第八騎士団第六部隊、エースは最強男装門衛です。

山下真響

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46調子に乗り過ぎちゃった

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 アルカネットさんはしばらく自主練することになったので、私にはやっと日常が戻ってきた。宰相への報告もアルカネットさんからしてくれるとのことでラッキー! オレガノ隊長に報告したら、難しい顔をされてしまったけれど、持ち帰ってこれた情報も多かったからか、一応「よくがんばった」とのお言葉をいただきました。そんなわけで、今日からは普通の門衛のお仕事をがんばるぞ!

 北門に行くと、以前私が提案した改善が活かされていて、随分と入出門チェックが時短できるようになっていた。特に、身分が高い方用の待合所は効果てきめんだったみたい。偉い人を立たせたままにしておくのは、門衛の私達にとって胃痛の元だものね。大抵の偉い人ってせっかちだから、「遅い! 待たせるな!」ってすぐに怒るんだもの。

 北門の内門で立っていると、ラムズイヤーさんがやってきた。私は、先日チート化した槍を高く突き上げて挨拶をする。

「おはようございます! 昨日はありがとうございました」
「おはよう」

 ラムズイヤーさんの声は、今朝もちょっとぎこちない。昨日はアルカネットさんとの勉強会を最後まで付き合ってくれた。彼自身は何もすることがなかったので、きっと暇すぎて大変だったと思う。もしかして、怒ってるのかな?

「ラムズイヤーさん、機嫌を悪くさせていたならば謝ります。また今度何か埋め合わせさせてもらいますので、許してください」
「いや、そういうわけではないんだ。なぁ、エース。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 その時だ。急に空が暗くなった。びっくりして空を見上げてみると、城に魔物の大群が近づいているではないか! すぐに城内にサイレンみたいな警報が鳴り響く。第八騎士団第六部隊の面々は各々の武器を手に取り、一気に物々しい雰囲気になった。

「今回は多いな」
「そうですね」

 久方ぶりの魔物来襲。どうやら北門の辺りを突破しようとしているみたいだ。私も周囲の先輩を見習って、とりあえず槍を構えてみる。うーん、やっぱり私だと何となく様にならないな。それならば、素直に魔術を使っておこう。

「すみません! 門を結界で強化します!」

 私はすぐに白の魔術を両手に纏って、門の方へ腕を差し出した。お願い、魔物をここで食い止めて! 白い光線が駆け抜けて、門が淡く光り輝く。そこへ吸い込まれるようにして、凶悪な形相の魔物達が一斉に体当たりしてきた。

「エース、よくやった!」

 いつの間にかオレガノ隊長が隣に立っていた。
 視線を門の方へ戻すと、見えない壁に弾かれて魔物がどんどん息絶えていく。突然心臓発作を起こして倒れていくような感じ。外傷は無い突然死だ。城を襲ってくるのはどれも飛行できる魔物ばかり。今回も大型のドラゴン種がいて、大きな水飛沫と軽い地震をもって、城のお堀に落下してしまった。

「よかった」

 マリ姫様生誕式典の直前に、結界の色を薄くしてしまったので、何となく対魔物の効力が薄まってしまったのではないかと心配していたのだ。でも、今日私が強化した北門以外の場所も、ちゃんと魔物には効果があったみたい。

「久しぶりに見せつけるじゃないか、エース」
「隊長、魔物はあまり来ないに限りますよ。それに、この前の夜は、こんな物よりも大掛かりなショーをやったつもりだったんですけど? 隊長、ちゃんと見てくださいました?」
「馬鹿。あぁいう華やかなのより、やっぱり男なら強くてなんぼだろ?」
「そういうものですかねぇ」

 こうして、戦わずして大勝利を上げた第八騎士団第六部隊は、城の堀や跳ね橋の上に落ちた魔物の死骸を慌てて回収。やってきたのは、本来ならばダンジョンや北の森に行かなくてはお目にかかれない希少種ばかりなのだ。つまり、その素材はかなり高価なもの。これで騎士団の予算が潤うとかで、皆目の色を変えている。このまま長く放置しておけば、なぜか肉体が消えて魔石だけになってしまうそうなので、私も一緒に手伝った。ま、あまり腕力無いから結界の力使ったけどね。物を結界で包み、空中に浮かべて運んだりするのはお手の物だもの。

「エースは、事後処理も大活躍だな」
「クレソンさん!」

 クレソンさんは今日非番だったはずなのに、サイレンの音で駆けつけたみたいだ。

「エース、本当はね、倒した魔物は素材は個人のものにできるんだ。もちろん、騎士らしく隊の財産にしてもいいのだけれど」
「そうなんですか?」

 キョトンとしていたら、周りの先輩方も皆頷いていた。

「エースは謙虚だよな。これだけのことしても、いきがったりしないし」
「そういうところが好感もてますよね」
「顔に似合わずやることなすこと派手なのも面白いよな!」

 いえいえ、謙虚とかそれ以前に、この世界やこの国の常識的なものに疎いだけなんです。急に褒められるとなんだかくすぐったくって、私は苦笑いになる。

「そういえば、この前知り合いに聞いたんだけど、エースがかけた西部のダンジョンの結界ってすごいんだって?」
「あ、その話、俺も聞いた! ダンジョンから外に出るときに、若干体調が良くなったり、傷が治ったりするらしいな」
「さすがにそれは、西部の冒険者が流したデマだろう」
「でも、分かんねぇぞ? うちのエースはいつだってとんでもないことするんだから。ほら、この前の夜のだって」
「あれは綺麗だったな! 俺も門衛じゃなったら、あれを眺めながら美人を口説き落として……うううっ」
「泣くなよ。心配しなくても、お前は門衛じゃなくたってどーせモテねぇよ」
「お前と一緒にするな!」

