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24・すみません、いつもの!
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旅は楽しいものでした。何しろ私が乗っていた生き物は、魔物の中でも頂点に立つドラゴンなのですから。行く先々で盛大な歓迎を受け、世界は地図で見るよりもずっと広いのだと改めて実感したのでした。
初めに向かったのは海でした。
私はまだ海を見たことがありませんでしたので、モモちゃんの誘われてあのどこまでも続くキラめく青い絨毯を見た時には、思わず鳥肌が立ったものです。
(あの島はね、魔物しか住んでいないのだけど、とっても良いものがあるんだよ!)
海の上をしばらく飛行して辿り着いたのは、頂上が青の氷で覆われていて、まるでクリスタルを頂く冠のような形をしている大きな無人島でした。断崖絶壁に囲まれていて、これまで見たことが無い程の標高をほこる険しい山が中央にあり、私とモモちゃんはゆっくりとその頂きを目指します。
近づいてみると、氷だと思っていたのは何とお城の形を成していました。しかし、王都にあるお城と異なるのは、窓や扉が無い無防備な建造物だったのです。モモちゃんは、そのお城のお庭と思しきところへ着陸すると、首を地面に横たえて私を下ろしてくれました。さて、魔物しかいないということですが、こんな所へ勝手に入り込んでしまって無事でいられるのでしょうか? 不安になった私がモモちゃんの方を返り見ると、モモちゃんは器用に後ろ足で自分のお腹を掻きながら、こんなことを言いました。
(すみません。いつもの!)
いつもの?! まるで、下町の路地裏にある飲み屋で、宵越しの金を持たない主義の冒険者がお酒を注文する時のようなノリです。すると、お城の中から白くて大きな生き物が顔を出しました。巨大な鳥のような形をしていますが、何本にも分かれた長い尾は扇のように広がっていて、大変華麗です。頭の上にもしなやかで、少し光沢のある白いトサカがピンっと空へ向かって立っておりました。まるで貴婦人の帽子によくある羽飾りのようです。
このように凝視しすぎたのがいけなかったのでしょうか。私は白い鳥さんに睨まれてしまいました。黄金の釣り上がった瞳。細長い瞳孔。私、モモちゃん以外の魔物に急接近する経験はこれが初めてです。少し怖くなって、ついつい後ずさりをしてしまいました。
(ん? あ、こっちはボクの新しいママで、ティラミスだよ。よろしくね!)
すかさずモモちゃんが私を紹介をしてくれます。白い鳥さんは、仕方ないなとでも言うように溜息をつくと、またお城の中に入ってしまいました。
「モモちゃん。あの鳥さんは何しに行ったの?」
(すぐに分かるよ)
しばらくの間、モモちゃんの羽にくっついて気持ちを落ち着かせていると、お城の中から再び生き物の気配が近づいてまいりました。同時に、たくさんの羽音も聞こえます。そして出てきたのは、なんと人だったのです!
取り巻きのように、白い鳥達を背後に従えています。名付けるならば、ザ・貴公子。全て赤系でコーディネートされたご衣装なのですが、今王都で流行りの控えめのレースのシャツに光沢感のある美しいタイをつけていて、なかなかにポイントを押さえていらっしゃきます。さらには、風格のある丈の長いコートを羽織っえいるその人物は、燃えるように赤い髪をしていらっしゃいました。
「ようこそ、ティラミスさん。あなたは我が城にいらっしゃった初めての人間です」
え? では、あなたは人間ではないの?
「そうです。私達はフェニックスの末裔。遠い昔、炎から生まれた我らは、何度でも生命が再生するというこの体質を隠すために進化を続けてまいりました。そして、日頃は無害そうな鳥の姿をとり、人間の姿にも変身できるようになったのです」
すごい。魔物って進化するのですね!
「はい。我らも、首を跳ねられるなどしましたら、さすがに生命は再生しませんから。人間共の研究対象に成り下がるわけにはいきません。再生は、天寿を全うした者だけに備わる性質なのです」
なるほど。って、あれ……?
