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18ミントさんに頼っちゃった
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「どうしましょう」
オレガノ隊長は早速闘技場の予約をしに出払ってしまったし、私はディル班長に相談することにした。
「どうもこうもないだろ。やる限りは第八騎士団第六部隊北班として恥ずかしくない戦いをするしかない」
「ごもっともなのですが、何か対策のヒントを……」
ディル班長は腕を組んで空を見上げる。ちゃんと考えてくれるなんて、良い上司だ! と思っていたのだけれど――
「やっぱり、こういうのは出たとこ勝負だな!」
そういえばここ、騎士団でした。コリアンダー副隊長みたいな方はかなりレアで、だいたいが脳筋タイプなのよね。理論とかじゃなくて、直感と勢いと己の信念で突っ走れみたいなところがある。やれやれ。
その時、遠くからこちらへ走ってくる人影があった。あ、クレソンさんだ!
「おかえりなさい」
「エース、おはよう」
そうですね。今日は声を交わすの、これが初めてなのだ。クレソンさん、私が起こさなかったこと怒ってるのかな? クレソンさんは、いつもより控えめな笑顔を私に向けると、ディル班長のところへ向かっていく。
「班長。オレガノ隊長にも頼まれてた例の件、できるだけ働きかけておきました」
「お、ご苦労」
クレソンさん、ランニング以外にも何かしていたようだ。隊長からの依頼っていうことは大切なお仕事なのかな? でもクレソンさんは、そのことについて私に話す気はなさそうだった。私にひらりと手を振ると、ラムズイヤーさんのところへ行ってしまう。あ、クレソンさんにも相談しそびれちゃった。
さて、こうなったら自分で死なない方法を考えなきゃ。まずは、今の私について振り返ってみよう。
私は黒目黒髪で、この世界では有り余るほどの魔力を持っている。巨大な結界を張った後でさえ、魔力切れで倒れなかったのは奇跡だとコリアンダー副隊長は話していたし、これは私の数少ない強みと言えるだろう。
後は、昨日から急に基礎体力が上がった。でも、タラゴンさんも底なしの体力がありそうだから、私が勝てる要因にはならないと思われる。
それから、駄目なところ。騎士として就職したのに、私は剣も槍も使えない。こんなことならば、体術を習ったり、剣道部にでも入っておけばよかったな。と思っても後悔先に立たず。となると、少しでも得意そうなものや、有利なものを磨いていくしない。
「ディル班長、今日ってコリアンダー副隊長はどこにいらっしゃるんですか?」
「今日は確か南門にいるはずだ。でもさっき、何かトラブルがあったとかで、うちの班の若いのを何人か応援に送ったぐらいだからな。おそらくお前と駄弁ってる場合じゃないと思うぞ」
あぁ……頼みの綱が。
でも、ちょっと待って? まだ最後の砦が残っていた。私は昼休憩にクレソンさんの助けを借りて、急ぎの手紙を冒険者ギルドに送ることにした。こういう時、電話とかメールが無いって不便だね。
◇
そして、三日が経った。ちなみに、あれから魔物の大群は一度たりとも来ていない。喜ばしいことのはずなのに、第八騎士団第六部隊には不穏な空気が漂っている。これを打ち消せるような戦いができればいいのだけれど。
私は今、広い闘技場の西の入口に立っている。
いつの間にか、この決闘の情報が広まってしまったらしく、観覧席はギャラリーでいっぱいだ。皆、仕事サボっちゃ駄目だよって思うけれど、この世界は基本的にアナログだから娯楽らしい娯楽が無いのよね。S級冒険者と新人へなちょこ門衛なんてカード、見なくてもだいたいの結果は分かりそうなものなのに、皆様物好きだこと。賭けまで始まっているようだ。私は割れんばかりの歓声に飲まれてしまって、どうしても及び腰になってしまう。
だけど、この三日間、ずっとぼんやりしていたわけではない。昼間は身体作り。夜は秘密の特訓を特別講師の下で行っていたのだ。
私はそっと目を閉じて、血と汗と涙の滲む訓練を思い返していた。
◇
「私を頼ってくれて、どうもありがとう!」
手紙を出した夜、冒険者ギルドの受付嬢ミントさんが早速北門に来てくれた。実は昨日彼女からもらった女の子グッズの袋の中には魔術書も入っていたのだ。しかも、その著者はミントさん! たぶん私は魔術しか才能がないので、彼女から魔術のいろはを直接教えてもらうことにしたのだ。
「お忙しいところすみません」
「いいのよ。私にとって、エースよりも大切なことなんて何も無いのだから」
