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7・騎士様は本気
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ココアはすぐに詳しく話してくれました。なんと、その場所はお兄様のお部屋の天井裏に繋がっているとのこと。ココアが何を企んでそんな場所に汗シャツを保管しようとしていたのかは気になりますが、先見の明がありますね! 後は、いかにしてお兄様とラメーン様を引き合せ、事に及んでもらうかです。
「ラメーン様、何か良い考えはお持ちかしら?」
念のため尋ねてみます。
「善は急げだ。決行は今夜にしよう。まず、私が一度屋敷に帰ったという工作が必要だろう。今夜はこのまま泊まれるような適当な理由が無いからな。では、カプチーノ!」
「は、はい!」
突然ラメーン様に名前を呼ばれて、カプチーノは文字通り飛び上がって驚いています。器用な侍女です。
「確かカプチーノの父親はこの屋敷の庭師をしているな。私とそれ程変わらぬ背格好だったかと記憶している」
ラメーン様、なぜうちの使用人のことにまで詳しいの?! もしかして、前からお兄様のパートナーの座を狙ってうちの屋敷のことを下調べしていたのかしら。なぁんて、考えすぎよね?
「はい。顔や髪、肌の色、品格等以外はその通りにございます」
「ならば、私の影武者として私の屋敷に向かってもらおう。私の家紋入りマントを羽織って馬車にでも乗れば、誰も気付かぬはず」
「でも、それではラメーン様のお屋敷の方が訝しく思うのでは」
「それは、また別の手を打つので問題ない。それから、後程カカオ殿に手紙を書くのでパプリカ経由で渡してくれ。次に、ティラミス!」
「は、はい!」
カプチーノのことは言えません。私も完全に仕事モードのスイッチが入ったラメーン様に名前を呼ばれると、自然と背筋が伸びました。
「夜更けまでは、すまぬがティラミス嬢の部屋で私を匿ってほしい。カプチーノも、いいな?」
「はい。かしこまりました!」
「そして、ココア嬢。この後、その場所の下見に連れていってほしい。敵からの襲撃を受ける心配が無いか、念のため確認をしておきたい」
敵とは何でしょうか。うちの両親ですか? いつの間にか鎧を脱いでいたココアはドンッと胸を拳で叩き、任せてくださいとばかりにおっぱいを前に突き出していました。はい。女性であっても目に毒です。
「作戦会議は以上だ。それでは皆、健闘を祈る。解散!」
「おー!」
ラメーン様の声に呼応して、私、ココア、カプチーノの三人は腕を天井に突き上げました。
いいのですよ、これで。でもどこかおかしいと思う私は、この中で一番の常識人だからにちがいありません。
そして、夜になりました。私は体調が優れないと嘘をついてお部屋でお食事。持ち込んだお料理はラメーン様と半分こです。半分以上は譲れません。夜中にお腹が空きますでしょう?
一応臥せっていることになっている私の部屋には誰も来ません。お父様は王城へお仕事に出かけていてお忙しくしています。お母様は『お腹出して寝ちゃダメよ』という何とも頼りないアドバイスを記した短いお手紙をカプチーノに持たせてくださっただけ。お母様は、新しい本の執筆にお忙しいのです。どんな本か尋ねてみると「大きくなったらね」とおっしゃっていました。でもごめんなさい、お母様。私は既に、カプチーノやパプリカにその手の大人向けの本を借りて、いろいろとお勉強済みなのです。むふふ。
私は湯浴みを済ませて、肌触りの良いシルクのネグリジェを身に纏いました。そろそろと天蓋付きベッドに近づくと、布団の中で身を潜めていたラメーン様に声をかけます。
「ラメーン様」
「ティラミス嬢、今夜も美しいね。その儚げな姿が月の光に溶けてしまわないかと不安になる」
「まぁ、ラメーン様。これからは私にそのような甘い言葉をおかけになってはなりませんよ。今夜からはカカオお兄様だけを見ていただかないと」
「そうだったね」
ラメーン様は、私の髪をひと房手に取りました。そして、名残惜しそうに私の顎の輪郭を指先でなぞります。まるで恋人にするかのような行為。私はお兄様一筋なので、これがお兄様の指だったらと思わずにはいられません。もしこんな夜更けにお兄様と二人きりになれば、禁断の道に走る自信があります。もしかすると、ラメーン様もまた、私の姿にお兄様を重ねているのかもしれません。もしお兄様が私のような令嬢でしたら、全てが丸く収まりましたのに。お互いの瞳に、切なさの光が宿ります。
「ラメーン様、お兄様のことをよろしくお願い申し上げます」
「……任せろ。ありがとう、ティラミス」
私は、音を立てぬように部屋の窓を開けました。ふっと夜風が通り抜けて髪がそよぎます。ラメーン様は一度小さく頷くと、窓から猫のような身軽さで出ていきました。急に部屋の気温が下がったような気がして、窓はすぐに閉めました。
さて。ラメーン様は無事にカカオお兄様を口説くことができるでしょうか。私は親切で大変気の利く妹なので、部屋に潜んでいる間に暇を持て余しているラメーン様へ素敵な参考書を渡しておりました。カプチーノとパプリカの愛読書である薄い本です。私はそれらが早速役に立つことを夜空に輝くお星様に祈りました。
「ラメーン様、何か良い考えはお持ちかしら?」
念のため尋ねてみます。
「善は急げだ。決行は今夜にしよう。まず、私が一度屋敷に帰ったという工作が必要だろう。今夜はこのまま泊まれるような適当な理由が無いからな。では、カプチーノ!」
「は、はい!」
突然ラメーン様に名前を呼ばれて、カプチーノは文字通り飛び上がって驚いています。器用な侍女です。
「確かカプチーノの父親はこの屋敷の庭師をしているな。私とそれ程変わらぬ背格好だったかと記憶している」
ラメーン様、なぜうちの使用人のことにまで詳しいの?! もしかして、前からお兄様のパートナーの座を狙ってうちの屋敷のことを下調べしていたのかしら。なぁんて、考えすぎよね?