「あなた、もしかして私の考えていることが分かるんですの?」
「もちろん。そこの子竜と同じく、我らは魔物の中でも上位種ですから」
それにしても耳障りの良いうっとりするようなお声。このような弦楽器があるならば、ずっと楽士に演奏させても良いと思えるぐらいです。
(この方はフェニックス属の王で、バベキュ様だよ。バベキュ様、ママがこれからお家に帰るんだけど、何かお土産を用意欲いんだって。だから、例のものを……)
「竜と親子の契りを交わすとは……奇特な人間も居るものだな。私もこの世に何度も生まれ直して久しいが、ここまで魔物と友好的に渡り合う者など初めて見たぞ」
褒められているのか貶されているのか分かりませんが、これでも私は伯爵令嬢。凛と済ました顔でやり過ごします。
「よし。モモと名付けられた子竜に免じて、我が一族の羽を特別に授けよう。魔力と合わせて使うと、必ずや其方の病や怪我が立ち所に回復するであろう」
(前にね、まだボクに本当のパパとママがいた頃、ボクが怪我した時にここへ来て、羽をお裾分けしてもらったことがあるんだ。すぐに元気になれるんだよ!あ、あれ……)
モモちゃんは、いつの間にか涙を浮かべています。そうですね。この子はママを亡くし、ピンクドラゴン一族を亡くし、本当はとても傷ついているのです。なのに、いつも気丈に振舞って私を応援してくれるモモちゃん。貰い泣きしそうになって、こちらまで上を見上げていなければ涙が溢れそうになってしまいます。私はこっそりと鼻水を啜りました。
「モモちゃん。これからは私がママよ。心配しないで。もう一人じゃない。ずっと私と一緒ですわ!」
私はモモちゃんの首に抱きついてギュッとします。モモちゃんは甘い声でキュイキュイ鳴きました。そんな私達をフェニックス一族は穏やかな眼差しで見守ります。
「うむ。やはり其方は面白いな。普通人間というものは、何の理由もなく、ただ魔物であるというだけで適認定し、襲ってくるものだというのに」
王のバベキュ様は、一人大きく頷きました。
「よし! 決めた。我ら一族はしばらく其方と行動を共にしよう。こんな秘境に引き篭もっていても楽しいことなど何もないのだ。久方ぶりに人間の街にでも繰り出そうではないか、皆の者!」
バベキュ様が張り上げた声に、周囲の白い大きな鳥達は各々長い首を天に向けて突き上げて、鬨(とき)の声をあげます。
「ティラミスとやら。私は前々から其方のような面白い友を作りたいと思っていたのだ。私のことはバベキュと呼ぶが良い。人間の生命は短いが、その間十分楽しませてもらうぞ」
そうして私は、バベキュとモモちゃんに誘われて、砂漠とジャングルを経由した上で、パーフェ領へと向かったのでした。
初めに向かったのは海でした。
私はまだ海を見たことがありませんでしたので、モモちゃんの誘われてあのどこまでも続くキラめく青い絨毯を見た時には、思わず鳥肌が立ったものです。
(あの島はね、魔物しか住んでいないのだけど、とっても良いものがあるんだよ!)
海の上をしばらく飛行して辿り着いたのは、頂上が青の氷で覆われていて、まるでクリスタルを頂く冠のような形をしている大きな無人島でした。断崖絶壁に囲まれていて、これまで見たことが無い程の標高をほこる険しい山が中央にあり、私とモモちゃんはゆっくりとその頂きを目指します。
近づいてみると、氷だと思っていたのは何とお城の形を成していました。しかし、王都にあるお城と異なるのは、窓や扉が無い無防備な建造物だったのです。モモちゃんは、そのお城のお庭と思しきところへ着陸すると、首を地面に横たえて私を下ろしてくれました。さて、魔物しかいないということですが、こんな所へ勝手に入り込んでしまって無事でいられるのでしょうか? 不安になった私がモモちゃんの方を返り見ると、モモちゃんは器用に後ろ足で自分のお腹を掻きながら、こんなことを言いました。
(すみません。いつもの!)
いつもの?! まるで、下町の路地裏にある飲み屋で、宵越しの金を持たない主義の冒険者がお酒を注文する時のようなノリです。すると、お城の中から白くて大きな生き物が顔を出しました。巨大な鳥のような形をしていますが、何本にも分かれた長い尾は扇のように広がっていて、大変華麗です。頭の上にもしなやかで、少し光沢のある白いトサカがピンっと空へ向かって立っておりました。まるで貴婦人の帽子によくある羽飾りのようです。
このように凝視しすぎたのがいけなかったのでしょうか。私は白い鳥さんに睨まれてしまいました。黄金の釣り上がった瞳。細長い瞳孔。私、モモちゃん以外の魔物に急接近する経験はこれが初めてです。少し怖くなって、ついつい後ずさりをしてしまいました。
(ん? あ、こっちはボクの新しいママで、ティラミスだよ。よろしくね!)