あぁ、また『私とミントさんがデキてる説』の信憑性が高くなってしまう。先輩方から羨望の眼差しを受けて戸惑っていると、北門の夜勤チームの中にクレソンさんがいるのを見つけた。
「エース、がんばれよ!」
「ありがとうございます」
私は、クレソンさんに手を振りながら、騎士用の練習場へ向かった。ディル班長が昼間、予約してくれたのだ。ここは、体育館みたいな場所で、とっても頑丈な素材で造られた建物。中に入ってみると、私達以外には誰もいない。ミントさんはさりげなく中から鍵をかけてしまったので、密室になってしまった。
「ミントさん?」
「これで、内緒話もしやすくなるでしょ?」
ミントさんは、私が女だと知る数少ない味方。こういう気遣いがとっても嬉しい。
「それにしても、破壊魔王に目をつけられるなんて災難だったわね」
「ミントさんは、さすがにあの方のことをよくご存知なんですよね?」
「そりゃぁ、もう。冒険者ギルドは彼に振り回されてばかりなの。新人冒険者虐めに始まり、歴史的価値のある古い建物を崩壊させてみたり。だから、今回は痛い目にあわせてあげないとね!」
なるほど。ミントさんが乗り気なのには、そういう理由もあるのか。でも、その恨みを果たせる程の戦いが私にできるだろうか。私の顔が曇ったのに気づいたのか、ミントさんは優しげにこちらを覗き込む。
「ねぇ。エースは魔法のこと、ほとんど知らないんでしょ? でも、魔力とセンスが抜群なのは、あの結界で知ってるわ。基礎を学べばきっと伸びる。後三日、私と頑張ってみましょう?」
ミントさん、天使です。
「はい! よろしくお願いします!」
そしてミントさんの授業は早速スタートした。
まず、魔術とは、生き物の体内にある魔力を媒介として、様々な現象をゼロから発生させることらしい。魔力量はほぼ生まれつきのものなので、こればかりは訓練してもほとんど増えない。
次に、魔術の発現方法について。これは、どんな魔術にしたいかをよく考えた上で、杖などに魔力を集中させてから対象となる物へ放つというもの。イメージ力がとても大切だそうだ。うまく思い描けない人のために、各有名魔術には長い呪文もあるそうなのだけれど、戦いには向かないとのこと。呪文を唱えている間に攻撃を受けちゃうものね。
それから、魔術の種類について。火に関するものは赤の魔術、水に関するものは青の魔術、風に関するものは緑の魔術、土に関する魔術は茶色の魔術、光に関する魔術は黄色の魔術、それ以外は紫の魔術と呼ばれている。紫の中でも、人を呪ったり殺したりするものは、例外的に黒の魔術とも呼ばれているそうだ。
さらに魔術は、人によって向き不向きの系統があるらしい。
「私は青と緑と茶色、そして黄色が得意なのよ。エースは何が得意か分からないから、一つひとつ試してみましょう」
初めて意図的に魔法を使う。とってもワクワクしながら、私はミントさんに指示された魔術を出すことにした。
「まずは、基本の炎!」
「んんんっ」
「炎は、さすがに見たことあるわよね? 杖じゃなくて、自分の人差し指の先に集中してみて。こんな感じよ」
ミントさんの指先に蝋燭みたいなちっちゃな火が灯る。
「はい。もう一度やってみます」
私は力んでみたが、全く出る気配が無い。かなり時間をかけても発現しないので、他の魔術も試してみた。が、出ない。そろそろ真夜中近くになっていた。私はこのまま、何も魔術が使えないまま、決闘の日を迎えることになるのだろうか。
「ミントさん、せっかく付き合ってくださったのに、こんな体たらくでごめんなさい」
「いいえ、そんなの気にしないで。それよりエース、今夜は最後に一つだけ試してみてほしいことがあるの」
「もう、全ての基本魔術は試しましたよ?」
「まだ試していないのが、一つだけあるわ。エース、白い色をしっかりとイメージして魔力を出してみて?」
そして私の手から放たれたのは――。
オレガノ隊長は早速闘技場の予約をしに出払ってしまったし、私はディル班長に相談することにした。
「どうもこうもないだろ。やる限りは第八騎士団第六部隊北班として恥ずかしくない戦いをするしかない」
「ごもっともなのですが、何か対策のヒントを……」
ディル班長は腕を組んで空を見上げる。ちゃんと考えてくれるなんて、良い上司だ! と思っていたのだけれど――
「やっぱり、こういうのは出たとこ勝負だな!」
そういえばここ、騎士団でした。コリアンダー副隊長みたいな方はかなりレアで、だいたいが脳筋タイプなのよね。理論とかじゃなくて、直感と勢いと己の信念で突っ走れみたいなところがある。やれやれ。
その時、遠くからこちらへ走ってくる人影があった。あ、クレソンさんだ!