 先輩方のお話は、だんだんどーでもいい内容になってきているけれど、話題は私の結界のことみたい。まさか、治癒能力付きの結界が作れるようになっていたなんて、本人すら驚きだ。

 そういえば、この世界には治癒系の魔術が無いんだよね。一気に体力や魔力を回復させるポーションはあるみたいなんだけど、ゲームであるような劇的な回復は見込めないみたい。だから、できるだけ怪我しないように、病気しないように、予防を徹底するしかないようなのだ。

 うーん、白の魔術を極めたら、もしくは制限装置をもっとたくさん解除することができたら、私は治癒魔術も自在に使えるようになるのかな?

 いろいろと事情を知っているクレソンさんに話してみると、彼はクスクス笑い出した。

「エース、君はたぶん、治癒系の素質が元々あるんだと思うよ。だって、城の結界もダンジョンの結界に近い効果があるんだから」
「え、そうなんですか?」
「うん。僕の調べでは、城の中で体調を崩す人がめっきりいなくなってるんだよ。騎士の中でも、これまでは普通に風を引いたりする人がいたんだけど、エースが来てからはゼロ人。これってすごいことだよね」

 うわー。この能力、日本に持ち帰ったらすごく役に立ちそう。花粉とか黄砂対策にバッチリだよね! ま、私なりに解釈してみると、きっと私が築いた結界は、魔物に限らず病原菌も悪者として除外するように設定されているのだろう。

「そう考えると、私の魔術って最強なのかな?」

 だって、かなり強い結界が作れるし、病気にもならない。いざという時は、結界の中に引きこもって、空飛んでとんずらすればいいんじゃないの?!
 と思っていたら、オレガノ隊長が怖い顔をしてやってきた。

「エース、今、聞き捨てならないこと言ってなかったか?」
「はい?」
「確かに、魔術は素晴らしい。普通の人間業とは思えないことを成し遂げられるからな。だが、弱点があるんだ」

 弱点って、何だろう? 冷水をかぶせられた気分だ。
 以前コリアンダー副隊長からは、厨二病的な台詞を言わないと発動できないようなことを聞いたけれど、私は無詠唱でできる。しかも、制限装置の解除で、素早さもあるし、動体視力もかなり良い。だから、今まで困ったことなんてなかったんだけど。

「この世にはな、魔力無効化の魔道具が存在する」

 オレガノ隊長の顔が、いつもより怖く見えた。

「お前は基本的に魔術に頼りすぎている。もし、魔力が使えなくなったらどうする? そしたらお前は、ただの貧弱な少年だ。俺じゃなくても、この辺りの男なら、お前の首なんて片手でへし折れるだろう」

 背筋が凍った。
 そうだった。ここは平和な日本じゃない。異世界なのだ。私なんて、ふとした拍子に死んでしまっても仕方がないぐらい危険な場所。

 私、ちょっと調子に乗っていたかもしれない。私はこの世界において知識的な弱者であるだけでなく、肉体的には本当に脆い。制限装置の解除で基礎体力は伸びていても、槍一つまともに使えないのだ。なのに門衛なんて……。

 私、本当に馬鹿だ。

「実はな、先日この手でコリアンダーが危なかったんだ」
「それって、私が西部へ行っていた間のことですか?」

 私は、コリアンダー副隊長の実家の屋敷でひと悶着あって、副隊長が負傷したという大まかなことしか知らない。ちなみに、傷はそろそろ良くなってきているようだ。

 オレガノ隊長は、少し言葉を濁しながらも、その夜のことを語り始めた。その内容は想像を絶するもので、こんな親子関係があっていいものだろうかと怒りに震えてしまう。

「私が下手に情報を掴んでしまったばかりに、コリアンダー副隊長を危険に晒してしまったんですね」
「いや、それは問題ない。大切なのは、二度と同じ手を食らわないことだ。そして、食らってもきちんと対処できるように真剣に対策すること。それができなければ、お前は所詮そこまでの男だということになる」

 ふっと、息を吐いた。

 分かってますよ、隊長。
 私がどうすればのかということぐらい。

「オレガノ隊長、私に槍を教えてください」

 私は隊長の前に跪いて、彼にもらった大切な槍を空へ掲げた。

「いいだろう。俺は厳しいぞ。しっかりついてこい!」
「はい!」

 オレガノ隊長の笑顔が、温かかった。

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