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03先輩と住むことになっちゃった
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「エース、門衛は貴賤関わらず全員王城内の寮に入ることになっている。引っ越しは今日中に済ませておけ。明日は朝六時にここへ集合だ。その時に他の隊員も紹介してやるからな」
「はい」
テキパキと説明してくれるこの方は、私が所属することになった第八騎士団第六部隊の副隊長で、名前はコリアンダーさん。ここは王城内にある隊長室という部屋で、私は豪華な応接セットに座っている。場違い感が半端ないが、そこに座りなさいと言われたから仕方がない。テーブルの向かい側では、コリアンダー副隊長がせっせと入隊に関する事務手続きをしてくれている。オレガノ隊長はこういう書類仕事が苦手らしく、逃げ出してしまったのだ。それにしてもコリアンダー副隊長の字、印字したみたいに几帳面だ。
そうそう! 『聞く』、『話す』、『読む』に加えて、『書く』も問題なくできることが分かった。さっき、入隊届に署名するように言われたのだけど、普通にこの世界の言葉で書くことができた。転移者のチートっていう奴なのかな? 勉強はそれなりに出来る方だけれど、好きではない私には大助かり。
「よし、これで必要な書類は以上だ。さっさと提出しておくか」
そう言うと、コリアンダー副隊長は完成した何枚かの書類を小さく折り畳み、よく分からない言葉を呟いた。途端に彼の手の中の紙は消え失せてしまう。もしかして、魔法?
「転送の魔法、初めて見るのか?」
「はい」
「そのうちお前も練習しておくと良い。ついでに私の仕事を手伝ってくれると嬉しい」
実はコリアンダー副隊長、当初は私の入隊に反対していたのだ。だって、この見た目だものね。でもオレガノ隊長から何か耳打ちされた途端、急に友好的になってしまった。いったい隊長は何の話をしたのかな? と振り返っている場合じゃない。コリアンダー副隊長が、ずっと廊下からこちらの様子を伺っている人物にちょいちょいっと手招きした。
「ここからはお前と寮の同室になるコイツが案内をする。クレソン、後は頼んだぞ」
「お任せください」
え……同室? つまり私、今日からこの男の人と同じ部屋で寝起きするってこと?!
目を白黒させている私に構わず、二人の会話は途切れることなく続いていく。
「お前が仕事中に真面目な返事をするなんて、気味が悪いな」
「何をおっしゃるんですか。僕はいつも真面目ですよ?」
「ちなみに、エースは隊長に相当気に入られているようだ。くれぐれも……」
「へぇ。そうなんだ」
クレソンさんはニヤリと口角を上げる。私は背中がゾクリとする。
「エース、こいつは女癖とサボリ癖は酷いが、そこそこ腕は立つ。良いところは見習うように」
「副隊長、それはないですよ!」
「真実を言ったまでだ」
「エース、副隊長のことを真に受けないでね」
クレソンさんは私に爽やかなほほ笑みを向けた。コリアンダー副隊長が銀髪の貴公子ならば、クレソンさんは金髪の王子様だ。クールで落ち着いた雰囲気の月と、眩しくて情熱溢れる太陽とでも言おうか。対象的な二人だけれど、かなり気安い関係に見受けられる。私は、日本では決してお目にかかれそうにもない西洋人系イケメン二人とお近づきになれて、ちょっとお得な気分になっていた。
でも、そんな隊の中にこんな平凡な私がうまく馴染めるだろうか。正直、性別を偽りながらクレソンさんと同室になる不安や戸惑いもある。けれど、今夜の寝床を確保できたことと、これからは孤独とは無縁になりそうだという安堵感はかなり大きい。
「それではクレソンさん、今日からよろしくお願いします。コリアンダー副隊長も、入隊手続きをありがとうございました」
私は、二人に向かって深々と頭を下げた。日本人の嗜みである。
◇
クレソンさんは、早速王城の敷地内を案内してくれた。道すがら、いろんな話をしてくれる。
まずは門衛の仕事について。基本的に、城の敷地の境界線の見張りと守りをしているらしい。敷地はほぼ正方形で、東西南北にそれぞれ大きな門があり、そこで城に出入りする人々の検門もしているとか。だけど、たまに門を通らずに塀を突破して不法侵入しようとする人もいるそうで、そういった狼藉者の取締りも業務の内とのことだ。
「王城に忍び込むなんて、勇気がある人もいるものですね」
「案外いるよ。だけど、僕達が直接手を下すまでもなく、ほとんどがアレにやられて失神しちゃうけどね」
クレソンさんが指差した先。そこには高い塀があって、そのてっぺんには有刺鉄線みたいなものが張り巡らされてあった。クレソンさんによると、あれは魔導具の一種で、塀を無理やり乗り越えようとする者に電撃を与える仕組みになっているらしい。つまり、城のほぼ全方位にスタンガンが常備されているという感じ。なかなか物騒だ。
