。まだ準備できていない抽出口にいきなりカップが置かれた。
「う!」
約1週間ぶりのカフェラテ。久しぶりのスイッチオンに、マシンがビリビッと鋭く反応する。圧の上昇が急だ。ダメだ、もう出ちゃいそうだ。抽出口からすでに何かしたたり落ちている。
だが、それは駄目だ。この場所はまずい。ここは文芸部室の長机。入り口に正対している。萌夢ちゃんが扉を開けた途端、カフェラテ抽出の詳細が丸見えになってしまうナイスビューポイントなのだ。
「紗希、一度離れて……くれない……か……な」
ちゅぽ。カップがマシンから離れた。
「な、なんで……ダメなの? まだ怒ってるの?」
紗希が悲壮感に満ちあふれた顔で俺を見た。
「ち、違うんだ。ここじゃ、駄目なんだ。……あっちのソファのとこへ行こう。あっちで……続きだ」
「……わかった」
俺は紗希の手を引き、例のロッカーに隠れているソファの方へ移動した。紗希が俺の隣に座り、そのままマシンを掴む。嬉しそうにカップをセット、抽出の続きを始めた。
「あふ……んぐ……んぱ」
相当に危機的状況なのだろう。紗希の手がポーターフィールターをぐいぐい詰めてくる。さらに粉を手で均等にならすレベリング。続けて激しいタンピングで粉をおし固める。
「んは……いい香り……すっごい……濃ゆそう」
そうだ、紗希。粉にしっかり圧力をかけて固めておかないと、お湯の圧力に負けるからな。ムラのある抽出は厳禁だ。
紗希がピストンレバーを上下する。圧がマシンを刺激する。よほどカフェラテが恋しいのか、萌夢ちゃんに負けず劣らずのとろけ顔だ。そんなとろけ顔でていねいに操作される俺のマシン。あっという間に蒸気圧が限界に達した。
「さ、紗希……あ!」
ヤバい。すごい……圧だ。暴発寸前……。マラソンのせいもあるのだろう。どんな関係があるかは分らないが。
「ん? バニラの香り? も、もしかして!?」
濃厚なバニラクリームの香りが漂いだした。紗希がサキュバス・フェロモンを分泌しているのだ。
マシンの中枢にフェロモンが到達した。もうだめだ。機序は分らないがマシンの安全装置が消し飛んだ。いけない、このままでは……紗希が危険だ。
俺は紗希の頭を鷲づかみにして固定。激しい抽出に耐えるよう固定した。
「んーっ! んーっ!」
紗希が悲鳴を上げた。
「さ、紗希……紗希!」
じゅぽ、じゅぽ。激しい抽出音。そして……。
♡ ♡ ♡
あれからどれくらい経ったのだろう。紗希の頭はまだマシンのそばにある。そして俺は……放心していた。
ちゅっ、ちゅっと音がする。まるで吸血鬼が血を吸うかのような音だ。フェロモンのせいだろう、通常ではあり得ない量のカフェラテが出ていた。
紗希の頭を優しく撫でる。髪の毛サラサラだ。唇の周りをクレマたっぷりに汚しつつ、美味しそうに飲んでいる。その姿は愛おしく、かわいい。
そして、悲しい。俺の義妹は、カフェラテを飲まないと死んじゃうんだ。なのに俺は意地悪した。なんてひどい義兄なんだ。
「まだ出てる」
紗希が優しくマシンにキスをした。
「……ねえ、もう少しこうしてて、いい?」
「ああ。いいけど……なんでだ?」
「なんだかね、安心するの……」
「……そっか」
「うん……ありがと」
紗希の願い通り、俺はそのままにした。
これでいいんだ。妹の命を守るため、毎日飲ませようじゃないか。冷蔵庫の牛乳パックみたいな扱いでもいい。専属バリスタとして、カフェラテを提供しよう。
こんな美人が……毎日……なんだ。それだけで十分だろ? 紗希は俺のことでなく、俺の出すカフェラテが好き。俺は紗希のバリスタ。
マシンからはまだカフェラテが出ていた。部室にちゅちゅ、んぱんぱ、と抽出音が響く。そのときだった。
「こんにちはー」
部室の扉が開いた。萌夢ちゃんだ。
まるでケダモノのように眼をギラギラさせ、エスプレッソマシンを見つめる。
