第八騎士団第六部隊、エースは最強男装門衛です。

山下真響

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38業務改善しちゃった

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 通常城の敷地内に立ち入るには、必ず東西南北の門で、厳しいチェックを受けなければならない。城内は要人ばかりが集まっているので、そうおいそれと身元の分からない人など、不審人物を入れるわけにはいかないのだ。

 その常識を覆すことになるのが、今回の第一王女生誕記念式典だ。なんと、城内にハーヴィー王国の国民ならば誰でも入れるようにするらしい。そして、城の三階にあるバルコニーからマリ姫様が姿を見せ、国民に向けて一言ご挨拶することになる。ちなみに、マリ姫様の体調を慮って、夜会などはかなり控えめな規模のものしか行われないそうだ。

「我が国は平和の時代が長く続いているが、昨今王家に不満をもっている人間は多いはずだ。つまり、密かに武装した一般人が敷地内に乗り込み、暴徒化する可能性がある。なのに、奴ときたら……!」

 コリアンダー副隊長は、ご自身のお父上のことを奴と吐き捨てて、怒りを露わにしている。でもこれは当然のことだろう。なぜなら、宰相が出して来た通達には、こんなことが書かれてあったのだ。

『式典までに城の敷地内に張られている結界を解くこと。王女の生誕記念式典には他国からの祝いの使者も駆けつけるため、今のように城の外観を損なうものは必ず撤廃せよ。』

 おそらく外見を損なうという理由は、取ってつけた建前に過ぎない。宰相はどうやら国の乗っ取りを考えているようなので、いずれ自分が治めることになる城が、いつまでも私の結界に守られているというのが嫌なのではなかろうか。もしくは、城に魔物の大群を送ってもダメージを受けなくなったので、結界を廃そうと考えているのかもしれない。

 実は私が結界を張って以降、小規模な魔物の軍勢が十日以上経ってから一度来ただけで、すっかり襲来の頻度が減ってしまったのだ。これには、隊員のほとんどが本格的に宰相を疑うようになってしまった。やはり、あれは人為的なものだったのではないか、と。

 とにかく、今結界を消してしまえば、また魔物の大群に翻弄され、命を削り続ける毎日に逆戻りだ。宰相の思い通りになるというのも癪に障る。

「なぁ、エース。お前、何か良い考えはないか?」

 オレガノ隊長が尋ねてきた。

「そうですね。外観が問題ならば、それを改善したらいいんじゃないですかね」

 私は答えながら、いろいろと考えを巡らせる。
 城の結界は、ある種ビニールハウスに似ている。でも、人や無害な小鳥達、空気や雨は通り抜ける。なのに、その表面は光が当たると反射して、ツヤツヤと光ったりするので、まるで物理的な何かがあるかのように見えてしまう。

 あ、そうだ!

 以前、学校からの遠足でテーマパークに行った際に見たアレはどうだろうか。私一人ではできないことだけれど、魔術の制御に優れたうちの隊員ならば協力してもらえるはず。しかも、この世界にはまだ無い発想なのではないだろうか。

「オレガノ隊長、良い考えがあります!」

 私は、ざっとやりたいことを紙に絵を描きながら説明した。私の以外の全員は初めて見るものだったから、分かってもらうのは時間がかかったけれど、いち早く理解してくれたコリアンダー副隊長の助けもあって説得に成功。後は、この結界の外観を活かしたとある演出のためにも、当日の警備体制は工夫しなければならない。

 私は、一般人の入城はバルコニーに一番近い南門に限定し、門の前からバルコニー前まで続く広場だけを開放することを提案した。それ以外の場所はいつも通りに関係者立入禁止にしてしまえば、警備に割かなければならない人員抑えられる。オレガノ隊長によると、第八騎士団の他の隊はもちろん、第四騎士団と第七騎士団からの応援も見込めるそうなので、何とか乗り切れそうだ。私は、コンフリー団長、エルダー副隊長、アンゼリカさんの顔を思い浮かべてニンマリしてしまった。皆さん、どうもありがとう!

 それにしても、なぜ新人の私がこんな重要な会議の場に引っ張り出されているのだろう? 私以外に参加しているのは、隊長、副隊長、東西南北の班長、そしてクレソンさんだ。

「ディル班長、そういえば私、なんでここにいるんですかね?」
「別にそんな細かい事いいじゃないか。きっと隊長から期待されてるんだろ。お前、意外と自己評価低いからなぁ。もっと胸張って歩け!」

 ディル班長は、ドンドンと私の胸元を叩く。ここで顔を赤らめては自分で女だと申告するようなものなので、ぐっと我慢。でも、クレソンさんに触られるのとは全然違って、精神的にガリガリと削られるものがある。

 その直後、クレソンさんがディル班長に剣の稽古の相手を申し出て、二人が死闘を繰り広げていたのを私は知らない。


   ◇


 さて、私の提案を実現するためには、少なからず隊員の皆さんには、とある練習が必要になってしまう。つまり、練習時間の確保のために一時的に人員不足に陥ってしまうということだ。

 というわけで、私エースは、ついに門衛として正式デビューすることになりました!