「便利なものがあるんですね。じゃぁ、案外仕事って暇だったりします?」
「だったら、この仕事ももう少し人気が出るんだろうけど」
それ、どういう意味だろう? クレソンさんは苦笑いすると、頭の上にハテナマークを浮かべる私を見ないフリして歩き続けた。
「そろそろ昼飯にしよう。ほら、ここが食堂だ。騎士団所属の者は、一日三食ここでタダ食いできるからね」
私はクレソンさんの後ろについて食堂へ入っていった。入口で銀色のトレーを取って、後は調理場前の長テーブルに並んでいる料理の中から食べたいものを選んでいく形式。高校の学食を豪華にしたような雰囲気だ。うどんやラーメン、白米は見当たらないけれど、オカズ類は日本でもありそうなものばかりに見える。
「ちょうど十二時か。やっぱりこの時間は人が多いな」
クレソンさんは、混雑する食堂内を慣れた様子で進みながら、何かの肉を煮込んだものとサラダとパンを取っていた。私は悩んだ挙句、同じものをトレーに取る。
それにしてもだ。クレソンさんは全然偉そうな雰囲気ではないのに、なぜかすれ違う人々のほとんどに会釈されたり、恐れるような目で見られたりしている。初めは、まだ騎士服に袖を通していない私が悪目立ちしているのかと思っていたのだけれど、そうではなかった。
「クレソンさんって、もしかして偉い人なんですか? 例えば、第六部隊の副々隊長みたいな」
「エース、君は面白いね」
クレソンさんはクスクス笑いながら食堂の端に空いているテーブルを見つけてくれた。そこに二人で向かい合って座ると待ちに待ったランチタイムが始まる。私は朝からいろんなことがありすぎて、お腹がペコペコだ。クレソンさんはパンを頬張り始めた。きちんと一口ずつ千切って食べるあたり、育ちが良い人なのかもしれない。
「でもクレソンさん、やっぱり皆に見られてますよ」
「そりゃぁ、第八騎士団第六部隊だから」
「え、そんなに有名な隊なんですか?」
「そうだね。この黒い騎士服を着ているのは国中見回してもうちの隊だけなんだ。この黒色にはちゃんと理由があるんだよ」
「どうゆう由来なんですか?」
クレソンさんは良い笑顔で、お皿の上のお肉にフォークを勢いよく突き刺した。プシュッと肉汁がトレーの中に飛び散る。
「黒だと、どれだけ大量の血を浴びても目立たないでしょ? 大変理に適った色が採用されているんだ」
それってどういう意味? 分かりたいけれど分かりたくない。ちょっと顔から血の気が引いて、気が遠くなりそうになったその時。食堂内にけたたましいサイレンみたいな音が鳴り響いた。
「敵襲だ!」
クレソンさんは皿の上に残っていたお肉を手早く口の中に詰め込んだかと思うと、顔を凛々しく引き締めて席から立ち上がった。
「クレソンさん?」
「エース、初陣だ。気絶しないでね?」
「はい」
テキパキと説明してくれるこの方は、私が所属することになった第八騎士団第六部隊の副隊長で、名前はコリアンダーさん。ここは王城内にある隊長室という部屋で、私は豪華な応接セットに座っている。場違い感が半端ないが、そこに座りなさいと言われたから仕方がない。テーブルの向かい側では、コリアンダー副隊長がせっせと入隊に関する事務手続きをしてくれている。オレガノ隊長はこういう書類仕事が苦手らしく、逃げ出してしまったのだ。それにしてもコリアンダー副隊長の字、印字したみたいに几帳面だ。
そうそう! 『聞く』、『話す』、『読む』に加えて、『書く』も問題なくできることが分かった。さっき、入隊届に署名するように言われたのだけど、普通にこの世界の言葉で書くことができた。転移者のチートっていう奴なのかな? 勉強はそれなりに出来る方だけれど、好きではない私には大助かり。
「よし、これで必要な書類は以上だ。さっさと提出しておくか」
そう言うと、コリアンダー副隊長は完成した何枚かの書類を小さく折り畳み、よく分からない言葉を呟いた。途端に彼の手の中の紙は消え失せてしまう。もしかして、魔法?
「転送の魔法、初めて見るのか?」
「はい」
「そのうちお前も練習しておくと良い。ついでに私の仕事を手伝ってくれると嬉しい」
実はコリアンダー副隊長、当初は私の入隊に反対していたのだ。だって、この見た目だものね。でもオレガノ隊長から何か耳打ちされた途端、急に友好的になってしまった。いったい隊長は何の話をしたのかな? と振り返っている場合じゃない。コリアンダー副隊長が、ずっと廊下からこちらの様子を伺っている人物にちょいちょいっと手招きした。
「ここからはお前と寮の同室になるコイツが案内をする。クレソン、後は頼んだぞ」
「お任せください」
え……同室? つまり私、今日からこの男の人と同じ部屋で寝起きするってこと?!
