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第20話 兄は妹と登校する
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「兄さん、遅刻するよーっ!」
紗希の声で目が覚めた。紗希はもうブレザーに着替えていた。それどころか鞄を手にしていた。
「もう7時30分だよ。先に行くね」
「そっか、わかった……って、ええええ! 7時30分!? ちょ、8時1分の電車間に合わねーじゃん! 遅刻じゃないかっ! 何でもっと早く起こしてくれないんだよ!」
「起こしたよ、でも起きなかったんだ」
じゃね、と言って紗希は部屋を出て行った。
「くそ、今日中間テスト2日目だっつーの! 遅刻してテスト受けられなかったらどうなんだよっ!?」
俺は顔も洗わず家を飛び出した。咲江さんが「朝ご飯は?」と言っていたが、食べている暇など無い。時計を見る。今、7時40分ジャストだ。家から駅まで徒歩22分、改札から駅のホームまで1分程度はかかるからホームに着くのは8時3分。間に合わない。
「くそ、走るか!」
寝起きでいきなり走ったので脇腹が痛い。おまけに朝の歩道は通勤通学の人混みで走りにくい。車道には傍若無人な自転車通学中学生。
「ふひっ、ふひっ、ぷはーっ!」
「あら、兄さん。間に合ったんだ」
辛うじて所定の電車に間に合った。ロングシートに紗希が座っていた。
「ああ、そうだ。めっちゃ走った。脇腹痛てえよ」
「隣空いてるよ、座る?」
「ああ」
俺は紗希の隣に座った。
「息荒いね。兄さん」
紗希がクスッと笑った。
「紗希のせいだぞ。ちゃんと起こさないから」
「ちがうもーん」
「じゃ、なんだよ」
紗希がニヤニヤ笑った。
「兄さん、耳貸して」
「おう」
俺は紗希の口元に耳を寄せた。
「カフェラテで疲れたんでしょ?」
「どういう意味だ?」
「3回も出してくれたんだものね、疲れるよ」
「……なんでわかるんだ?」
「ん? お母さんがね、言ってたの。1回出すだけでも男の人は結構疲れるって。御影さんは1日1回しかカフェラテできないんだって」
「フアッ!?」
「もう、声大きい!」
俺たちの前に立っている若い小太りサラリーマンが舌打ちした。「朝からイチャイチャしやがって」「高校生カップルの分際で」「爆発しろ」とかなんとかブツブツ言ってる。
「カップルだって。そう見えるのかな?」
「ど、どうだろう」
「ふふ。面白いね。もっとカップルぽくくっついちゃう?」
「やめとけ。あのおっさん、目がやばい」
紗希、今日ははしゃいでいるな。あ、あれだ。昨日、俺のカフェラテを3度も「ごっくん」したからだ。いくら深入りエスプレッソローストしたイタリアンな豆でも、カフェインあるものな。カフェインの興奮作用だろう。
「着いたな」
「うん」
電車が減速。扉が開いた。電車を降り、改札を抜ける。
紗希との同伴登校はここまでだ。このあとはクラスメイトと登校するのだ。
「ね、試験中だから今日部活ないよね?」
「もちろん、無い」
「一緒に帰ろ。だめ?」
「ああ」
「じゃ、下駄箱で待ってるね」
紗希はクラスメイトと合流して一緒に学校へ向かった。
「女子ってなぜかつるむよなあ。なあ、貴樹兄さん?」
後から話しかけてきたのは同じ中学出身の青木だった。こいつも毎朝同じ電車で登校しているが、同じ車両になったことはない。
「いつから俺はお前の兄になったんだ?」
「ん? 10年後くらい?」
青木がうっとりとした目で紗希を見る。友人と前を歩く紗希を目で追っているのだ。
「紗希ちゃんかわいいよなあ。お前がその存在をひた隠しにしていたのもよくわかるよ、うん」
「隠していたわけじゃない」
「全寮制私立中学校に通っていただけ、だろ?」
「そう」
青木は俺と紗希が実の兄妹だと思っている。青木には「紗希は中学まで都会の全寮制女子校だった」と説明してある。だから中学時代、青木が俺の家に遊びに来ても紗希がいなかったことを不審がることもない。
「……全寮制か。ああ、中学時代の紗希ちゃん、見たかったなあ」
「毎朝同じこと言って、飽きないか?」
「飽きるわけないだろ、貴樹兄さん」
「だから『兄さん』てのやめろって」
「いいじゃんかよ。俺、マジで紗希ちゃんと結婚したいんだよ。そしたらお前、俺の兄さんだろ?」
「それだけはごめんだ」
「なあ、貴樹よ。紗希ちゃんてさ、めっちゃ清楚じゃん? なのにあのセクシーなケツ」
青木が紗希の臀部を指さした。
「ぷりんぷりんだよなあ。超エロい。結婚したら毎晩エッチなんだろ? たまらん。……あ。勃起してきた」
「……怒るぞ」
俺は青木のケツを蹴った。
「悪ぃ悪ぃ。でも、俺、わりと本気だからな? そのうちマジ告白するかもだぜ?」
「はいはい」
青木のケツや肩をゲシゲシ攻撃していると、学校に着いた。
「俺、今日日直なんだ。職員室で日直日誌取ってくるわ」と青木。