「おかえりなさい」
「エース、おはよう」
そうですね。今日は声を交わすの、これが初めてなのだ。クレソンさん、私が起こさなかったこと怒ってるのかな? クレソンさんは、いつもより控えめな笑顔を私に向けると、ディル班長のところへ向かっていく。
「班長。オレガノ隊長にも頼まれてた例の件、できるだけ働きかけておきました」
「お、ご苦労」
クレソンさん、ランニング以外にも何かしていたようだ。隊長からの依頼っていうことは大切なお仕事なのかな? でもクレソンさんは、そのことについて私に話す気はなさそうだった。私にひらりと手を振ると、ラムズイヤーさんのところへ行ってしまう。あ、クレソンさんにも相談しそびれちゃった。
さて、こうなったら自分で死なない方法を考えなきゃ。まずは、今の私について振り返ってみよう。
私は黒目黒髪で、この世界では有り余るほどの魔力を持っている。巨大な結界を張った後でさえ、魔力切れで倒れなかったのは奇跡だとコリアンダー副隊長は話していたし、これは私の数少ない強みと言えるだろう。
後は、昨日から急に基礎体力が上がった。でも、タラゴンさんも底なしの体力がありそうだから、私が勝てる要因にはならないと思われる。
それから、駄目なところ。騎士として就職したのに、私は剣も槍も使えない。こんなことならば、体術を習ったり、剣道部にでも入っておけばよかったな。と思っても後悔先に立たず。となると、少しでも得意そうなものや、有利なものを磨いていくしない。
「ディル班長、今日ってコリアンダー副隊長はどこにいらっしゃるんですか?」
「今日は確か南門にいるはずだ。でもさっき、何かトラブルがあったとかで、うちの班の若いのを何人か応援に送ったぐらいだからな。おそらくお前と駄弁ってる場合じゃないと思うぞ」
あぁ……頼みの綱が。
でも、ちょっと待って? まだ最後の砦が残っていた。私は昼休憩にクレソンさんの助けを借りて、急ぎの手紙を冒険者ギルドに送ることにした。こういう時、電話とかメールが無いって不便だね。
◇
そして、三日が経った。ちなみに、あれから魔物の大群は一度たりとも来ていない。喜ばしいことのはずなのに、第八騎士団第六部隊には不穏な空気が漂っている。これを打ち消せるような戦いができればいいのだけれど。
私は今、広い闘技場の西の入口に立っている。
いつの間にか、この決闘の情報が広まってしまったらしく、観覧席はギャラリーでいっぱいだ。皆、仕事サボっちゃ駄目だよって思うけれど、この世界は基本的にアナログだから娯楽らしい娯楽が無いのよね。S級冒険者と新人へなちょこ門衛なんてカード、見なくてもだいたいの結果は分かりそうなものなのに、皆様物好きだこと。賭けまで始まっているようだ。私は割れんばかりの歓声に飲まれてしまって、どうしても及び腰になってしまう。
だけど、この三日間、ずっとぼんやりしていたわけではない。昼間は身体作り。夜は秘密の特訓を特別講師の下で行っていたのだ。
私はそっと目を閉じて、血と汗と涙の滲む訓練を思い返していた。
◇
「私を頼ってくれて、どうもありがとう!」
手紙を出した夜、冒険者ギルドの受付嬢ミントさんが早速北門に来てくれた。実は昨日彼女からもらった女の子グッズの袋の中には魔術書も入っていたのだ。しかも、その著者はミントさん! たぶん私は魔術しか才能がないので、彼女から魔術のいろはを直接教えてもらうことにしたのだ。
「お忙しいところすみません」
「いいのよ。私にとって、エースよりも大切なことなんて何も無いのだから」
あぁ、また『私とミントさんがデキてる説』の信憑性が高くなってしまう。先輩方から羨望の眼差しを受けて戸惑っていると、北門の夜勤チームの中にクレソンさんがいるのを見つけた。
「エース、がんばれよ!」
