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第24話 職業選択の自由
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「お邪魔しました……。数学教えて頂き、ありがとうございました」
姫島さんがぺこりと頭を下げた。
「いや、こちらこそ」
こちらこそパンツ見せて頂き、ありがとうございました。その記憶、必要に応じて大事に使わせて貰います。
「じゃーね、また明日学校でね、雪」
「うん。紗希ちゃん」
こうして姫島さんが帰っていった。
「あー疲れた。やっぱ数学は疲れるね兄さん。私、理系は無理だなあ」
「その代わり英語得意じゃないか」
「まーねー」
俺は腕時計を見た。5時半を少し過ぎたところだった。咲江さんが仕事から帰ってくるのは大体6時。夕ご飯はだいたい7時だ。
「そろそろ咲江さん帰ってくるな」
「そうだね。お母さん帰ってくる前にもう一回カフェラテしてもらおうかな?」
紗希がそっとマシンに手を寄せた。
「おい、紗希! こ、こんなところで、何触っているんだ!?」
「ん? わかんない?」
ぎゅ。紗希の手に力が入る。そうそう、それくらい強いとよくわかる……じゃなくて!
「あのなあ、ここ、玄関だろ? いきなりお客さん来たら、どう説明するんだ?」
「カフェラテ準備中って言うけど?」
「スタバ開業準備中みたいに言うなよ……」
「似たようなものでしょ? 兄さんのカフェラテもスターバックスラテも」
……違うと思うぞ。
「なあ、紗希。なんか……少しキャラ変わったことないか?」
「そう?」
「前は……その……玄関でカフェラテの準備したりしなかったと思う」
「だってサキュバスってカムアウトしてなかったし」
「それはそうだが、そうじゃなくてだな……」
なんと説明したらいいんだろう。
と、そのとき。
「それはね、貴樹君のカフェラテをごっくんしたからよ」
いきなり聞こえた直球セリフ。ちょっとハスキーボイスなところがとってもセクシー。咲江さんだった。いつの間にか玄関にいた。
「……聞いていたんですか?」
「うん。ていうか、あなたたち声大きすぎ。外にまで聞こえていたわよ? ここカフェラテするつもりだったんでしょ? 抽出音が外にまで聞こえるわよ? だめでしょ? もう、紗希ちゃんたら! 教育的指導!」
「ごめんなさい、お母さん」
「仕方ないかな。サキュバスはね、ステディなバリスタができると、ちょっとだけ大胆になるのよ」
「ステディ? それ英語? どーゆー意味?」
紗希が聞いた。おい、英語得意じゃないのか?
ていうか、バリスタって誰のこと?
「伴侶って意味。兄妹だったり親子だったり。その場しのぎの刹那的なバリスタじゃなくて、愛情で結ばれたバリスタのことよ」
「ふーん。兄さん、紗希のステディなバリスタなんだ。へへ」
「そう。貴樹君はね、紗希ちゃんのバリスタとして永久就職したのよ!」
そのバリスタって、やっぱり俺のことかよ。つか、もう職業決まったのかよ。職業選択の自由はどうなったんだ?
……俺も自分のことバリスタと思っていたけど。それでかまわないけど。
「じゃ、晩ご飯すぐ作るからね」
「今日は何?」
「ハンバーグよ」
さすがに毎日ウナギとかいうわけではないようだ。
俺は自室へ行きジャージに着替えた。しばらく部屋で動画を見たりLINEを返したりしたあと、晩ご飯を食べにリビングへ行った。
今日も親父は遅いらしい。俺と紗希と咲江さんの3人でテーブルを囲んだ。昨日と同じように、和気あいあいトークが始まった。お題は「兄さんのカフェラテ」だ。
「そう、紗希ちゃん、貴樹君のオーガニックブレンド飲んだの」
「うん。お母さんが言ったとおり、美味しかった」
「でしょ? オーガニックは香りが違うのよね。フェロモンで出したのはフレバードっていうんだけど、フレバードはどーしても人工的な味なのよねぇ。量はたっぷりなんだけど……」
昨日に続いて豆トーク。オーガニックでも有機栽培でもどんとこいだ。
「でもちょっと薄かったんじゃない? 紗希ちゃん」
「確かに、ちょっと薄かったかな?」
「昨日フェロモンで搾り取ったあとだもんね。おまけにその後、寝る前もカフェラテしたって朝言ってたし。だよね? 貴樹君」
「えーっと……はい」
そこまで話したのかよ、紗希。
「どんなにお盛んな高校生男子といえど、1日に3回のドリップ。そのうち1回はフェロモンでしょ。さすがにいろいろ間に合わないのよね」
「ふーん……そーなんだ」
紗希と咲江さんが俺のエスプレッソマシンを見た。この人たちにとって、「御影貴樹」「紗希の兄」はマシンのことか?