すかさずモモちゃんが私を紹介をしてくれます。白い鳥さんは、仕方ないなとでも言うように溜息をつくと、またお城の中に入ってしまいました。
「モモちゃん。あの鳥さんは何しに行ったの?」
(すぐに分かるよ)
しばらくの間、モモちゃんの羽にくっついて気持ちを落ち着かせていると、お城の中から再び生き物の気配が近づいてまいりました。同時に、たくさんの羽音も聞こえます。そして出てきたのは、なんと人だったのです!
取り巻きのように、白い鳥達を背後に従えています。名付けるならば、ザ・貴公子。全て赤系でコーディネートされたご衣装なのですが、今王都で流行りの控えめのレースのシャツに光沢感のある美しいタイをつけていて、なかなかにポイントを押さえていらっしゃきます。さらには、風格のある丈の長いコートを羽織っえいるその人物は、燃えるように赤い髪をしていらっしゃいました。
「ようこそ、ティラミスさん。あなたは我が城にいらっしゃった初めての人間です」
え? では、あなたは人間ではないの?
「そうです。私達はフェニックスの末裔。遠い昔、炎から生まれた我らは、何度でも生命が再生するというこの体質を隠すために進化を続けてまいりました。そして、日頃は無害そうな鳥の姿をとり、人間の姿にも変身できるようになったのです」
すごい。魔物って進化するのですね!
「はい。我らも、首を跳ねられるなどしましたら、さすがに生命は再生しませんから。人間共の研究対象に成り下がるわけにはいきません。再生は、天寿を全うした者だけに備わる性質なのです」
なるほど。って、あれ……?
「あなた、もしかして私の考えていることが分かるんですの?」
「もちろん。そこの子竜と同じく、我らは魔物の中でも上位種ですから」
それにしても耳障りの良いうっとりするようなお声。このような弦楽器があるならば、ずっと楽士に演奏させても良いと思えるぐらいです。
(この方はフェニックス属の王で、バベキュ様だよ。バベキュ様、ママがこれからお家に帰るんだけど、何かお土産を用意欲いんだって。だから、例のものを……)
「竜と親子の契りを交わすとは……奇特な人間も居るものだな。私もこの世に何度も生まれ直して久しいが、ここまで魔物と友好的に渡り合う者など初めて見たぞ」
褒められているのか貶されているのか分かりませんが、これでも私は伯爵令嬢。凛と済ました顔でやり過ごします。
「よし。モモと名付けられた子竜に免じて、我が一族の羽を特別に授けよう。魔力と合わせて使うと、必ずや其方の病や怪我が立ち所に回復するであろう」
(前にね、まだボクに本当のパパとママがいた頃、ボクが怪我した時にここへ来て、羽をお裾分けしてもらったことがあるんだ。すぐに元気になれるんだよ!あ、あれ……)
モモちゃんは、いつの間にか涙を浮かべています。そうですね。この子はママを亡くし、ピンクドラゴン一族を亡くし、本当はとても傷ついているのです。なのに、いつも気丈に振舞って私を応援してくれるモモちゃん。貰い泣きしそうになって、こちらまで上を見上げていなければ涙が溢れそうになってしまいます。私はこっそりと鼻水を啜りました。
「モモちゃん。これからは私がママよ。心配しないで。もう一人じゃない。ずっと私と一緒ですわ!」
私はモモちゃんの首に抱きついてギュッとします。モモちゃんは甘い声でキュイキュイ鳴きました。そんな私達をフェニックス一族は穏やかな眼差しで見守ります。
「うむ。やはり其方は面白いな。普通人間というものは、何の理由もなく、ただ魔物であるというだけで適認定し、襲ってくるものだというのに」
王のバベキュ様は、一人大きく頷きました。
「よし! 決めた。我ら一族はしばらく其方と行動を共にしよう。こんな秘境に引き篭もっていても楽しいことなど何もないのだ。久方ぶりに人間の街にでも繰り出そうではないか、皆の者!」
バベキュ様が張り上げた声に、周囲の白い大きな鳥達は各々長い首を天に向けて突き上げて、鬨(とき)の声をあげます。
「ティラミスとやら。私は前々から其方のような面白い友を作りたいと思っていたのだ。私のことはバベキュと呼ぶが良い。人間の生命は短いが、その間十分楽しませてもらうぞ」
そうして私は、バベキュとモモちゃんに誘われて、砂漠とジャングルを経由した上で、パーフェ領へと向かったのでした。
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