「ありがとうございます」
私は、クレソンさんに手を振りながら、騎士用の練習場へ向かった。ディル班長が昼間、予約してくれたのだ。ここは、体育館みたいな場所で、とっても頑丈な素材で造られた建物。中に入ってみると、私達以外には誰もいない。ミントさんはさりげなく中から鍵をかけてしまったので、密室になってしまった。
「ミントさん?」
「これで、内緒話もしやすくなるでしょ?」
ミントさんは、私が女だと知る数少ない味方。こういう気遣いがとっても嬉しい。
「それにしても、破壊魔王に目をつけられるなんて災難だったわね」
「ミントさんは、さすがにあの方のことをよくご存知なんですよね?」
「そりゃぁ、もう。冒険者ギルドは彼に振り回されてばかりなの。新人冒険者虐めに始まり、歴史的価値のある古い建物を崩壊させてみたり。だから、今回は痛い目にあわせてあげないとね!」
なるほど。ミントさんが乗り気なのには、そういう理由もあるのか。でも、その恨みを果たせる程の戦いが私にできるだろうか。私の顔が曇ったのに気づいたのか、ミントさんは優しげにこちらを覗き込む。
「ねぇ。エースは魔法のこと、ほとんど知らないんでしょ? でも、魔力とセンスが抜群なのは、あの結界で知ってるわ。基礎を学べばきっと伸びる。後三日、私と頑張ってみましょう?」
ミントさん、天使です。
「はい! よろしくお願いします!」
そしてミントさんの授業は早速スタートした。
まず、魔術とは、生き物の体内にある魔力を媒介として、様々な現象をゼロから発生させることらしい。魔力量はほぼ生まれつきのものなので、こればかりは訓練してもほとんど増えない。
次に、魔術の発現方法について。これは、どんな魔術にしたいかをよく考えた上で、杖などに魔力を集中させてから対象となる物へ放つというもの。イメージ力がとても大切だそうだ。うまく思い描けない人のために、各有名魔術には長い呪文もあるそうなのだけれど、戦いには向かないとのこと。呪文を唱えている間に攻撃を受けちゃうものね。
それから、魔術の種類について。火に関するものは赤の魔術、水に関するものは青の魔術、風に関するものは緑の魔術、土に関する魔術は茶色の魔術、光に関する魔術は黄色の魔術、それ以外は紫の魔術と呼ばれている。紫の中でも、人を呪ったり殺したりするものは、例外的に黒の魔術とも呼ばれているそうだ。
さらに魔術は、人によって向き不向きの系統があるらしい。
「私は青と緑と茶色、そして黄色が得意なのよ。エースは何が得意か分からないから、一つひとつ試してみましょう」
初めて意図的に魔法を使う。とってもワクワクしながら、私はミントさんに指示された魔術を出すことにした。
「まずは、基本の炎!」
「んんんっ」
「炎は、さすがに見たことあるわよね? 杖じゃなくて、自分の人差し指の先に集中してみて。こんな感じよ」
ミントさんの指先に蝋燭みたいなちっちゃな火が灯る。
「はい。もう一度やってみます」
私は力んでみたが、全く出る気配が無い。かなり時間をかけても発現しないので、他の魔術も試してみた。が、出ない。そろそろ真夜中近くになっていた。私はこのまま、何も魔術が使えないまま、決闘の日を迎えることになるのだろうか。
「ミントさん、せっかく付き合ってくださったのに、こんな体たらくでごめんなさい」
「いいえ、そんなの気にしないで。それよりエース、今夜は最後に一つだけ試してみてほしいことがあるの」
「もう、全ての基本魔術は試しましたよ?」
「まだ試していないのが、一つだけあるわ。エース、白い色をしっかりとイメージして魔力を出してみて?」
そして私の手から放たれたのは――。
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