「ねぇねぇ、お母さん、もう今日はカフェラテ駄目かな?」
「うーん、貴樹君次第かな? どう、貴樹君? 調子はどう?」
「がんばれば……」
メンテナンス次第だ。
「貴樹君、無理はしないでね?」
「だ、大丈夫です」
……まあ、大丈夫だろう。
「サキュバスはね、最低でも週に1回飲めば生命には問題ないの。毎日飲む必要はないってわけ。だけど、3日飲まないと酷く体調が悪くなる。それに毎日飲んだ方がお肌が綺麗になるし、若さが保てるのよ。貴樹君だって、紗希ちゃんが若くて綺麗な方が良いでしょ?」
「え、ええ、まあ」
「だから、できるだけ毎日飲ませてあげてね?」
「……はい」
その後も咲江さんはカフェラテについて「若いバリスタほど粘りがある」「年を取ったバリスタの粘りは減るがコクが出る」「バリスタに美味しいのを抽出して貰うために健康管理に気をつけないと」「バリスタにはとろろ芋とウナギを食べさせるといい」等々、楽しそうに紗希に語った。
……さすがに俺は恐怖を感じた。まるで、俺をバリスタとだけ、提供するカフェラテだけに価値があるかように語る咲江さんに、なんともいえない恐怖を感じたのだ。
姫島さんがぺこりと頭を下げた。
「いや、こちらこそ」
こちらこそパンツ見せて頂き、ありがとうございました。その記憶、必要に応じて大事に使わせて貰います。
「じゃーね、また明日学校でね、雪」
「うん。紗希ちゃん」
こうして姫島さんが帰っていった。
「あー疲れた。やっぱ数学は疲れるね兄さん。私、理系は無理だなあ」
「その代わり英語得意じゃないか」
「まーねー」
俺は腕時計を見た。5時半を少し過ぎたところだった。咲江さんが仕事から帰ってくるのは大体6時。夕ご飯はだいたい7時だ。
「そろそろ咲江さん帰ってくるな」
「そうだね。お母さん帰ってくる前にもう一回カフェラテしてもらおうかな?」
紗希がそっとマシンに手を寄せた。
「おい、紗希! こ、こんなところで、何触っているんだ!?」
「ん? わかんない?」
ぎゅ。紗希の手に力が入る。そうそう、それくらい強いとよくわかる……じゃなくて!
「あのなあ、ここ、玄関だろ? いきなりお客さん来たら、どう説明するんだ?」
「カフェラテ準備中って言うけど?」
「スタバ開業準備中みたいに言うなよ……」
「似たようなものでしょ? 兄さんのカフェラテもスターバックスラテも」
……違うと思うぞ。
「なあ、紗希。なんか……少しキャラ変わったことないか?」
「そう?」
「前は……その……玄関でカフェラテの準備したりしなかったと思う」
「だってサキュバスってカムアウトしてなかったし」
「それはそうだが、そうじゃなくてだな……」
なんと説明したらいいんだろう。
と、そのとき。
「それはね、貴樹君のカフェラテをごっくんしたからよ」
いきなり聞こえた直球セリフ。ちょっとハスキーボイスなところがとってもセクシー。咲江さんだった。いつの間にか玄関にいた。
「……聞いていたんですか?」
「うん。ていうか、あなたたち声大きすぎ。外にまで聞こえていたわよ? ここカフェラテするつもりだったんでしょ? 抽出音が外にまで聞こえるわよ? だめでしょ? もう、紗希ちゃんたら! 教育的指導!」
「ごめんなさい、お母さん」
「仕方ないかな。サキュバスはね、ステディなバリスタができると、ちょっとだけ大胆になるのよ」
「ステディ? それ英語? どーゆー意味?」
紗希が聞いた。おい、英語得意じゃないのか?