目を白黒させている私に構わず、二人の会話は途切れることなく続いていく。
「お前が仕事中に真面目な返事をするなんて、気味が悪いな」
「何をおっしゃるんですか。僕はいつも真面目ですよ?」
「ちなみに、エースは隊長に相当気に入られているようだ。くれぐれも……」
「へぇ。そうなんだ」
クレソンさんはニヤリと口角を上げる。私は背中がゾクリとする。
「エース、こいつは女癖とサボリ癖は酷いが、そこそこ腕は立つ。良いところは見習うように」
「副隊長、それはないですよ!」
「真実を言ったまでだ」
「エース、副隊長のことを真に受けないでね」
クレソンさんは私に爽やかなほほ笑みを向けた。コリアンダー副隊長が銀髪の貴公子ならば、クレソンさんは金髪の王子様だ。クールで落ち着いた雰囲気の月と、眩しくて情熱溢れる太陽とでも言おうか。対象的な二人だけれど、かなり気安い関係に見受けられる。私は、日本では決してお目にかかれそうにもない西洋人系イケメン二人とお近づきになれて、ちょっとお得な気分になっていた。
でも、そんな隊の中にこんな平凡な私がうまく馴染めるだろうか。正直、性別を偽りながらクレソンさんと同室になる不安や戸惑いもある。けれど、今夜の寝床を確保できたことと、これからは孤独とは無縁になりそうだという安堵感はかなり大きい。
「それではクレソンさん、今日からよろしくお願いします。コリアンダー副隊長も、入隊手続きをありがとうございました」
私は、二人に向かって深々と頭を下げた。日本人の嗜みである。
◇
クレソンさんは、早速王城の敷地内を案内してくれた。道すがら、いろんな話をしてくれる。
まずは門衛の仕事について。基本的に、城の敷地の境界線の見張りと守りをしているらしい。敷地はほぼ正方形で、東西南北にそれぞれ大きな門があり、そこで城に出入りする人々の検門もしているとか。だけど、たまに門を通らずに塀を突破して不法侵入しようとする人もいるそうで、そういった狼藉者の取締りも業務の内とのことだ。
「王城に忍び込むなんて、勇気がある人もいるものですね」
「案外いるよ。だけど、僕達が直接手を下すまでもなく、ほとんどがアレにやられて失神しちゃうけどね」
クレソンさんが指差した先。そこには高い塀があって、そのてっぺんには有刺鉄線みたいなものが張り巡らされてあった。クレソンさんによると、あれは魔導具の一種で、塀を無理やり乗り越えようとする者に電撃を与える仕組みになっているらしい。つまり、城のほぼ全方位にスタンガンが常備されているという感じ。なかなか物騒だ。
「便利なものがあるんですね。じゃぁ、案外仕事って暇だったりします?」
「だったら、この仕事ももう少し人気が出るんだろうけど」
それ、どういう意味だろう? クレソンさんは苦笑いすると、頭の上にハテナマークを浮かべる私を見ないフリして歩き続けた。
「そろそろ昼飯にしよう。ほら、ここが食堂だ。騎士団所属の者は、一日三食ここでタダ食いできるからね」
私はクレソンさんの後ろについて食堂へ入っていった。入口で銀色のトレーを取って、後は調理場前の長テーブルに並んでいる料理の中から食べたいものを選んでいく形式。高校の学食を豪華にしたような雰囲気だ。うどんやラーメン、白米は見当たらないけれど、オカズ類は日本でもありそうなものばかりに見える。
「ちょうど十二時か。やっぱりこの時間は人が多いな」
クレソンさんは、混雑する食堂内を慣れた様子で進みながら、何かの肉を煮込んだものとサラダとパンを取っていた。私は悩んだ挙句、同じものをトレーに取る。
それにしてもだ。クレソンさんは全然偉そうな雰囲気ではないのに、なぜかすれ違う人々のほとんどに会釈されたり、恐れるような目で見られたりしている。初めは、まだ騎士服に袖を通していない私が悪目立ちしているのかと思っていたのだけれど、そうではなかった。
「クレソンさんって、もしかして偉い人なんですか? 例えば、第六部隊の副々隊長みたいな」
「エース、君は面白いね」
クレソンさんはクスクス笑いながら食堂の端に空いているテーブルを見つけてくれた。そこに二人で向かい合って座ると待ちに待ったランチタイムが始まる。私は朝からいろんなことがありすぎて、お腹がペコペコだ。クレソンさんはパンを頬張り始めた。きちんと一口ずつ千切って食べるあたり、育ちが良い人なのかもしれない。
「でもクレソンさん、やっぱり皆に見られてますよ」
「そりゃぁ、第八騎士団第六部隊だから」
「え、そんなに有名な隊なんですか?」
「そうだね。この黒い騎士服を着ているのは国中見回してもうちの隊だけなんだ。この黒色にはちゃんと理由があるんだよ」
「どうゆう由来なんですか?」
クレソンさんは良い笑顔で、お皿の上のお肉にフォークを勢いよく突き刺した。プシュッと肉汁がトレーの中に飛び散る。
「黒だと、どれだけ大量の血を浴びても目立たないでしょ? 大変理に適った色が採用されているんだ」
それってどういう意味? 分かりたいけれど分かりたくない。ちょっと顔から血の気が引いて、気が遠くなりそうになったその時。食堂内にけたたましいサイレンみたいな音が鳴り響いた。
「敵襲だ!」
クレソンさんは皿の上に残っていたお肉を手早く口の中に詰め込んだかと思うと、顔を凛々しく引き締めて席から立ち上がった。
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