かぽ。まだ準備できていない抽出口にいきなりカップが置かれた。
「う!」
約1週間ぶりのカフェラテ。久しぶりのスイッチオンに、マシンがビリビッと鋭く反応する。圧の上昇が急だ。ダメだ、もう出ちゃいそうだ。抽出口からすでに何かしたたり落ちている。
だが、それは駄目だ。この場所はまずい。ここは文芸部室の長机。入り口に正対している。萌夢ちゃんが扉を開けた途端、カフェラテ抽出の詳細が丸見えになってしまうナイスビューポイントなのだ。
「紗希、一度離れて……くれない……か……な」
ちゅぽ。カップがマシンから離れた。
「な、なんで……ダメなの? まだ怒ってるの?」
紗希が悲壮感に満ちあふれた顔で俺を見た。
「ち、違うんだ。ここじゃ、駄目なんだ。……あっちのソファのとこへ行こう。あっちで……続きだ」
「……わかった」
俺は紗希の手を引き、例のロッカーに隠れているソファの方へ移動した。紗希が俺の隣に座り、そのままマシンを掴む。嬉しそうにカップをセット、抽出の続きを始めた。
「あふ……んぐ……んぱ」
相当に危機的状況なのだろう。紗希の手がポーターフィールターをぐいぐい詰めてくる。さらに粉を手で均等にならすレベリング。続けて激しいタンピングで粉をおし固める。
「んは……いい香り……すっごい……濃ゆそう」
そうだ、紗希。粉にしっかり圧力をかけて固めておかないと、お湯の圧力に負けるからな。ムラのある抽出は厳禁だ。
紗希がピストンレバーを上下する。圧がマシンを刺激する。よほどカフェラテが恋しいのか、萌夢ちゃんに負けず劣らずのとろけ顔だ。そんなとろけ顔でていねいに操作される俺のマシン。あっという間に蒸気圧が限界に達した。
「さ、紗希……あ!」
ヤバい。すごい……圧だ。暴発寸前……。マラソンのせいもあるのだろう。どんな関係があるかは分らないが。
「ん? バニラの香り? も、もしかして!?」
濃厚なバニラクリームの香りが漂いだした。紗希がサキュバス・フェロモンを分泌しているのだ。
マシンの中枢にフェロモンが到達した。もうだめだ。機序は分らないがマシンの安全装置が消し飛んだ。いけない、このままでは……紗希が危険だ。
俺は紗希の頭を鷲づかみにして固定。激しい抽出に耐えるよう固定した。
「んーっ! んーっ!」
紗希が悲鳴を上げた。
「さ、紗希……紗希!」
じゅぽ、じゅぽ。激しい抽出音。そして……。
♡ ♡ ♡
あれからどれくらい経ったのだろう。紗希の頭はまだマシンのそばにある。そして俺は……放心していた。
ちゅっ、ちゅっと音がする。まるで吸血鬼が血を吸うかのような音だ。フェロモンのせいだろう、通常ではあり得ない量のカフェラテが出ていた。
紗希の頭を優しく撫でる。髪の毛サラサラだ。唇の周りをクレマたっぷりに汚しつつ、美味しそうに飲んでいる。その姿は愛おしく、かわいい。
そして、悲しい。俺の義妹は、カフェラテを飲まないと死んじゃうんだ。なのに俺は意地悪した。なんてひどい義兄なんだ。
「まだ出てる」
紗希が優しくマシンにキスをした。
「……ねえ、もう少しこうしてて、いい?」
「ああ。いいけど……なんでだ?」
「なんだかね、安心するの……」
「……そっか」
「うん……ありがと」
紗希の願い通り、俺はそのままにした。
これでいいんだ。妹の命を守るため、毎日飲ませようじゃないか。冷蔵庫の牛乳パックみたいな扱いでもいい。専属バリスタとして、カフェラテを提供しよう。
こんな美人が……毎日……なんだ。それだけで十分だろ? 紗希は俺のことでなく、俺の出すカフェラテが好き。俺は紗希のバリスタ。
マシンからはまだカフェラテが出ていた。部室にちゅちゅ、んぱんぱ、と抽出音が響く。そのときだった。
「こんにちはー」
部室の扉が開いた。萌夢ちゃんだ。
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