ていうか、バリスタって誰のこと?
「伴侶って意味。兄妹だったり親子だったり。その場しのぎの刹那的なバリスタじゃなくて、愛情で結ばれたバリスタのことよ」
「ふーん。兄さん、紗希のステディなバリスタなんだ。へへ」
「そう。貴樹君はね、紗希ちゃんのバリスタとして永久就職したのよ!」
そのバリスタって、やっぱり俺のことかよ。つか、もう職業決まったのかよ。職業選択の自由はどうなったんだ?
……俺も自分のことバリスタと思っていたけど。それでかまわないけど。
「じゃ、晩ご飯すぐ作るからね」
「今日は何?」
「ハンバーグよ」
さすがに毎日ウナギとかいうわけではないようだ。
俺は自室へ行きジャージに着替えた。しばらく部屋で動画を見たりLINEを返したりしたあと、晩ご飯を食べにリビングへ行った。
今日も親父は遅いらしい。俺と紗希と咲江さんの3人でテーブルを囲んだ。昨日と同じように、和気あいあいトークが始まった。お題は「兄さんのカフェラテ」だ。
「そう、紗希ちゃん、貴樹君のオーガニックブレンド飲んだの」
「うん。お母さんが言ったとおり、美味しかった」
「でしょ? オーガニックは香りが違うのよね。フェロモンで出したのはフレバードっていうんだけど、フレバードはどーしても人工的な味なのよねぇ。量はたっぷりなんだけど……」
昨日に続いて豆トーク。オーガニックでも有機栽培でもどんとこいだ。
「でもちょっと薄かったんじゃない? 紗希ちゃん」
「確かに、ちょっと薄かったかな?」
「昨日フェロモンで搾り取ったあとだもんね。おまけにその後、寝る前もカフェラテしたって朝言ってたし。だよね? 貴樹君」
「えーっと……はい」
そこまで話したのかよ、紗希。
「どんなにお盛んな高校生男子といえど、1日に3回のドリップ。そのうち1回はフェロモンでしょ。さすがにいろいろ間に合わないのよね」
「ふーん……そーなんだ」
紗希と咲江さんが俺のエスプレッソマシンを見た。この人たちにとって、「御影貴樹」「紗希の兄」はマシンのことか?
「ねぇねぇ、お母さん、もう今日はカフェラテ駄目かな?」
「うーん、貴樹君次第かな? どう、貴樹君? 調子はどう?」
「がんばれば……」
メンテナンス次第だ。
「貴樹君、無理はしないでね?」
「だ、大丈夫です」
……まあ、大丈夫だろう。
「サキュバスはね、最低でも週に1回飲めば生命には問題ないの。毎日飲む必要はないってわけ。だけど、3日飲まないと酷く体調が悪くなる。それに毎日飲んだ方がお肌が綺麗になるし、若さが保てるのよ。貴樹君だって、紗希ちゃんが若くて綺麗な方が良いでしょ?」
「え、ええ、まあ」
「だから、できるだけ毎日飲ませてあげてね?」
「……はい」
その後も咲江さんはカフェラテについて「若いバリスタほど粘りがある」「年を取ったバリスタの粘りは減るがコクが出る」「バリスタに美味しいのを抽出して貰うために健康管理に気をつけないと」「バリスタにはとろろ芋とウナギを食べさせるといい」等々、楽しそうに紗希に語った。
……さすがに俺は恐怖を感じた。まるで、俺をバリスタとだけ、提供するカフェラテだけに価値があるかように語る咲江さんに、なんともいえない恐怖を感じたのだ。
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