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第16話 妹は兄にキスをした
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「今の……一体何だったの? なんか、すっごい熱くて……たくさんで……濃ゆくて……」
「紗希ちゃんにも教えておかないとね……。サキュバス・フェロモンの恐ろしさを」
慎重な面持ちで咲江さんが言った。
「サキュバス・フェロモン?」
俺と紗希が同時にユニゾンで言った。
「そう。サキュバス・フェロモン。サキュバスは強力なフェロモンを出すことが出来るの。そのフェロモンはね……」
咲江さんが教えてくれたフェロモンの秘密は想像を、そしてネットのまとめサイトの説明を超えていた。そして、あまりにも……常識外れだったため、俺の能力では言語化できない。
ただ言えることは、スプレッソマシンの限界を突破させる魔法の有機化合物ということだ。
「というわけでね、サキュバスのフェロモンは強制的に圧を高め、おびただしい量のカフェラテを提供させる、禁断のブーストマジックなの。一度マジックにかかったら……サキュバスの唾液で速やかに冷却しつつ、優しくカフェラテを抽出しないと……壊れちゃうの」
「……うーんよくわかんないなあ」
紗希は頭を抱える。俺もよくわからない。
「つまり、サキュバス・フェロモンを浴びたら、命の危険があるってこと」
咲江さんが俺のマシンに手を当てた。
……ちょ! あの!
「圧と温度は下がったようね。さっきまで触れないくらい熱があったのよ。圧だってすごかったわ。びっくんびっくんの、どっくんどっくんったのよ! 一刻も早くサキュバスの唾液で冷却しつつ抽出する必要があったのよ」
「……サキュバスの唾液?」
ゆっくり起き上がりながら俺が咲江さんに聞いた。なお、ズボンはまだ履いてない。パンツもだ。マシンは露出中。かつ咲江さんが握っている。
「お母さん、手」
しびれを切らせた紗希が言った。
「ごめんごめん。紗希ちゃんのだったね、これ」
名残惜しそうに咲江さんが俺のエスプレッソマシンから手を離した。
「とりあえず覚えておいて。サキュバス・フェロモンで過熱したのを冷却できるのはサキュバスの唾液だけ。そして圧を下げることができるのはサキュバスのドリップ。これしか方法がないのよ」
えーと、唾液で冷却しながらドリップって……。ああ、そういうことですか。
じゅぽじゅぽ、どぴ、ごっくん、ね。なるほど。だから、紗希がお口の周りをティッシュで拭いているのか……。
「でも、どうしてそんな危険なフェロモンをサキュバスは出すの?」
紗希が聞く。
「このフェロモンはね、少しだけだったら、抽出能力を高めることで、通常より濃くて新鮮で、それでいて多めのミルクたっぷりカフェラテをサキュバスに提供できるようになるのよ。普通はね……」
咲江さんがじーっと俺の瞳を覗き込んだ。
「……ここから先は、母さんと貴樹君だけにしてくれるかな? 紗希ちゃん」
「なんで?」
「ちょっとデリケートな話だから」
「うん、わかった。……絶対、兄さんのカフェラテ飲まないでね、お母さん。さっき飲もうとしたでしょ!?」
「あれは緊急事態だったからよ」
「そのあとも握ってたじゃん」
「あれは状態のチェックよ。圧の膨張は危険なのよ? 暴発したら大変。下手すると貴樹君死んでしまうのよ?」
確かに。高温高圧、エスプレッソマシンをなめてはいけない。エスプレッソマシンといえども事故はあるのだ。たぶん。しらんけど。
「……と、とにかく、兄さんは、紗希の兄さんなんだからねっ!」
紗希が俺のマシンを指差しながら言った。俺じゃないのかよ。
「わかっているわよ、紗希ちゃん」
咲江さんが笑う。紗希がぐいっと俺に顔を寄せてきた。近い。近いぞ、紗希。
「兄さん、お母さんにカフェラテ出さないでよ?」
「あ、あたりまえだろ!?」
「よかった。……あ、あのね、兄さん」
「なんだ?」
「……さっきのミルクね。すーーーーっごい、たくさんだったの! おまけにどろっどろっでネバネバで、飲み込むのも大変だったの!」
「そ、そうか……それは悪かったな」
「ううん、違うの! 美味しかった! カスピ海ヨーグルトってあるじゃん? あんな感じだったの。だからお礼が言いたかったの! 兄さんのカフェラテ、最高だな!」
「ははは……。俺は紗希の兄さんだからな。紗希のためなら……がんばるさ」
「うん! もう、スタバもびっくりだよ!」
「そっか。スタバを超えたな、俺。じゃ、スタバに対抗して、スタバ発祥の地シアトルでカフェ開くか!」
「ふふ。それもいいかもね。あ、でもお客さんは紗希だけだよ?」
「あたりまえさ!」
「ありがと、兄さん。私、兄さん大好きっ!」
紗希の顔が急速に大きくなる。
ちゅ。
紗希の唇が俺の唇に重なる。柔らかい唇。ピンクの唇。それが俺の唇と重なった。粘膜と粘膜のふれあい。すでの俺の他の粘膜とは接触した紗希の唇。
コンマ数秒の接触。そして糸を引いて離れる唇。
「……あっ!」
紗希の顔が真っ赤になる。咲江さんは何も言わず紗希の顔をじっと見つめる。
「ち、違うから! 好きとか、そう言うのじゃないから! お、お礼だから! ア、アメリカとかだと普通だし! シ、シアトルに行く練習だし!」
いや、アメリカのシアトルだろうがニューヨークだろうが、家族同士のキスはほっぺとかおでこであって、唇同士は恋仲でないとやらないんじゃないか……。
「私、勉強するから!」
そう言って紗希は風呂場を飛び出し、自室へ戻った。俺はそっとパンツとズボンを履いた。
「紗希ちゃんにも教えておかないとね……。サキュバス・フェロモンの恐ろしさを」
慎重な面持ちで咲江さんが言った。
「サキュバス・フェロモン?」
俺と紗希が同時にユニゾンで言った。
「そう。サキュバス・フェロモン。サキュバスは強力なフェロモンを出すことが出来るの。そのフェロモンはね……」
咲江さんが教えてくれたフェロモンの秘密は想像を、そしてネットのまとめサイトの説明を超えていた。そして、あまりにも……常識外れだったため、俺の能力では言語化できない。
ただ言えることは、スプレッソマシンの限界を突破させる魔法の有機化合物ということだ。
「というわけでね、サキュバスのフェロモンは強制的に圧を高め、おびただしい量のカフェラテを提供させる、禁断のブーストマジックなの。一度マジックにかかったら……サキュバスの唾液で速やかに冷却しつつ、優しくカフェラテを抽出しないと……壊れちゃうの」
「……うーんよくわかんないなあ」
紗希は頭を抱える。俺もよくわからない。
「つまり、サキュバス・フェロモンを浴びたら、命の危険があるってこと」
咲江さんが俺のマシンに手を当てた。
……ちょ! あの!