「はい。顔や髪、肌の色、品格等以外はその通りにございます」
「ならば、私の影武者として私の屋敷に向かってもらおう。私の家紋入りマントを羽織って馬車にでも乗れば、誰も気付かぬはず」
「でも、それではラメーン様のお屋敷の方が訝しく思うのでは」
「それは、また別の手を打つので問題ない。それから、後程カカオ殿に手紙を書くのでパプリカ経由で渡してくれ。次に、ティラミス!」
「は、はい!」
カプチーノのことは言えません。私も完全に仕事モードのスイッチが入ったラメーン様に名前を呼ばれると、自然と背筋が伸びました。
「夜更けまでは、すまぬがティラミス嬢の部屋で私を匿ってほしい。カプチーノも、いいな?」
「はい。かしこまりました!」
「そして、ココア嬢。この後、その場所の下見に連れていってほしい。敵からの襲撃を受ける心配が無いか、念のため確認をしておきたい」
敵とは何でしょうか。うちの両親ですか? いつの間にか鎧を脱いでいたココアはドンッと胸を拳で叩き、任せてくださいとばかりにおっぱいを前に突き出していました。はい。女性であっても目に毒です。
「作戦会議は以上だ。それでは皆、健闘を祈る。解散!」
「おー!」
ラメーン様の声に呼応して、私、ココア、カプチーノの三人は腕を天井に突き上げました。
いいのですよ、これで。でもどこかおかしいと思う私は、この中で一番の常識人だからにちがいありません。
そして、夜になりました。私は体調が優れないと嘘をついてお部屋でお食事。持ち込んだお料理はラメーン様と半分こです。半分以上は譲れません。夜中にお腹が空きますでしょう?
一応臥せっていることになっている私の部屋には誰も来ません。お父様は王城へお仕事に出かけていてお忙しくしています。お母様は『お腹出して寝ちゃダメよ』という何とも頼りないアドバイスを記した短いお手紙をカプチーノに持たせてくださっただけ。お母様は、新しい本の執筆にお忙しいのです。どんな本か尋ねてみると「大きくなったらね」とおっしゃっていました。でもごめんなさい、お母様。私は既に、カプチーノやパプリカにその手の大人向けの本を借りて、いろいろとお勉強済みなのです。むふふ。
私は湯浴みを済ませて、肌触りの良いシルクのネグリジェを身に纏いました。そろそろと天蓋付きベッドに近づくと、布団の中で身を潜めていたラメーン様に声をかけます。
「ラメーン様」
「ティラミス嬢、今夜も美しいね。その儚げな姿が月の光に溶けてしまわないかと不安になる」
「まぁ、ラメーン様。これからは私にそのような甘い言葉をおかけになってはなりませんよ。今夜からはカカオお兄様だけを見ていただかないと」
「そうだったね」
ラメーン様は、私の髪をひと房手に取りました。そして、名残惜しそうに私の顎の輪郭を指先でなぞります。まるで恋人にするかのような行為。私はお兄様一筋なので、これがお兄様の指だったらと思わずにはいられません。もしこんな夜更けにお兄様と二人きりになれば、禁断の道に走る自信があります。もしかすると、ラメーン様もまた、私の姿にお兄様を重ねているのかもしれません。もしお兄様が私のような令嬢でしたら、全てが丸く収まりましたのに。お互いの瞳に、切なさの光が宿ります。
「ラメーン様、お兄様のことをよろしくお願い申し上げます」
「……任せろ。ありがとう、ティラミス」
私は、音を立てぬように部屋の窓を開けました。ふっと夜風が通り抜けて髪がそよぎます。ラメーン様は一度小さく頷くと、窓から猫のような身軽さで出ていきました。急に部屋の気温が下がったような気がして、窓はすぐに閉めました。
さて。ラメーン様は無事にカカオお兄様を口説くことができるでしょうか。私は親切で大変気の利く妹なので、部屋に潜んでいる間に暇を持て余しているラメーン様へ素敵な参考書を渡しておりました。カプチーノとパプリカの愛読書である薄い本です。私はそれらが早速役に立つことを夜空に輝くお星様に祈りました。
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