「おう」と俺。
青木と別れ、俺は自分の教室へ行った。
紗希の声で目が覚めた。紗希はもうブレザーに着替えていた。それどころか鞄を手にしていた。
「もう7時30分だよ。先に行くね」
「そっか、わかった……って、ええええ! 7時30分!? ちょ、8時1分の電車間に合わねーじゃん! 遅刻じゃないかっ! 何でもっと早く起こしてくれないんだよ!」
「起こしたよ、でも起きなかったんだ」
じゃね、と言って紗希は部屋を出て行った。
「くそ、今日中間テスト2日目だっつーの! 遅刻してテスト受けられなかったらどうなんだよっ!?」
俺は顔も洗わず家を飛び出した。咲江さんが「朝ご飯は?」と言っていたが、食べている暇など無い。時計を見る。今、7時40分ジャストだ。家から駅まで徒歩22分、改札から駅のホームまで1分程度はかかるからホームに着くのは8時3分。間に合わない。
「くそ、走るか!」
寝起きでいきなり走ったので脇腹が痛い。おまけに朝の歩道は通勤通学の人混みで走りにくい。車道には傍若無人な自転車通学中学生。
「ふひっ、ふひっ、ぷはーっ!」
「あら、兄さん。間に合ったんだ」
辛うじて所定の電車に間に合った。ロングシートに紗希が座っていた。
「ああ、そうだ。めっちゃ走った。脇腹痛てえよ」
「隣空いてるよ、座る?」
「ああ」
俺は紗希の隣に座った。
「息荒いね。兄さん」
紗希がクスッと笑った。
「紗希のせいだぞ。ちゃんと起こさないから」
「ちがうもーん」
「じゃ、なんだよ」
紗希がニヤニヤ笑った。
「兄さん、耳貸して」
「おう」
俺は紗希の口元に耳を寄せた。
「カフェラテで疲れたんでしょ?」
「どういう意味だ?」
「3回も出してくれたんだものね、疲れるよ」
「……なんでわかるんだ?」
「ん? お母さんがね、言ってたの。1回出すだけでも男の人は結構疲れるって。御影さんは1日1回しかカフェラテできないんだって」
「フアッ!?」
「もう、声大きい!」
俺たちの前に立っている若い小太りサラリーマンが舌打ちした。「朝からイチャイチャしやがって」「高校生カップルの分際で」「爆発しろ」とかなんとかブツブツ言ってる。
「カップルだって。そう見えるのかな?」
「ど、どうだろう」
「ふふ。面白いね。もっとカップルぽくくっついちゃう?」
「やめとけ。あのおっさん、目がやばい」
紗希、今日ははしゃいでいるな。あ、あれだ。昨日、俺のカフェラテを3度も「ごっくん」したからだ。いくら深入りエスプレッソローストしたイタリアンな豆でも、カフェインあるものな。カフェインの興奮作用だろう。
「着いたな」
「うん」
電車が減速。扉が開いた。電車を降り、改札を抜ける。
紗希との同伴登校はここまでだ。このあとはクラスメイトと登校するのだ。
「ね、試験中だから今日部活ないよね?」
「もちろん、無い」
「一緒に帰ろ。だめ?」
「ああ」
「じゃ、下駄箱で待ってるね」
紗希はクラスメイトと合流して一緒に学校へ向かった。
「女子ってなぜかつるむよなあ。なあ、貴樹兄さん?」
後から話しかけてきたのは同じ中学出身の青木だった。こいつも毎朝同じ電車で登校しているが、同じ車両になったことはない。
「いつから俺はお前の兄になったんだ?」
「ん? 10年後くらい?」
青木がうっとりとした目で紗希を見る。友人と前を歩く紗希を目で追っているのだ。
「紗希ちゃんかわいいよなあ。お前がその存在をひた隠しにしていたのもよくわかるよ、うん」
「隠していたわけじゃない」
「全寮制私立中学校に通っていただけ、だろ?」
「そう」
青木は俺と紗希が実の兄妹だと思っている。青木には「紗希は中学まで都会の全寮制女子校だった」と説明してある。だから中学時代、青木が俺の家に遊びに来ても紗希がいなかったことを不審がることもない。
「……全寮制か。ああ、中学時代の紗希ちゃん、見たかったなあ」
「毎朝同じこと言って、飽きないか?」
「飽きるわけないだろ、貴樹兄さん」
「だから『兄さん』てのやめろって」
「いいじゃんかよ。俺、マジで紗希ちゃんと結婚したいんだよ。そしたらお前、俺の兄さんだろ?」
「それだけはごめんだ」
「なあ、貴樹よ。紗希ちゃんてさ、めっちゃ清楚じゃん? なのにあのセクシーなケツ」
青木が紗希の臀部を指さした。
「ぷりんぷりんだよなあ。超エロい。結婚したら毎晩エッチなんだろ? たまらん。……あ。勃起してきた」
「……怒るぞ」
俺は青木のケツを蹴った。
「悪ぃ悪ぃ。でも、俺、わりと本気だからな? そのうちマジ告白するかもだぜ?」
「はいはい」
青木のケツや肩をゲシゲシ攻撃していると、学校に着いた。
「俺、今日日直なんだ。職員室で日直日誌取ってくるわ」と青木。
「おう」と俺。
青木と別れ、俺は自分の教室へ行った。
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