 これまで仕事らしい仕事はなく、訓練する他には第四騎士団かの要請に応えたぐらいで、ろくな事をしていない。これは自然と気合も入ってしまうというわけだ。

 クレソンさんは、しばらくシフトが夜勤になっているので、私のお守り役はラムズイヤーさんに決定。門衛らしい業務内容を一から教えてもらいますよ!

 初めは、北門で一番多いケース、一般人や商人相手の場合の受け入れ方を勉強していきます。

「まずは、跳ね橋の向こうから誰かが渡り始めたら、ここが黄色く光る」

 ラムズイヤーさんは、詰め所の壁に取り付けられているランプみたいなものを指差した。魔道具だろうか。橋の方にはセンサーみたいな物が仕込まれているのかもしれない。

「そうしたら、すぐに門横の孔から目視で相手を確認。次に相手の名前を聞いてから外門を開けて、まず登城許可証を出してもらう」

 許可証とは、身分証と同じだ。金属プレートみたいなもので、表面にはこの国の言葉で持ち主の名前が書かれてある。私も入寮してすぐにオレガノ隊長から貰った。

 そして外門とは、文字通り北門の外側にある門のこと。実は内門もあって、二重構造になっている。敵襲があった際、簡単に突破されないように工夫されているのだ。

「次に、その人が本当に許可証の持ち主かどうか確認するために、この水晶で魔力パターンを調べる。もし犯罪歴があったり、城のブラックリストに載っている場合は、水晶が赤く光るはずだ。身分証も同じように水晶に翳してくれ。偽装されたものだったら、同じく赤く光る」

 水晶は、冒険者ギルドにあったのと同じで、何の変哲もない透明の球体。CPUもメモリもないのに、なかなかハイテクだ。小ぶりのメロンぐらいの大きさがあって、移動式ワゴンに嵌め込まれている。

「ここまで問題なければ、最後に荷物の確認だ。通常、外門をくぐった時点で危険物が含まれていたら警報が鳴るんだが、中にはイレギュラーがある。例えば、外門にあらかじめ危険登録されていない新しい武器などの場合、反応しないんだ。だから、形だけにはなるけれど、危険物をもっていないことをこの場で宣言してもらうことになっている。ほら、この紙に署名してもらうんだ」

 私は、ラムズイヤーさんから手渡された紙を見た。日本にあるものと違って、明らかに質の悪い薄茶の紙。少し厚みもある。そんなことより、私が驚いたのは――。

「これ、なんで真っ白なんですか?」
「え?」
「あらかじめ、宣言してほしい内容をこちらで書いておいて、入城する人には署名だけしてもらえば時間がかかりせん。そうすれば、跳ね橋の向こうに待ち行列ができることも少なくなりますよ」

 北門は東西南北の門の中では一番出入りが少ないのだけれど、それでも昼間はたくさんの人を押し寄せるので、捌くのが大変だとクレソンさんから聞いたことがある。
 ラムズイヤーさんは、目を見開いて呆然としていた。

「エースって、すごいのは結界だけじゃなかったんだね」

 それ、どういう意味だろうか。もしかして、そんなに私、馬鹿そうに見えるのかな? ちょっとムッとしてしまった私は、その後たくさんの業務改善提案をして、ストレス解消したのであった。

 だって、無駄が多いし、何もかも適当すぎるんだよ? 私は、書式やら、記録ノートやらを作ってみた。偉い人が通る時には、お待たせしてると機嫌を損ねるらしいので、待合所をディル班長達と一緒に作ってみたりもした。我ながら大活躍だ。

 私の発案は、早速他の門でも採用することになったとオレガノ隊長から聞いている。リンデンくんは、また「僕は認めないからな!」とか言っていたけれど、頭を撫でるとおとなしくなった。

 さて、明日には宰相から返事が届くかな? 実は、私の「結界を活用して城を一層魅力的に見せる案」の企画書を、チャンウェル団長経由で提出しておいたのだ。チャンウェル副団長はよっぽど宰相に会いたくないらしく、当初は酷く渋っていた。でも、第四騎士団での一件を持ち出したら協力してもらえることに! 団長は、他の騎士団からも要請が届いていて……などと口走っていた気がするけれど、「あー何も聞こえなーい」というフリをして、そそくさと団長室を後にした私であった。

 さて、宰相の反応はどうだろな。返事が届かなかったら強行すると書いておいたので、何らかの反応は返ってくるはず。ま、マリ姫様にもレイの脳内会話で協力要請しておいたので、彼女からも働きかけをしてくれる予定だ。だから、まず却下されることはないだろう。だって、宰相ってマリ姫様にベタ惚れみたいだもん。いつか、姫様の中身は男の子だよって暴露して、彼ががっかりする姿を見てみたい。

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