「圧と温度は下がったようね。さっきまで触れないくらい熱があったのよ。圧だってすごかったわ。びっくんびっくんの、どっくんどっくんったのよ! 一刻も早くサキュバスの唾液で冷却しつつ抽出する必要があったのよ」
「……サキュバスの唾液?」
ゆっくり起き上がりながら俺が咲江さんに聞いた。なお、ズボンはまだ履いてない。パンツもだ。マシンは露出中。かつ咲江さんが握っている。
「お母さん、手」
しびれを切らせた紗希が言った。
「ごめんごめん。紗希ちゃんのだったね、これ」
名残惜しそうに咲江さんが俺のエスプレッソマシンから手を離した。
「とりあえず覚えておいて。サキュバス・フェロモンで過熱したのを冷却できるのはサキュバスの唾液だけ。そして圧を下げることができるのはサキュバスのドリップ。これしか方法がないのよ」
えーと、唾液で冷却しながらドリップって……。ああ、そういうことですか。
じゅぽじゅぽ、どぴ、ごっくん、ね。なるほど。だから、紗希がお口の周りをティッシュで拭いているのか……。
「でも、どうしてそんな危険なフェロモンをサキュバスは出すの?」
紗希が聞く。
「このフェロモンはね、少しだけだったら、抽出能力を高めることで、通常より濃くて新鮮で、それでいて多めのミルクたっぷりカフェラテをサキュバスに提供できるようになるのよ。普通はね……」
咲江さんがじーっと俺の瞳を覗き込んだ。
「……ここから先は、母さんと貴樹君だけにしてくれるかな? 紗希ちゃん」
「なんで?」
「ちょっとデリケートな話だから」
「うん、わかった。……絶対、兄さんのカフェラテ飲まないでね、お母さん。さっき飲もうとしたでしょ!?」
「あれは緊急事態だったからよ」
「そのあとも握ってたじゃん」
「あれは状態のチェックよ。圧の膨張は危険なのよ? 暴発したら大変。下手すると貴樹君死んでしまうのよ?」
確かに。高温高圧、エスプレッソマシンをなめてはいけない。エスプレッソマシンといえども事故はあるのだ。たぶん。しらんけど。
「……と、とにかく、兄さんは、紗希の兄さんなんだからねっ!」
紗希が俺のマシンを指差しながら言った。俺じゃないのかよ。
「わかっているわよ、紗希ちゃん」
咲江さんが笑う。紗希がぐいっと俺に顔を寄せてきた。近い。近いぞ、紗希。
「兄さん、お母さんにカフェラテ出さないでよ?」
「あ、あたりまえだろ!?」
「よかった。……あ、あのね、兄さん」
「なんだ?」
「……さっきのミルクね。すーーーーっごい、たくさんだったの! おまけにどろっどろっでネバネバで、飲み込むのも大変だったの!」
「そ、そうか……それは悪かったな」
「ううん、違うの! 美味しかった! カスピ海ヨーグルトってあるじゃん? あんな感じだったの。だからお礼が言いたかったの! 兄さんのカフェラテ、最高だな!」
「ははは……。俺は紗希の兄さんだからな。紗希のためなら……がんばるさ」
「うん! もう、スタバもびっくりだよ!」
「そっか。スタバを超えたな、俺。じゃ、スタバに対抗して、スタバ発祥の地シアトルでカフェ開くか!」
「ふふ。それもいいかもね。あ、でもお客さんは紗希だけだよ?」
「あたりまえさ!」
「ありがと、兄さん。私、兄さん大好きっ!」
紗希の顔が急速に大きくなる。
ちゅ。
紗希の唇が俺の唇に重なる。柔らかい唇。ピンクの唇。それが俺の唇と重なった。粘膜と粘膜のふれあい。すでの俺の他の粘膜とは接触した紗希の唇。
コンマ数秒の接触。そして糸を引いて離れる唇。
「……あっ!」
紗希の顔が真っ赤になる。咲江さんは何も言わず紗希の顔をじっと見つめる。
「ち、違うから! 好きとか、そう言うのじゃないから! お、お礼だから! ア、アメリカとかだと普通だし! シ、シアトルに行く練習だし!」
いや、アメリカのシアトルだろうがニューヨークだろうが、家族同士のキスはほっぺとかおでこであって、唇同士は恋仲でないとやらないんじゃないか……。
「私、勉強するから!」
そう言って紗希は風呂場を飛び出し、自室へ戻った。俺はそっとパンツとズボンを履いた。
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